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QA本田氏(全1記事)

オムロン、デンソー、パナソニック…… 冨山和彦氏が考える、トランスフォーメーションできる企業の絶対条件

2020年5月に開催され、好評を博した特別講演会『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』。経営共創基盤CEOの冨山和彦氏が、コロナショック後の日本が生き残るためには古い日本的経営を脱し、ローカルとグローバルの双方で構造改革を行う必要がある、といった意見を述べました。そして6月、前回よりもさらに多くのオピニオン・リーダー、ビジネス・リーダーをパネリストに迎えた『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画2』が緊急開催。堀内勉副所長の司会の下、冨山氏が危機後の日本経済・社会の再生に向けたビジョンを徹底的に議論しました。本記事では本田桂子氏、翁百合氏との対談を公開します。

コロンビア大学にて、ESG投資を専門に教える本田氏

本田桂子氏(以下、本田):おはようございます。コロンビア大学の本田でございます。私は、何人か今日いらしている大学のちゃんとした研究者の先生とは違いまして、若い頃は冨山さんの競合会社M社に。

冨山和彦氏(以下、冨山):(笑)。いやいやいや。競合というか。

本田:24年くらいおりまして(笑)。その後、世界銀行のMIGAという民間が発展途上国に投資をする際に、ビジネス以外のリスクを保証するというところに7年程おりまして、今年の1月からコロンビア大学に来て、ESG投資を専門にしてやっています。

ご著書の2冊目も拝読させていただきました。私が非常に共感を覚えたところが3点あって、1つ目が三種の神器とおっしゃっている、いわゆる日本型資本主義というのは働かなくなっている。

これは、実は1950年くらいに経済同友会が出している『修正資本主義のすすめ』という私はコピーでもらったんですけど、一応私の生まれる前ですから(笑)。

冨山:(笑)。僕も生まれる前です。

本田:三種の神器的なことは、1935年ぐらいに国家総動員法の前後にできている。本来であれば第2次世界対戦が終わった後に、普通の資本主義に戻るべきだった。

昭和初期は、社外取締役が過半でプロフェッショナル経営者がいて、アメリカの今とあまり変わらないような感じでした。しっかり配当もでておりました。しかし、日本は第2次世界対戦で大きな傷を負ってしまったので、日本の復興のためにはそういう資本主義にはすぐにはもどさないほうがいい、と当時の経済同友会が提案しています。

冨山:便利だったんです。あれを使うのは(笑)。

本田:ところが長くやりすぎちゃって、みんながそれが日本古来の資本主義だと思っているのですね。

冨山:嘘なんですけどね(笑)。

本田:私も「そこは違うよね」と思っていたので、共感をおぼえました。

2つ目が、大企業はGDPの3割で雇用も2割しか創出しておらず、残りは、冨山さんの言葉を借りると、L型の人たちが雇用も経済も作り出している。これも本当におっしゃる通りだと思います。

3番目が、収入と資産の格差は、日本はアメリカほどではないんですが、やはりこの2~30年くらいでじわじわ拡大しました。とくに失われた20年の間に、資産格差が進んでいます。

トランスフォーメーションに向いている日本企業

本田:まさしく冨山さんがおっしゃったように、資産はインフレ、残りはデフレが進んでいる。そういう背景で、聞きたいのはこれです。

日本企業の再生に向け、本当は一人ひとりが行動を変えて起業もして、が良いのですが、なかなかそうはいかない。今の企業をトランスフォーメーションしたいと思う方も多いと思います。

一方で、マッキンゼーに24年いる間に、M&Aや事業の切り出しや売却のお手伝いをしてわかったのが、企業のトランスフォーメーションって非常に難しいし、すごい辛い。

マネジメントも辛いけど、社員も辛くてなかなか大変でです。冨山さんからご覧になって、ここは向いてそうだなと思われる日本企業というのがあれば、2〜3、実名で挙げていただけないでしょうか。

冨山:ああ、これから?

本田:何でその3社だったのかというのをご説明いただきたいです。この3社のうち1つは、今、辛い状況にある金融業界からも選んでいただけるとうれしい。

冨山:難しい質問ですね。一応、自分はトランスフォーメーションを手伝おうと思って、パナソニックの社外取締役をやっています。向いているかどうかはともかくとして、むしろ逆かな。パナソニックでトランスフォーメーションできれば、それは多くの人に希望を与えるんではないかという感じですね。

オムロンの10年間は、トランスフォーメーションの10年間だったんですよね。どちらかというと、比較的オムロンはやりやすい会社です。理由は簡単で、京都の会社って理念系が強いので。理念系が強いところの方がトランスフォーメーションには向いているんです。組織を理念で引っ張っていけるので。

理念を変えていくことによって、あるいは理念を進化させることによって、会社が変わるという文化を比較的持っているので、立憲君主的な、ああいう理念系の会社の方が、実は変えやすいような気がしています。

パナソニックも昔はそうだったんです。幸之助さんという非常に強烈な人がいた会社なのですが、幸か不幸かそれっぽくない会社に(笑)。大きくなりすぎたというのもあるんですけど。

裏返して言うと、ある意味、すごく日本的経営の教科書的な会社ですから、こういった会社でやれば、大抵の場合、いろんな人に希望を与えるんだろうなと思ってがんばっている。向いているというより、逆説的に、私は敢えてパナソニックに頼まれた時に社外取締役を引き受けています。

金融機関は難しいですね。金融機関は死ぬかどうかの瀬戸際までいかないと。りそなみたいに。あそこまで行かないと。

トランスフォーメーションする時の絶対条件って、強烈な政権が10年以上続かなきゃダメです。2世代、だから20年ですね。場合によっては。

20年くらい。10年×2代、織田信長みたいな人が経営しないとやはり難しいんですよ。そういうガバナンス体制を作らなきゃダメで、かつ、破壊王みたいなやつを20年くらい続けて、破壊王Aと破壊王Bにやらせなきゃいけないんです。

それができそうな金融機関があるかと言われると、ちょっとすいません。私、思い浮かびません。申し訳ないですけど。そういうガバナンスを、僕だったら変えるところからチャレンジするかな。

それをやろうと思ったら、やはり社長指名をガチでやらなきゃダメです。前任者が漫然と後任者を指名すると強い政権にならないんで。ガチで。そういうところから手を付けると思うんですが、逆説的ですけど、私を社外取締役に呼ぶような会社がきっと向いている会社です。(笑)。そういうことを妥協しないタイプなんで。

卓越したリーダーが長期間やりそうな地銀がいくつかあります。実名を挙げますと、僕らの同世代の東大の同級生だった吉村(猛)さんがトップをやっている山口フィナンシャルとか、そういうタイプで、たぶん彼はかなりやっているけど若いんで。そういう長期政権のトップがいる会社というのはおもしろいんじゃないかな。

日本人材機構が一緒に作った北洋銀行なんかも、相当経営がしっかりしていますね。優秀な人がずっとかなり長い間頭取、会長、ずっと事実上のCEOやっているんで。地銀のほうがチャンスあるかも知れませんね。規模がでかすぎないんで。

わりと今、地銀の方がトランスフォーメーションのマージンが大きいです。現状やっていることは古典的な商業銀行なんだけど、そこに釈迦に説法ですけどいろんなフィンテックが入ってきて、ものすごく変えられる余地が大きいですよね。

メガ(銀行)の方が微妙なポジショニングなのですが、地銀のほうがある意味ではJPモルガンがやってきたところとか、あるいはウェルズ・ファーゴがやってきたことを日本なりにアレンジして、あるいは今のテクノロジーにアレンジしてやっていくと、いろんなことができる可能性があると思います。

あと、経営規模が大きすぎないということと、エリア的な再編が進んでいないということがあるので、やりようがいっぱいあるような気がするかなというところですかね。

デンソーぐらいしかメガサプライヤーになれる会社がない

冨山:あとどうかな。トランスフォーメーションに向いている日本企業……。これからですよね。今はダメで。

本田:これからできそうなところ。

冨山:これからできそうなところ。個人的な期待感としては自動車産業でいうと、私はデンソーにがんばってほしいですね。

本田:その心は。

冨山:その心は、デンソーぐらいしかメガサプライヤーになれる会社がないので。これから間違いなく、自動車産業というのはメガサプライヤーの天下になっていくので。

メガサプライヤーと一部のOEMですね。本当に、上の数社のOEMとメガサプライヤーの世界になっていく。これ結局、他の産業と同じです。だから、デンソーにがんばってほしいですね。ガラッと違う会社に進化してもらいたいですね。

今の社長さん、そういう意識を持ってすごくがんばっているいい社長さんなので、応援という思いも込めて。

もともとは伝統的な日本の大企業のトヨタの、どちらかというと系列のデンソー部品屋さんという位置付けですから、系列型の仕組みの中で清く正しい日本的経営でやってきている会社なんです。本来は向いてないのですが、戦略的な事業ポジションというのが、これからめちゃめちゃおもしろくなってくるので。

これがトランスフォーメーションできちゃうと、相当大化けするいい会社になる可能性があります。そういう意識を経営者が持ってやっているので。あるいは、ある意味トヨタもそれを応援していますから。ここはちょっと化けてもらえたらおもしろいなと思っていますけど。

本田:ありがとうございました。

冨山:変わってほしいということです。

本田:わかりました。理念で会社が動くような会社であるというのと、強いリーダーシップが長期政権でやれそうだというのと、あと、一部の会社、業界内における戦略的ポジショニングでジャンプできるようなものがある、ところということでしょうか

冨山:それがないと、やはりトランスフォーメーションする意味がないんで。戦略的ピボットができるところじゃないと。

地銀のトランスフォーメーション

本田:そうですね。地銀に関しては堀内さん、今日は何でもありですよね。

堀内勉氏:時間が押しているので手短にお願いします。

本田:地銀に関しては翁さんに一言うかがいたいです。

翁百合氏(以下、翁):はい(笑)。

本田:すいません、振っちゃって。

:何ですか? 今の質問? トランスフォーメーション?

本田:地銀の。

:私は、日本人材機構の話をうかがっていて、あれは北洋銀行でしたっけね。

冨山:そうです、そうです。

:すごくうまく人材の規制緩和で。

冨山:人材派遣のコンサルティング。

:できるようになって、すごくそれで成功しているんですよね。やはり、そういう意味では、いろんな地銀にもチャンスがあると思うんですけれども、かなりいろいろ規制緩和しているので、本当に本気で中の人材を鍛えて、しっかりとしたトランスフォーメーションに人材を活かしてやっていこうとすれば、そういうことができる銀行は他にもあるんじゃないかと思います。

山口銀行もフィナンシャルグループですね。よく話が出るし、北洋銀行も人材機構がまさにやっていたところだし、同じような意見を持っております。

本田:ありがとうございます。とっても元気が出ました。以上です。

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