非常時と通常時のマネジメントの違い

田所雅之氏:これは今日お見せするスライドの中で、一番重要なスライドの一部です。スライドの中にいろいろ書いていますけど、一番大事なことは、この左上にある、情報が不完全な中でも決断を繰り返しているということなんですよね。

情報を集めていたら遅いんですよ。なので、指揮系統、CxOは束ねてトップダウンで指示すると。ただこういう状況だと人の心は離れてしまうので、密にコミュニケーションをするという感じなんですよね。

ふだんのスタートアップはやっぱりエンパワーなので、いわゆる現場に対してエンパワーすること(が大事)だったと思うんですよ。でも、ランウェイが短いのにそういう余力を与えていたら死んでしまうんですよね。まず生き延びるために、指揮系統を束ねたり、コミュニケーションプランを見直すことがポイントかなと。

通常時のマネジメントはこんな感じだと思うんですよね。月次のPLを報告して、各事業部はいわゆるティール型、ネットワーク型でやるということなんですけれども、(非常時は)そうじゃないと。

スタートアップにとって「ゴキブリ」は最高の誉め言葉

ランウェイが短い中でも事業を推進する上で、みなさんに覚えていただきたい2つめの単語があって、「ゴキブリスタートアップ」と言われています。

大事なことは、本当にゴキブリになれるかどうかなんですよ。ゴキブリの特徴としては、まず持久力と瞬発力ですよね。あとは何か非常時があったら、隕石が落ちたとしても、なぜかゴキブリは6億年生き延びると。何かがあったら集団になって巻き込んでいくと。

まさにスタートアップにとってゴキブリというのは、僕は最高の褒め言葉だと思っていて。Airbnbのスタートアップの創業者もゴキブリスタートアップと言われていて、つぶれそうなときは自分たちでシリアルを売っていたんですよ。

そういう感じで「ゴキブリスタートアップになれますか?」ということかなと思います。そのために決断をすると。Be Decisive、不完全な情報しかなくても決断を繰り返せますかというところですよね。

冨山和彦さんが『コロナショック・サバイバル』で書いていましたけど、まさに「戦時は独裁である」と。自分たちのランウェイが短いとわかったら、いかにして生き延びるか、ゴキブリになれるか。ゴキブリになってサバイバルすることに注力すると。

コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画 (文春e-book)

情報が集まるまで待つには遅すぎるので、待たずに意志決定をしていくと。ただ一方で、それだと人が離れてしまうところもあるので、Over Communicationすることで、Bad Newsを吸い上げてやるというわけですね。

経営者の手腕が問われる、月々のバーンレイトのコントロール

あとは実務的なことを言うと、キャッシュフローを可視化しましょうと。Cash is Kingと言われていますけれども、借り入れが行えるなら借り入れを行うと。VCから投資を受けられるなら投資を受けますし、受けられるなら融資も受け入れると。

あとは現預金をどれくらい持っているか把握することですね。それを月次の資金繰りから日次に変えましょうということですね。日次の資金繰りを明らかにして、無駄なコストカットを徹底し、透明性を担保することかなと思っています。

僕はよく言うんですけれども、これは経営者の手腕が見られるんですよ。月々のバーンレイト(資本燃焼率:会社を経営するにあたって1ヶ月あたりに消費するコスト)は、スタートアップが唯一コントロールできるKPIです。誰をどれくらいの給料で雇うとか、どういう間接費を使うかは完全にcontrollableですよね。これをコントロールできないのは、僕は経営者失格かなと思っております。

そのためにドラスティックな施策をとりましょうということで、ここは話し出すと、これだけでたぶん1時間話をしてしまうので、バーッといきたいんですけれども、現状のコスト分析をすることかなと思っています。

今日は別のコンサルのトピックスで、この辺は詳しく話さないですけど、ちゃんと間接費用を可視化するということですよね。人件費、販管費、原価といったものがあり、正規化リスクなどもろもろのリスクに対して、何をするべきか。可視化・標準化・コストの見直し・仕様変更など、もろもろあるんですけれど、今日は深掘りはしません。

間接費が意外と大きいですよということなので、業務改善しましょうということですよね。この辺は7月に出す本に詳しく書いているので、ぜひ見てください。

起業大全――スタートアップを科学する9つのフレームワーク

やっぱり業務改善や業務の標準化がすべてに効いていくんですよね。無駄なオペレーションが非常に多いので、まずはそこを見直ししようということですよね。

無駄がないかを見直しして生産性を上げる

そこをやったうえでECRS+SKということですね。そもそも業務をやめられないかとか、集約できないかとか、リプレイスするか。単純化できないかと。

あとは、僕は現状の態勢を多能工化しろと言っているんですけれども、自分がもしマーケしかできなかったらセールスもできるようにするし。

人を雇わずとも、現状のバリューチェーンを勘案したうえで、スループット全体のどこがボトルネックになっているかをきちんと見極めること。それに対して安易に反映をするのではなく、まずストレッチしましょうと。あとは標準化して生産性を高めましょうという部分ですね。

High touchの部分をTech touch化するところかなと思っています。この辺はちょっと飛ばして話しますけれども。

サブスクはコロナ禍に強い事業モデル

あとはコストサーブ、標準化するコストにリターンが見られるかどうかを見極めましょうと。標準化の進め方はもろもろあるんですけれども、この辺をバーッと話したいなと思っています。コスト構造やベンチマークの可能性、取引パターンなど、実はコスト削減ができる余力がいっぱいあるところを見つけていくのがポイントかなと思っています。

コスト構造ですね。ベンチマークの可能性。ベンチマークができて、もし競合のA社がこんなことをやって、かなりコストを削減できるんだとしたら、自分たちもできないかと考えたり、取引パターンをスポットではなく定期購買にするとか。

サプライの構造も変えていくと。よくありがちなんですけども、Too muchサービスの場合もあるんですよね。そうすると要は顧客1人あたりの利益が落ちてしまうことがあるので、コストに対してちゃんとリターンを考えていくといいのかなと思っています。

あとは、non-recurringから事業モデルを見直すというところですね。今の事業において強いのはストック型なんですよね。いろんな上場企業のPRとか見ていても、やっぱりrecurringモデル、新規営業モデルはきついんですよ。

でも、Netflixはめちゃくちゃ伸びていますよね。なぜ伸びているのかというと、1回契約したら、ほぼやめないんですよ。Netflixだけ時価総額が1.6倍になっていますからね。

つまりこの不況下に強いのは、やっぱり都度変えられる新規のnon-recurringではなくて、ストック型ですよね。サブスクリプション型であったり。その辺にあるのが、変換するポイントかなと思っています。

サブスクリプション型はコロナに強いのかなと思っています。コロナでやっぱり伸びていると。OTT(動画配信)のストリーミングですとかね。これはe-learningが伸びていますね。

顧客接点の変化と、既存顧客との関係強化

この辺もバーッと話したいんですけど、クリティカルマス型と言われている、急拡大しているモデルは、けっこうJカーブを掘る必要があるので、ここよりもさきほど言っているような積み上げ型でできないかということを考えるのがポイントかな。

あとは顧客獲得マネジメントですね。この辺もコロナ禍において、マーケティングの優先事項が変わったというところで、まず安全の伝達ですよね。

この前、YouTubeの広告で「こんなところでイベントをやります、ぜひ来てください」というCMがありましたけれども、ああいうことをしたら、本当にマーケティングの評判が悪くなってしまいますよね。こういう状況なので「イベントに多く来てください!」じゃなくて、もっとCSR的な、医療従事者に対して何かやるといったメッセージを伝えるのがいいのかなと思っています。

まあ、展示会は難しくなる。でも、こういう状況においてやっぱりオフラインでのイベントが難しくなったということは、お客さん自身もオンラインで意志決定ができるようになったということなんですよ。

こういった状況をちゃんと捉えて、お客さんにしろリードカスタムの見込み顧客にしろ、ある意味ZoomでOKになったわけじゃないですか。そうなったときに、何百万もかけて展示会を出す必要も実はなくて。実はオンラインでできることが増えてきたんじゃないかなと思っています。

大事なことはカスタマーサクセス。要するに既存のお客さんとの関係を強化することも重要なポイントかなと思っています。

あとはマーケティングメッセージの調整のようなところで言うと、フィリピンのコカコーラなどは実際に「コカコーラを飲んでください」といった新商品のCMではなくて、医療従事者の防疫用品を提供したと。あとはメッセージの内容とトーンを調整するということですよね。

今は日本も落ち着いてきたので、この辺はだいぶ減ってきましたけれども、またいつ第2波・第3波が起きるかもしれないので、その辺をきちんと勘案しながらやっていくということかなと思っています。

ショックをチャンスに変えるには、マクロ的な観点が必要

今1時間ぐらい話してきたんですけれども。まとめとして、コンクルージョンですね。Winter has comeと言われていて、実際にリーマンショックのときとは違って、実体経済が痛んでくるという状況ですよね。

その中でも、「外部環境の変化を捉えて本質を考えましょう」というのが大事かなと思っていて。最初に話したこのPEST分析(自社を取り巻くマクロの環境要因に注目し、事業の戦略立案などに活かすためのフレームワーク。「PEST」は、Politics(政治・法律的な要因)、Economy(経済的な要因)、Society(社会・文化・ライフスタイル的な要因)、Technology(技術的な要因)の頭文字)の話ですよね。

規制が緩む中で、供給に対して需要が圧倒的に増えているところに多くのビジネスチャンスがある。そこを見極めるということですよね。エコノミクスとしても、多くのスタートアップが恩恵を受けていると。

ただ、「ショックをチャンスに変えられますか」とみなさんにも言ったんですけれども、ヴィンテージ2008ならぬ、ヴィンテージ2020になれるかどうかがポイントかなと思っています。

日本に多くのヴィンテージ2009や2010があって、10年後を振り返ったときに、そういったスタートアップになれるかどうか。この背景にあるのは、一人ひとりの行動変容、ニューノーマルがあったと。コロナ禍の状況においては、多くの業務、多くの指向性が、コロナ禍の状況にとどまるということかなと思っています。

一方で、実はこの2020年は5G元年と言われ、技術に大きな変化があったということで、考えるべきは「Product Future Market Fit」できるかどうかなんですよね。まさに未来が加速している中で、少し先の未来から逆算して、今何をするべきかを考えていくと。

ほとんどのビジネスは10個のイノベーションモデルの組み合わせでできている

その中で、自分たちが張っていく領域を考えることがポイントかなと思っています。やっぱりスタートアップ、新規事業が勝つ大きな要因というのは、チーム、アイデア、人でもなくて、実はタイミングが一番重要な要素ということなんですよね。

じゃあ、この2020年6月、7月に何をするべきかを考えてみると。「Why Now?」ですよね。やりましょうと。イノベーションモデルを10個解説しましたけれども、ほとんど99.9パーセントのビジネスが、実はこの10個の組み合わせだったりするんですよね。

なので、コロナ禍の状況でも大きく伸びているmercatoやPelotonもそうですけれども、実はこのイノベーションの型をベースにしているんじゃないかなと思っています。

こういった多角化ピボットですよね。オフラインからオンラインをやっている事業も増えているということですよね。

まずは生き延びて「ヴィンテージ2020」を目指す

ただ、こういったモデルはあくまでも戦術なんですよね。大事なことは、その根本にある「不」を見つけること。『起業の科学』でも書いたんですけど、カスタマープログネフィットって呼んでいて、どんな「不」を抱えているのかを既存のお客さん自身は知らないんですよ。

新規事業やイノベーションで大事なこととしては、現状のAS-ISのユーザーエクスペリエンスがどうなっているのかを書き出してみると。それに対して、どういったユーザーエクスペリエンスを提供するべきかということですね。UXというのは、ただ単にエンタテインメントとか気持ちいいというだけではなくて、顧客の感動とか、BtoBなら顧客の成功なんですよね。

そこはなんなのかをきちんと書き出して見るところだったんですけれども、ただこれをするには自分たちの状態を明らかにするということで、ランウェイを把握して、財務諸表のチェックリストを紹介しましたけれども、3分の2にしてどれぐらい持つかと。それによって非常事態モードに入りましょうということですよね。

大事なことが、ゴキブリになって生き延びると。そのためには無駄なものを削除することをやりきって、ゴキブリになったあとに生き延びてヴィンテージ2020になれるのか。これが大事じゃないかなと思っています。

ということで、1時間ほど話してきたんですけれども意外と話せましたね。以上、僕からお伝えすることでした。