コロナ禍がもたらした「まだらテレワーク時代」

小林祐児氏:ご紹介に預かりましたパーソル総合研究所、シンクタンク本部、いわゆる調査研究を主にやっている部門の上席主任研究員をやらせていただいております。小林と申します。本日は非常にたくさんのみなさまにご参加いただいております。誠にありがとうございます。

本日は「今後、組織開発をどうやっていけばいいのか」という話の前に、私から少しだけ、日本の雇用や労働や働くということが今どんな位置にあって、これからどういうふうになっていくんだろうなという、すごく大きな見取り図を提示させていただければと思っております。

今画面を共有いたしました。「まだらテレワーク」時代。まだらテレワークってそもそも何だ? という話からさせていただければと思っております。

改めて自己紹介をいたしますと、もともと社会学の人間ですが、NHKの放送文化研究所という研究所で少し働いたあとに、市場調査、いわゆるマーケティングリサーチなどを経て現在パーソル総合研究所で、中原先生とも本を書かせていただいたり、いろんなテーマについて幅広く調査研究をさせていただいている人間でございます。

コロナが起こった3月以降、やはりこのことが改めて、研究業界でも中心的なトピックになっております。まずは労働市場への影響というところを少し整理させていただきたいと。そのあと、まさに中心的なトピックとなるテレワークについて順序良く述べていきたいと思っております。

マクロレベルでの産業構造の転換

まずは現状を3つの次元で整理してみようと思っています。マクロレベルですね。大きなレベルで引きの絵で見たときにどんな影響が起こってきているか。労働力の流れという意味ではまず1つは、1に書いたのが産業構造転換です。

衰退してしまう産業から、改めて発展していく産業というのももちろん出てくると。そこに労働力は大きく移動していく。これが日本ではなかなかされてこなかったよね、というのが通説なわけですが、それが強制的に進んでしまう。

もう1つは私、“嫌密”と呼んでおりますが、やはり人々が3密を避けたいという気持ちが根付いておりますので、地方から郊外へ、都市から地方へですね。いわゆる密度の高い都市の暮らしから、密を避けるような労働の移動も見られていると。

発展産業と地方、郊外の重なる部分ですね。これはある意味で、地方創生の種でもあるわけです。発展するであろうIT産業などの方々が「どこでも働けるよね」となって、魅力的な地方や郊外都市に移動する流れはすでに起こってきている。

一方で国外に目を転じると、グローバルの労働移動というものは一気に鈍化してしまったと。これは日本でもそうですし、世界でもまだまだ感染拡大が収まらないという中で、長く続きそうです。これがマクロレベルの整理ですね。

失業者や自殺者の増加への警戒感

では、中間的なメゾレベルのお話です。経営的には倒産、リストラ、採用抑制といったネガティブなワードが並びますけれども、こうしたものが社会的変化としては失業者、そして今後、自殺者の増加というのは社会的に警戒すべきでしょう。

やはり失業率も少しずつ上がってきているというのが最新の統計からも出ております。そして、経済格差というものも増大するでしょうし、そういった状況を見て労働者のマインドとしては、やはりリスク回避的な行動が多くなるかなと考えております。ですので、バブル崩壊後なかなか上がってこなかった起業率ですとか、減り続けていた自営業者というのも、やはり減少のトレンドが強くなってくると。

より組織的な変化としては、自発的な転職ですね。非自発的な転職は起こってくるんですけれども、やはりリスクをテイクするような自発的で前向きな転職がどうしても減ってしまう。

もう1つは、そこまでいかなくても処遇としては賃金低下の流れです。まさに目下起こっているのは、残業手当の削減……まあ削減というか残業自体がなくなってしまう。夏のボーナスも含めて賞与減。このあたりは個人としては、家計補填のニーズを高めます。

ですので、ロングトレンドとしては、非正規雇用率がやはりまた上がってくるんじゃないかなと。企業としても正社員を雇用することのリスクを各社が今強く感じておりますので、人手不足とは言っても、それを非正規雇用というかたちで代替する流れも出てくるだろうと思います。

もう1つは副業です。これはリーマンショックではあまり見られなかった流れですが、昨今の副業解禁の流れは後押しされます。副業が会社や世の中でも認められるようになってきて、家計補填や家の生活水準を保ちたいというところから、副業ニーズが増加するだろう。これが中間レベル、メゾレベルです。

嫌密化や職住遠接の流れ

次に、より細かなミクロレベルですね。このあたりはDXの加速、そして脱オフィス、テレワークというところですね。また出社はするんですけれども、みなさんの職場もそうかもしれないですが、やっぱりスペースを開けないといけない、嫌密化しないといけない。

みなさんも今出社再開されて、隣の人もZoomで会議をやって自分もしているという状況がこんなにやりにくいのかと感じてらっしゃると思います。職場のスペーシング、嫌密化はずっと続くでしょう。もう少し細かいレベルですと、先ほど言った職住近接ではなくて、職住遠接の流れ。そして働く服のカジュアル化の流れというのも起きてきている。

今のようにマクロ、メゾ、ミクロと変化を並べたときに、みなさんもいくつか気づかれることがあるかなと思います。「BeforeコロナからAfterコロナへ」という言説が3月の下旬くらいから世間には溢れました。会社、働き方、組織、労働、社会全体がこういうふうにガラッと変わっていくんだ。こういう大きな社会的出来事があると、メディア、そして我々個人の周りも含めて、そういう言説が非常にたくさん出てくる。今回はそれがいわゆるNew Normalというものなんですけれども。

先ほどのように整理していくと「OldからNewにガラッと変わっていくよね」という話とは、ちょっと違うんじゃないかな。この発想って、そもそも現実を捉えるのにふさわしい発想なんだろうか? 私などはそう考えたわけです。

「曲がり角モード」と「追い風モード」で起きる変化

なので、もう少し整理のフレームをきちんと用意したほうがいいんじゃないかなと思って、この数ヶ月ずっと、こういったフレームをみなさんに提示させていただいております。それはコロナ、もしくは不景気によって追い風モード、今までの流れが加速する型の変化と、そうではない、今までの流れから逆向きの変化がある。「曲がり角モード」、「追い風モード」と呼んでおります。

あともう1つは、いわゆる経済不況の問題。これは我々、リーマンショックを含めていつか来た道、だいたいの人はもうすでに人生の中で体験したことがあります。ただそうではない、コロナウイルスに起因する影響。これはほとんどの人が初めてのことですよね。

こういった4つくらいのフレームで分けて考えてみようじゃないかというのが、まず私からの1つの提案です。

例えば、先ほど言ったような流れを今の図にプロットしてみたものがこういう図になります。追い風モードのコロナ影響はDXの加速、脱オフィス、テレワーク、そして服装のカジュアル化。このあたりはここ数年、もしくは十数年ずっと言われてきたことです。それがコロナによって一気に追い風になった。そういった見方のほうが正しい。

そして、その下の副業のニーズ増加、経済格差の増大、非正規雇用率も、90年代以降のロングトレンドとしてずっと続いてきたものです。産業構造転換は、どこの産業から見るかによるので真ん中にプロットしましたが、こうしたものは今までもあったよね。つまり、このあたりですでにOld&Newという見方はあんまりふさわしくなくなってくるんですけれども、今までの変化が追い風になった。

ビジネスの世界の競争は、ジョギングからハードル走へ

じゃあ右側、曲がり角モードは何かと言うと、都市化、都市への人口流入というものが逆方向に向く、もしくはその流れが鈍化する。都市から郊外へは曲がり角モードと呼べると思いますし、コロナの影響がなければなかなか起こらなかった流れです。

ここにプロットされるのは、グローバル移動ですね。グローバルな労働力の移動は、日本でもここ数年、本当にたくさんの外国人の方を呼び寄せる国として大きな変貌を遂げてきたわけですけれども。今やその流れが完全にストップしてしまった。

また不況の影響については、失業率の上昇ですね。コロナ前、日本は経済学的にはほぼ完全雇用の状態でしたけれども、それが上がっていっている。また、リーマンショック後に上がってきた「転職率」も、やはりここでは鈍化してしまうだろう。このあたりは曲がり角モードです。

もう少しわかりやすく例えます。追い風モードというのはコロナ前から、みんなが同じ方向に走っていたわけです。DXもそうですし副業もそうですし、まあそういう流れだよねとみなわかっていた。目指している方向はみんな同じだったんだけれども、感覚的には「ジョギング」に近かった。同じ業界内では「あそこはそこまでやってるらしいよ」「ふーん」とか周りを見渡しながら、けっこうゆるゆるとしたペースでみんな同じ方向に走っていたようなものです。

それがコロナによってハードル走になった。ハードル走と言っても、これはけっこう長く続きそうなハードル走ですね。同じ方向なんだけれども、いきなりみんなが本気出したと(笑)。そうなってくると、ジョギングのように方向自体は一緒なんだけれども、周りを見なくなる競争が始まる。

では、曲がり角モードを例えるならどうか。崖の上のカーブを走るバイクの絵を出しましたけれども、曲がり角モードの変化は、とにかく先が見えにくい。「これからどうなるの?」というのが今までの方向とは逆のベクトルの圧力がかかっていますので、非常に事故が起きやすい。そういったことも言えるかなと思っております。

例えば外国人の流入について。たくさんの地方の中小・零細企業がすでに外国人の技能実習生に労働力を依存して経営を営んできたわけですけれども。それが止まるということは、経営にとってはかなり致命的なダメージになりやすい。

決意とセーフティネットとシナリオが必要

追い風モード、曲がり角モードをまとめると、追い風モードのコロナ影響、ここは「もう戻らない」ゾーンですね。不可逆的な変化だと捉えていいですし、そこで必要なのはほとんど決意です。「もうこの流れは止まらない」という決意をいかに持てるかが、この追い風モードのコロナ影響です。

曲がり角モードについては「一寸先は闇」ゾーン。必要なものはセーフティネットかなと思います。ここは非常に先が見えにくいわりに、今までの流れと逆なので事故が起こりやすい。

不況影響、コロナ影響については、かなり蛇行が続くんだろうなと思っております。なかなか先が見えにくい中で中長期的に蛇行していく。そうなると、今必要なものはありうる未来A、B、C、といったシナリオ別のプランニングでしょう。

例えばコロナがいつ収束するんだろうか。中国とアメリカの関係がどうなっていくんだろうか。みなさんの事業や組織に関係があるようなシナリオをいくつか思い描く。それが必要なのがこのゾーンかなと思っております。

本パートで最初に私から情報提供差し上げたのは、みなさんのコロナでの状況、自社の状況、もしくは組織の状況というのは追い風モード、曲がり角モード、不況影響、コロナ影響とフレームで分類したときにどのような状況に今あるだろうかと。何を「決意」しなきゃいけないだろうかということ。

そういったものをまず、BeforeコロナからAfterコロナへみたいな単純すぎる二分法ではなくて、せめて4つのフレームで整理してみてはいかがでしょうかというのが私からの1つの提案です。