スタートアップ経営者の実情と課題

小泉文明氏(以下、小泉):ありがとうございます。ここから、1つ目の課題のほうに入っていきたいと思うんですけれども。

米良さんから、今のスタートアップの経営者として起きていることで、実情と課題。例えばそれは資金面でもそうかもしれないし、やっぱり人との問題であるとか、特に今一番「ここが実情として課題」と思っているところなどは、どの辺がありますかね。

米良はるか氏(以下、米良):そうですね。今はスタートアップの世界でも、けっこう二極化しているんじゃないかなと思っていて。1つはデジタルトランスフォーメーション領域だったりとか、クラウドファンディングもある意味、資金調達のデジタル化というものだと思うので。

そういう領域をやっているプレイヤーたちというのは、やっぱりある種、10年後に起こる未来を早く手に入れられたということにつながっているのかなと。一気に進んできているかなと思っています。

でも一方で、やっぱりそういう業態じゃないような事業・スタートアップのみなさんは、もともとコロナ前はけっこう景気が良かったというのがあってスタートアップの数もものすごく増えていましたし、資金調達のハードルも相当低くなってきてたかなと思うので。

そういう意味で、シード期のみなさんとかはけっこう大変になっている方々がいらっしゃるんじゃないのかな、と思っています。

もう1つ言うと、やっぱり働き方においては迷うところがまだまだあります。これは、スタートアップだけの話じゃないのかもしれないんですけれども。当社もメンバーの心理的安全性を保つためにもオフィスを拡張したりとかして、みんなで頑張って一緒にやっていこうみたいな思いで一箇所にいることを大切にしてきたのですが、このコロナが起こって完全にリモートワークになって。

こういう「人と人が相対しながら会社というコミュニティを形成していく」みたいなことが、どれだけインパクトがあるのかということを改めて考えさせられたりしています。

会社というもののあり方みたいなものは、今はまだまだ考えていかなきゃいけないことかなと。これは私の視点からですが。

小泉:なるほど。逆に言うとREADYFORとしては、そういう課題がわかりつつ、まだ今走りながら考えている最中という。そんな感じなんですかね。

米良:そうですね。やっぱり働き方みたいなところで言うと、正直、みんなが同じ空間で働くということをこれまで大切にしてきたんですけど。リモートになって思ったのは、そういう必要性は思ってた以上にないなと(笑)。

(一同笑)

米良:たださっき伊佐山さんもおっしゃっていましたけれども、私たちは年齢も若いメンバーが多いチームなので、それこそフルリモートに関しても、やろうと思ったらけっこうすぐできちゃったというところがあるんですよね。

一方でそういうわけにもいかないような声も、READYFORに問い合わせていただく方々……スタートアップだけじゃないんですけど、各産業のみなさんが「やっぱりデジタルについていけないので、どうしていいかわからない」という状況が、すごく起こっているんだろうなと思うので。

働き方もそうですし、資金調達もそうですけれども。このデジタルについていけるかどうかという格差は、本当に今後の課題になるだろうなと思いました。

アメリカの企業が持つ課題

小泉:米良さんが話したように、まだ日本のスタートアップ、メルカリもそうなんですけど。次のワークスタイルをどうしていこうとか、次のかたちをどうしていこうという話で、ちょうど議論が始まっていたところですけれども。

逆に伊佐山さん。アメリカにおいては、ある意味いろんな経営者が、例えばTwitterではもう早々にフルリモートというかたちであるとか、そういうGAFAを中心とした僕らが情報を取れる人たちって、比較的にどう動いてるかって見えるんですけれども。

実態として、スタートフェーズのアメリカのベンチャー企業たちに起きている今の課題であるとか、もしくはその学びの中から、日本にインプットしたらおもしろいような事例とか考えがあれば教えていただきたいんですけれども。

伊佐山元氏(以下、伊佐山):そうですね。1つ言えるのが、日本のいわゆるメディア的に見ちゃうと誤解するかもなということがあって。つまり、いわゆるGAFAって日本だけでしか言わないんですけれども、GAFAを代表するようなIT大手は、みんな「リモートいいよ」と。

別に未来永劫リモートだということを、ある意味、マーケティング的にセンセーショナルに発信して、それが若者の心をつかんだというのはあるんですけれども。実はTwitterとかFacebookとかGoogleの幹部、経営のコアにいる人たちはけっこう困っているようなことを言っています。

みんながIT企業だからリモートで世界中に散らばって、ハワイでもどこでもいいよというのが本当にできるかというと、やっぱりそうじゃないなと。人がやはり人として社会で生きる1つの意義というのは社会性、人と交流するという行為が必ずどこかにないといけないので。

ある意味、どんな規模の会社、スタートアップだろうと大手のIT企業だろうと。やはり「人が集まってやらなきゃいけないこと」と「リモートでやるべきこと」が、2つ明確に分けることができたという話であって。全部がリモートでいくとか、全部やっぱり1つの会議室に集まるとか、そういう話ではないかなと思っています。

ただ、米良さんがおっしゃっていたように「けっこうリモートでできるじゃん」と思ったのが若い人だけじゃなくて、けっこう年上でもZoomとか使ってみたら「これ、毎回会議室に集まってたのがバカらしいね」と思っていた人がいるのは事実なので。

そこはある意味、新しい発見。今回「work2.0」という新しい世界観になったときの、ある意味のサプライズな発見なのかなと思いますね。

「work2.0」で難しくなる、VCの投資判断

小泉:僕は実は「work2.0」のところで、けっこう投資家目線だとすると、僕なんかも当然いろんな出資をするケースがあるんですけど。オフィスの雰囲気とかプロダクトの完成度と同じように、組織とかカルチャーとかそういう面も、比較的投資の1つのアレ(目安)に入ってたんじゃないかなという。

伊佐山:入ってましたね。

小泉:この「work2.0」のところが、ベンチャーキャピタリストとして投資の判断がすごく難しくなってくるんじゃないかなと、勝手に思ってはいたんですけど。どうですか? 

伊佐山:今、いわゆるサンドヒルだけじゃなくて、シリコンバレーでのベンチャーキャピタルでも最大の話題はそこですね。

米良:へー! 

伊佐山:やっぱりアーリーステージ、特に若い会社に1回も対面で会わずに投資できるかということで、結局、大手のSequoia(セコイア)とかAccel(アクセル)とか、大手の老舗のベンチャーキャピタルも「それは無理だ」と。

なので、けっこうつらいよねと。過去のシリアルアントレプレナーで昔から知っていて、その人が起業するというのは大丈夫だけれども、ぜんぜん知らない人にZoomでピッチを受けて「この人、大丈夫かな?」という判断をして投資というのは「さすがにできないよね」ということで。

逆に若い人は「いや、もうこれからはこういう時代なんだから、オンラインで判断して投資をすればいいじゃないか」という、2派あるんですけど。どちらかというと伝統的なトラックレコードのあるVCは慎重です。

小泉:なるほど。

伊佐山:我々もけっこうそれは議論して、レイターステージとか数字だけを見て投資できるような会社というのはいいんですけれども。

やっぱりアーリーステージで人の要素が強いものに関しては、果たして今のデジタルツールだけで、企業文化とか会社の雰囲気とか経営者のチーム力というのが判断できるかというと、まだ今のツールだと……。

もしかしたらデジタル特化で、どこかのベンチャーがそういうツールを開発して、できる時代が来るのかもしれないんですけど。今、この瞬間はけっこう苦しんでいます。

コロナで続々と引退する、有名キャピタリストたち

伊佐山:おもしろい話題としては、本当によく教科書に出てくる有名なキャピタリスト。今回のコロナをきっかけに、これから引退する人がけっこう増えると思います。

米良:えー!?(笑)

伊佐山:みんな有名VCって、資産はうん百億、うん千億と築いているけれども、やっぱりベンチャーキャピタリストとして、アクティブに働きたいという、どちらかというと生きがいでやっている人が多いんですよね。成功している人って。

つまり別に金はいらないと。どっちにしろ全部ドネーションするって決めちゃっている人たちなので。資産が5,000億だろうと、1兆円あろうと関係のない人たちなんですよね。

だけど今回のコロナになって、さすがにそういう人たちも「ちょっとこれで投資の仕事するのはしんどいな」と。「ちょっとこれをきっかけに引退するか」と言っている投資家はいるので。

やっぱりベンチャーキャピタルというのがなぜ楽しい仕事だったかというと、これはいろんな人に出会って、いろんな人の考え方に触れて、その人の性格とかその人と一緒に議論するとか、会社に行って従業員の熱量を感じるとか。

やっぱり「人と人との触れ合い」というのがベンチャーキャピタルの産業をすごくおもしろくした、1つの要素なので。

それが今デジタルでは残念ながら完全に再現はできないとなると、そういうふうに引退する人も出てくるし。

我々みたいに、ちょっと困惑してなんかしんどいなと。オンラインでポチッと投資するのはできるかなというと、僕はやっぱりできないんですよね。なのでやっぱり知ってる会社しか見てないので、残念ながら当然、投資のペースは鈍化してしまうし。

小泉:そうですよね。

伊佐山:これが長引くとしんどいなというのが、今の率直なところです。

小泉:なるほど。おもしろいです。

コロナ禍での政策面の動き

小泉:この流れで次のテーマは牧原先生のほうからいきたいんですけれども、そういう産業界のVCとかも、たぶんすごく悩みながらやっていると思っていまして。

逆に政策面ですね。最初におっしゃっていたのもあると思うんですけど、この側面から見たときでの資金もそうですし、さっきの働き方も出ましたけど、今のこの現状とか課題というのは先生はどう見られていらっしゃいます? 

牧原秀樹氏(以下、牧原):今、いろんなお話をうかがって、なるほどなと思いましたけれども。1番難しいのは先が見えないということ。

ですから、例えば典型的にはオリンピック。1年延期すればいいのか2年延期するのか。それとも無理だから辞めるのかという3月末の決断から始まって、1年延期することにしましたけど。「じゃあ、本当にオリンピックができるの?」というのを、どこにいっても聞かれるんですよね。

正直それは、我々もわからないんです。ですから、それは「やれるようにする」ということしか言えないわけですよね。

つまり、ついこないだまでは「今年はオリンピックをやります! みなさん7月を楽しみにしててください!」と言えていたものが、1年延ばしても、もう「来年のオリンピックをやれます」と確定で言えなくなっている時代に入っているということで。

政策的には「今はスタートアップだからこういうふうにやろう」という、その日常の政策と、それとさっき申し上げた230兆円を超える、緊急の政策と2つあるわけですけれど。少なくとも後者のほうは、その先の見えなさ感というのに大変悩んで、それで予備費が10兆円もあるという状況になっているんですね。

これは批判を浴びていますけれども、それぐらい用意しておかないと、例えば3月末には旅行業の人だったり飲食業の人だったりイベント業の人が大変でしたね。それは引き続き大変なんですけれども、それがやっぱり5月6月になってくると、今度は製造業のほうが、いよいよ大変だぞという話になってきて。例えば大きなアパレル企業が倒産したりとか。そしてこれからあきらかに航空産業とかが大変な状況です。

まあ、先の見えなさ感にどう適切に、また適宜に対応していくのかということを非常に悩んでいるということです。

その意味で、まずは資金繰りを応援をして、そこの企業のみなさまが突然のコロナによる不況によって、いきなり突然死するようなことは絶対にないようにしようということが、まず1つ。

それから、もともと日本は雇用不足が生じているという、世界の中でも極めて異例の国だったわけですけれども。今年になって、急激に雇用情勢が悪化しています。

リーマンショックのときにも失業の方が大変多くなりまして、あのときも私が責任者だったんですけど、やはり失業を生んではいけない。このことが大変重要で。この対応に今は追われていますし、休業者の方がもう400万人ぐらい予備軍がいるとかいう話もありますので。

このみなさまに、どうやって雇用を確保していくのか。こういうことに今、私たちとしては血眼になっているところです。

3つめが、デジタルトランスフォーメーションも含めた、次の時代にどう移行していくかということで。これは主として中小企業の方向けの、もともと生産性向上の、ものづくり補助金、IT導入補助金、持続化補助金という3つのトリオの補助金があるんですけれども。

これを非常に分厚くして、それぞれの企業のみなさまが例えばデリバリーを新しくやるためにオンラインを導入しようとか、ポストを導入しようとか。こういう前向きな新しいやり方をするのには、ほぼほぼかなり手厚い補助金が100パーセントに近くというか、まあ100パーセントじゃないんですけど。かなり従来より手厚く保てるような仕組みを作っていると。こういう対応をしているんですよね。

小泉:だから政府モードのほうから入っていって、雇用を守りつつどちらかというと少しDXのほうで戦略的にお金を払うようにしていく、という感じですよね。流れとしては。

牧原:そうですね。