2024.11.26
セキュリティ担当者への「現状把握」と「積極的諦め」のススメ “サイバーリスク=経営リスク”の時代の処方箋
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司会者:ものすごく濃厚なお話をありがとうございます。さっそくいくつか質問をいただいているので、ご紹介させていただければと思います。
「新しいサービス導入を検討するにあたり、既存の規制が邪魔になる場合が多々あると思います。このような規制緩和を併せて進めていくために、必要なことは何だと思いますか?」というご質問です。
田所雅之氏(以下、田所):例えば僕がよく言っているのは、実は規制事業のほうがチャンスがあるということなんですよね。例えば銀行とかフィンテックもそうですけど、規制が緩くなってきて、銀行のオープンAPIなども進んできたと思うんですよ。大事なことは、規制の動きをちゃんとウォッチしておくことですね。
もう1つの動き方として大事なことは、僕は業界団体を作ることだと思うんです。フィンテックであったり、ブロックチェーン協会などもありましたけれども、あの辺で何が起きたかと言うと、実はその規制を作っている側というのは……。
ちょっとマニアックな話をすると、「未法」と「違法」って違うんですよね。「違法」というのは、すでに規制がある中でやって、そこで禁止されていることをやることなんですよ。「未法」というのは、法が整備されていない状況なんですよね。
どういうことかと言うと、多くの法律や多くの規制って、50~60年前からアップデートされていないんです。そういったいわゆる法を作る議員の先生も、実は立案してほしいというのがあるんですけれども、そういう一人ひとりの声がどうしても届かないんですよね。
そこで大事なのが、やっぱりなんちゃら協会とかコンソーシアムというものを作ること。業界団体を作って、そこに立法の方や官僚の人を巻き込むことが、すごく大事かなと思っています。
そこで言うと、僕もちょっと関わったFintech協会などは、金融庁の方や大手メガバンクの方を巻き込んでいって、そういうところに人を派遣したんですよ。
大事なことは、そういう「未法」の状態ですよね。まだ法や規制が整備されていない状況って至るところにあるんですよ。やっぱり、その辺をどうやって作っていくのかがポイントかなと思っています。
これはね、難しい質問ですよ。他に何か質問があればお答えします。
司会者:ありがとうございます。それでは次の質問ですね。
「時代が変わればサービスが変化するのも理解できますが、それを予測して動くことはできるのでしょうか? もしくは、何かが起きたときにスピーディーに動ける状態を作っていくことが重要なのでしょうか?」という質問です。
田所:それにはヒントがあって、時代の変化は一気に起きるものではなく、ユーザーごとに起きてくるんですよ。
これはマーケティングの用語で「アーリーアダプター」と言うんですけれども、実は「アーリーアダプター」とか「イノベーター」と呼ばれるような数パーセントのユーザーは、少し先の未来を生きているんですよね。実は今の2020年の状況でも、2025年に生きている人はいるんですよ。そういうユーザーを捕まえることが大事なんですね。
僕がけっこうよく話すことがあります。Amazonは1994年に立ち上がったんですね。Amazonが最初に何をやったかと言うと、本から始めたんですよ。しかもマイナーな本から始めたんですね。
でも、1994年にマイナーな本を買おうとしていた人たちは、Amazonという手段がなかったんですよ。つまり、そういった本を買おうとしたら、大手の書店に行くか、大型の図書館に行くしかなかったんですね。
Amazonが立ち上がったら、わざわざニューヨークやロサンゼルスの大型のライブラリー……図書館や本屋へ行く人ではなくて、本が欲しいマニアとか、大学教授がバーっとAmazonで買い始めたんですよ。
田所:何が言いたいかというと、彼らには少し先の未来の需要があったんですよね。これはスタートアップにとって大事なことで、僕はこういう言い方をしているんですけど「2:8の2:8の2:8」です。つまり、「20パーセントの20パーセントの20パーセント」。1パーセント以下のセンターピンのユーザーを、どうやって探すかなんです。
そこを見つけていって浸透させていくんです。多くのスタートアップサービスがなぜうまくいかないかと言うと、2:8(の2のほう)じゃなくて、最初から8のほうに行っているからなんですよ。
例えばAmazonの創業者のジェフ・ベゾスって、もともとはヘッジファンドの金融屋だったんですね。彼が「自分は金融屋なので、Amazonじゃなくて最初は株をインターネットで取引する」と言っていたら、Amazonは絶対に成功しなかったんですよ。
でも、ジェフ・ベゾスは賢かった。Amazonは今、株なんかやってないですよね? 26年経ったんですけど、いまだに社債なんかはオンラインでやってないんですよ。ジェフ・ベゾスが一番得意だった債券や株を……。株は今オンラインでやっていますけど、それもだいたい2000年からなんですね。
マーケット全体を見たときにみなさんも考えるべきなのは、自分たちにとっての「Amazonの書籍」は何かということなんですよ。
実はAmazonで初期に書籍を買ったユーザーは、少し先の未来に生きていたんですよね。そこで実験して、プロダクトマーケットフィットして、その周辺に事業を広げていく。これがポイントかなと思っています。
司会者:ありがとうございます。ユニコーンになるような企業のレベルまで行くと、やっぱりそういうふうに「時代が変化してからそれに合わせて事業を生み出していく」ということでは、ちょっと遅いんですかね?
田所:僕がこの間ちょっと話したみたいに、時代の変化はいろんな側面があるんですよね。政治的な側面もあるし、あとは人がどういうお金の使い方をするかという、エコノミクスもあります。
やっぱり一番大きいのはソサエティというか、人の指向性と人口動態なんですよね。そこを読むことと、忘れちゃいけないのが、テクノロジーですよね。テクノロジーの進化というのは不可逆に起きますよね。それがどう起きているのか。
あとは最近ですと、エンバイロメント。人の環境に対する意識やSDGsみたいなところも、今後どんどん必要性が増えていきます。それに対するソリューションは足りてないんですよね。
なので、ちゃんとマクロを読み切ることが大事かなと思っていますね。ユニコーンになるには、当然その辺は押さえた上で戦略を立てるのが大事かなと思っています。
司会者:ありがとうございます。ちなみに今のお話に付随してというか、質問をいただいています。
「日本でユニコーンが生まれないのはなぜ?」という質問を頂戴しております。
田所:これは構造的な問題があって、日本にマザーズがあるからなんですね。マザーズは売り上げが中央値で言うとだいたい22億円で、EBITDA(イービットダー)、税引前営業利益が平均して1.4億円で上場できちゃうんですよ。
だからPERで言うと50倍とかなので、だいたい(時価総額)70億円から100億円で上場できちゃうんですよね。メルカリとか、スマートニュース、TBMなどが生まれていますけれど、彼らは別に上場しなくても資金調達できるというのでやっています。
マザーズって、すばらしい市場だと思うんです。だけど逆に、アメリカでなぜユニコーンが生まれるかと言うと、構造上の違いがあるんです。NASDAQに上場するのに、だいたい500億円ぐらい要るんですよね。日本で言うと東証1部の時価総額がだいたい500億円ぐらいなんですけど、そこの差があるのかなと思っています。
田所:一般にユニコーンというのは「未上場で(時価総額)1,000億円」ということなんですけど、別にこれは本質を捉えてはいなくて、僕は大事なことは「産業を作ること」だと思うんですよ。やっぱりユニコーンがそれだけ評価されるのは、いろんな企業を買収したりして、1つの産業や市場を作るからだと思うんですよね。
そういう意味で、日本だとそれが少ないのかなと思っているのは結局……。これを話すとめちゃくちゃ長くなると思うんですけれども、いわゆるメーカーのマインドですよね。
メーカー全盛のときは、いわゆる「スマイルカーブ」(注:収益構造を表すモデルの名称。バリューチェーンの上流工程と下流工程の付加価値が高く、中間工程の付加価値が低いという考え方を示す。付加価値を線で結んで図形にすると、両端が上がっていて中央部が下がった形状になることからこう呼ばれる)と言われていて、素材と、エンドユーザーのOEMというのが儲かった。そういうモデルなんですけど、今ってやっぱりビジネスモデルが変わってきましたよね。
バリューネットワークと言うんですけど、いかにしてバリューをスライシングして、ネットワーク化してやるか。そこが大事になってきたわけですよね。
顕著な例で言うと、もう誰もソニーのウォークマンを使わないですよね。ところが音質やハードウェアの質だったら、ウォークマンはよかったんですよ。ところがiPad、iPod、iPhoneなどが浸透してきた。これらは、いわゆるバリューをプラットフォーム化して、ネットワーク化したということなんですよね。
これに必要なのがまさにAPIエコノミーと言われています。APIエコノミーはどう繋げて、どういうかたちで影響するのかって、最初はわからないですよね。APIがどのように使われるかはユーザーサイドに託されているので、わからないんですよ。
ところが日本のメーカー文化で言うと、基本的にはQA(Quality Assurance/品質保証)なんですよね。バリューチェーンが大事で、バリューチェーンプロセスの中のQuality Assuranceが大事になってくるんです。歩留まりをいかに減らしてOperational Excellence(注:業務改善が現場に定着して業務オペレーションが洗練され、競争における優位性にまでなっている状態のこと)をいかに担保するかになってくる。なので、基本的にアジャイルでAPIに繋げるような発想はなかったんですよ。
例えば今の時代のユーザーは、「いいウォークマン」が欲しいわけじゃなくて、自分が聞きたいときに最適な音楽を聞きたいんです。これが「ドリルの穴」(注:マーケティングの世界で古くから使われている「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」という格言にもとづく)ですよね。
ところが、日本の企業は「ドリル」を作るのがうまかったんですよ。だから、実は競争軸がシフトしたにもかかわらず、それに乗り切れなかったのかなと思っています。
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