ラクダが持つ、驚きの能力

人間が砂漠に行く時には、当然のことながら、ありったけの食料と水を携行しますよね。

携行食を備えるのは、ラクダも同じです。そのコブには脂肪分が豊富に蓄えられ、飢えることはありません。

ラクダは炎天下の砂漠で、まったく水を飲まずに2週間生きることができます。ではラクダの体内には、水を蓄えられる便利な隠し場所があるのでしょうか。もしそうなら、それはあの「キャメルバック」のような物かもしれませんね。

でもラクダはそんな物は持っていません。単に、非常に巧みに水分を維持しているのです。ごくわずかな水で生き、水場があれば即座に失った水分を補給する能力があります。特にこれを可能にする革新的な機能が、血液にあるのです。

長期間、水を摂取することがなかったラクダが水分を補給している様を観察すると「ラクダは体内に水を貯蔵できる」という俗説の理由がよくわかります。一度に何百リットルもの水を、数分で飲み干してしまうからです。飲みすぎではないかと思ってしまいますが、これは失った水分を取り戻しているだけなのです。

他の哺乳類が同じことをすれば、血液が急激に希釈されてしまうため、命にかかわります。他の哺乳類の場合、これは赤血球の外部の血清に比較して、赤血球内部の塩分その他の成分の濃度が、大きく上昇することになります。そして均衡を保つために細胞内に水分が急激に浸透するので、細胞がはちきれてしまいます。

ラクダは、第一胃に大量の水を貯えることができます。その後、数時間かけて第一胃から血中に徐々に水分を放出します。そのため、時間をかけて安全に体内の成分濃度を調整できるのです。

赤血球そのものもうまく丈夫にできており、はちきれることなく、通常の2倍の大きさにまでふくらむことができます。

さらにラクダの赤血球は、わずかな水分でも生き延びられるような仕組みになっています。ラクダは、体重の3分の1の水分を失っても生きれらます。これは、他の哺乳類の2倍から3倍に該当します。

これは、ラクダの赤血球が小さく楕円形をしていて、狭い場所でもすり抜けることができるからです。水分不足になると、血液量は減少し適切な血圧を保つために血管は細くなりますが、ラクダの小型で楕円形の赤血球は、まさにこのようなタイミングで活躍します。

また、ラクダの血液は特異な流体特性を持っています。通常であれば、水分不足の血液は濃くなり、成分同士がくっついてしまいます。しかしラクダの血液は、濃縮され血流が低下しても、濃度が高くならず凝固も起こしません。なんと冷やしても、まったくどろどろにならないのです。これは水分維持のための強力な生存戦略の一つとして、汗をかかないラクダには有用な機能です。

人間を含め多くの哺乳類は、体温を下げるために発汗しますが、これは大量の水分を消耗します。

ラクダの平熱は約37℃ですが、なんと42℃に達するまで発汗しません。これは、水分とエネルギーの温存に役立ちます。日中は熱を吸収し、気温の下がった夜間に熱を放出するのです。

ラクダには、水分維持のための戦略がまだまだたくさんあります。例えば、腎臓と長い腸は節水能力に長けており、排泄で失われる水分を最小限に抑えることができます。

ラクダが超能力を持っているとしたら、それは脱水症状への耐性でも瞬時の補水力でもありません。現時点で持っている水分を維持する能力です。砂漠を歩きまわっている間に少しずつ水分補給できる、水を密かに蓄えた膀胱などはありませんが、彼らが持つのは、驚くべき性能の血液なのです。