パプリカの実の中にある、ミニ・パプリカの正体

ハンク・グリーン氏:パプリカを切ったら中にもう一つ、パプリカが入っていたことはありませんか? 私にはあります。大きなパプリカの中に、誰かが赤ちゃんパプリカを入れたのでしょうか。私が初めてこれに遭遇した時には、「まるでバグだ」と思いましたよ。

さて、ここでよいニュースがあります。このミニ・パプリカは、食べられるんです。これは実は、ちょっと暴走してしまった、本来であれば種になる部分なのです。

パプリカのような「果実」の種は、胚珠として発生します。胚珠とは、未受精卵の植物バージョンです。花の段階では、心皮という構造体の中で、精細胞が来るのを待ちます。

この心皮の外側が、パプリカの実になります。心皮の上部に花粉が付着すると、パプリカの実ができるのです。

花粉の中の精細胞が、胚珠の中を通って受精が起こると、胚珠は種子へと変化し、心皮の外側は果実になります。

受精せずに果実が実る現象

ところで、1つのパプリカの花の中には胚珠がたくさんありますが、そのすべてが受精するわけではありません。受精しなかった胚珠は、パプリカの一部分としてではありますが、暴走してもう1つのパプリカになることがあります。

こうした入れ子のパプリカは、植物学者の言うところの、「心皮性構造」という、心皮になれなかった部位です。遺伝子の変異が起こると、未授精の胚珠であっても、心皮の外側と同様に発達し、果実として成長するのです。

胚珠が受精せずに発達するため、この内側のパプリカは、受精なしで果実が発達する「単為結果」の一種であると考えられています。正常に受精することなく、遺伝子が変異し誤って発達する胚珠は、パプリカではよく見られます。現時点では、なぜこのようなことが起こるのかはよくわかっていません。

研究者たちは、これをぜひとも解明したいと考えています。というのも、単為結果を起こしやすい系統のパプリカには、まったく種がないものがあるのです。そうなんです。単為結果した果実には、入れ子の実ができるだけではなく、完全に種なしの果実ができるのです!

この仕組みは、うまく利用されています。バナナ、パイナップル、ナス、オレンジなどは、私たちが日常でよく口にする、単為結果による種なし果実のほんの一例です。

パプリカの種自体は、あっても別に困りはしませんが、種なしパプリカをつける株は、丈夫で継続的に大きな実がなるなど、より良質の収穫が期待できます。

種ありと種なしの実を両方つけて、天敵をだます植物

単為結果でメリットがあるのは、人間だけではありません。野生の植物には、外敵から身を守ることに単為結果を利用するものもあります。その一つが、野生のパースニップです。

パースニップは、種ありの実と種なしの実を両方ともつけます。種なしの方は、パースニップの種を食い荒らすヒラタマルハキバガ類の蛾の一種、parsnip webwormに対する囮です。この蛾は不思議なことに、植物の子孫を残す種がある実ではなく、種なしの実を好んで食べるのです。

このように単為結果は、植物が身を守ったり、人がおいしく食べたりする際に、非常に役に立ちます。未授精のちっちゃなパプリカは普通にパプリカであり、食用にはまったく支障はありませんよ。みじん切りにして、タコスに挟んでみてください。1粒で二度おいしい、ごちそうになるはずですよ。