コロナショックをコロナチャンスに変えられるか

田所雅之氏:みなさんこんばんは。よろしくお願いします。

今、僕は本来ならSHIBUYA QWSに行く予定だったんですけど、延びに延びて、結局自宅からお届けすることになっています。先ほどQWSのスタッフの方々とお話しさせていただいたんですけれども、QWSもすばらしいですよね。

僕は初めてQWSの正式名称を知ったんですけれども、Question with Sensibilityですか。僕もこれまで起業と起業家の支援をしてきたんですけれど、まさに問いと感性は非常に大事かなと思っています。

僕自身も、新規事業のメンタリングやスタートアップの支援をするときに、やっぱり意識していることは、深掘りする問いというところかなと思っています。

先ほど参加者のみなさんの名簿を見せていただき、多様な方がいらっしゃると。大企業の方もいらっしゃるし、中にはスタートアップの方もいらっしゃるし。あとは個人事業の方も数名いらっしゃるという感じですので。

今日は僕の専門であるスタートアップが、コロナ時代に勝ち切るというか、まだ勝ち切れるかどうかわからないんですけれどもね。勝ち切るのも大事なんですけれども、どちらかというと生き残るですね。生き残るというとマイナスの部分をプラマイゼロにする感じですけど、今日はちょっとその話もします。

ただ一方で僕はこの2~3ヶ月で、ほぼZoom飲みなんですけど(笑)、200人ぐらいの起業家の方に会ってきていて、いろんなパターンが見えてきたなと思っています。

大事なことは、今日の講演の中でも話すんですけれども、僕はこう言っています。「このコロナショックをコロナチャンスに変えられるか」と。この中にも事業の立ち上げをされている方も多いと思いますので、その辺のヒントにできればと思っています。

起業家のためのHowのバイブル『起業の科学』

ちなみに僕はスライドが多くて有名なんですけど、今日は545ページあります。

まともに話すと1時間半フルフルで使ってしまうので、今の1.5倍ぐらいのスピードで話したいなと思っています。最後までご覧になった方は、QRコードを用意していますので、そちらにアクセスしてダウンロードいただくと、このスライドをPDFで差し上げますので、ぜひ週末に読んでいただければと思います。

というわけで、今日はAfterコロナ時代、もしくはコロナにおけるスタートアップが勝ちきる極意についてお届けしたいなと思っています。

改めて僕の自己紹介をさせていただくと、もう3年ほど前に『起業の科学』という本を出させていただいて。もともと僕自身も、日本とシリコンバレーで5社ほどやっていたんですけど、ぜんぜんうまくいかなくて。「なんでだろう」と思っていたんですけど、どこにも教科書がなかったんです。

起業の科学 スタートアップサイエンス

それで2014年から2017年、シリコンバレーのベンチャーキャピタル(スタートアップに投資する側)で、本当に多くの起業家に会ってきました。その中で、自分が抱えていた課題はユニークじゃなかったと気づきました。

僕が担当しているのは、グローバルのアメリカ・日本・東南アジア。それ以外にも、(ピッチ)イベントでだいたい2,000社ほどのヨーロッパのスタートアップを評価してきたんですけれども。

自分がモヤモヤとしていたことは、自分の問題だけでも日本だけでもなく、世界中のいろんなグローバルの起業家も同じことを考えていたとわかって。ここをどうにかして体系化できないかということで、『起業の科学』を書かせていただきました。ありがたいことに、今は5カ国語ぐらいに翻訳されて、国内では115週連続1位ですかね。

それで、入門編も入れると10万部ほど売れているんですけれども。なぜこの本を書いたかというと、僕自身は起業家として失敗してきて、この場には起業家のみなさんも多いと思うんですけど、本当に優秀な方が多いですよね。優秀な方も、熱いパッションを持っている方も多いんですけど。

入門 起業の科学

少しのHowですよね。起業家の場合はもともとお金も時間もなかったりするので、本当にやり方を少し間違えてしまったら、やっぱり1回、2回失敗してしまって、そこでつまづいてうまくいかない場合が非常に多い。そういう人に対して、できるだけ失敗を減らすというところで『起業の科学』を書きました。

スタートアップが生き延びるためにやるべきこと

今回の「Afterコロナでスタートアップが勝ちきる極意」というのも、実は特に後半の部分を書いた理由は、僕自身も今はスタートアップを何十社も支援しているんですけれども、結局コロナ禍で外部環境が変わったにもかかわらず、適切に環境適応できなくて、死にかかっている、もしくは死んでしまうスタートアップがけっこういるんですよね。

そういうところに対して、まず生き延びること。生き延びたうえで、まさにこのコロナショックをコロナチャンスとして捉える。この2つが必要かなと思って、今日はお話したいなと思っています。

だいたい1時間ぐらいお話しますので、最後にみなさんから質問を投げかけていただければと思います。今日はこんな流れで話したいなと思っています。

まず、最初のポイントはマクロの潮流を捉える。僕は、自分たちの個別のカスタマーや個別のソリューションにズームインする前に、ズームアウトすることが大事かなと思っていて。今の2020年、コロナが起きた状況は、マクロ的にどういうふうにやるのかについて話したいなと思っています。

次がイノベーションモデルということで、『起業の科学』にも書かせていただいたんですが、実はイノベーションには型があると思っていて。「コロナ禍だけではなくて、こういった外部環境が変わる中で、その型を用いてどうイノベーションを起こしていくのか」というフレームワークや視座、現状うまくいっている事例などを解説したいなと思っています。

最後は自分たちを見極めるということで、矢印が飛んでいますけれども、自分たちの状況を勘案した上で、ちゃんと意志決定をしていく必要があるのかなと思っています。その辺の意志決定の仕方や行動の仕方について話したいなと思っています。

コロナショックがリーマンショックと決定的に違う理由

まず最初にマクロの潮流を捉えるということで……。よく言われるんですけど、「Winter Has Come?」ということで、冬が来てしまったのかというのは、おおよそのコンセンサスですね。

あらゆる経済指標、統計指標を見てもおそらく4月~6月のGDPは前年比に比べて先進国は並び並びですね、たぶん10パーセント以下に落ちると言われていて、不況が来てしまったと言われています。

リーマンショックと違うのが何かというと、人の体で例えると、リーマンショックはお金という血流が止まってしまって、細胞が壊死してしまうリスクがあったんですけど、今回のコロナショックは逆なんですよね。

血流が止まる前に、まず手足のしびれが来たと。これは手足という表現なんですけれども、いわゆる地方経済ですよね。リアルのローカル経済とか、ローカルマーケットがストップしてしまったと。

それが、徐々にインバウンドとか航空業界という感じで、グローバルに波及してきて、それがソルベンシーリスクというかたちで、信用不安につながっている状況で、国も財政も投入して、どうにかそれを止めるという感じでやっている状況かなと思っています。

なのである意味、リーマンショックと流れが逆なんですよね。リーマンのときは、信用不安からローカル経済には波及しなかったんですよ。

ところが今は、ローカルから来てマクロ、金融に波及する逆の流れになっているのかなと。Financial Crisisはまだ起きていないんですけれども、いわゆる連続倒産や倒産ドミノが起きて、ソルベンシー問題に転化するリスクがあると言われています。

今朝の日経新聞で、コロナ関連倒産は250件ですよね。ただ、これも持続化給付金などをやっていなかったら、4桁5桁になっていたかもしれないので、経済の実態がかなり痛んでしまったのかなと思っています。そういう意味では、どうにか財政投入して先の世代から借金している状況かなと思っています。

ユーザーの行動変異は、需給のバランスの変化に直結

僕が専門としている「スタートアップの影響は?」というところで話したいんですけれども、これ(「コロナショックをコロナチャンスに変えられるか?」)なんですよね。

大企業の方はスタートアップの連携もしくは新規事業をされている方も多いかもしれませんし、スタートアップそのものをやられている方も多いと思いますが、こう言っているんですよね。「まさに不況の頃こそチャンスである」と。

結論めいたことを言うと、あらゆる側面において、進化圧がかかっているんですよ。進化の圧力ですよね。それは当然、お客さんや一般消費者もそうですよね。

僕も今こうやってZoomで講演をしていますけれども、考えていただきたいのが、1993年にいわゆるインターネットブラウザができているんですよ。インターネットブラウザが一気に立ち上がった。そこからインターネットが普及するのにだいたい5年かかったんですよね。

それで、みなさんがお使いになられているスマホは、2007年に初代iPhoneが出て、70パーセントまで普及するのに5年かかりました。つまり新たなノーマル、NewNormalとか言いますけど、いわゆるパラダイムや新たなプラットフォームが普及するには、だいたい3年から5年かかると言われていると。

ところが、今年3月~6月で何が起きたかというと、おそらく2025年ぐらいにテレワークが普及するとか、DX(デジタルトランスフォーメーション)が普及すると言われていたのが、5年という時間が3ヶ月に圧縮されて、一気に世の中が変わって、一人ひとりの行動変異が起きたわけなんですよ。

行動変異が起きたということは、ユーザーやお客さんが求める需要に対して供給が圧倒的に少なくなったということなんですよね。つまり、これは新規事業を起こすチャンスかなと思っていて、まさにショックをチャンスに変えることが大事だと思っています。

本質的ではない「慣習」の終わりが始まっている

そこで、まずは外部環境の変化としては、今起きていることはキャズム越えとか言われるんですけど、それまでなかなか動かなかった規制なども非常に緩和されていると。僕はどこの国か知らないですけど、どこかの国のIT大臣は、なぜかハンコ議連の会長らしいんですよね。どこの国か知らないですけど。

それがおかしいということで、GMOの熊谷(正寿)さんとかは、「ハンコを廃止します」ということで。なし崩し的に、某国の経団連会長の中西さん。日本っぽい名前なんですけどね。日立の社長なんですけれども。「ハンコ文化はナンセンス」ということで。

考えていただきたいのが、こういうことが「起こる」と言われていたんですけれども、某国のIT大臣の会長は、ハンコの利権を守るハンコ議連のトップだったんですよ。それで動かなかったのが、一気になし崩しに起きているということかなと。

つまりそれまではプロセスを踏襲することが大事だったんですけれども、それが形骸化している。わざわざハンコを押すために、三密をくぐり抜けて(書類を)承認することはナンセンスだということで変わっていると。

何が言いたいかというと、こういうあらゆることが本質に目を向けられて、変わってきているんじゃないかなと思っています。

新たな需要に対する供給が圧倒的に少ない

これもそうですね。タクシー出前がOKになったのも規制緩和ですよね。確か国交省がこれを10月末まで認めているんですけれども、タクシー会社がバタバタつぶれていって、じゃあそういったタクシーというアセットがあってドライバーもいると。でも、いわゆる出前や宅配などのロジスティクスは人が不足しているんですよね。

そこをマッチングするのはOKなんじゃないかというので、こういった規制緩和が進んでいます。これもさきほど言ったんですけど、そういった需要に対して供給が圧倒的に少なくなっている状況かなと思っています。オンライン教育もですけど、この辺も後ほど詳しく解説したいなと思っています。

リモート診療なども一気に今拡大しているのかなと思います。今はこういう感じで、規制緩和がどんどん行われていてですね。

スタートアップ業界の冷え込みや上場延期

あとはEconomicsも非常に大事なんですけど。僕がいるスタートアップ業界は、残念ながらこの半年は、やっぱり投資が多少冷え込んできたのかなと思っています。特に中国を中心に、2~3月期は投資が行われなかったですし。

ただ、この2ヶ月の様子を見ているとやはり銘柄として、Afterコロナ銘柄やニューノーマル銘柄という感じで、実はここでぐっと加速する事業だったり、需要に対して供給が圧倒的に薄くなっているところを埋めるための事業に対しては、かなり投資が行われているのかなと思っています。

実際にスタートアップのバリュエーションも落ちてしまったと。去年は日本なんかオーバーバリューと言われていて、かなり株価が高かったんですけれど。

これはアメリカの数字なんですけれども、平均で20~40パーセントのバリュエーションが落ちている状況かなと思います。

僕も先週会った起業家の方は「あと3ヶ月で銀行残高が底をつきてしまうのでやばい」と言っていたんですけれども。そういった資金調達の遅れが起きているのかなと思っています。

あとは、スタートアップ業界で言うと上場ですよね。例えばC CHANNELやフォースタートアップスなどは無事上場しましたけれども、僕が知っているだけで、今年マザーズ上場予定だった半分以上のスタートアップが先延ばしになっている状況かなと思います。

実際にデロイトトーマツが取った数字なんですけれども、全業種の85パーセントが売り上げも全体的に落ちている状況かなと。