中小企業救済が上手くいかないアメリカ

小泉文明氏(以下、小泉):伊佐山さん。アメリカって今、ある意味、いろんな施策を僕もニュースで見るんですけれども。スタートアップ業界向けの施策とかで、いい事例とかってあったりするんですかね? こういうのを日本も取り入れたらいいのに、みたいなのとか。

伊佐山元氏(以下、伊佐山):残念ながら、そんなにミラクルはなくてですね。

小泉:やっぱりですか(笑)。なるほど。

伊佐山:やはり緊急融資制度って、当然、政府が出して。

小泉:ええ。早かったですよね。

伊佐山:これはしかも「早いもの順」だったんですよね。申し込みはメインバンク経由でお願いしますということでやって。

突然、つぶれちゃ困るスタートアップとか、通常だったらまったく問題ないけれども、ここに来て売り上げが99パーセント減。そんなのが4ヶ月も続いたらつぶれちゃうという、そういう弱者救済のために作った制度なんですけれども。

何が起きたかというと、結局、メインバンク経由で申請してくださいとやると、メインバンク側もどちらかというと資金に問題のないところに貸しちゃうんですよね。

要するに、いちおう同じお金なんで早いもの順なんですけど、結局、お金がいらない会社にばっかりお金がいっちゃったというので。

本当にお金が必要な人に、ぜんぜん行き渡らないんですよ。なぜそうなったかというと、大変な会社っていい財務部長とかCFOがいないから、書類提出がやっぱり遅れちゃうんですよね。

逆に貯金もあって、人もいっぱいいて、事業がそんなにダメージを受けていない会社のほうが余裕あるから、資料を出せちゃうんですよ。

別にローンはいらないんですよね。無利子ローン。でもいちおう、うちも適用されているから出しちゃおうっていうと、みんなもらえるんですね。

でももらってから「うち、本当は金いらないんだけどな」とか言っているわけですね。

それで、横のスタートアップからすると「ふざけるな!」と。こっちは必死になって資金繰りでなんとかしなきゃいけない、コロナなんかなければ右肩上がりだったのにという会社に、結局お金が回っていない。

やはりこれは、アメリカですら金融とかの仕組みがデジタル化されていないんで、アナログでやる部分があった結果、本当にお金が必要としている人のところにお金が回っていない。政府がいくらお金を積もうと、結局、スタートアップとか中小企業救済に回っていないと。

結局、金持ちばかりがさらに強くなるという、いわゆるマタイ効果になっちゃっているわけですね。

そこは残念ながらシリコンバレーですごく気の利いた政策があるわけではなく、政府がやった手口はいまいちで。もらえた人はラッキー、よくやりましたという話です。

意外とちゃんとローンを受けるべきだったけれども、取れなかった会社のほうが多くて。

やはり民間のベンチャーキャピタルが、どうやってこういう苦しい状況のときに、世の中に必要とされているベンチャーを支えていくかという、いわゆる民間による支援がシリコンバレーでは一般的な実態の姿で。

ここで議論になるのが「じゃあどういうベンチャーを支えるのか」と。「全部救えませんよ」と言われたときに、まあ毎回歴史的に盛り上がるのが、ペインキラー(鎮痛剤)かビタミン剤かという話で、ペインキラーはないと困りますという比喩です。

ビタミン剤というのは別になくても困らない。よって、ビタミン剤にカテゴライズされちゃったベンチャーというのは、残念ながらもう1回やり直そうぜと。また景気が良くなってからやりましょうということで、1回解散またはピボットしようという難しい判断をするのがいわゆるアメリカのVC。

どちらかというとペインキラー、これから必ず必要とされる。あなたはここでつぶれるべきじゃないというベンチャーに関しては、既存の投資家が基本的にはサポートする、もしくは既存の投資家がそういうのをサポートできる人を連れてくるというのが非常に重要になります。

そこが仕組み化されているという意味では、日本とはだいぶそこが違うかなと。日本ではまだ産業として、ベンチャーキャピタル自体が非常に薄いので。なかなかそれができないんですよね。

なので、やはり政府が手厚く補助してあげないと、ベンチャー産業自体が非常に盛り下がってしまうので。それを避けるためには、まさにこういった日本政府のいろんな施策というのは、私は非常に大事だと思います。

小泉:なるほど。USだとピボットしたりしているケースも足元、けっこうあったりするんですか? ベンチャー企業で。

伊佐山:ありますね。要は今までは米良さんが言っていたように、景気が良かったときは天から金が降ってくるわけですね。乱暴なことを言うと。

小泉:まあ、そうですね。

伊佐山:みんなベンチャーキャピタル、お金を投資する側も、お金……とにかくゼロ金利で儲からないからどんどん投資してくれというかたちで、年金だろうが金融機関だろうが、個人もそうですけどお金をどんどんもらえちゃうんで。

そうすると我々投資家は「じゃあ何か投資しなきゃ」ということで、ある意味ビタミン剤にも投資をしちゃうわけなんですよね。

景気がいいときは、我々はビタミン剤を買うじゃないですか。だけど結局、今みたいな状況……ビタミン剤がいらないとなると、要はベンチャー企業でも別になくても困らない。ましてや赤字でグロースしているような会社というのは、突然困っちゃうわけですね。

小泉:そうですよね。

伊佐山:今までは景気がいい間はいくらでも天から金が降ってくるから、どんどん赤字を出してどんどんマーケティングしてどんどん広告を出して。ユーザーをとにかく増やして「うちの会社は倍々で伸びています!」ということが、ベンチャーにとって1番大事な指標だったわけですけれども。

ただ単純にユーザーが伸びてますというのは、じゃあそれはどれぐらい効率的に伸びているのか? どれくらい黒字化できるのか? どれくらい利益を出せるのか? というビジネスの当たり前の部分が今、問われていて。

ある意味、我々はお祭り騒ぎで当たり前のところを見てなかったというか、見て見ぬふりをしていた。

小泉:なるほど(笑)。

伊佐山:赤字でも会社は伸びているから。会社は伸びているし、株価がどんどん上がっているし、誰かが必ずお金を出してくれるから「まあいっか」ぐらいの感じで盛り上がっちゃっていた感じだったわけですね。ある意味、バブってたわけですよね。

それが今回で、適正な状態まで少し揺れ戻しが起きたという意味では、別にベンチャー業界が否定されたわけでもなんでもないので。ある意味、適正なアジャストメントが今は起きているだけです。

残念ながらそれに対してアジャスト、ビタミン剤ばっかり作っていた会社は「じゃあうちはペインキラーとして、何をするべきか」ということを見直す1つの大きなきっかけ。それをしゃれた言葉で言うと「ピボット」だと思うんですけれども。そういったベンチャーは増えていますね。

今後の時代の変化における事業創出のキーポイント

小泉:次のテーマで、明るいほうにどう変化していくのかって話したいんですけれども。Twitterのハッシュタグで質問いただければ、最後に質問の時間を取りますので、ぜひここを聞きたいという話があれば質問を投稿してもらいたいと思います。

じゃあ、米良さんのほうから。今はピボットを含めて、ベンチャー企業はどうしてもサバイブしていかなきゃいけないのかな? と思っているんですけども。

僕から見ると、やっぱり今回新しいライフスタイルとか消費の変化が起きている中でいうと、このコロナの今のネガティブな状況ながら、クラウドファンディングってすごくいいライフスタイルの変化にはまった……というと怒られちゃうかもしれないんですけども、そういうところが今あるんじゃないかと思っていまして。

そういう中で、今後の時代の変化における事業創出のキーポイント、伊佐山さんは今ペインキラーとかなんですけど。米良さんから見た上での事業創出のキーポイントというのはどの辺にあって、そういうところで今後、日本のスタートアップ業界は発展していけばいいのに、という思いってありますか? 

米良はるか氏(以下、米良):なるほど。

小泉:ちょっと難しい意見かもしれないんですけど。

米良:(笑)。ちょっと直接の回答になるかわからないんですけど、もともとREADYFORは、2011年の震災の直後にスタートしたサービスだったんですよね。

やっぱり日本のクラウドファンディングの歴史は震災とか、本当に大変なときになかなか政府のお金、バジェットは大きいけれど、スピード感がそんなに早くないって言ったら……(笑)。すみません。

そのときにやっぱり民間で、さっきVCの役割もそうだというお話がありましたけれども、そういったところにスッとお金が入っていって、そしてどうにか前にランニングさせる。

それで政府のお金とかが最後にドンとつくという意味では、ある種、補完的な役割というのを、震災のときも少しできましたけれども。それ以上にこのクラウドファンディングがある種、一定に根付いた状況の中でこのコロナが起こったので。

多くの人にとって「あ、大変だ」「あ、クラウドファンディングがあるかもしれない」という選択肢に入れたというのはすごく今まで……。READYFORを立ち上げて9年間、クラウドファンディングの歴史がその9年間なんですけども、すごく良かったなと思いました。

そういう意味では、質問とあっているかはわからないんですけど、やっぱりついていける人とついていけない人というのは本当に差が出ると思っていて。さっきの伊佐山さんのお話でもそうですけれども、クラウドファンディングというものをすぐに知って、そして自分が挑戦してみるということを、できる人とやっぱりできない人というのはいて。

1番大変な人はやっぱりできないというのがあって。ただ、READYFORの事例ですごく良かったなと思ったのが、日本商工会議所さんとの取り組みで。

あれは、地域の商工会議所さんがその地域の飲食店をまとめてくださって、そこでいったんお金を集めて分配するというようなかたちになっているので。地域のハブみたいな人たちが、デジタルトランスフォーメーションについていけないような人たちもしっかりサポートするよ、という仕組みにできたこと。

それが、スピード感を持って実現できたのは、本当に良かったと思っています。そういう意味でも、やっぱり既存の仕組みの中でも機能していて社会を支えているような人たちと、スタートアップがちゃんとつながって、それでエコシステムを作っていくということがこれから求められるのかなと思っていて。

今までスタートアップって、やっぱり「スタートアップ村」みたいな感じもちょっとあったんですけど。よりそういう今までの社会を支えてきたプレイヤーと一緒に作っていくというのが、問われていくようになるんだろうなというのが1つと。

もう1つはやっぱりGovtechみたいなところは、これからやっぱり開けていく領域だと……。

小泉:“ガバメント”דテクノロジー”ですね。

米良:はい。さっきのいろいろな助成金みたいなものが、本当に大きな予算を作ってくださっているということはあるんだけれども。でも現場にはまだ落ちていないとか、そういうところは民間と一緒に連携、例えばデータ連係したりとかシステム連携したりとかすることによって、より早く本当に困っている人に届けるということは、実現できるんじゃないかなと。

それを今回、まだ課題として残ったことだとも思っているので。改めて政府のみなさんと一緒にスタートアップが連携して、本当に必要なところにお金だったり情報を届けていくということが実現できていく、そういうきっかけになるようなタイミング、未来から今を見たときに「そういうタイミングだったね」って言えるようなものになればいいんじゃないかなと思います。

政府がスタートアップに求めるもの

小泉:牧原先生、今、米良さんからラブレターのような(笑)。

政府に対する要望だったり「未来はこういうところ」という感じなんですけど。政府サイドから見て、スタートアップに求めていくものであるとか、日本の可能性を最大限これから大きく発展させる上でスタートアップに求めるものって、どういうものがありますかね。

牧原秀樹氏(以下、牧原):やっぱり今回すごく問われたのが、反射神経とリスクマネジメント能力だと思うんですね。

反射神経というのは例えば飲食店の方なんかでも、客が来ないとなったときにパッとデリバリーをはじめた方とか。ラーメン屋をやろうと思っていたらこういうことになっちゃったので、テイクアウトだけのラーメン屋に切り替えて、このコロナ禍でもチェーン店をガンガン増やしていて、とかいう人をテレビで見たんですけれども。

やっぱりそういう反射神経って、申し訳ないですけど、従来の頑固親父系のラーメン屋じゃ絶対にできないことだと思うんです。

逆に言うと「三密はだめだ」と国に言いながら、いつまでも三密の国会をやっていた国会とかですね。それからさっきの話に出ていた、いつまでも紙を使う行政というのには、なかなかそういう反射神経というのはないので、そういうところはベンチャーの方のお力が必要だなと思いますね。

今の米良さんの話で言うと、我々、持続化給付金2.7兆円のプロジェクトをやったんですけれども、本当にどういう方にどうやって届いているのか、よくわからないんです。

こちらは一方的に申請をいただいてパパッとお支払いをするという仕組みを、できるだけ早く構築したんですけど。こういう「私たちには届いていない」とか「不正した人たちがいっぱいもらっている」という情報があったりして。

あきらかに米良さんがおっしゃったような「欲しい人にきめ細かに届く」という制度ではまったくありませんので、やっぱり今後はそういうことをしっかりやらなくちゃいけないなと思います。

あとは、リスクマネジメントという話は、例えば反射神経にも関わるんですけど、今回マスクが国内でほとんどないということに2月ぐらいに気づいて。

マスク不足に突然陥ったんですよ。今までで最大でも3.5億枚ぐらいだったマスクが、突然15億枚ぐらい需要が増えて。しかし国内で生産したのは9,000万枚しかなかった。あとは全部、中国の輸入だったということだったんです。それで補助金をつけて、マスクラインを増設してもらうというのをやったんですけど。

その中で例えばシャープなんかは早くこれに応じて、シャープブランドでいまだに買えないという状況になっていますし。ユニクロのエアリズムマスクとか、ミズノのスポーツマスク(マウスカバー)とか、いくつかそういう例はございます。

こういうような、1つの産業だけじゃなくて、反射神経でいろんなところに対応できる能力が、私は必要だと思うんですけど。本当はベンチャーの方と大企業が組んで、そういう視点を大企業のほうにも注入していただければありがたいなと思います。

小泉:もともとそのJ-Startupができたりであるとか、政策的にもスタートアップを支援していこうという機運がある中で。僕なんかも2006年ぐらいからこの業界にいるので、当時やっぱりスタートアップがどちらかというと産業の端のほうにいたのが、今はだいぶオープンイノベーションの波が来ているなという感じもしている中で。

今回のコロナで、強みをうまくコラボレーションで解決していけるところは、けっこうベンチャー側にいると「誰に話していいかわからない」とか、けっこうそういうのもあるので。

まさしくJ-Startupのような枠組みが、潤滑油になってくれるといいなと本当に個人的には思っているところではありますね。

牧原:本当にそう思います。