2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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早田吉伸氏(以下、早田):それに対して、藤野さんなりの大学における教育というお話をしていただければと思うんですけれども。
藤野英人氏(以下、藤野):有信先生のお話になられたことに、かなり関連しているんですけれども。実はこの1ヶ月ぐらいの間に日本の経済ですごく大きな出来事があったんです。それは何かと言うと、アメリカでGAFAと呼ばれている会社があります。GAFAというのは、たぶん、みなさんの中で使っている人も多いと思うんですね。iPhoneを作っている会社、Apple。これもGAFAのAですね。
GAFAというのはG、A、F、Aの略なんです。これはアメリカの大きなITの会社の頭文字をとったものです。GがGoogleで、AがAppleですね、みなさんが使っているiPhoneですね。もう1つのAはAmazonですね。FがFacebook。それにMicrosoftのMを付けて、GAFAM(ガーファム)と言ったりすることもありますが。
これらの会社の時価総額、会社の価値の合計ですけれども、たったこの5社の会社の価値が、日本の東証一部全体を越したんです。日本で東証一部に上場している会社はだいたい2,100社ぐらいあります。トヨタとかソニーとか、三菱UFJフィナンシャル・グループとか、大きな会社がたくさんあるわけです。それら2,100社を全部足した合計の会社の価値、時価総額を、このGAFAMの時価総額が抜いてしまったということが起きました。これはショッキングな話ですね。それだけ大きな差があった。
じゃあ、なんでこういう差がついたんだろうかということです。いろんな人がいろんな説を言っているので、これは私の1つの考えなんですけれども。僕がGAFAMの会社を見ていてすごく思うことは、実は本質的なことをずっと突き詰めている。日本の会社よりも突き詰めている会社が多いと思うんです。
例えばAmazonですけれども、みなさんの中にもAmazonで物を買っている人は、けっこういっぱいいると思います。Amazonは買い物の会社ですよね。世界で一番大きなインターネットの売場を作っている会社です。Amazonというのは、どこの会社よりも誰よりも「買い物をすることとは何か」「人が物を買うとは何か」をかなり哲学的に考えている会社だなと思うんです。
それを深く深く考えて、最終的にビジネスやテクノロジーに落として、その売場やサービスを作っていったところが、Amazonが伸びていった理由だと思います。Googleは、みなさんも検索で使っていると思います。でも「インターネットで調べるとは何か」「検索とは何か」というところを、激しく追求していったわけですね。あとはGoogleの子会社だと、YouTubeもありますね。YouTubeをけっこう見ている方も多いんじゃないんでしょうか。
Facebook。みなさんもFacebookを使っている人もいるかもしれません。Facebookは「コミュニケーションをすることは何か」を本当に深く深く深く追求した結果、今のサービスのかたちになったということになります。みなさんは、社会に出る前から、GAFAMのサービスを日々使っているのです。
藤野:日本というのは、役員会であったり会社の中で「買い物について深く考えようぜ」と言うと、「お前、そんなこと言わないで働け」と言われちゃうんです。本当に(笑)。深く深く物事を本質的に考えるというところが、実はビジネスの基本であり、そこからあらゆる商品やサービスが出てくるんだけれども。
「今ある商品やサービスをどう改善するのか」というところだけを考えていて、新しい仕組みや新しい物事を本質的なところから考えられなかった。そういうところがこの差につながったんだと、私は考えているんです。
なので、実はこの叡啓大学でもリベラルアーツをすごく大切にしているんですけれども。「生きるとは何か」とか「そもそも愛とは何か」という、根本的なことを深く考える。
先ほどの文学の話で「社会に出てなんの役に立つのか」という話ですけど、実は哲学とか文学って儲かるんですよ。ただ本を読んだだけじゃ儲からない。でも、物事を突き詰めて、最終的に本質を突き詰める力によってビジネスを構築したら、儲かる時代になったということなんですね。日本全体でまだ気がついていないんだけど、少なくともこの叡啓大学は気がついているんですよ。「それが将来の競争力の要だ」って。
だから、リベラルアーツを勉強するというところは何かというと、もちろんそのことによって深い知恵や人生の知恵を学び、明日への活力であったり、人生そのものを豊かにするというすごい効果があるんだけれども。でも、そのことを突き詰めることは実は儲かるところともつながるのは、けっこう大きなことだと思います。
藤野:私はたくさんの起業家や経営者に会っていて、起業家の仕事は「新しい会社を創る」と言うと、みなさんは何もないところから大きなビルを造るような、とんでもない困難な作業だと思っている方が多いと思います。実際簡単じゃないんですが、私は自分でも会社を2つ立ち上げて、いろんな会社に投資をしている経験からすると、会社を創るというのは「穴を見つけて穴を埋める」ことだと思っています。
穴を見つけて穴を埋める。「なんでここに穴が開いているのかな? なんでだろう?」「この穴を埋めたらうまくいくの? じゃあ埋めてみよう」と埋めてみた。そしたら、1つの価値が生まれた。実はそういうことが、物事を作り出したりすることの本質かなと思っています。
穴を見つけて穴を埋める。穴を見つけるということをもう少し専門的に言うと、社会課題の発見ですね。少子高齢化だ、人手が足りなくなる。これが社会課題、穴です。もしくは地方が衰退していることであったり、テクノロジーという面で見ると日本はちょっと遅れているんじゃないかとか。それから、コロナウイルスがやってきた、みんながステイホームしなければいけない、大変だと。
みんながワーワー「大変だ、大変だ」と言っているものは、実は全部チャンス。埋めることができる。でも、大事なのは穴を発見すること以上に、穴を埋めることなんですね。実践して、どうやってそれを解決するのか。自らやってみようというところが、とても大事だと思います。
私たちが大学でやりたいことは、未来をつくる人を創ることなんだと思うんですよね。「未来をつくる人を創ることだ」というところに関わりたいと思っています。逆に私は日本の教育で残念なところは、日本の小学生、中学生、高校生、大学生が、主要先進国の中で、未来に対して一番悲観的である点です。
「将来は明るい」という人が少ない。これは教育の失敗です。なんでかと言うと、「未来は自分たちがつくって、その未来は明るいはずだ」というところを、みんなで確認することが教育の重要な役割なんだと思っているんですよね。だから、なぜ叡啓大学ができるのかというところも、実はそういうところを変えたいという思いがあります。
他にもいろんな大学があるから、別に新しく創る必要はないじゃないですか。でもなぜ、叡啓大学を創るのか。そして、私がそこに参画しようと思ったのかというと、やっぱり新しい、未来をつくる人を創るんだというところが、この大学のすごくいいところだと思います。
もちろん、必ずできるかどうかはわからないけれども、今集まっている人たちの中に「未来をつくる人を創るんだ」ということに燃えている人がたくさんいるところは、かなり希望が持てるんじゃないかなと思っています。
早田:藤野さん、ありがとうございます。まさに大学の教授というのは未来を創る人を創る教育であり、そのためにはやはり本質的なことを見ていくためのトレーニングもしていかなきゃいけないということなんだと思うんですけれども。今まさに社会課題の発見をしていくこと自体が儲かるかもしれないし、人の成長にもつながるかもしれないというご示唆もいただいたかなと思います。
大学というのはもちろん教育をする場所、人を育てる場所、未来を創る場所なんですけれども、地域にとって役に立つ場所でもあるし、研究する場所でもあるし、大学そのものに多様な意味があるんだと思います。
そうなったときの社会における大学の役割は、教育だけに留まらずに、いろんな役割がある。藤野さんに、教育やこの時代に大学を創る意義についてコメントをいただけるとありがたいです。
藤野:新しくできる学部の名前が、ソーシャルシステムデザインなんですよ。すごく大事なのは「ソーシャル」と言う言葉なんですね。ソーシャルというのは、まさに社会、公共という意味ですけれども、社会や公共というものはオープンで開かれたものなわけです。
だから、この叡啓大学もできるだけ社会や地域に開かれたものにしたいと思っているわけなんですね。そのためのさまざまなプログラムがあります。
今まで大学というのは、地域社会の中でも、やはり「大学偉いんだぞ」というようなところがどこかにあったかもしれないので、地域でがんばっている人たちの知恵を集約することが、なかなかできなかったところが大きな問題だったと思うんですね。
藤野:例えば、どこの地域でも、がんばって1から会社を創業して上場までさせたという人がけっこういます。広島にもそういう人たちがいっぱいいるんです。そういう人たちのノウハウや力は、なかなか使えなかったと思うんですね。
アーティストもけっこういます。広島の中にもアーティストがいっぱいいます。芸術家の方やさまざまな専門家の人がいるわけです。そういう人たちの知恵を結集するというところで、広島県全体を全部使い切ろうというところが、今回挑戦しようとしているところの1つだと思うんですよね。
広島県というものを使い切る。広島の地域だからということもあるけど、それはもちろん私も今東京に住んでいるわけなので、東京の人間だったり、福岡の人間だったり、大阪の人間だったり、いろんな人たちが集まって来る場になれば楽しいし、おもしろいし、ワクワクするということじゃないかなと思います。
今回の話を聞いている方で、この大学を受けようかなと思っている人がいると思うんですけど、1期生っておもしろいですよ。
有信睦弘氏(以下、有信):(笑)。
藤野:本当に何もないけど、みんなで創るから(笑)。学生と一緒に、それから先生たちと一緒に新しいことを創って行く1期生なんて、すごいワクワクしかないですよね。ぜひ、そういう仲間になっていただきたいなと思っています。
早田:はい。ありがとうございます。今のお話に対して有信さんから何かコメント、もしくは付け加えていただけることがあれば。
有信:はい。本当にありがとうございます。最初に藤野さんがおっしゃったコロナの話で今、思い出したんだけど、まったく新しい状況に置かれて、私たちが気づいた1つの大きなことは、別に東京にいなくてもいいじゃないか。あるいは、何も自分の会社の事務所にいなくてもいいんじゃないの。
大学にいなくても困ることってあまりないし、ほとんど死ぬ思いをしてギュウギュウ詰めの電車に乗って、あんなに苦労してオフィスまで通って仕事をしていたのは一体なんだったんだろう。そういうことにみんながだんだん気が付きはじめたわけですよね。
従って、私は大学というのは地域の共創、共に創る「共創」という言葉が最近だんだん流行ってきていますけれども、共創の拠点になるべきだと思っています。そうすると、ある意味、東京を経由する。あるいは東京を見ながら何かをやる必要はもうまったくないと。
地域がダイレクトに世界に開いているし、地域が直接新しいものを発信していく。そういう環境がだんだん整いつつあるような気がします。まだまだインフラやみんなの常識がそこまで追いついていない部分がありますけれども、そうした中で大学が地域の共創拠点として何ができるか。
そのために、今はとりあえず地域のさまざまな企業様方と、共同で何かをやることを模索したりしていますけれども、本当は大学がもっと開かれたかたちで、地域の人たちがそこに集って、いろんな知恵を持ってきて、学生と一緒に考える。あるいは、教員と一緒に考えることで、お互いに切磋琢磨できるようないい場所にしたい。
有信:ただ、そうは言っても、地域の人たちと同じレベルでワイワイやっているのでは大学である意味がないので、やはり新しい知識を獲得し、新しい領域を切り拓いていくという役割を果たしつつ、地域の人たちが持っている現実的な知識や知恵を活かしていく。
藤野さんがGAFAMの話をされましたけれども、私はもともと技術屋なものだから、GAFAMのプラットフォームを技術的に見ると、あれはもともと情報技術、ITの世界で基本的に構造化されていたデータ、情報、知識、知恵という階層があるわけですね。
データが一番下側の階層にあって、その上にデータからいかにして情報を得るかという階層があって。次にその情報からいかにして知識を得るか。知恵というのはインプリメンテーション(実装)の方向に向かうわけですけれども、知識をいかにしてそういう方向に持って行くか。それぞれの手法を研究していたわけです。
例えば、データから情報を得る場合には、データマイニングという手法をさんざん研究していましたし、AIなどの手法もその研究の中から生まれてきましたし、GoogleのInformation retrieval(情報検索)の技術なども、その中から出てきているわけですね。
日本企業は、個別のデータマイニングの手法や、その他の技術的な手法については非常に優れた成果を上げてきたんだけれども、その全体のアーキテクチャを作りきれていない。
つまり、GAFAがプラットフォーマーと言われているのは、そのデータからインプリメンテーションの知恵までの行動を、きちんと自分たちのビジネスモデルに合わせて作り上げているところがすごい。
あまり難しいこと言っても仕方がないんですけど、ソーシャルシステムデザインのシステムというところには、そういう「構造」という意味も込められていて、社会もいろいろな構造を持っています。社会全体の構造もありますし、それぞれローカルに切り取られる部分の構造もあるし。
その中でさまざまなシステムが構造化されているというような、物事をきちんと見て取れる人を育てていければと思っています。具体的に言うと、それ(人を育てていく構造)が広島という地域の中で活かされる。
あるいは、将来を見ながら新しいものを創っていける。それだけのポテンシャルを持った人を育てる。それがまた地域の発展につながっていくという、いい循環での共創拠点が形成されればいいかなと思っています。そんなに簡単に行くとは思っていませんが、その方向でできるだけ努力していければと思っています。
早田:はい。ありがとうございます。まさに地域に開かれた共創の拠点、知の拠点であるというお話をいただいたかなと思います。お二方、ありがとうございました。ご質問をいただいている方もいらっしゃるので、ここからはぜひ時間の範囲でお答えをしていきたいなと思います。
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