雨上がりの爽やかな匂いの正体は?

ステファン・チン氏:激しく雨が降った後の爽やかな匂いが大好きだと言う人は、大勢いるはずです。科学者たちは、なぜ雨上がりの匂いに、これほどまでに引き付けられるのかを、このほど解明しました。ただし、これは虫の話です。

この独特の土の匂いの元は、ゲオスミンと2-メチルイソボルネオール、略称2MIBという成分です。どちらも、ストレプトマイセス属に属する細菌により生成され、降雨後に大気中に放出されます。しかし、この細菌がこれらの化学成分を生成する理由は、謎に包まれていました。

2020年、「Nature Microbiology」誌上で科学者たちは、この匂いは、トビムシという昆虫の近親である、6本足の節足動物に深い関係があることを突き止めました。

トビムシと細菌の共存共栄の関係

科学者たちは、これらの成分は、この匂いを出す細菌が、トビムシをおびき出して自らの繁殖に利用するエサとして生成しているのではないかと考えました。そこで科学者たちは、トビムシの触角の先端に蛍光塗料を塗布し、触角が何かに反応した時に記録が残るようにしました。次に、匂いの成分をトビムシに吹き付け、どの成分にトビムシが反応するかを調べました。

すると、ゲオスミンと2MIB、そしてその関連成分に、アンテナはまんまと反応したではありませんか。

トビムシがエサとするのは、枯れ葉や、先述のストレプトマイセス属の細菌を含む土壌中の細菌です。科学者たちは、トビムシが這い回ると、腹部の毛に似た部位に、この細菌が付着することに気が付きました。さらに、トビムシの糞を分析したところ、この細菌の芽胞は、トビムシに食われても生きたまま排泄されることがわかったのです。

科学者たちは、このような調査結果を概括し、トビムシとストレプトマイセス属の細菌は、花と送粉者のように、共進化してきたのではないかと考えました。

雨上がりの匂いは虫たちにとって「ごちそうの香り」

つまり、土の匂いは、細菌の芽胞が、トビムシをエサの元へとおびき寄せ、トビムシに付着したり食べられたりして、拡散されるチャンスを狙ったものなのではないでしょうか。花の花粉がハチによって別の花の元に運ばれるように、細菌の芽胞は、移動するトビムシによって遠くまで運んでもらうのです。土壌の養分が枯渇したり、住環境として適さなくなった時に、別の土壌に移動しなくてはならなくなった場合、細菌にとってこれは非常に重要です。

さて、ゲオスミンと2MIBは、単独での働きはわかっていませんが、この2つの成分は、合わせると力を発揮します。さらに、細菌を拡散させるための匂いを、なぜ人間が心地よい雨上がりの匂いと感じるのかもよくわかっていません。この匂いで、人間の食欲が増進することなんてありませんよね。

雨上がりの心地よい匂いのカクテルの一部ではない、単独のゲオスミンであれば、人間にとっては「有害」な匂いと味覚であり、人間を病気にさせるようなカビで汚染されている水であることの警告の役割を果たします。

いずれにせよ、トビムシや、ひょっとしたら他の節足動物にとっても、雨上がりの匂いは、ごちそうの香りなのです。