サブスクの本質は「パーソナライゼーション」

司会者:ありがとうございます。視聴者のみなさんから、どんどん質問を頂戴しております。「サブスクがコロナに強いという視点が気になりました。詳しくおうかがいできないでしょうか?」ということです。

おそらく「従量課金制に比べて」ということだと思うんですけど、たぶん最後のほうのスライドで、今後はサブスクリプションモデルが強いという話をされていたと思います。こちらはいかがでしょうか?

田所雅之氏(以下、田所):本質として、サブスクって定期購買と違うんですよね。新聞の定期購買は基本的にパーソナルにしないじゃないですか。例えばグノシーとかスマニューとかNewsPicksの有料版だったら、読みたい記事とか行動によってやっぱり変えていくわけですよね。

サブスクの本質は、このパーソナライゼーションなんですよ。みなさん、NetflixやAmazonプライムなどを見ていると思います。Spotifyもそうですけど、自分が見た行動データによって、パーソナライズしているということなんですね。

サブスクリプションはつまり、そこが習慣化するということなんですよ。そこがちゃんとできているところはやっぱり株価も上がっていますし、業績がいいんですよね。でも、新規の営業とかだとどうしても……。

昨日も、ある不動産会社の社長と話したんですけど、実は人の移動距離であったりとか、人がどれだけたくさん移動したかということと、ものが売れることが相関しているわけなんですよね。

トヨタなんかもこの前の決算を見ても、残念ながら新車が売れていない。でも、トヨタはKINTOというサプスクリプションのサービスを始めています。うまくいくかどうかはわからないですけど、1回だけ興味あるクルマに乗って、また別のクルマにすることが簡単にできる。その体験がうまくいって、どんどんパーソナライズされていったらやめられないということなんですね。

顧客との接点を通じて価値を提供していく

田所:実は、そういうふうにどんどんシフトしているんですよ。だから、そこに対してはサブスクリプション単体ではなくて、「サブスクリプション+パーソナライゼーション」なんですよね。

ただ、サブスクリプションってパーソナライゼーションしやすいんですよ。なんでかと言うと、新規のプロダクトを買うときの顧客接点って、新規のプロダクトを買ったときだけですね?

でも、サブスクだったら基本的に毎日、顧客のログデータが取れるじゃないですか。それが先ほどの話と近しいんですけど、そこで取れたAPIをベースにして、パーソナライズしたものを学習して、何か付加価値を提供していくようなことをやるんですよ。そうすることによって、やめなくなります。その辺が大事かなと思っています。

いわゆる顧客価値をベースにし、いろんなものにさっきの接点を通じて価値を提供していく。それがいわゆるノンサブスクリプションモデルだったら、タッチポイントがない。買いに来た瞬間でしか、それができないんですよね。

そうなると結局、こういう言い方はどうかと思いますけど、今のユーザーはやっぱり甘やかされているんですよね。「パーソナライズされていて当たり前」になっているので、やっぱりそこのユーザーニーズを捉えられないと、売り上げは伸びないのかなと思っています。

そういう意味で、サブスクリプションというのはただ単に戦術の話なんですけど、いろんなものが顧客タッチポイントを増やしやすいところと、パーソナライズしやすいところで強いのかなと思っています。

日本のベンチャー企業を取り巻く環境

司会者:ありがとうございます。続いての質問ですが、こちらはもしかしたら、QWSで活動されている、まさにプレシード、シードステージの方なのかもしれないんです。

「日本においてプレシードステージの支援が広がらないのはなぜ?」というご質問を頂戴しております。

田所:USなどだと、エンジェル投資は年間2兆円ぐらいあるんですよ。あとは、やっぱりエンジェル投資家にリスクテイカーが多いです。日本だとエンジェル投資家はたぶん1,000億円もいってないですよね? 

そこは大きな差かなと思っています。そうですよね、プレシードは少ないですよね。シードはVCも増えていますけど、やっぱり圧倒的にエンジェル投資家が少ないところかなと思っていますね。

司会者:ありがとうございます。こちらも投資に関する質問……ごめんなさい、違いますね。

「大企業のCVC、アクセラレートプログラムは日本のエコシステムに寄与していると思いますか?」という質問です。

田所:(笑)。アクセラ……。「謎のPoC(Proof of Concept/概念実証)おじさん」がいるところは、僕は寄与しないと思いますね。

要は、濃淡があると思うんですよね。当然、大企業のCVCとかでもすばらしいところがあると思うんですけど、なんか「やらされている感」があるところも、けっこうあったりします。

そういうところは逆にスタートアップも時間ばっかりが取られてしまって、本質的なトップラインになっているとか、成長というのには寄与できないですね。だからその辺はスタートアップ側として、やはりきちんと見極める必要があるかなと思います。

僕もアクセラをやっているんですけれども、僕がやっているアクセラの価値は明確です。もう企業価値を上げることだけなんですよね。

別にそれは僕が得意なのでやっているんです。よくわからないですけど、他の大企業のCVCとかで話しに行ったとしても、基本的に何もしていないですよね。ただ単に、週に1回、月に1回のミーティングをして、「ちょっとPoCをやりましょう」みたいな感じでやって、やたらスタートアップが時間を取られていくという感じなんです。

先ほどの話に戻るんですけど、そもそも大企業側のそういった折衝にあたる人というのが、「どういったユーザーエクスペリエンスを作りたいのか」とか、「どういったプラットフォームを作りたいのか」という戦略がそもそもなかったりする場合が多いんです。

ただ単になんかCSR的な感じや、「俺たちはイノベーションをやっている」という感じでやっているところも少なくないと思うので、スタートアップ側に対するアドバイスとしては、ちゃんとそういうところを見極めることかなと思います。

過去の成功体験にとらわれず、ゲームチェンジを認めるべき

司会者:はい。続いての質問です。こちらは社内起業家の方ですかね?

「『既存事業や既存の経営方針に固執するリスク』をいとわない年配役員を口説くには? 社内でイノベーションマインドを育てたいと思っています」という質問です。

田所:これは、一番難しいですよね。企業にはやっぱり寿命があって、僕は極論、残念ながらそういうのは死ぬしかないと思っています。企業の寿命は30年ぐらいだと言われているんですよね。今の状況下でも昭和な感じでやっているところは、残念ながらもう衰退していくしかないのかなと思っています。

ただ、それを批判しているわけじゃないんですよね。先ほども言ったんですが、1990年代はサプライサイドエコノミーであって、日本の高度成長期を育てたのはそこなんですよ。ただ、この20年間でもうゲームチェンジしてしまったんですよね。

その中でそのゲームでやろうとしていること自体、もうどうしようもないのかなと思っています。実は、役員が頭が固いのはそういうわけではなくて、昔の成功体験に執着しているということなんですよ。そうなったら……どうなんですかね? やっぱり自分自身がユーザーになってみたり、僕はけっこうワークショップや講演などをやりますけれども……。

ただ、そんなことはあくまで表面的かなと思っていて、もう抜本的に組織変革をやらない限りはだめなのかなと思いますけれどもね。そういった気概や覚悟があるかどうかかなと思います。僕は、その辺は本当に一番の課題だと思っています。

大企業の中で支援や講演をしますけれども、本当に今なんだか表面的にやっているところも少なくないんです。最近は、そんなところでやってもしょうがないのかなと思っているので、あんまりもう話すのはやめようかなと思っていますね。

“次に来るスタートアップ”はどんなセクターから生まれるか

司会者:ありがとうございます。そろそろお時間になってきましたので、最後の質問とさせていただきたいと思います。

田所:はい。あと、1つちょっと宣伝させていただきたいんですけど、僕はサロンもやっていますので、ぜひ。あと2名だけです。動画なども300本ありますので、興味がある方はご覧になってください。今日のスライドもこちらからご覧ください。

司会者:では、こちらでラストの質問とさせていただきたいと思います。

「田所さんが今注目している、次に来るスタートアップが生まれそうなセクターは?」という質問です。

田所:そうですね。いや、本当にクロステックは来ると思いますよ。別に新たなテクノロジーうんぬんかんぬんというよりも、僕が支援しているスタートアップの中でも、めちゃくちゃアナログな業界っていっぱいあるんですよね。

そこは別にブロックチェーンやAIを使わなくても、普通に既存のWebベースのSaaSみたいなことなどで、ぜんぜんDX(デジタルトランスフォーメーション)ができるんですよ。国内でうまくいっている例では、10年前はラクスルとか、今はキャディーやオプトなどですかね。今後10年間はそこがやっぱり非常に大きいです。

あとはやっぱり、SME(中小規模企業)向けSaas、ソフトウェア・アズ・ア・サービスですかね。コロナの状況でやっぱりDXというかその辺をちゃんとデジタル化しないと資金繰りが悪くなったりとか、ちゃんと顧客管理しないと管理会計とか、あとは顧客のコントロールができなかったりする。そうした危機感が増えていると思うんです。

いわゆる領域特化型のSaaSなどは、やっぱりノウハウとしては世の中にもういっぱいあるんですよ。だけどそんなに難しくないですし、やってもいいのかなと思いますけれどね。

あとは先ほど言ったんですけど、やっぱりバーチャルファーストということで、バーチャルを使ったこと。今回もバーチャルセミナーですし、「バーチャル+α」みたいなものがどんどん増えてくるんじゃないかなと思いますよね。そこで勝ち切っているところはまだ少ないので、すごくチャンスがあるのかなと思っています。

司会者:ありがとうございます。それではお時間になりましたので、まだまだたくさん質問をいただいている状況ではあるんですけれども、トークセッション&質疑応答は以上とさせていただければと思います。

田所:はい。ありがとうございます。

司会者:ありがとうございました。