澤氏はいかにしてプレゼンの達人となったか

尾原和啓氏(以下、 尾原):はい、どうもこんばんは! 新著対談ということで『未来を創るプレゼン』の著者であるマイクロソフト業務執行役員の澤さんと、今から対談していきたいと思います。

未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」

この『未来を創るプレゼン』っていうのは、プレゼンの達人である澤さん、そして『1分で話せ』っていう50万部のヒット作の伊藤羊一さんとの対談本であるだけではなくですね。大事なことって「未来を創るプレゼン」という言い方なんですよね。

つまりこれは何かと言うと、プレゼンのノウハウだけではなくて、自分が未来に向かってどうやって進んでいくのか。それを通して自分が何者かになっていくのか。こういったものが全部ギューッと凝縮された、まさに新時代のバイブルというようなもので。今日は本当に澤さんありがとうございます。

澤円氏(以下、澤):こちらこそありがとうございます。

尾原:ぜひこの本を通じて読者に伝えたかったこと、ないしは読者をどうナビゲート、いざないたかったのかというところを1分で語っていただければ。

:改めまして澤でございます。こちらの本なんですけれども、見た目はこんななので完全に宗教的な匂いがプンプンしてるかもしれないんですけれども。

尾原:いやいや、ちゃんとマイクロソフトで働いている方ですからね(笑)。

:サラリーマンですからね。れっきとした社畜ですから。

『未来を創るプレゼン』に関して、これはどういう話を書いたかというと、プレゼンって書いてあるのでプレゼンのノウハウ本と受け取る方も多いんですけど。実際には、これは完全に生き様の本ということになります。

尾原:ね!

:おもしろいのが、羊一さんと僕がそれぞれに取材をされて、最後に対談というかたちになってるんですけど。それぞれの取材の内容って、まったくお互い共有してないんですよ。要するになんとなくイメージ的に言うと、捕まった容疑者2人が別々の部屋で取り調べを受けているような状態。

尾原:あはは(笑)。

:口裏を合わせられないようなっていうね。わざとじゃないんだけれども、そんな感じでそれぞれがライターさんと話して口述筆記で書いてもらったんだけど。びっくりするくらい内容が同じだったんですね。

自分がここまでプレゼンテーションがある程度できるようになった、認知されるようになったっていうのは、結果なんでかと言うと、しゃべり方を磨いたんじゃなくて生き様というのを必死になって自分で紐解いた結果なんですよね。

その自分の生き様を紐解いたプロセスを共有することと、その結果としてプレゼンというところにつながったんだというストーリーが、一応は根幹になっています。裏を返すと、それぞれの人生というのを一生懸命に深掘っていったら、みんなプレゼンができるようになるっていう話なんですよね。

尾原:そうですよね。結局、アウトプットが最大のインプットであるというところがあって。

:そうそう、そうそう!

尾原:とくに人の前でなにかの代表者になってしゃべるということは、結局、プレゼンする物を通して自分が代表者になっていくから。そうすると結果的に、己は何者なのかということを研ぎ澄ますということになるという話ですよね。

:そうですね。

誰しもが、最初は“何者でもない”ところから始まる

尾原:本当にこれ、事前打ち合わせなしに……いや、すごいですよね。それぞれの山の登り方で同じところを目指して、自分を創る、未来を創るというというところに引っ張っていくところが、この本のすごさだったりするんですけど。

:バックグラウンドとか辿った道っていうのはぜんぜん違うんだけれども、でも結局、途中で考えていることとかつまづきポイントとかっていうのは、すっごく似てたんですよね。最終的にはどうやって表現してもずーっとね、ガチの対談というか、激論にならないんですよ。

ずっとラリーになるんですよね。「あ、わかるわかる! そうそうそう!」っていう。別に相手に合わせてるわけでも空気読んでるわけでもなくて、本当にそうなるのがめちゃめちゃ不思議だったんですけど。

尾原:でもやっぱり個人的に思うのはお互い、たしかに伊藤羊一さんのほうが肩書き的に見るとエリートに見えるんだけれども。実はこの本を通じてわかるのって、澤さんも伊藤羊一さんも、最初は何者でもないところから実は始まっていて。

そこからいろんなことを足掻きながら、自己表現を繰り返しながら自分のコアと出会って。自分のコアと出会う中で、プレゼンというものが自分を変化させるきっかけにもなるし、山を登っていく登り方にもなっているというところがすごく似てて。

すごくいいなと思ったのが、1人だけだと「それはあなたの人生だからでしょ」というふうに思って割り切れるところが、伊藤羊一さんも何者でもないところから、プレゼンを孫(正義)さんにやるっていう。あのきっかけからグオーッと自分を見つけて、Yahoo!アカデミアのトップになられて、今はもう世の中に広めていく。

:そうですね。

尾原:澤さんは澤さんでご自身が何者でもないところを、ディズニーランドのキャストっていうある種の表現者の中から生まれていって。今や、マイクロソフトの業務執行役員としてやられてらっしゃるっていう。2種類の山の登り方があるからすごく立体的に見えて、自分ごと化できる本だなぁと思ったんですよね。

:彼も僕も、なにかになろうとしてたわけじゃないっていうのも、実は共通してるんですよね。

尾原:そうですね。もっと大事ですよね。

:要するに、目の前にあることを必死こいてやっていたら、いろんなものがあとからつながっていったりとか。いわゆるConnecting Dotsという考え方になるんでしょうけど。いろんな布石というのがつながっていって、その布石を打っている間に羊一さんと僕も結局つながっていった、っていう感じがありますね。

尾原:すごいですよね。

澤氏を苦しめていた、劣等感の存在

:とくに何者でもなかったっていう文脈で、かつそれで苦しんだっていうと僕と羊一さんは質が違って、辛さはもしかしたら羊一さんのほうが辛かったかもしれないんですよね。というのも、言うたってあなた麻布出て、東大出て、興銀でしょって言われると。

尾原:ピカピカですよね。一応ね。

:そうそう。だけど彼は苦しかったわけですよね。これ、なかなか理解してもらえないっていう点でいうと、辛さの質が違うっていうのはあるけれども。やっぱり彼は辛かったんじゃないかなと思いますね。

尾原:彼のある種エリートだった道から1回ズレて、まったく違う自分をもう1度創ってきたビルディングストーリーがあって。一方で澤さんは澤さんで、家族とうまくいってなかったりとかいろんなストーリーがある中で、でもやっぱりご自身も模索されてて。ちなみにそういう意味でいうと、澤さんの今の自分の中心が見つかるときの一番の苦しみって何だったんですか? 

:やっぱり劣等感ですよね。その分野において、これは本当に意味がなかったことをやってたんだって、今振り返れば笑い話になるんだけど。比べないでいいのに、常に他人と比べてたんですよね。

勝てるわけがないのに「なんで自分はこんなに技術力が低いんだ」って。当たり前で。文系出身でコンピュータ触ったことがないのに、技術力なんてあるわけないだろうって話なんだけど。「なんで自分はこんなにポンコツなんだ」「物覚えが悪いんだ」って思ってたんだけど。

結果的にそれが「あれ、これが人を助けるのに役に立ってるんじゃん」って気付いたのが、比較的最近なんです。十数年前なんですね。これは圧倒的な武器になるぞっていうふうになった。十数年じゃない、20年くらい前か。くらいからガッチリ噛み合ってきたっていう感じですね。

尾原:まあ難しいですよね。日本って偏差値社会と呼ばれるようなかたちで、いい大学に入って、いい会社に入って、いい職業を選べばエスカレーター的に上っていけるっていうのが、今までの昭和の戦い方だから。どうしても他人と比べるルールの中で優れていたほうが人生が安定してた、っていう時代が20年くらい前ではあって。あまりにも日本は成功体験が強すぎたから。

:そうなんですよねぇ。

尾原:今、いきなり自分を見つけろって言われても、なかなか困りますよね。

:その成功体験を引きずっちゃってる人が、いわゆるディシジョンメーカーって言われるなにかの判断とか権限を与えられている人で、いまだに現役でいちゃうので。これがやっぱり、今の日本のイノベーティブな状態の波がガッと大きくならない1つの理由でもあるわけですよね。

もはや終わった「他人の人生を生きる時代」

尾原:そうですよね。そういう観点で、今回コロナでね、ある意味オンラインでつながるという人たちが表に出やすくなったりだとか。もともとこういうオンラインサロンだとか、今日話しているような空間ということで……よくみんなを「ハックする」という言い方をするんですけど。

日本人ってみんなに合わせたがるから、古い会社の中のみんなにいると他人のルールで生きようとしちゃうんだけど、自分ルールで生きようっていうコミュニティの中にいると、みんなに合わせるから自分ルールで生きたくなるっていう(笑)。

:そうそう(笑)。

尾原:そういうおもしろいところがあって。そこをうまく利用するのは大事かなと思うんですよね。

:前までは、他人の人生を生きててもそれなりに幸せが与えられる、っていう構図があったんですよね。今はもうその構図は完全に崩れているし、もっと言うといろんなものがあるっていうのは、インターネット以降もうバレてしまったので。

尾原:おっしゃるとおりです。

:地球の裏側のことも全部一瞬で手に取るようにわかるって考えると、もう隠しようがないわけですよね。あと自分で選ばないわけにもいかない、って世の中になってきてるし。さらに新型コロナによっていろんなものがあぶり出されたりとか、否応無しに自分と向き合う時間が増えたりとかして。

このあとは、僕はちょっと期待をしているというか。あと自責も込めてね。自責っていう意味で言うと、自分もそれを後押ししていかなきゃいけないんだって、すごく強く思っているんですよね。

尾原:本当そうですよね。正直、僕は最初(のキャリア)がマッキンゼーっていうコンサルだったんですけど。最初のコンサルってやっぱりインターネット前だから、要はアメリカとかニューヨークにある先端の事例を持ってきて、それを日本風に合わせるだけで5000万円、1億円もらってた時代が昔はあったわけですよ。こういう時代は他人のルールの中でも出し抜けた。

なんだけど、今やインターネットで情報がつながっているときに、情報なんか簡単にコピれてしまうから。他人を参考にして思いついたものなんて、そのときには100万人が同じこと考えてるって思ったほうがいいんですよね。だとしたらやっぱり、自分をどう磨くのかっていう。

自分の中にある“情熱”に正直に生きる

:僕よく引き合いに出しているのはシュンペーターの言ってたやつで。イノベーションという言葉の意味って、どうしても技術革新とかって訳語で使われるじゃないですか。イノベーションって日本語だと。実際にはあれ、新結合という意味なんですよね。

尾原:そうなんですよね。

:つなげていくっていう。つなげるということは、自分の好きなように混ぜていいっていうことであるので。そうなると自分流にいろんなものを混ぜ合わせていって「これがイノベーティブなのである!」って語ることが、ある意味で許されている世の中だと思えるわけですよね。あとはやるだけっていう。

尾原:そうなんですよね。イノベーションって新結合であると同時に、イノベーションとグローバルの中では最初に言ったシュンペーターは「遠くにあるものをつなぐことである」と言ったと。他人とつながるとか、他人のルールで生きるっていうのはいいんだけど、自分の会社の中とかでつながってたら、そこにはイノベーションは起きなくて。

どれだけ遠くの人とつながるか。でも遠くの人とつながろうとすると、共通基盤がない中でつながらなきゃいけないから「お前何が好きなの?」「何に情熱持ってるの?」っていうところがある人間は、遠くとつながれる。そうすると、やっぱりそこにイノベーションが生まれてくるというところ。

:そうですね。この本の中でも何度も出てきたパッション、情熱っていう言葉なんですけど。これっていうのはある意味、燃料がいらないわけですよね。自分の中にあるので。ひたすらそれに正直に生きていくっていうことをやれば、言葉っていうのは出てくるだろうし。伝えたいっていうモチベーションは、切れることはないと思うので。

尾原:まさにそうで。公開パートの最後だから、ちょっと秘密話を話すと。TEDってまさに、本当は自分から起こる情熱みたいなものをIdeas worth spreadingって言って。「熱がある新しいアイデアだから、外にどんどん広がっていく」というのが、もともとのかたちなんですけど。実は日本って、TEDが一番嫌うことを無理やり押し通して、結果的にうまくいった国なんですよ。

:おお、そうなんですね!?

尾原:これは何かっていうと、実は世界で初めてTEDを毎週紹介する番組というのをNHKがやってくださったんですよ。

:そうですよね。

尾原:ただ、この番組名が『スーパープレゼンテーション』だったんです。

:あ、そうだった。

尾原:これ、実はTEDの事務局はめちゃくちゃ怒ったんですよ。

:そうなんですね。

尾原:「TEDはトークであってプレゼンテーションではない」と。さっき言ったように、波紋を広げていくことが目的だから。プレゼンっていうと、一方通行じゃないですか。そうじゃなくてTEDっていうのは、壇上に残った人が話始めの1人目であって、その話したことによって聞いてる人間の中で脳内対話がガーッと起こり始めて、終わったあとにトークしてしまうと。

「いや、さっきのヤバかったよね!」と。もしくは、さっき話した人のところに駆けつけて「今の話すごい! 俺は実はこんなことやってるから、こういうことやりたいんだ」って。まさに新結合を起こすための場がTEDだから、TEDは絶対にプレゼンテーションと言わずにトークって言うんですよ。

なんだけど、やっぱり日本は残念ながらテーマトークをする、なにかの情熱でしゃべるっていうことが「ほかの人と一緒であれ」っていう国だったから、慣れてない。「申し訳ないです。日本という国で本当にTEDの価値を広めるためには、トークって言わずにまずはプレゼンって言わせてください!」と。

しかもプレゼンの中身から入るんじゃなくて「プレゼンはこういうふうにやればうまくいくよ」っていうノウハウっぽい建て付けで始めると、だんだん中身に関心がいって、最終的には自分から湧き起こるパッションみたいなところにいってトークになりますから、っていうのをあの手この手で説明して、実は『スーパープレゼンテーション』になったんですよね。

:なるほどね~。

尾原:本当このタイトル大正解なんですよ! 『未来を創るプレゼン』っていう言い方。

:プレゼンは絶対に未来ですからね。

尾原:そうなんですよ。なので、ぜひこの本を読んだみなさんは自分自身に自ずと出会うし、自分が他人のルールの中に行くんじゃなくて、自分のルールで生きるから遠くの人にインターネットの時代だから出会えて、その中に新結合が生まれてイノベーションが起きていく。それによって未来が創られていく、みたいなことができればです。

ここから先はメンバー限定のサロンでの会話になりますので、一旦公開パートを終わりたいと思います。ありがとうございまーす!

:ありがとうございました!