3月は「会社がもうつぶれるんちゃうか」と焦った

入山章栄氏(以下、入山):じゃあ次、村井さんに改めて戻ってみたいと思います。村井さんはいかがでしたか? 今回のコロナはどういう経験をされました?

村井基輝氏(以下、村井):まず3月は、「会社がもうつぶれるんちゃうか」と焦りましたね。実際、売り上げ自体はそれほど落ちなかったんですけど、中国からの調達が比較的多いので、工場が完全に止まりまして。

小さいところを入れると、中国、台湾の取引先が100社以上あるんですが、3分の1ぐらいしか連絡が取れませんでしたので、初期段階はもう焦りだけでした。

そこから中国広東省の広州に現地法人がありますので、広東省エリアは工場に訪問したりして、なんとか商品を供給してもらって、調達につなげていったというのが現状でございます。

入山:村井さん、広東に直接調整にいかれたんですか? 

村井:あ、私は行きません。

入山:行けないですよね。

村井:行こうと思ったんですけど、その時は、もう制限がかかる段階だったので。現地に当社の社員がいますし、オフィスもございますので、そちらでいわゆるベンダーやサプライヤーに交渉することができました。

コロナ禍でクルマやバイク、自転車の需要が急伸

入山:はい。続けてください。それをどうやって乗り切ったんでしょうか。

村井:まずは調達は、サプライチェーンのところで優位性があったと言いますか、現地の基盤がありましたので、直接工場に出向けたというのがあります。

2つ目については、4月以降は三密を回避するための通勤通学手段として、50㏄の原付、125㏄の原付二種が見直されて業界でけっこう売れました。

さらに、パナソニックの自転車が2ヶ月欠品するという事態もありまして。古い自転車を直しておこうという機運が高まりました。

いわゆる補修部品の動きは通年よりは伸びたという状況でございますので、結果としては4月と5月は、3月の分を回収できたという状況にあります。

入山:今は実際、中国の自動車マーケットが急速に回復しているんですよね。それで、私も話を聞くと、コロナのおかげでむしろ電車やバスに乗るのが怖くなって、結果的に乗用車の需要がすごく伸びていると。だから、実は中国だとバイクや自動車・自転車も同じ理由で今伸びているという。

村井:そうです。メディアは車業界の話しかしないんですけど、いわゆる原付バイクや自転車、ママチャリの話。日本で走っている原付やママチャリって、めちゃくちゃ多いんです。

例えばバイクでも、ハーレ―とか大型バイクの話ばかりメディアで取り上げられますが、大型バイクに乗っている人は数パーセント程度で、50パーセントは原付バイクなんです。原付バイクは減少していると言われていますが、実はまだ国内保有台数は500万台以上あります。そういう部分がかなり活性化されたというのが、いわゆるこのコロナの状況です。

中国ではすでにコロナ対策展示会をリアルイベントで開催

入山:なるほどね。じゃあこれからまた次に来るビジネスという話も聞きたいんですが、村井さんのビジネスでは中国のマーケットも考えると、意外と追い風ということなんですね? 

村井:今、私は事務所が大阪の難波というところで、友人の飲食店などは厳しい状況ですので、あんまり言いづらいんですけど、この部品については追い風になっていますね。

入山:なるほどね。やっぱり業界でだいぶ明暗が分かれていますね、奥村さん。

奥村真也氏(以下、奥村):そうですね。

村井:あとはちょっと1点よろしいですか? 今日、我々広州の社員が上海に出張に行っていまして、中国のほうはもうすでにコロナ対策展示会というのをリアルで開催しているんですね。

入山:(笑)。へー。

村井:今、写真で送ってきているんですけど、あらゆる産業の会社が……例えば私もバイクのチェーンを中国で作っているんですが、その会社がCOVID-19対策の商品のブースを作ってもう出しているんですね。

入山:興味深いですね。ありがとうございます。やっぱりちょっと中国はだいぶ先を行っていますね。

奥村:そうですね。

コロナ禍の一番の特徴は、セクターごとに明暗がはっきり分かれたこと

入山:ありがとうございます。じゃあ、次に村岡さん。村岡さんのお仕事は外食などたくさんありますから、もろに影響を受けたんじゃないかと思うんですが、コロナの経験はいかがでした? 

村岡浩司氏(以下、村岡):今回のコロナの一番の特徴は、セクターごとにポジティブとネガティブがはっきりしているということかなと思うんですよね。

我々ホールディングスの中に飲食店部門もあって、そちらの会社は3月に入ってから、毎週昨対10パーセントずつ売り上げが下がっていきました。4月5月に関しては、もう完全にお店を閉めないといけないという状態でしたね。だからすごく大変な思いをしました。

もう1つ、ものづくりのほうですよね。さっき言った食品加工のほうは逆にすごく伸びました。オンラインも伸びましたし、パンケーキミックスなんか足りなくなって、需給が逼迫してまったく製造が追いつかないという状況だったり。

我々は長崎の南島原でパスタを作っているんですけど、そちらももう商品が足りないという状況になっていましたね。だから、でこぼこしていたって感じですかね。

入山:でも、たまたま……たまたまと言うともしかしたら失礼ですけど、両方持っていたからこそ、片方は落ちたけどもう片方では全体としてはヘッジできたという。

自分の事業を木ではなく森として考える

村岡:そうですね。今日見ていらっしゃる方の中には飲食業をやられている方も多いかと思うんですけど、今まで飲食業のヘッジの仕方は立地だったんですよね。駅前とか商業立地とか。例えば雨が降ると、路面店はだめだけどショッピングセンターは上がるとかですね。

ところが、今回は全方位的に、いわゆる立地が全部だめになったというところで。それで言うと飲食店はだめだったんですけど、もう1つ、ここ数年間はもう1個上位概念のいわゆる食産業というものが出てきています。我々はそのものづくりの食品製造業・加工業もやっていたので、そっちがすごく良かったということですね。

入山:なるほどね。じゃあ一段レイヤーを上げて、お店と製造物販の両方をやっておくというのは、いろんな意味でいいのかもしれないですね。

村岡:そうですね。今起こっている現象を木と森の関係に例えると……。「木を見て森を見ず」と言うじゃないですか。我々がどういう事業をするか、5年後の姿や10年後の姿が森や設計図だとすると、今起こっている現象は全部、木の話だと思うんですよ。

つまり、「お客さんが来ない」とか「雇用をどうしよう」とか「資金繰りをどうしよう」というのは目の前の事象なので、これは全部木の話で。中には立地によって切り倒さざるを得ないような木があったりですね。一方で伸びている木もあるわけですから、そっちはこれから積極的に投資をしていくと。

だからコロナによって、その森の描き方は全方位的に変わってくるんじゃないかなと思っています。

入山:なるほど。逆に言うと、村岡さんみたいに一段目線を上げていくことが、これからのアトツギにとっても重要じゃないかということなわけですね? 

村岡:そうですね。僕が継いだときは寿司屋ですから、まさしく100パーセント飲食業なわけですね。そこからどういうふうに展開させていくかというのが、2代目3代目のアトツギにとっては……。あるときは、今までやってきたことを置いてきぼりにする必要があるかもしれないし。

ただ、僕は食という業種は変えていないんですよ。その中で業態をいろいろ変化させたり、もっと言うと地域を宮崎ではなく九州に広げていくと、またそこのかけ算がいろいろ生まれていったり。そういうイメージです。

自社ならではの武器を軸に、事業の幅を広げることでリスクヘッジ

入山:おもしろいですね。ありがとうございます。居相さん、今の村岡さんのお話はどうですか? すごく興味深いと思ったんですが。

居相さんも黒いステンレスを実はいろんなお客様に提供していて……。たまたま今回はちょっとだめで全部苦しくなったけど、とはいえ一段目線を上げようとされているから、みたいなところがあると思うんですよね。

居相浩介氏(以下、居相):やっていることは違うとはいえ、本当にすごく共通する部分があります。我々は表面処理というのが1つの武器なんですけど、それをいろんな業界に応用していくことによって、切り開ける道がすごくあるなと思っているのと、あとは表面処理だけじゃなくてその前後の工程があるんですね。

例えば、材料の部分やプレスなどの加工も含めて部品にできるので。部品として供給していくと、届けられる先がすごく広がっていく。そこが、自分たちが存在感を発揮できるところかなと思っていますね。

入山:なるほど。さっきの村岡さんの話だと、自分はもともと寿司屋だったけど、結局今は食をやっていると。結果的に幅広いことをやっているから、今回もある程度リスクをヘッジできたということだと思うんですけど。

居相さんもそういうことってアトツギとして意識されていますか? ちょっと視点を上げていこうというような。

居相:そうですね。ですので、材料を含めた材料屋さんになろうというふうに来たんですけど。今はそこからさらに進めて、部品メーカーになろうと目指しているところですね。

そうすると、地域に縛られることもなく地域の良さを活かしつつ、売り先は全国、日本国内だけじゃなくて世界に出て建材屋ができるかなと思うので。そんなふうに見てはいます。

コロナウイルスによって変化した、昔ながらの商談スタイル

入山:ありがとうございます。村井さんは、お二人の話を聞いてどうですか? たぶん村井さんも同じだと思うんですけど、ちょっと目線を上げていくことで、今回の対策もできるし、より新しいことができていくんじゃないかというお話だったんですが。お二人の話を聞いて、感想とかあります? 

村井:話の前半のときに、必死に写真を探しすぎて聞こえてなかったです。

入山:(笑)。

村井:写真は見つかったんですけど、開発責任者から「その写真は出さないでくれ」と今ダメ出しをくらいましてですね。

入山:あ、残念ながら。

村井:グループのチャットだけ出しました。その目線に関していうと、本来重要なことがより重要になった。これに尽きると思います。

先ほどサプライチェーンのお話をしましたが、我々でいうと、海外のベンダーとの取引が重要になります。そのためには、今までは訪問してお酒飲んで商談という世界だったんですが、これはもうまったくできません。

価格交渉も社長同士での対話もできませんので、中国では制限がありZoomを使いづらいんですけど、WeChatやQQを駆使して定期的にコミュニケーションをとったり、手紙を送ったり。そのような通常やらなければいけないコミュニケーションをより濃くしたようなことが、より重要になってきたと感じております。

雰囲気だけで交渉する「オーラおじさん」は、オンラインでは通用しない

入山:今すごく重要なご指摘で、私の周りでも今起きていることなんですが、オンラインになったから空気を読む必要がなくなったと。つまり昔は、交渉事でオーラだけ出す「オーラおじさん」というのがいて、雰囲気だけで交渉していた人がいたんですけれども。

今はネットだけのコミュニケーションだからこそ、はっきりものを言って、きちんと伝えることは伝えるという交渉のスタイルになってきているので、実はそういうことをちゃんとできる人が結果を出せるようになっているという話を聞いています。

やっぱり村井さんのところもそんな感じなんですね。

村井:そうですね。以前の交渉ですと、お酒の量で対決して勝って、値段を下げてもらったりですね。単純に人間的なコミュニケーションで商談していることも多かったんですけれども。

そこから完全にパワーポイントで資料を作ったり、日本国内で統計データを出して数字・ファクト・ロジックで明確にしてベネフィットを伝えていくと。ですので、結果として私もそうですけど、カスタムジャパンの従業員も交渉に対してはより数字とファクトの重要性が増したと感じています。

入山:なるほど。ありがとうございます。

特徴のある技術を持っていれば、存在感を発揮していける

入山:ちょっとここで、もう少し一般論のような話かもしれませんが、みなさんにお伺いしたいと思います。改めて、居相さん。よろしいでしょうか。

居相:はい。

入山:居相さん、今回この前半のテーマがズバリ「コロナでこれからくるビジネスは?」ということで、これ自体はちょっと答えるのが難しいと思うんですけれども。

一方で、我々のビジネス環境の中で、例えば仮にコロナが治まっても、いわゆるニューノーマルと言われる時代に結局どういうものが残って、我々のアトツギベンチャーのビジネスに影響を及ぼすというふうに……大きな視点で、環境変化についてお考えになっていることってありますか? 

居相:うーん、かなり難しい質問だなと思うんですけど。

入山:でも先ほど、例えば地方に分散するとおっしゃっていましたよね? 

居相:はい。ですので、我々の場合だったら技術なんですけど、特徴のある技術を持っていれば、地域の中でもちろん存在感を発揮できると思いますし、それがいろんなところに選ばれるようになっていけるかなと思うんですね。

商談についても、実際にリアルでお会いしてお話しできるのが一番いいんですけど、リモートでこういうかたちでの商談というのも、けっこうできるようになってきたので。ものづくりはそういうことをかなり苦手にしていたんですけれど、その飛び越え方の障壁が低くなったかなという気がしますね。

入山:なるほど。ありがとうございます。