オンライン化による、地方か都市かの二元論からの脱却

入山章栄氏(以下、入山):ありがとうございます。今の村井さんの話を聞いて、もう少しラディカルな見方で、むしろ都市の価値がなくなっていくんじゃないかという見方なんですけど、村岡さんはいかがでしょう?

村岡浩司氏(以下、村岡):地方か都市かという二元性からようやく脱却できるような気がしています。今まではどうしても僕らはマーケットを東京に求めていたので。例えば食品加工で言うと、価格決定権はやっぱりマーケットが持っているわけですよね。

大手の流通が「これぐらいで売りたいからこれくらいで作ってくれ」というように、東京側が価格を決めるところがあったと思うんですけれども。

これからはやっぱりちょっと変わってくるかなと思いますね。販売のやり方もどんどんDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んできますし、今までは問屋さんや中間流通に頼って営業していたところが、直接お客様とつながってオンラインで商品を紹介するようになっていく。

新しいアパレルはD2Cのキーワードでやっていると思うんですけれども、我々も一緒なんですよね。

これまでは都心のスーパーマーケットに並べようと思うと、本当にパッケージを作って、マーケティングフィーをかけて、開発費をけっこう大きくかけて。店頭でのお客さんとのコミュニケーションなので、コンマ何秒で選んでもらうための素敵なパッケージ商品を作らないといけなかったんです。

オンラインでよかったら、それこそストーリーを伝えて共感してくれた人たちに、まずは本当に簡素なステッカーを貼っただけのパッケージでも、中身が良い商品で勝負できるようになってくる。だから、東京だからとか地方だからとか、どっちが有利でどっちが不利かというところから、やっと脱却できるような気がしています。

テレワークの普及は、地方での採用にもメリット

入山:差がなくなってきたということですね。いやぁ、おもしろいですね。奥村さん、参加されているみなさんから何か質問来ていますか? 

奥村真也氏(以下、奥村):ここのところちょっとお休みになっていますね。

入山:逆に奥村さんは、お三方に何か質問とかあります? 

奥村:私は書記に没頭していて、今ちょっと考えますので(笑)。

入山:なるほど。ありがとうございます。今のお話を聞いて、逆にどうですか、村井さん。結局、今の村岡さんの話は、都会がなくなるというよりは、コロナのおかげで都会・地方という差がなくなって平板化してくる。だから、結果的に地方にとってはチャンスなんじゃないかということなんですが、村井さんはいかがです? 

村井基輝氏(以下、村井):あえて僕はミクロ的な視点、いわゆる現場レベルでお答えしますと、我々のような中小企業では人材採用にエネルギーを使います。そのときに、そもそも大阪でしたら、梅田に事務所を作ったらもう会社が終わりますわ。

入山:はぁー、そんなですか。

村井:もし東京の丸の内に事務所を作ったら、半年で倒産すると思うんですよ。例えば大阪でも、私は裏なんばという場所で事務所をやっていまして。梅田だと坪3万4万するんですけど、裏なんばだと1万ぐらいなんですね。最近2万ぐらいに上がったんですけど、大阪は裏なんばと梅田で2倍違うんですよね。

これはどういうことかというと、これからはちょっと外した場所に事務所があると、そこにいるテレワークの従業員を採用しやすくなりますので、一番難しい採用という意味では田舎のほうが有利になる。そこはやっぱり、デジタルシフトがマストにはなります。

入山:そうですね。実際に今もうオンライン採用が増えていますけれども、もう今は関係ないですもんね。オンラインで採用できちゃうから、むしろちゃんと坪単価の安いところでしっかりとやっていったほうがいいと。

村井:はい。

オンラインツール導入を社員に受け入れてもらうには?

入山:なるほど。今の村井さんと村岡さんのお話を聞いて、居相さんはいかがですか?

居相:そうですね。家賃の問題などもあるので、地方にベースがあることが不利になりにくくなっていくのかなと思うんですけど、採用の話は私もすごく悩みの多いところでして。

面接もオンラインでやったりするんですが、なかなかオンラインだけで判断できひんなということはまだまだ悩んでいます。やっぱりそこは呼吸というか、間を感じづらいところがあって、100パーセントオンラインではできないなという悩みは感じているところですね。

入山:なるほど。ありがとうございます。

奥村:すみません。1ついいですか。さっき質問できなかったところで、ちょっと思いついたんですけれども。先ほど村岡さんから、DXによって都市部や地方という話がなくなって、フラットになるというお話があったと思うんです。

僕はけっこうTwitterでアトツギの方をフォローしてずっと見ているんですけど、よくあるのがDXというか、例えばGmailを導入するとか、なにかしら新しいオンラインのツールを導入するとなったときに、社員がなかなかついて来られないという話もある。

入山:とくに年配の方はね。

奥村:そうなんですよね。そのあたりで例えば、「やっぱりDXって頭ではわかってるんだけど、現実的にはなかなか厳しいよね」というご意見もあるんですけども。そのへんはみなさん、どういうふうにお考えでしょうか。

入山:ここで言うDXというのは、小難しい「なんとかシステム」とかじゃなくて。

奥村:ではないです。例えばZoomを使うとか。

入山:Zoomを使うとか、iPadを使うというレベルで。

奥村:そうです。そのレベルからですね。

アナログな現場にデジタルツールを導入するときのルール

入山:なるほど。こういったところはきっとみなさんも現場で、とくに年配の方を相手に苦労されている方もいらっしゃるんじゃないかと思うんですが。例えば村岡さん、いかがですか。

村岡:うちの業界は一番……飲食店の現場の板前さんとか、なかなかそういうのについて来られないじゃないですか。でも、LINEとか一番シンプルなツールを使えばいいと思うんですよ。

Slackを使ってどうのこうのとか、「これを使おう」「今度これを導入しよう」とか、やっぱり経営陣のリテラシーと、現場側のいろんな作業をしながら追いかけていかないといけないスピード感・温度感は、やっぱり違うと思うんですよね。

入山:なるほど。

村岡:だから、そこはみんなが一番なじんでいるものを使うようにしていますし。あと1つ、この4~5年ぐらいで反省したことは何かというと、やっぱり夜の8時以降ぐらいには経営陣がデジタルツールに、いろんな意見とかお願いとか、業務命令みたいなものを送らない。それは僕自身のルールとして作るようにしています。

それをやっちゃうと、やっぱりみんなが発言できなくなってくるし、ついて来られなくなるような気がするので。そういうことは気をつけていますね。

ハードルを下げて、社員が使いやすいツールを取り入れていく

入山:なるほど、ありがとうございます。村井さんはいかがですか?

村井:ほとんど村岡社長と同じなんですけど、Googleの難しいスケジューラーより、J-MOTTOなどの安いものを使うと。「Slack、Slack」と言うよりもChatWorkにしとこうと。でも「Gmail使えません」と言うたらもう……ちょっと厳しいですね(笑)。

(一同笑)

入山:ありがとうございます(笑)。

村井:あ、でもGmailが使えない人いますわ、社内に2人ぐらい。

(一同笑)

それはプリントアウトしています。以上です。

入山:なるほど。まだカスタムジャパンはDXは道半ばということですね。居相さんはいかがですか?

居相:うちの会社もすごくアナログなので、もう本当に紙ベースみたいなところで、やっとExcelを使えるようになったというところです。クラウドに上げるというようなことはまだまだできていないんですけど。まぁでも「やってみたら意外に簡単ですよね」という感じです。みんなスマホは使っているので、スマホで何か入力するぐらいのレベルに抑えておけばやってくれるかなと。

大企業の経営者ではなく、アトツギだからこそ持てる視点

入山:なるほど、ありがとうございます。最後に、今この画面を通じてご覧になっている、日本中のアトツギの方々へのメッセージなりエールを、何か一言お願いできないかなと思います。居相さんから、いかがでしょうか。

居相:はい。私もアトツギで、実は去年社長になったところなんですが、こういうちょっと困難な状況でアトツギの経営者ができることは、長期視点で考えることだと思います。

大きな企業の経営者の方は、どうしても短期的に結果を出すことを求められていると思いますけど、アトツギは今までやってきた家業のベースはこれで、それから長期視点で何をやったらいいかを考えられる、非常にいいポジションにいると思います。

今はちょっとしんどいかもしれませんけど、焦らず長期的にやりたいことをやっていけば必ず未来は開けると思いますので、一緒にがんばっていきましょう。

入山:居相さん、ありがとうございました。素晴らしいお話でした。僕、実はアトツギの星である「星野リゾート」の星野さんと、親しいというほどではないんですけど、何度も交流させていただいていて。

実は僕も星野さんも「まさにこれからはアトツギ、ファミリービジネスが日本を救うんだ」と、けっこう同じ意見なんですね。それで、やっぱりポイントはまさに今居相さんがおっしゃった「長期視点」なんですよ。

ちょっと学者っぽい話なんですけど、やっぱり経営って長期でやらないと、新しいチャレンジができないんですね。だけど東京の大企業の社長って、2年2期とか3年2期で終わっちゃうから、4年後の未来しか責任が持てないじゃないですか。そうするとやっぱり、長い間かけて事業変革とかイノベーションを起こすことができないんですよ。

だから星野さんも「ファミリービジネスが大事だ」とおっしゃっているし、僕も学者として同じ意見なんで。今、居相さんが図らずも同じことをおっしゃってくださったので、やっぱりそうなんだな、と確信を持ちました。居相さん、ありがとうございました。

居相:ありがとうございました。

ベンチャー型事業継承の本質は両利きの経営

入山:じゃあ次、村井さんお願いします。

村井:はい。ベンチャー型事業承継を実行するためには、入山先生の本を読め!

両利きの経営

入山:(笑)。

村井:両利きの経営こそ、ベンチャー型事業承継の本質である。アトツギが家業でベンチャー型事業承継を推進するなら、知の深化と知の探索を徹底的に率先垂範で推進するのみ。家業があるアトツギはラッキー。ラッキーにするか、しないかはアトツギ次第。以上です!

入山:ありがとうございます(笑)。素晴らしいですね、ありがとうございました(笑)。じゃあ最後、村岡さんお願いします。締めていただいて。

すし屋ではなく「おいしいものをつくること」を受け継いだ

村岡:はい。アトツギって、同じようなバックグラウンドや悩みを持って事業をやっている仲間たちだと思っています。家業に帰ってきたときとか、その途中で5年目、10年目、20年目、もしかすると代替わりをするときの悩みや思いもあると思うんですけど。

先ほども言いましたけど、コロナで本当に大事なことって(目の前の木ではなくて)「森を見つめようよ」ということですね。父親や先代、おじいちゃんから引き継いだものは何なのかということですね。

僕はすし屋を引き継いだつもりだったんですけど、実はそこで引き継いだものは、「おいしい」ということだったんですよ。「おいしいものが正義だから、おいしいものを作ろうよ」という。それはレストランを超えて、今はパンケーキになったりパスタになったり、いろんなものになってきているし。

うちの父親は地域の人から「一平さん、一平さん」と呼ばれて地元に愛される人でした。それが今度は僕の代になって15年以上経つ中で、宮崎という枠を超えて「九州の中でコミュニティビジネスをしよう」みたいなところになってるんですね。

コロナの中で、いろんなことが壊れて大変なんですけど、その中でも「社業としてのコンテキストは何なのか」ということをもう一回見つめ直して。それで、自分の力で未来を切り開いていく。

若い30代とか40代、とくに30代のみなさんは、突如として大きな変化を強いられる時代にあって、自分自身の力で心強く、会社を引っ張っていってほしいと思います。僕もがんばりますので、みなさん一緒にがんばりましょう、ということを最後のメッセージにします。

入山:ありがとうございます。いや本当、最後に素晴らしいメッセージで。村岡さん、ありがとうございました。じゃあ、奥村さんに戻します。

コロナウイルスがもたらした危機をチャンスに変えていく

奥村:はい、ありがとうございます。みなさんありがとうございました。

今日の総論としては、やっぱりアトツギ、かつ例えば地方。こういったところにはこのコロナを機に「チャンスしかないよね」というのがみなさんの意見だったと思います。

それで、我々がイベントやるときに気をつけているんですけど、イベントが単発の打ち上げ花火で終わらないように。ここで何か火が灯ったのであれば、燃やし続けることを大事に考えています。実はそのためにオンラインサロンをやっています。

各人が明日からまたデイリーの業務に戻っていくと思うんですけど、その中でもアトツギ同士、切磋琢磨しながら心の火を灯し続けることが重要だと考えています。

今日、例えばさっき村井さんから出た「どうやって空白部分を探すか」という話とか。これは「みんなに嫌われちゃうから言えない」とおっしゃいましたけど、村井さんも、5人10人のクローズドだったら言えると思うんですよ。

なので、今日出たテーマの中から事務局でいくつかピックアップをして、オンラインサロンの中でこれをさらに深掘りしていく、分科会みたいなものを設けます。

入山:あぁ、いいですね。

奥村:ここで今日だけで終わらずに、これをじゃあ次にどうつなげるかみたいなところを、ぜひまた議論していきたいなと。

入山:それは素晴らしいですね。

奥村:今日はみなさん、どうもありがとうございました。