「新しい日常」という言葉への違和感

小笠原治氏(以下、小笠原):いや、ぜんぜん。そういう意味では、今ワクワクしたというか。それこそ作り方を変えていける方向に持っていけるイメージですよね。

東さんはどっちかというと、そういうのをうまく使って、いつも何か企んでいるイメージがあるんですけど。

東博暢氏(以下、東):(笑)。まさに昨日企んだことをちょっとシェア、さっき楽屋でしゃべりましたけど。5~10分程度時間いただいて、お聞かせしますね。

最近、まさに昨日とかしゃべったお話を、一部ご紹介します。法律というよりはやはりニューノーマルの言葉の捉え方とか、ポストコロナと言っていますけれども。

今このままいくと、けっこうまずいなという危機感を持っていまして。実は今月、いろいろ動いていました。やはり新しい日常という翻訳は、まだちょっとどうかと思っていまして。

メディアとか日々の東京の報道を見ていると、ソーシャルディスタンスをとってどうにかこうにかというガイドラインは出ているんですが、あくまでそれは1つでしかなくて。

ただ、国民のみなさんはあれ(各種の報道)を聞いていますから、これがニューノーマルなんだと思うと、えらい誤るぞということで、最近この話をし始めていると(笑)。

もともと都市とか地方の議論はありましたけれども、国連も当たり前のように都市化前提で議論を進めていたわけですね。世界の街のだいたい60パーセントが都市化すると。

人口1.000万人のメガシティが41になりますよと。これが既定路線で動いていましたという話です。

基本的にどんどん都市化していって、2030年までずっと東京は1位なわけですね。関西圏も入っておるわけです。これが当たり前だから、ここでどんどんスマート化しましょうという議論が出てきたと。これは誰も疑問を持たなかったんですが。

ただ日本って都市化というよりは、ここの直近、1世紀単位で見ると人口35パーセント増えて35パーセント減るんですね。これだけの間に、急激にがっくりくると。

世界が都市化している中で日本全体の人口が減るよねという、ここのギャップと。

日本の場合ちょっと特殊だったのが、はんこの問題もそうですし、キャッシュレスの話もありましたけれども、インターネットができる前に作り込みすぎたんですよ。すべてにおいて。

新興国みたいにインターネットと共に人口が増えていって、経済政策を展開している国はよかったですけど。だからリバースイノベーションだ、みたいな話になってしまうと。

もともとこういう背景が日本にはあった、ということです。

人生100年ということで、当時私は30だったのが100歳ぐらいになったら、こういう状況ですね。明治時代が終わったぐらい。中期ぐらいの人口規模に生きているかもしれないということです。

そのとき世界のトレンドを見たときに、基本的にだいたいインターネットから産業革命がガーッと起こってきて、今じゃもう“ソサエティー5.0”ってちっぽけな言葉に聞こえますけれども。

それを既定路線で都市化が進むぞと。それでどんどんイノベーションが拠点都市に集約し、ニューヨークだとかがイノベーションの聖地だと言われてきているというのが、当たり前のように進んできたと。

2020年に起きたこと

:一方でルールのところ。個人情報保護法政策が各国で生まれてきたのが1970年代。そこから各国インターネットができて、プライバシーだデータ保護だという議論になってきて、ここで1つ個人情報・プライバシー、セキュリティー・データトラストという話が出てきたと。

一方でデータが出てきますから、オープンデータが始まるねと。当然シビックテックが入るよねと。それがみなさんが、多様なステークホルダーが街づくりにも絡むようになりましたということで、スマートシティになってきたと。

ちょうどG20の大阪宣言の裏側で世界経済フォーラムと話をしていましたが、世界経済フォーラム日本センターとG20で、グローバルでスマートシティアライアンスを立ち上げる動きがありました。それが去年ですね。

これは日本だけじゃなくて、グローバルなG20、首脳各国の都市がお互いの街がどうなっていくか、今後は情報共有していって方針を出そうじゃないかと。原則出そうじゃないかという議論が起こってくると。

ちょうどそれが進むと、DXが進みますというのが当たり前としてきましたと。さあやりましょうかといったときに、(スライドを指して)これです。2020ですね。

2020年に起こったこと、だいたい1月1日に武漢が封鎖されてから今に至るまで、日本のところは真ん中に書いている青のところですが、だいたい緊急事態宣言が4月7日、まあ今月(5月)、閉じましたと。

県境移動は九州が6月1日ですか? そのあとに全県の県境移動解除がかかると。3月ぐらいで各国なんか限定鎖国しだしたぞと、国際社会が分断されてきたぞと。

日本人がだいたい「ちょっとおかしいな」と思い始めたのが4月ですね。そこから人が基本自粛して、物だけ動きますという状態が、ここ2ヶ月続いたと。

都市と地方の定義をどう変えるか

:ここでリモートワークだ、リモートオフィスだってなってきているわけですね。ただ、ここでちょうどすごく危惧しているのは、じゃあ今のニューノーマルが元に戻るだけの議論かと。元の社会システムに戻すのか、新しい社会システムを作るのかというところがたぶん命運の分かれ道で。今後の日本をどう分けるか。

ある意味、大きなパラダイムシフトが起こっているわけですね。特にこれは統治機構を含めて。法律というか統治機構に近いですね。政治とか、社会とか、文化も入ってきますけれども、このタイミングで都市と地方の定義をどう変えるかという話になってきます。

そのときに昨日、まさに山梨県知事の長崎知事と、(静岡県)浜松市鈴木市長と(石川県)加賀市宮元市長と田坂広志さんと一緒にやって立ち上げようと言って昨日合意したのが、公開で討論してその場で合意したんですが、ポスト・コロナ・シティ・アライアンスを作ろうと。

その中でポスト・コロナ・インダストリーとはなんなのかと。ポストコロナ産業ですね。

その中で新しく我々が享受する、ニューノーマルサービスとはなにかと。ここはある程度定義し直さないと、既存の社会システムに戻って、あのときは大変だったねと。もう1回感染症が来たらまあ大変だという話になると。

そういう意味では、ここで新しい次元の異業種連携とか、産学官連携、もしくは地方創生をやっていかないといけないと。

そのときに1つコンセプトが出たのが、デュアルモードソサエティーという話。山梨県知事が「超感染症社会」前提で政策を打ち出したと。

これは1つだけ、おもしろい話なので、知事の資料をシェアしますが。

これが1つ大きな話で、いち早く首長が「やまなしグリーン・ゾーン構想」というのを作りました。もう独自で動き出したと。

※出典:山梨県

これはもともと、ダイヤモンド・プリンセス号の患者を受け入れたんですよね。東京じゃなくて山梨も入ってきたので、山梨でケアしたというのもございます。

それにしては県独自の認証制度とか、県民をやはり感染症対策の実践と評価において、県民と一緒になって評価制度を作っていこうということで、ちょっと共同規制的な枠組みを考えていこうかという話に今は進んでいます。

その中で1つやっているのが、ニュースになりましたけれども、アメリカのCDCの話がありましたが、もう山梨県版のCDCを作ろうという準備に入っています。

そういう意味では、かなり県が独自で動いてきていると。どんどん達成・取り組み中・次なる段階と来ていますから。

デュアルモードソサエティーの本質というのは、東日本もそうでしたが、本当に有事の際、国が混乱すると、さっきまで人間中心とか人中心と言ってますが、これは行政単位で考えると、国とか県レベル、政令市レベル、基礎自治体レベル。

市民に1番近いのは基礎自治体レベルですから、当然ながら市から混乱していくんですね。

市民もやっぱり市役所に相談・要望が来て、そこから県にいってという流れなんですが、今は国の沙汰待ちとなっております。

それで非常に混乱して大阪が先に動いたり、東京が動いたりしているということで。やはりデュアルモードになったとき、緊急事態のときは逆からあげると。本当に普通の平穏なときは、ある程度国を統治しながら、ある種分散して動いてくださいねというような仕組みがいるんじゃないかと。

これがなかったので、東日本もちょっと時間がかかりましたし。今回もまだなかなか地方に対して国が方針を出せないと。首長任せとなっていると。もう先に動いている首長はけっこういます。

その中で1つ出したのが、さらにそれを進化させてやろうといって、地方と都市の定義を変えていくということで「やまなし自然首都圏構想」というのを私と田坂(広志)さんと(山梨県)長崎知事で作っているんですよね。委員会を立ち上げまして。

これは別に山梨だけのことではなくて、やっぱりNew Norm Consortiumを立ち上げようと言ったときに、みんな東京にいなかったじゃないですか。みんなでやったときも。

小笠原:(笑)。いなかったですね。

:みんな東京にいないから。私も加賀の温泉地にいましたし、小笠原さんは福岡にいましたし、さっきの安川さん(セッション2の登壇者・安川新一郎氏)は奈良にいましたから。

自然豊かなところとか環境がいいところにいるよねといったときに、すぐにオンラインでつながれるしという、こういう状態が我々はまず特殊だったかもしれないですけれども、みんながそう感じてきているとアンケートに出ていますよね。特に30代の半ばぐらい。

そういう意味では、それが大衆まで移ってきたというところが、けっこう今で言うと次元が違う、都市と地方の関係性というのが起こってきていると。

その枠組みで、統治機構とかさっきの条例の問題とか、その中でたまたまスーパーシティが、コロナが起こる前に首長権限でいろんなものを認めてってなっていましたから。まさにその状態が今来ているという意味では、実はもともとのコンセプト的なものが先に来ちゃったと。

もうちょっと時間がかかると私は思っていたのですが、そうではなかったかなと思っております。

自治体をスタートアップに見立てる戦略

小笠原:山梨は、なんでこんなに動きが早いんですかね? 

:これは山梨だけではないですね。本当に危機感を持っている首長は、スタートアップよりも早い。

小笠原:そうですね、それだけの権限もあるし。

:だって1ヶ月待つと……。私も聞いていましたけど、今月で飲食店がつぶれますという話をよく聞くんですよ。温泉地はもう来月保つちませんということで、やっぱり首長の足元で域内経済が全部つぶれたら、それは大量に失業者が出ますし、クレーム来るのはまず基礎自治体に来ますから。

だから危機感がぜんぜん違いますね。もう方々を無視して動くというのは、首長は、勘のいい方は普通にやってますよ。

小笠原:(笑)。

水野祐氏(以下、水野):まあでも、自治体をスタートアップに見立てるというのは1つありな戦略だと思いますね。

小笠原:大企業が国で、自治体がスタートアップみたいな見立てで。

:そうそう。まさにそう。

小笠原:その制限の中でどこまで動けるか。

水野:ただ、この時期に動ける自治体というのは、やっぱり前から議論していて、これは大企業でもそうなんですけれども、議論して準備していたところが早く動けていて。

コロナで途端に動いたというよりは、今このタイミングで動けたというところは自治体にしても大企業にしても、やっぱり従前の準備とか議論があったからできているというのは、すごく大きなところだと思うんですよね。

:そこは本当、政治家の直感だと思いますね。準備してきている。

「法律を理由にしたいだけの人」がいる

小笠原:そういうのを後押ししていこうと思うと、やっぱり国と行政の契約じゃないんですけど、関係。さっきの法律と条例みたいな話があったと思います。意見が欲しくて聞きたいだけなんですけど。

新しい枠組み、法律、なんらかの権限移譲、こういうことができるともっと後押しできるんじゃないかというのはあるんですかね? 今のままでも、十分に実現可能なものなんですかね? 

水野:従来の憲法や地方自治法の解釈による制約はあると考えられていると思います。でも、そこはもう「矢沢永吉」的に「やるやつはやる。やらないやつはやらない」ということなんだと思うんですよね。

僕は基本的には押印文化もそうなんですけど、「法律が壁になっている」という論を信用していないです。それは法律が壁なんじゃなくて、なんか法律を理由にしたいだけの人がいるという、基本的にそういう考えなんですよね。

小笠原:すばらしい。

水野:ただ、そういうふうに言ったとしても、実際に動けない人たちはロジックも必要だと思うし、法律の解釈や法改正によりナッジされる人たちがいるのはよくわかるんですけど。でも、なんか法律のせいにして動かないというのは、なんかちょっとやっぱり違うなと思っちゃうほうだと思う。

小笠原:完全にその一言が欲しかった、みたいな感じになってきました(笑)

企業は変われる

:企業もそうなんですよ。最近うちのエコノミストが数字を出したんですけど、オフィスの空室の話があったじゃないですか。あれは、2019年の7月ぐらいに東京都で調査したときの「なぜテレワークをしないんですか?」の理由の、だいたい7割ぐらいが「テレワークにできる制度がない」と言っているわけですね。

でも、今みなさん突貫で作っているじゃないですか。だからこのまま例えば全就業者の1割ぐらいがテレワークにシフトしたら、オフィスの空室率が15パーセントまでいきます。

だから、変われるんですよ。マネジメントとか制度の運用の問題で解決できるところが多いので。

水野:だからそういう意味では、制度を変えることによってあるべき方向に誘導するという意味は、制度とか法とかというものには一定の役割があるということもあるんでしょうね。

小笠原:なんか、細かく言えばある。でも大きなところではないみたいなのが、今、話しててすごく感じましたよね。

僕らが直面しているので言うと、さっきのtsumug(セッション1「New Normから産まれるサービス」)でやっている、Tink DeskとかTink VPOのマンションとかの1室をオフィスに変えようとしていますけど。

その場合、いわゆる用途地域とか……。

水野:ですね。用途制限の問題が出てきますね。

小笠原:あと容積率の緩和、マンションって緩和があって、通路とか共用部を容積に入れなくていいじゃないですか。これが事務所としての空間が存在すると、途端にそこまでの通路は容積に入れろという話になったり。

そういう具体的に動き出したあと問題になることはありますけど、たぶん何かをやると決めるところでの法というのは本来邪魔者ではなくて、ということなんでしょうね。

人間はそれほど”合理的な存在”ではない?

:だからけっこう欧州も、いろいろ盛り上がってるGDPRとかありましたが、コロナが起こったときにいきなり最初やられたのが、BtoGのデータシェアリングみたいな話なんですね。

企業から政府にデータを渡したときに、これをどうやってシェアリングするかみたいな枠組みをまずは考えると。当然ながらコンタクトトレーシングもやりますから。じゃあ、それをまずどうやって政府に共有していくべきかという、逆の流れが出てきているわけですね。

だからそういう意味では、けっこう意外と柔軟に動かれているところも実はあって。

あともう1つ、市民まで広げたときの契約を考えると、今日まさに総務省の勉強会で話をしていたんですが、とうとう認知限界の話が出てきたんですよね。

小笠原:認知限界の話が出てきたんですか!?

:けっこうこれはまじめな議論をしています。限定合理性の話で。そういう意味では、テレワークが進み、大量のデータや情報が飛び交う中で、認知限界が起こり、そもそも同意で全て解決できるのか? ついていけている人もいますけれども、全国民ついていけるかという話ですよね。

サインの話もそうかもしれないですけど、意志決定がもしかしたらもろいかもしれないので、やり直しがきくようにしないと危険だなと。これはフェイクニュースもそうですが。

だから、やはりそこの問題はすごく大きくなっています。総務省の中でも。

水野:そうですよね。GDPRはまさに個人の自由意志を信じて、同意至上主義で作られている。完全な個人、ちゃんと意志決定ができる個人がその意志決定に基づいて同意した、それに個人データに関するコントロールの権限を与えているという、そういう設計でできているんだけれども。

でも、実際にみんな利用規約を読んでいないとか、行動経済学的な視点とか。あるいは今、東さんがおっしゃったような認知的な限界とか、そういったところから、本当に人間はそんなに合理的な存在なのか、そんな同意をトリガーにして有効な契約とか合意というものが成立するのか、みたいなところを今すごく疑問を持たれているところはあるのかなというふうに。

そういうところからGDPRの、次のデータシェアリングのモデルみたいなものを、それこそWEFって、ワールドエコノミックフォーラムとかが打ち出したりしています。

小笠原:確かにね。認知限界の話って、サービスとか情報がこれだけあふれている中で、わりとタブーというか。触れるといろいろ崩壊するなと思っていたことの1つで。正直言うと。

(一同笑)

小笠原:実はもうすでに、前からそうでしたよねというのがあって。

:面と向かって言わなかったじゃないですか。

小笠原:そうなんですよ。

:もう言っていいだろうというね。

いま存在する多くの規約は成立しない

小笠原:ほう(笑)。だって、認知限界の話をしだすと、現在の多くの規約って成立しない気がするんですよ。

:そうなんですよ。そういう話がけっこう出ていて。けっこう恐ろしくなってます。

だからこれだけプライバシーとか個人情報とかの話も、ずっと議論してきたじゃないですか。コロナが起こった瞬間にトラストの話と、トラストフレームワークの話とは別に、オーソリティの話が出てきたんですよ。誰かが示してくれと。

そのような議論が出てきた瞬間に「おや、今まではなんだったんだ」、国民がプライバシーや個人情報に対して非常にナーバスになっていたこれまでと大分変わってきてるぞ、というのは、若干ありましたからね。それで混乱しているわけですよ。

小笠原:そっか。

水野:こないだEUのGDPRとかを担っているデータ保護当局が、個人データの利用を許可しなければサービスにアクセスできなくなる、というタイプのクッキーウォールによる同意は有効な同意とはいえない、という意見を出したんです。GDPRとか、いわゆるクッキー法ができた以降に、海外のウェブサービスとかでよくみるクッキーに関する同意ボタンですね。

小笠原:そうですよね。

水野:ああいう「ちゃんと合意を取れているの?」ということに対する疑念が、今は出てきていて、すごく大きな問題になっています。

社会契約を再考察する

小笠原:東さんと僕は、少し前に経産省のデータポータビリティの委員会にいて、やっぱり議論としてはすごく言い方は悪いですけど、おもしろかったですし。

ポータビリティはやっぱりそれは担保するべきで、当たり前のことなんだけど議論しないといけないよねと。

なんというのかな、まだ言語化できていないんですけど。今はそうだよねということと、今の認知限界とか前からそうだったよねということを、ものすごく考え直している時期に入ってきて。

それを考えると、もう認めるしかないとか、それさえも破綻しているじゃんとか、決めていく。ラベリングしていく時期に入ってきている気がして、ちょっとドキドキしているんですよね。本音で言うと。

水野:とはいえ、社会を動かしていかなきゃいけないし、私人間の契約だけじゃなくて、民民とか、私人の契約だけじゃなくて、ある意味市民、国民と国との間の契約みたいなものというか法律を、どう自分事としていくかみたいなところに、なんというか、やっぱり、同時に問われていくという。

小笠原:そのあたりで言ったら、水野さんと前に少しやりとりしていた社会契約って、見直されるというと変なんですけど、もう少し、みんなが定義というか共有化していく時期というか。

水野:どうなんですかね。それはなんか勝手に言っているだけなんですけど。

だけど、欧米とかは社会契約の概念って自然に広まっているというか。国家と国民はある種の契約をしている、という観念を持っている人が多いですよね。

制度とか社会をリデザインする、みたいな文脈で、わりと気軽にソーシャルコントラクトとかニューソーシャルコントラクトという言葉を使ったりしますね。

日本ってそもそも、社会契約論で成り立っているのかみたいな疑問も出てくるわけですけども。

小笠原:そうですね。僕はちゃんと学んでいないのであれなんですけど。社会契約って、いわゆる国と国民の契約と捉える場合と…。個人間の、相互の約束全体みたいなイメージで語れるときがあるような気がしているんですけど。

水野:そうですね。はい。個人間の契約の総体が積もって社会契約になる、みたいなイメージで語られることはありますね。そこは非常に難しい議論がありますし、僕は学者じゃないので、あまりその辺に立ち入らないようにしているんですけど。

小笠原:ああ、そうなんですね。

水野:ただ、なぜ国家というものが必要なのか、社会とはなにか、どのように秩序を保っていくのか、みたいな説明や理論に、社会契約というのが一つのフィクションとして説明に使われている、ということです。そういう契約している感覚をみんな持てているのか、という問いにつながりますよね。

小笠原:そこのスケーリングというか、さっきの山梨などの「とある地域での社会契約」みたいなのって、いろいろできるとおもしろそうだなと思いながら聞いていたんですけれど。

水野:そうですね。自分の興味としては比較的、いかに制度や、法律も含めルールといったものを、自分ごとにしていけるか。制度に対する信頼、トラストでもいいんですけど。

それをどう、こう回復できるのかなという興味が自分の中ですごくテーマとしてあって。それをどうやっていくかの議論の中で、新しい社会契約とか、あるいは契約に変わる新しい説明原理みたいなものを考えたい、あみだしたいなと思っていますよね。

小笠原:それはそれだけでまた話せそうですよね。めっちゃ興味ある(笑)。

若年層の悩みの種は、引越し

:あと、特に若い世代で起こってきているアンケートで、多都市居住系の話が出てきたときに、これもある意味で本当はアンタッチャブルな話なんですけど。若い人たちの一番の困りごとって引っ越しなんですよね。

住民票ってなんだっけ? みたいなことになってきちゃうんですよ。それこそ新卒が(東京に)来る前にもうコロナショック起こっちゃっているから。東京に出てくる前にリモートなんですよね。まだ東京に出てこないというケースも起こっているわけですよね。

だからそのあたりも、例えば住所の問題もそうですし、意外と国民、特に若い人が身近に感じているところの、多都市居住、ある意味で時間と空間に縛られない生き方がどんどん進んできた中で。

じゃあ自分が1年間住んでいる場所が「何パーセントが東京で、何パーセントが地方です」というときに、そこは国民市民が恩義を感じた自治体に対して税で反映できるかと。

ふるさと納税みたいな話はありましたけれども、ある種のeResidency的なことを考えている自治体も出ているんですよ。これは(石川県)加賀市ですけれども。「e-加賀市民」とかって言っている。仮想市民というのを作っていこうと。

小笠原:加賀はそうなんですね。

:そうなんです。あの市はおもしろくて、6万人なので消滅可能性都市と言われているんですよ。だから今回、マイナンバー対策とか給付金配布と経済対策とセットにして、マイナンバーで申請したら5,000円あげると。全市民分ということで3億取ったんですよ。

もしこれがいきなり100パーセントだった瞬間に、まったく違った、ある種のイーレジデンシー的なものを日本国内対象じゃなくて海外に対してもできるかなと。

後、ちょっと気になるのが、キャピタルフライトの話が出てきていたりはするんですよ。だって日本もなんやかんや今の状況でいうと、株価はそんなに下がっていないじゃないですか。不動産もそこまで暴落していませんと。

台湾の件がありました、総統戦がありました、香港でまた暴動が起こっていますという状態で、アジア圏でやっぱり見たときに、安定しているのはなんか日本だなみたいな話で、けっこう地方にお金を流していくという動きがいろんな国から来だしているというのが、金融業界から入ってきていて。

水野:おもしろいですね。

:これはなんぞやと。彼らがどちらかというと多都市分散居住を国をまたいでやっていくという、そのときは別に日本の都市部より自然豊かな地方のほうがいいという考え方になっている。

水野:そうですよね。だから分散居住とか、関係人口的なとか、そういういろんなことを考えたときに、じゃあこれまで言われてきた社会契約のモデルってそのままでいられるのかというような話とか。

地方税について

水野:どことあなたは契約しているんですかみたいな。そういう話も出てきますよね。税の問題はすごくわかりやすいですけど。

小笠原:この7~8年かな。福岡市民なんですよね。いわゆる地方税は僕、福岡に納めたいから福岡に移したんですよね。

:そうですよね(笑)。

小笠原:これは高島(宗一郎)市長がスタートアップ特区を作るぞって言ってるのを聞いて。じゃあ、それが実現したら僕は納税しにいきますという約束をして。

(一同笑)

小笠原:俺は絶対福岡に納税したいと。たまたま納税額が大きい年があって、ちょっと嫌みっぽくLINEで「○○円、納税します!」と送ったら「がんばって使います!」って(笑)。

全部僕は、約束・契約だと思っていて。

水野:それは社会契約っぽい話なんですが、普通におがさん(小笠原氏)と高島さんの契約にもなっていそうだけど(笑)。

小笠原:ですよね。いろんな地域で約束が守られてくると、他にも分割して納税したくもなってくるんですよ。

:そう、そう。そうですよ。

小笠原:そもそも僕は東京・京都・福岡という多拠点で生活をしていて、大学の授業があるときは京都に行っているしとか。今回全部オンライン化されたことで、京都に行かなくても授業はできてますが、京都にある京都芸術大学だからこそできたことがあるので。そこに対しては、僕はなんらか公にお金が払えるなら払いたいんですよね。その地域にとか。

そういう分散納税をすごくしたいなというのが。

水野:それはすごくわかりますね。でもルールが、それぞれの国とか地域で違わないから、なんかそのまま社会契約とか租税の話というのは、もちろん関連性は間違いなくあるんだけど。なんというか別にも考えられるんでしょうね。

小笠原:確かにね。