中途半端な答えを持つ経営者は“戦時”に向かない

小泉文明氏(以下、小泉):伊佐山さんになんとなく個人的に聞いてみたいのは、さっきの反射神経の話なんですけど。やっぱりリーダーシップの取り方というのが、すごく問われてきているんじゃないかなと思っていまして。

特にアメリカを見ていると、これはコロナとは別かもしれないですけど。最近Black Lives Matterの問題であるとか、もしくはいろんなソーシャルメディアの規制の中で、トップが自分たちの会社のスタンスを言わないことに対して、けっこう従業員がそれに反対のことを出したりとか、トップとしてのリーダーシップの持ち方というのは本当に難しくなってきたかなと思っていまして。

伊佐山さんから見て、その辺が今後のスタートアップ業界とかリーダーシップがどう変化していくのであるとか、現状はむしろどう見られているのかとかって、なにかございますかね。

伊佐山元氏(以下、伊佐山):1つはスタートアップCEOも大企業もCEOも、いわゆる今は「戦時」のCEOじゃないといけないので、難しい判断をしなきゃいけない。なので、みんなにいい顔をして八方美人でやるという経営ができない状態になっているので、人種差別の問題があると、それに対して「うちの会社ではあんたはどういうスタンスなのか」を表明しないといけない。

こういう問題に対して「こういう貧富の差が広がっていることに対して、あなたはどう思っているのか」という、個人のCEOもしくは経営トップにいる人たちの価値観というのが、従業員がこの会社で働きたいもしくは辞めてやれという、非常に組織自体の存続を揺るがすようなところまで、今はトップが言うことやることというのが大事な時代に我々は生きている、ということは確かだと思います。

残念ながら、みんなに受けるということはありえないわけですね。特定のスタンスを取る・自分個人の意見を主張するということは、それに対して「そうだ」「そうだ」という人と、必ずそれに対して「何を言っているんだ」という反対勢力がいるのが世の中ですから。

そういう批判されることやSNSで炎上することのリスクに、耐えられるだけの胆力を経営者が持てるのかというのがすごく大事だし。

なんとなく中途半端な答えを言っている経営者というのは、おそらく難しい判断ができない経営者なので。今のような戦時では経営にいるべきじゃない。

そういう人を生かせる平時……。平時のときというのはそういう調整をして、みんなの顔色を見ながら調和を取れるリーダーシップというのがすごく受けるわけですけれども。

今みたいに、まさに反射神経で動かなきゃいけないときというのは、必ずミスが起きたりするんですけれども。でもこれは正しかったんだって思えるような、強い意志を持ったCEOもしくはリーダーが、経営者だろうと社会にいないとなかなか難しいかなと思いまして。

それはどういう社会かというと、個人個人が自分で考えて自分で行動して、それに起きた結果に対しては自分で責任を取るという、当たり前のことをやる社会が当面は続くだろうということなんで。そういう意味では、調整型でみんなの顔色を見ながら物事を進めていく企業とか組織というのは、ある意味、少し戸惑う時代に入ったのかなとは思いますね。

その反射神経で動けていない産業が多いというのはまさに日本の1つ、このグループシンクというか、チーム力を重視しすぎる文化というのが、今のこの変化が非常に早くてみんなの調整をしている場合じゃない時代には、なかなかプラスにはならないんで。

やっぱり誰かが失敗してもいいからリスクを取って判断して、そこで失敗したらすぐピボットして、軌道修正するというような。

いわゆる世の中の流れに適応していくような経営者、もしくは個人というのが増えていかないとすごく大変。要するに、未来が予測できなくなってしまっているので。「これができればあなたの将来は大丈夫ですよ」という時代ではなくなったので、そういう意味では本当に個人個人の生き方とか、スキルの付け方とか、すべてが今回変わっていかなきゃいけない。

それぐらいのきっかけにならないといけないんじゃないかな、と。少なくとも、アメリカではそういうふうな思いになっているわけです。自分だけじゃなくて自分たちの子どもたちって、自分と同じような教育を受けて自分と同じような就職の仕方をするということがなくなってしまったので。僕の常識が通じないので。

やっぱり、どうやって「個人としての強さを見つけるか」というのが、すごく大事な社会にこれからなってくるんじゃないかなと思います。

小泉:僕もある意味、経営してて……日本もなんとなくすごく若い人中心に自分の仕事の持っている社会性であるとか、納得度であるとか、あとは働き方も。今までの働き方と、だいぶ違う生活様式が出てきていて。

なんとなくこれまでの会社が上で個人が下にいた、そういう縦の強制力がある会社の経営から、社員ともパートナーというか対等で、リーダーはやっぱりここだって言ってそれで共感していかないと立ちいかなくなるというのは、このコロナをきっかけに日本もついにその時代に入ってきたのかなと。

その価値観の変化をすごく感じてはいますね。

不確実性を恐れる日本人

小泉:残り5分で、いただいている質問の中で1つだけ取りたいなと思っているんですけれども。この不確実性をチャンスに変えるための、マインドセットであるとかアクション。日本人は「不確実なものは怖い」という判断をしていく人たちが多いと思います。

ただ一方で、スタートアップはそこを変えていかなきゃいけないと思うんですけれども、そのマインドセットやアクションというところで。これはどちらかというと個人のメンタリティというか思いになっちゃうかもしれないですけど、やっぱりみなさんの中でそういう、チャンスに変えてあるマインドセットで気にかけていることってなんかありますかね? 

例えば米良さんとかは、ベンチャーを経営していて何かありますか? 

米良はるか氏(以下、米良):今回のコロナの話があったときに、うちの会社がけっこう早く動けたのは、ビジョンミッションみたいなところがすごく浸透しているからだなというのを、改めて思っていて。「自分たちは、本当に必要なところにお金を届けるという存在だよ」ということをずっと言ってきたし、採用面接のときもそういうビジョンに共感しているような人たちしか採用してこなかったので。

やっぱり今回「ここに向かうよ」と言ったときに、みんながすごくアドレナリンが高い状態で「じゃあどうやったらできるんだろう」ということを、主体的に参画してくれたというのはありました。

なので反射神経が高いというのもあるんですけれども、やっぱりだからといって何をやってもいいとか、ぜんぜん自分たちの強みでもないところに急に入っていっても、混乱する可能性もあるので。

やっぱり本当に私たちがやるべきことってなんだろうとか、こういう大変なときで変化が大きいときだからこそ、自分たちの意義ってなんだろうということにまっすぐ問いかけられるような組織というのは、反射神経が良かったり不確実性があったとしてもトライしてみようって思えるのかなというのを、自分たちの経験でものすごく感じました。

小泉:実は先週、米良さんと違うセッションで話したときに、僕らは戦時のリーダーシップを取ってみんなを鼓舞してやっていくのって、すごく好きではあるものの、社員からするとそれが長続きしていたときに、本当にメンタルとしてその緊張感が長続きするのか? とかですね。

その辺の組織の空気感をどう感じながらマネジメントしていくのか、もしくはそれがさきほど言ったリモートだと本当にわからなかったりするので。今後その戦時状態を、どう平時に戻しながらもうまくそこをブリッジしていくのかというのは、経営者としてはすごく難しいなというか、今後試されるなという感じはしますね。ありがとうございます。

コロナ禍において、ベンチャーに期待するもの

小泉:それでは残り2~3分になりましたので、最後はみなさんから一言、このコロナ禍におけるベンチャー・スタートアップに期待するものであるとか、もしくはみなさんがこうしていきたいみたいなものがあれば一言ずついただいて終わりたいと思います。

じゃあ米良さんから、一言ずついただけますか? 

米良:はい。ありがとうございました。私は期待することというか、やっぱり今こそスタートアップとか大企業とか政府とかという枠で話すより、どういうふうに社会を変革しなきゃいけないよねと。その中でどういうふうにつながらなきゃいけないよね、ということが話し合えるいいチャンスなんじゃないかなと思っているので、今日はそういうのを(ジャンルが)違うみなさんとお話ができたので。

なので、これをきっかけに何かを実施するというときに、パートナーとしてやっていく関係になっていければいいなと思いました。ありがとうございます。

小泉:ありがとうございます。では伊佐山さん、お願いいたします。

伊佐山:こう危機が訪れると、“危機はチャンスだ”という標語がはやるわけですけれども。これを本当にチャンスにするためには、今の米良さんの話じゃないですけど、自分の会社は何のために存在しているのかということと、今は社会に顕在化した課題というのはなんなのかというのを真面目に見つめて、それを一つひとつ解決していく。

そういうことを解決できるスタートアップが、やっぱり増えないと。単純に「今は景気がいいからこれが儲かるよ」「これをやったらすぐにIPOできるよ」という、そういうノリでスタートアップを増やすことができなくなったということに関しては、私は非常にポジティブだと思いますね。

今回は特にリモートで仕事をしなきゃいけないということを強いられていますから、スタートアップも含めて。リモート含めていろいろやらなきゃいけないということは、考えようによっては採用もグローバル化できます。

今まで採用というのは「会社に面接に来てください」と。地方の人にとっては不利、外国人を取るのは不利だったわけです。

これがリモートが当たり前になると、もしかしたら地方の人も家にいる女性も海外の人も、ある意味、多様性というのを初めて採用レベルで実現できるという世の中になったと思います。

資金調達も、さっき言ったようにVC業界はいろいろ悩んでいるんですけれども、初めてアメリカのVCだろうが日本のVCであろうが中国のVCであろうが「いい会社はいい」。むしろオンラインで審査しなきゃいけなくなるので、今まではそこに行って直接会うことにすごく価値があったんですが、それが当面できなくなる。

もしかしたら、資金調達ですら本当にグローバル化する可能性があるということを考えると、けっこうおもしろい変化が、いわゆる「work2.0」の世界では起きると思っている。やはりスタートアップ関係者もそうですし、大企業で新規事業をやろうとしている人にとっても、やはりこの危機をチャンスにするようなマインドセットと、アクションを起こしてほしいなと思います。

小泉:ありがとうございます。では牧原先生のほうから、最後にお願いいたします。

牧原秀樹氏(以下、牧原):昔、小泉さんがダーウィンの言葉だと紹介した「生き残るものが1番賢いものでも強いものでもなく、1番変化に対応できるものだ」。こういう話がございました。私はその後いろんな時代を見ていて、まったくその通りだなと思うんですね。

今の伊佐山さんのようにピンチをチャンスに変える、ピンチを嘆いて「これは誰々のせいだ」「これは何々がいけないんだ」という発想というのはわかりますけど、それは何も生まないですね。

ですからそのピンチをチャンスに変えたり、日本として世界としてこういうものを変化してどうやって生き残っていくかというのができるのかというのが、柔軟な発想力を持ったベンチャーの方、スタートアップの方だと信じていますので。大変みなさんには期待をしているということです。

小泉:ありがとうございます。僕から最後に。伊佐山さんのペーパーでもありましたけれども、過去をみても大きなネガティブなタイミングで大きなメガスタートアップが出てくるというのは本当にそうだなと思っていますし。

今はそういう時代になってきていますので、ぜひ1つ大きなムーブメントがここで起きることを期待して、僕らをはじめみなさん頑張っていければなと思っております。それではこのセッションを終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。