強烈なピンチが人の心を動かす

北野唯我氏(以下、北野):あと、ものすごくシンプルな質問なんですが、「人々の感情を動かすためにどうすればよいですか?」というコメントが来ています。これはやっぱり自分の「好き」みたいなことを言うのが一番重要なんでしょうか? 

辻愛沙子氏(以下、辻):うーん。

土屋尚史氏(以下、土屋):僕は1つのあるあるなんですけど、人々の感情を動かす。例えばストーリーだとすると、やっぱり「あるある」は強烈なピンチが必要なんですよね。

:あー、確かに! 

渡辺将基氏(以下、渡辺):わかる。

土屋:これは残念なあるあるなんですけど、例えばグッドパッチという会社があるんですけど、うちは3年前に離職率40パーセント越えを2年連続でやって。2年で80人が辞めているんですよ。

渡辺:やばい。

土屋:組織崩壊しているんですよね。マーケットでも、組織崩壊しているという噂はすごく流れていたし、「なんかグッドパッチやばいらしいよ」と言われていたんです。でも、その危機を残った社員のみんなの力で克服して。僕はそれを全部、なにも加工することなく、世の中に公開したんですよ。

やっぱり組織崩壊したと言うとみんなが怖がる。そんなのは多くの人が表には出さないけど、実は経験しているようなことなんですよ。だから公開したことによって、しかもそこを乗り越えているところにやっぱり共感を集めるポイントがあったんですよね。

グッドパッチという会社が、デザイン会社の実績ですごいというだけではなくて、けっこう応援してもらえている会社だとは思うんですけど、そこにはすごい危機があったという。この危機的フェーズを乗り越えるところに、やっぱりみんなが共感したり憑依したりするのはあるかなと思っています。

:なるほど。

北野:確かにね。だから苦しいことを言うという。

渡辺:原体験というやつですね。

土屋:原体験なので。

弱さや成長過程を隠さず乗り越えていく

北野:辻さんはなにかありますか? 

:けっこう通ずるところかもしれないですけど、1個はさっきの自分のスタンスを明確にすること。それは別に社会課題じゃなくて、自分の好きなものでもいいですし。

1日中マンガを読んでいるようなマンガオタクだったら、「俺は誰よりもマンガが好きだ」ということでもいいと思うんです。まず自分のスタンスを明確にすることが1個。

もう1個はさっきおっしゃっていたことにすごく近くて。みんないきなりホームランを打とうとしがちで、100パーセントを目指しがちだと思うんですよ。でも、誰もそんなことできないんです。

いきなり打てないとすると、いっぱい練習して100パーセントのホームランを打てるようになりましょうということになると思うんですけど、みんなその過程をダサいから見せないんですよね。

そのダサさとか、もがいているところとか、足りていないところの成長過程を見せることが実はすごく大事だと思っています。そのリアルさが大事というか。ただでさえ今は完成度の高いものがそこかしこに溢れている時代なので。

「一緒に成長していける」「一緒に考えて一緒に作っていける」。最近、いわゆるコミュニティみたいなものが強い理由はそこだと思うんですよ。一緒に考えて作っていけるところが、すごく大事なんです。「弱さを見せる」というのは、本当にそうだなとお伺いしていて思いました。

泥臭い人間らしさを見せられる場を持つ

北野:2つあるんですけど。1個は視聴者からは「でも辻さんはめちゃくちゃキラキラしてるじゃん」という感じだと思うんですけど、そうではないんですか? 

:いや、いや。超泥臭いですよ。いっぱい間違えています。例えば、私はけっこう「怒ってます?」というふうに聞かれるんです。Twitterとかで社会課題に対するアプローチとか、政治に対するアプローチをすると、常に「つよつよでがんばっている」と思われがち……。

土屋:けっこうファイターですもんね。

:(笑)。そう思われるんですけど、ちょうど昨日も「どうやったらそんなに強くいられるんですか?」という質問をいただいたんです。当然けっこう鬱になるし、家でももじもじして「もうだめかもしれない」ということは、めっちゃあって。「私、大丈夫ですかね? ちゃんとできてます?」ということがめちゃくちゃいっぱいあるんですよ。夜中一人で泣いたりとか(笑)。そんなもんなんです。

それを『NEWS ZERO』でやるのは難しいので、そのためにTwitterやツイキャスがあったりして、人によって余白を見せられるかたちは違うと思うんですよ。私だったら、しゃべっているときのほうが余白を出しやすかったりするので、すごくツイキャスをするんですけど、例えばそうじゃない人だったらテキストもいいかもしれないし。

人によってアウトプットのかたちはそれぞれかなと思うんですけど、クラウドファンディングでプロジェクトの過程を見せるとか、手法は多種多様だなと思いつつ、とにかくその過程や人間味みたいなところは大事なんじゃないかなと思います。

北野:わかりました。ちょっとだけ安心しましたね。

:めっちゃダメダメですよ(笑)。

渡辺:辻さんは、チャレンジしてガーッと進んでるときと感情が落ち込んでるとき、この振り幅があるでしょう? そういう人じゃないと感情を動かすのは難しいですよね。

学生のうちからできるクリエイティブな活動は、発信を続けること

北野:確かに。ちょっと質問なんですが、「学生のうちからできるクリエイティブな活動や、やっておくべきことはありますか?」というコメントをいただいています。どうですか? なにかありますか? 

渡辺:発信じゃないですか? 発信すること。

北野:Twitterとかですか? 

渡辺:Twitterとかでもぜんぜんいいと思います。僕はこればっかり言っていますけど、当然マーケティング的な脳も養われますし、そういうことを続けているうちになにか自分の感情が動いてくるポイントが見つかったりするんですよね。

最初は社会課題に対する強い思いなどはなくても、そういうことをやっていると、だんだん使命感を帯びてくる瞬間があったりします。だから僕は、まず発信してみるといいと思っていますね。

:確かに。

北野:なるほど。なにかありますか? 

土屋:どうぞ、どうぞ。

:あ、すみません。本当に通ずるところばっかりであれなんですけど。私も最初は大学在学中のインターンから仕事が始まったので、そのときのことを思い出していたんですけど、求められてもないのに100案とか持っていっていたんですよ。「これはどうですか?」とか。

北野:すごい。

最初は考えるよりとにかく打席に立って打つ

:企画のなんたるかもよくわからなかったので、メモに手書きでよくわからない絵を描いたりして、今から実演します!とか言って打ち合わせの場でやって見せたりして。

それもさっきの過程を見せることに近いかもしれないんですけど、最初の頃はとりあえず考えるよりやってみることが大事だと強く思っています。とにかく打席に立って打つ。それで「あ、これはだめなんだな」「私はこれが強いんだな」というのがわかるので。

なんでもいいと思うんですけど、YouTubeチャンネルをやってみるとか、Twitterやインスタをやってみるとか。最近は、就活のYouTubeチャンネルをやっているフクダくんだったかな。

土屋:『しゅんダイアリー』ね。

:あ、やっぱりみなさんご存じなんですね。彼を見ていて本当にすごいなと思うのは、恥ずかしがらずに体当たりでやってみて、だめだったものはちょっとずつブラッシュアップしていくという姿勢だと思っていて。どんな大物でも、恐れを知らないというか、恥ずかしがらずアタックしていくんですよ。泥臭く。たぶん、それをやっている人が応援されるんだろうなと、見ていてすごく勉強になりました。

何者にもなれなかった人の多くは、諦めてしまった人

北野:今の時代、いわゆるアジャイル形式が認められるようになったというのは、けっこうでかいですよね。完成したものじゃなくて、途中でもいいから出せるようになって。そこからフィードバックをもらって良くなっていくのは、すごく今の時代の特徴ですよね。

土屋:誰でも最初は無名ですから。

北野:めっちゃいい言葉が出ましたね。

土屋:でも、どんな人でもみんな最初は何者でもないですから。

渡辺:でも、自分をそうやって揺さぶらないとだめですよね。

:確かに。

渡辺:そうしないと、やっぱりクリエイティブのエネルギーができないと思うので。

:どこまでいっても無名というか、そうなんだなと、いい意味で思いました。あと、このあいだ田村淳さんとお話しする機会があって。

もう誰でも(田村淳さんを)知っているじゃないですか。それでも今の自分のいる業界にとどまっていちゃだめだと思って、違うフィールドに行こうと大学院に行かれていて。

あそこまで行っても「足りない」と思い続けられることがたぶんすごく大事なんだろうなと思ったんです。どこまで行っても、いい意味で人は変わらないものなんだなと勉強になりました。

土屋:あとはやっぱり途中でやめないということですね。やり続ける人。やっぱりさっきのYouTuberの子も、ぜんぜん再生数を稼げない時期が相当長いわけです。どんなYouTuberもそうですし、有名なラファエルというYouTuberも、2年くらいは鳴かず飛ばずだったわけですよ。

それでもやめなかったから、そのあとですごく跳ねているわけです。結局、途中で何者にもなれなかった人の多くは、たぶんやめてしまった人なんですよ。

:確かに。

土屋:諦めてしまった人なんですね。