果たして美人は本当に得か

中野信子氏:「美人は得か問題」についてお話をしたいと思います。よく「美人はそうでない人よりも生涯年収が高いんじゃないか」とか「美人は得していいね」というような声って、たくさん周りでも聞かれると思うんです。美しい人って、ちやほやされているようにも見えると思いますし、モテて、とてもうらやましい感じがしますよね。

じゃあ実際はどうなのかということで、研究がけっこうあるんです。これ意外にも性的魅力……女らしい魅力を持っている人が得をするわけでもないということが、数字で現れてしまってるんですよね。

実は「美人のほうが、平均的な容姿の女性よりも損をしてしまうことがある」という研究はたくさんあります。それはどういうことかというと、外見が良いと性的類型化って言うんですが……性的というのはセクシャルのことですね。類型化というのは、ステレオタイプになるという意味なんです。

性的類型化が起こることによって、女の人は損をしてしまうんですね。意外にも男性は有利になるんですね。要するに「男らしい」と見られると、リーダーシップが高いというふうに思われたりとか、仕事ができるというふうに思われたりとか。あとは、決断力があるとか。男らしいとみなされることによって「社会で活躍する能力が高い」と思ってもらえる傾向があるので、イケメンというのは、仕事上の評価には良く働く場合が多いんですね。

要するに外見で男の人は得をする。だけれども、女性はそうではないんですね。女性は「女性的である、美人である」と見なされると、堂々とした振る舞いをすることで「ちょっとこの人はちくはぐな感じがする、女性らしくない」と見られたりとか。

「決断力に欠けるに違いない」と容姿で思われたりとか。セクシーすぎて仕事がしにくいとかですね。「消極的であるべきだ」「サポートする仕事はうまくできると思うけれども、リーダーとしてはどうなのか」と、外見だけで判断されてしまうことがあって。

実際にサポーティブな仕事の遂行能力は高いでしょうという評価は与えられるんだけれども、リーダーとしてはこの人は適切でないに違いないというふうに、評価の点数を付けられちゃうんですね。

そういうことがあるので、女性はあんまり外見がいいことで得をするとは言えない。外見がいい人でがんばっている人はハンディキャップを持ってがんばっているんだということで、ぜひ応援してあげてほしいと思います。

もっと悪いことには、ステレオタイプに当てはまらない、つまり女らしい外見を持っているのにそうでもなく活躍しているという人がいると、周りから「この人は性格が悪いんじゃないか」とか「結婚生活がうまくいかないんじゃないか」とか。「子どもを作らない」とか「子どもがかわいそう」とかですね。そういうふうに言われる。攻撃されるんですね。

いつの間にか、そういう攻撃によってステレオタイプ風に振る舞うように社会が圧力を、無意識のうちにというかね。あたかも「社会が女性を洗脳していく」というようなことが起きるんですね。なので美人は得とは限らないよということを、知ってもらえるといいかなと思います。

あと性差の問題というのは、非常におもしろくて、スウェーデンのカロリンスカ研究所というところが、積極的に研究をしている領域なんです。女性で容姿に優れた人がどういう扱いを受けるかというと「人間として扱ってもらえない」という問題があるんですね。

どういうことかというと、記号とか物として扱われる。これはとてもショッキングな研究なんですけれども。ビキニを身につけているセクシーな女性の姿を見ると、男の人はその女性のことを人間というふうに認知しないんですね。

物を見るときと人を見るときで脳の活動は違うんですけれども、物を見るときの活動と同じ活動がビキニの女性を見るときに起こる。人間を見ているような脳の働きが起こらない、ということがわかってまして。つまりあまりにもセクシーな格好をしていると、男性は女性を物として扱ってしまうわけです。

要するに感情がその人にもあるとか、容姿のことをいろいろ言うと女の子はすごく残念な気持ちになるんだとか、人格を認めてもらえないという感じが女性には……どんな人でも1回は経験したことがあると思いますけれども、そういうことが起きるのは、容姿によってそういう脳の働きが誘発されるからだ、ということが言えます。

女性が女性を評価するとき

今は、男性から女性を見た場合の反応のお話をしたんですが、女性が女性を評価するときっていうのも、なかなかトリッキーな問題がありまして、子どもを対象にした実験というのがあるんですね。子どもを4種類に分ける。

4種類に分けるというのはどういうふうに分けるかというと、まず「男の子、女の子」。そのうち「容姿の良い男の子、容姿のそうでもない男の子、容姿の良い女の子、容姿のそうでもない女の子」と分けます。

そして4種類の子のうち「どの人が階段の下に倒れている子を突き落とした犯人でしょうか?」と聞く、というタスクをするんですね。そうすると、女性は「容姿の良い女の子が犯人だった」と答えてしまうことが、男性よりも多いんですね。男性のほうは「容姿の良くない男の子が犯人でした」と言う人が多かったんです。

これはなかなか難しい問題ですよね。これを男の人から見た場合、嫉妬なのかとか簡単な言葉で片付けてしまいたくなるかもしれません。容姿の良い女の子が、ちょっと損をする典型的な場面かもしれません。容姿だけで、性格が悪いと思われちゃう。

あともう1つ興味深い研究があって。これは、必ずしも女性から見た女性というわけではないんですけれども。やっぱり今のように容姿の良い男性、容姿のそうでもない男性、容姿の良い女性、容姿のそうでもない女性の写真を用意して、文章に写真を添付するんですね。

文章に写真を添付して、この文章を評価してくださいというふうにすると「容姿の良い女性が添付された文章には、より点数を低く付けられちゃう」という問題があります。つまり「美人は頭が悪いに違いないと思われてしまう問題」という。

女性は自分の容姿をアピールするよりも、容姿は抑えめにして能力をアピールしないといけない場面があるんだということを知っておくと、この先の就職活動とか、プレゼンテーションとか職場でうまくやりたいというときに役に立つことがあるかもしれません。必ずしも、美しくキラキラにしておくことがいいとは限らないんですね。TPOを考えて使い分けられるようにしておくといいと思います。

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