2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
提供:株式会社カオナビ
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――まず最初にカオナビ様が、企業として解決されようとしている課題についてお伺いできればと思います。
柳橋仁機氏(以下、柳橋):当社は人材マネジメントシステム、いわゆるタレントマネジメントシステムを提供しています。私たちが一番課題に思っていることは「日本の働き方が古い」ということ。またそれに伴って「日本の労働生産性が低い」ということ。1人当たりの労働生産性が、最近では韓国に抜かれたというニュースを見ましたが、主要先進7カ国でも圧倒的に低く、最下位という結果です。
日本は、どちらかというと人口の多さで伸びてきた国。日本人からすると「中国は10億人いるから、日本よりGDPが上回って当たり前」と言いますが、ヨーロッパの人からすると「日本は1億人超えてるから、GDPが高いのは当たり前」という感じなんです。ロシアを除くと、ヨーロッパには人口が1億人を超えている国がないので。
だからヨーロッパやアメリカの先進諸国みたいに、1人あたりの労働生産性を高める必要があると思っています。しかし労働生産性を高めようと思っても、大部分の人が会社や組織で働いているため、組織の人材マネジメントがうまくいっていないと、労働生産性が高まっていかないと私は思っています。
だからこそ、組織の人材マネジメントを改善する・革新するためのサービスである『カオナビ』を通じて、働き方を変え、日本の生産性を向上させる。それが我々の社会における意義だと感じています。
――働き方の問題のお話がありましたが。ここ10年で、日本が抱えている具体的な働き方の問題と、それをどうやって今後解決していくべきかについて、お考えを伺えればと思います。
柳橋:日本の問題は、簡単に言うと考え方が古いことだと思います。製造業時代の考え方が依然として残っている。産業構造は新しく変わっていて、人材マネジメントのやり方も変化させる必要があるのに、変化できていないことが大問題です。
あえてとても極端なことを言うと、一昔前の製造業時代の人材マネジメントは“金太郎飴モデル”なんです。生産設備が工場なので、工場が稼働していれば生産はなされるわけで、要するに、機械のスイッチを入れる人が誰かというよりも機械が問題なく稼働することの方が大事。もちろん、メンテナンスや故障の早期発見など各々の技術がとても重要なのはわかりますが、総じて生産設備は機械なので、あとはそれを操作する人が一様にいればいい。だから、みんなに同じように操作を覚えてもらって生産力を上げるということが、当時の製造業というビジネスモデルではできたと思います。
そのため、製造業時代の人材マネジメントは「1年目はみんなこれ、2年目はみんなこれ、3年目はみんなこれを学ぶ。営業部門はみんなこれをやる、開発部門はみんなこれをやる」。まるで金太郎飴のように、同質なマネジメントをする必要がありました。
――「みんなが同じことをできるようになるのが大事だった」ということですね。
柳橋:はい、当時の製造業時代は、それが大事だったんです。でも今は情報産業時代になって、製造業のニーズはどんどんアジア諸国に取られています。その中で、我々の業界のような情報産業になってくると、みんなが同じことができることに意味がないんです。
我々としては、1人ひとりの個性や才能といった「個の力」にフォーカスしてマネジメントすることが重要だと思っています。だからみんな同質ではなく、みんな違うということを前提に、個性をちゃんと伸ばしていくっていうことをやらなきゃいけないと私は考えています。
ただ一方で「みんなこれをやるべき! 1年目はこれだ!」みたいな考え方で、いまだにそこから脱却出来ていない人も見受けられます。そういう考えを変えていかないと、日本はなかなか変わらないって私は思っています。
私は経営者で45歳ですが、インターネットの業界では年齢が上のほうに属しますし、私より若い経営者はたくさんいます。そういった新しい考え方を、日本の産業全体が取り入れていかなければならないですし、それを『カオナビ』を通じて推進していきたいと思っています。
――「変わっていくことが大事なんだよ」と伝えていくのは、大事なことだと思いますが、そのためにはどうしたらいい、といったアドバイスはございますか?
柳橋:伝えていくことが大事だと考えた時期もありましたが、なかなか難しいなと実感しました。
でも、たとえすぐに変わらないとしても「私たち若い世代はそう考えてます」ということは、伝え続けていきたいと思っています。
――難しいと実感されたのは、そういった人たちには「自分たちの成功体験」があって、それを忘れられないからということでしょうか。
柳橋:はい、そうだと思います。紐付いているから、忘れられない。成功体験に紐付いているものや考え方を変えるのは、なかなか困難だなと。
上の世代の方々は「若いころ、俺らはこれだけがんばって日本は豊かになった」という、実体験としての成功体験を持っているからこそ、難しい問題ですね。
でも、いつかは「日本も変わる」と前向きに考えています。
――そのあたりは、貴社がマーケットを広げていくうえでの壁にもなっているのでしょうか? 貴社のようなプロダクトを広めていくためには、会社の上層部の方の説得が必要だと思うんですが。
柳橋:壁がないとは言えません。ただグラデーションになってきているし、時間とともに変わってきているという実感はあります。今、徐々に「やっぱりITツールやネットサービスを取り入れたほうがいい」という声が、業種問わずさまざまな企業から聞こえてきています。私たちが創業したときには、東京の会社でさえ「インターネットに人事情報を置くってどうなんですか!?」みたいな反応が多かったです。さすがに東京でそう言ってくる会社はもうなくなりましたが、地方では今でも当たり前にあります。
やっぱりそこは業界や地域によってグラデーションがありますので、それが徐々に変わっていくことを、推進していくしかないですね。
思えば、私は2000年に社会人になりましたが、大学生の頃に、インターネットビジネス企業でアルバイトを始めました。だからネットで買い物をすることに何の抵抗もありませんでした。
でも98年当時、大学の友人に「ネットで買い物してる」と話すと、とても驚かれました。
――98年の時点で?
柳橋:はい。インターネット業界の人たちは、どうしても先進的すぎる部分があることも否めません。世の中のかなり最先端の考え方なので「インターネットを使ったらこれだけ合理的だ」という考え方は、世間一般的なマジョリティからすると受け入れ難いものがあるんだな、と実感しました。
――ありがとうございます。次に、社長がITの世界で起業されるきっかけとなったエピソードなどがあれば、伺えますでしょうか。
柳橋:きっかけはいろいろあります。私は東京理科大学の基礎工学部の大学院を卒業しているのですが、そこの就職活動は、当時、全て学校推薦だったんです。自ら企業説明会を受けに行ったり、自分で志望したい会社を探すという行為は、ほぼありませんでした。
それで、同級生たちが有名機械メーカーに推薦で決まっていく中、私は「これからはインターネット業界の時代だと思います」という、よくわからない発言をしてしまったんです(笑)。
だから教授とはぜんぜん話が合わなくて。「自分で勝手に就活やれ」と言われて、本当に私1人だけ自力で就職活動をはじめました。
その過程でたまたまアイスタイルの吉松(徹郎)さんという、私が前職で勤めていた会社の社長と知り合ったんです。そのときちょうど吉松さんがインターネットビジネスで起業されるタイミングだったので「あ、インターネットって今話題のやつだ」って思い、そこにアルバイトとして入りました。
そのときに起業する様子を間近で見ることができたので「こうやって、やっていくんだ!」「インターネットっておもしろそうだな!」みたいな感じで、学生のころから起業に対してなんとなく自分の中でリアリティを持つことができました。
でもまだ社会人としてはスキルがまったくなかったので、まずアクセンチュアに入って社会人の経験を積み、そのあとまたアイスタイルに戻ったという形です。
最終的には、アイスタイルで人事部長を務めていたのですが「なぜ、日本の働き方は、こんなにおかしいんだろう?」と強い問題意識を持ち始めました。
また一方で、ITというものが人材マネジメントの領域ではまったく活用されてない点にも疑問を持ったんです。給与計算や勤怠管理などの処理・計算するツールはたくさん普及しているのに「この人の才能」や「この人の個性」とかがわかるようなツールというのは、ひとつもない状況でした。その辺りをITでなんとかするサービスとか商品って、あったほうがよいのではないかと強く感じたんです。
そしてアメリカの文献を調べていたら「タレントマネジメントシステム」というマーケットがすでに成立していて、先進国アメリカにはやはりあるんだなと思って。
日本にもこういうツールが普及してくる時代、給与計算とか勤怠管理ツールではなく、人の個性や才能をマネジメントする、タレントマネジメントシステムというものがマーケットとしてできあがるかもしれない、できあがってもいいと考えて、じゃあそれで起業しようと思いました。
――そのときは、そういったシステムは日本にまったくなかったということでしょうか。
柳橋:日本にはまったくありませんでした。
私は人事とITが得意ですから、当時、フリーのコンサルタントとして働いていた時期もありました。そのとき「人事部の人事システムの導入コンサルをサポートしてほしい」と相談を受けることも多かったんです。
そこで人事部に深く関わりながら仕事を進めていくのですが、やはりどの会社でも人事部に営業部長さんが「ちょっとうちの営業部員のレジュメ見せてくれ」って来るんです。それで、人事部の人が紙(レジュメ)を営業部長に渡して「これ明日までに返してくださいね」というようなやり取りがなされていました。
それを目の当たりにして「この人事情報は活用されてないんだろうな」って思ったんです。情報が活用されてないということは、人も活用されてないというわけですから、まず情報を活用できるようにしよう。そうすると人が活用されるようになり、会社や組織の生産性が上がるとか働き方が変わるとか、そういった仕組みを作っていこうと思いました。
――ではそんなHRテック業界が、コロナで受けたプラス・マイナスの影響について、業界全体の状況を伺いたいです。
柳橋:HRテック業界は、総論としてはプラスなんだと思います。しかし、2021年3月期第1四半期の決算説明会でも申し上げたのですが、私はコロナ禍だからといってすごく“追い風”が吹いている感覚はありません。
いくつかのSaaSサービスは強い追い風が吹いていると思いますので、総論としては追い風ですが、うちは“そよ風”みたいな状況だと感じています。
――『カオナビ』をはじめとする人材マネジメントのソリューションは、コロナ禍でニーズが上がっているのではないかという印象があります。
柳橋:コロナの影響を受けて、働き方や考え方が変容していった社会は、もともと私たちが考えていたカルチャーに近いと思っています。つまり私たちの会社のカルチャーや、私たちのやっている事業などが求められるような世界に変容していっている、という実感です。
だから『カオナビ』の利用度は今後上がっていくと思います。あとは「パルスサーベイ」という機能のように、従業員のコンディションを定点観測するサービス等も搭載されているので、リモートワークの環境にフィットしていることは、間違いないと思います。
――少しお話が戻りますが、さきほどの「日本の労働生産性には問題があるのに、上の世代の方々に理解されない」という部分。そちらは、コロナ以前・以後で変化しましたでしょうか?
今までZoomなどを一切使ったことがなかったような上の世代の方々も、IT化にチャレンジしようという契機になっているのではないかと思いまして。
柳橋:私の感覚としては「浮動票の行き先がわかれた」という感じですね。ITを導入して合理的に働く派の人と、旧態依然の働き方を続けている人。そのどちらにも属さない「浮動票」の人たちが一定数いたと思っていますが、それがきれいにどちらかに流れていったと思います。
例えばわかりやすいところで言うと、リモートワークという環境では経営者の間でも2つに意見が分かれます。まずは「リモートで社員の働きが見えないから、社員を監視すべき」という会社です。「ちゃんと働いているか、サボっていないか。パソコンの起動時間、稼働時間を調べろ」というようなところもあります。
もう一つは、私みたいに「見えないものは、見る必要がない」と思う会社です。私は行動の監視をする必要はなくて、全て社員に裁量を任せて、全て自由にやっていいと思っています。途中で休憩を取ってもいい。場所もオフィスでも自宅でもどこでもいい。なぜなら見えないからです。見えないものは管理しようがないと、私は思うタイプです。だから逆に裁量を与えて、その代わり成果を出してほしいという言い方に、私は変わりました。
これは極端な例かもしれませんが、いずれにせよコロナ前に比べて考え方がよりはっきり分かれるようになったと思います。
株式会社カオナビ
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