マルハナバチの“とある行動”で開花が早まる
ハンク・グリーン氏:蜂やその他の花粉媒介者の働きが私たちの生活に強い影響を与えている、というのは、周知の事実ですよね。というより、知っておきたいことですよね。アーモンドやリンゴ、ブルーベリーの恵みはそれらの働き失くしては得られないのですから。
とはいえ、この慎ましやかなマルハナバチに関することについて、私たちは大事なこと見逃していたようなのです。気候変動の風化は、マルハナバチの大きな助けとなっているのではないか、ということを。
2020年刊行の『サイエンス』誌において、以前は述べられていなかったマルハナバチの行動についての報告がなされています。
巣が飢えるような厳しい状況になると、マルハナバチは口器を使い、まだ花が咲いていない植物の葉にあえて損傷を与えるという行動に出るのだそうです。それが私たちの食物となる植物だったら、何だかとんでもない話みたいに思えますね。
マルハナバチを観察した研究者の結論によると、その行動によって蜂が植物の欠片を食い尽くしたり、巣に持ち帰ったりしているわけではないのだそうです。
それどころか、彼らが葉っぱに損傷を与えるのは花の開花を早期に促すためだと考えられるのだとか。なんと、蜂によって損傷された植物は、そうでない植物よりも30日も早く開花が見られることが研究者によって突き止められたのです。
開花した植物の近くと開花していない植物の近くにそれぞれ蜂の巣を置くことで実験を行い、葉への損傷行動は開花以前の植物に群がる蜂と密接な関係にあることを突き止めたのです。
この行動には意味があったのですね。蜂への食物の供給先として不可欠な花ですが、開花が遅いマイペースな花を待っていては、マルハナバチに産まれたたくさんの赤ちゃんを満足させることはできませんからね。
とはいえ、どのような進化を経て葉への損傷行動を行うようになったのかはわかってはいません。
葉への損傷行動とそれによってもたらされる恩恵の間には結構な時間の開きがある為、ある特定の個体が葉を損傷することによって植物の開花を早めるということを知ったとは考えづらいですし、また、場違いな所で花粉を探していたという理由からそのような行動に出た、というわけでもなさそうなのです。マルハナバチは鼻が効くのですから。
それに、葉を損傷すれば開花が早くなるのは何故かなんて、私たちには良く分からないのですから。
多分、蜂に葉を損傷された植物はそれを葉を食物とする虫からの攻撃だと受け取り、生き抜くための方法として開花を早めるのではないでしょうか。しかし、このような例は他には見られません。例えばバッタが襲来したとしたら、また違う結果になるでしょうし、開花が早まることもないでしょうから。
植物にとっては異花受粉を確実に行うためには、同種の植物と同時期に開花した方が都合が良いのです。
研究者は、自身の手で葉を傷つけてみることによってこの謎を解く手がかりを見つけたのですが、物理的な損傷によって開花が促されるのではなかったのです。蜂によって損傷を与えられた植物は研究者によって損傷を受けた植物よりも25日も早く開花したのですから。
となれば、これはもう蜂自身に何かあるに違いないのです。つまり、こういうことではないでしょうか。蜂が開花を促進させる科学的な何かを葉に注入している、という。
私たちはまず、その化学物質がなんなのかを特定し、その説を確かなものにしないといけません。それはきっと想像を超えるものなのではないでしょうか。
最終的に、この賢い戦略はマルハナバチが気候変動に適応する序章となるに違いありません。気候が暖かくなると、植物と花粉媒介者の間にズレが生じるのが通常と化してしまうのでしょうが、それはたくさんの花粉媒介者が一番必要とする時に花を見つけられないことを意味してしまいます。
しかし、です。食糧源である花の開花時期を花粉媒介者が変えられるのだとしたら、自然の変化を待つしかない種全体にとっては朗報をもたらすに違いないですよね。
その仕組みが解明出来て、私たち人間もトマトに同じようなことが出来たらなあ、なんてね。トマトが待ちきれないんですよ!