2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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小島慶子氏(以下、小島):今日はせっかくいろんな方に来ていただいているので、質問をしたい方がどなたかいらっしゃったら、ぜひ手をあげていただければ。
(会場挙手)
質問者1:男らしさといえば、かっこよさのイメージと結びついていたと思いますが、そこから出ようとすると、例えば「男社会から認められない」「あいつはダサい、弱っちい」「女性からも認められない」「器がちっちゃい、頼りない」。そのように思われるんじゃないかという、不安や恐怖があると思うんです。どうやって男らしさの呪縛から逃れていけばいいのかと……。
小島:すばらしいご質問ですね。まさにジェンダーの呪いに気づき、呪いから自由になろうと思ったときには、不安と戦わねばならない。どうですか? 田中さん。
田中俊之氏(以下、田中):これはまさに私が今日お話ししたいと思っていたことでもあり、先ほど村中先生がおっしゃった「自分は女性ばかりの中にいたから」という話ともつながるんですが。星野さんが前にFacebookで「カカア天下についてどう思うか」を投稿されていましたよね。
星野俊樹氏(以下、星野):あ~はいはい。
田中:すこし解説してもらってもいいですか?
星野:思い出します。亭主関白の反対に、カカア天下という言葉があるじゃありませんか。それはどちらも男尊女卑的な価値観だという話ですが。
とくにカカア天下といえば、言葉の使われている場によくありがちな空気として、男性が「俺のかあちゃん強くてさ。カカア天下でさ」というようなことを言うじゃありませんか。それを周りが生温くニヤニヤしながら……なんと言うんでしょうね……。
田中:所詮は男性優位社会がある前提で、言い訳をしているというお話を書いていたんですね。
星野:自分で書いたのに忘れてる(笑)。
(会場笑)
田中:今、唐突に振ったので、すみません(笑)。僕がおかしい。
僕は何が言いたいのかと言えば、社会学ではサンクションといった考え方があるんです。正のサンクションと負のサンクションがあるんですが。男らしくふるまったら褒められるんですよ。例えば僕がいっぱい働きます。「田中さん、最近いっぱい本出してすばらしいよね」と褒められるわけですよ。
あるいは逆にまったく極端に、私が仕事に疲れちゃったから休職しようかな、もう辞めちゃおうかなとなったら、負のサンクション。「男が仕事を辞めるなんて……子供はまだちっちゃいんでしょ?」と。つまり、「男らしくふるまえ」と。
これは女性もそうだと思うんです。女らしくふるまえば、「今日はお洋服素敵だね」と言われるし。そこから逸脱したようなファッションをしているならば「いや、その格好はおかしいよ」と。
小島:まず“女子力が高い”という言い方があるからね。
田中:あるわけですよね。ここからが問題で。なにが言いたいかと言えば、僕はジェンダー研究者として、世の中全般はそう動いているとしか考えられないんですね。つまりこれだけ「男らしい・女らしい」ということをみんなが意識せずにできるということは、それがやっぱり常識化してしまっているからである。違和感を感じない人がマジョリティでなければ、この仕組みは維持できないはずなんです。
しかし我々は違和感を抱いているといったときに、カカア天下の話なんですが。例えば自分の小さな仲間、自分の家庭については、社会の秩序通りにならなくてもいいんじゃないかと。
確かに星野先生がおっしゃるように、カカア天下が言い訳として使われる部分はあると思うんですよね。実際には男のほうが有利なのに「うちのかあちゃんがさ」というような部分はある。実際に女の人が主導権を握って……。
男の人が助手席に乗って女の人が運転していると「なんだあれ、どうしたの」と周りは思うじゃないですか。でも「うちでは奥さんが運転して僕が助手席という決まりで、それで周りが何を言おうがなんとも思わない」ということがあると思うんですよね。
ですから、それに対する答えとしては、社会全部と戦うことは非常に疲弊すると思うんです。例えば社会を変えよう。そう思うことはとても大事なことなのですが、自分の目の黒いうちに変えようとすると僕は無理だと思うんですね。でも、平塚らいてうが今の社会を見たらどうだろうか。「女性もかなり活躍できるようになったねぇ」と感じるんじゃないかと思うんです。
ですから僕の理解では、まず1つは、こうした話をできるコミュニティを作ること。星野先生が授業でやったように、ああいう話をざっくばらんにできる場所を持つ。仲間を作るということが1つ。
長期的には変わってほしいわけですから、今すぐ我々は解放されないかもしれないけれど、自分の子供、自分の孫、その次の世代に、軽くなるようなことを……例えば平塚らいてふを挙げましたが、彼女はそうしたアクションを積んできたわけですよね。
ですから、その2つが大事じゃないかと。社会を長期的に変えようというビジョンだけであれば保ちませんよ。これは苦しい。
小島:安心して男を脱げる場所をすこしずつ広げて。最初は本当に身内からだとしてもね。
田中:そういった意味では信頼感が大事で、例えば小島さんとは本も出すくらいいろいろ話したから、僕がとんでもない情けないことを言っても、小島さんは聞いてくれると思うんですよ。
小島:聞きます、いつでも。
田中:ありがとうございます。そういう人を作っていくということが大事です。やっぱり今さら思うんですが、仲間は大事だと。今はいい話ばかりをしましたが、自分がすこし変な方向へ行ったとき「いや、それ違うよ」と言えなくありませんか? 大人同士では遠慮してしまって。
なにか変なことになっていても、あれは大人で勝手にやっているんだからとほうっておく。たとえば、あやしい投資に手を出していても(笑)。僕の高校の友達が手を出しているんですよ。
小島:それは止めてあげて(笑)。
田中:でも止めても聞かないし、ほうっておけばいいやなどと思っちゃうと、嫌じゃないですか。友達であれば、やっぱり相手は一瞬むかつくかもしれないけれど、話をしてあげる。
小島:男の人はとくに職場の人間関係以外で、今言ったような競争ではない文脈で話をするということが、もともとチャンスも少ないし、スキルもないし、とても苦手です。しかも不安が強い。自分の弱みを見せたらバカにされるんじゃないかと、なかなか自信が持てない。繰り返しおっしゃっていますが、雑談力は大事。
田中:共感ベースのコミュニケーションができる人たちを作るということで、男らしさなり女らしさなりを一時的にでも脱げたらいいんじゃないかと僕は思うんですが。
小島:そうですね。ですから、いきなり孤独の戦いではなく、仲間がいると思った瞬間に、脱いで居場所を作ってから、すこしずつ世の中に言葉を投げていくというやり方がいいんじゃないかな。
村中直人氏(以下、村中):すこしだけいいですか?
小島:はい、もちろんですよ!
村中:私は日頃、生まれつき脳や神経がマイノリティの子供たちの支援をしています。そうした文脈の講演に呼んでいただいたりすることもあるんですね。そこで親御さんや子どもたちに、よく「半径10メートル以内の社会適応を目指そう」と言うんです。
小島:お~。
村中:半径10メートルというのは、だいたい今目に見えているくらいの話ですよ。例えば自閉症と言われている子たち、とくに私が支援する対象は知的障害がないタイプの子たちは、本当にどこへ行ってもマイノリティなんです。ですから社会が、全て敵に見えちゃうんですね。
そこで戦おうとしたときに、親御さんもそうですが、社会というものが1つの大きな敵に見えると、戦っても疲弊するんですよね。でも違うんですよ。実はこうした小さな社会の寄り集まりが大きな社会ですから、自分に合う半径10メートルの社会がいっぱいあるはず。
例えばそれこそ男性性の話で言うならば、臨床心理士村に来てください(笑)。そこに男性性はぜんぜん求められていないので。逆に言えば仕事ができない人ですから、マッチョな心理士は。
小島:なるほど。そっかぁ(笑)。
村中:そうしたことなんですよ。この小さな社会に来れば、価値観はすごく多様。ですから目指すべきは、半径10メートルの社会適応なんです。大きな社会を全部変えようとしなくていい。あなた1人が幸せに生きていくためには、半径10メートルの社会適応を3つ見つけられたら、かなりハッピー。
2つでなんとか生きていける。1つであればとりあえずギリギリ耐えられる。3つ見つけることを目標に、親御さんにもお子さんにもがんばってという話をしますから。男性性の話も同じだろうかと思っています。
小島:ありがとうございます。ではもう1名くらいいけるでしょうか?
(会場挙手)
では、こちらの方で。
質問者2:小島さんに聞きたいのですが、今言ったような、男性としてふるまわないといけないことについて、もちろん男性側が無意識にそうしているというのもあるのですが。ある部分では、女性がそこを期待していることもあるのではないかと思いまして。そういった部分は子供のころからの積み重ねなのか、先天的な部分もあるのかわかりませんが。
女性でもいろんな方がいるじゃありませんか。小島さんはものすごく自立心が強いし、責任感も強い方だと思います。逆にそういった男性社会は、それはそれでおいしいじゃんと思っている女性もいるというか。女性の中で、そこでうまくやっていったらいいんじゃないかと。
例えば最近、20〜30代くらいで専業主婦願望が増えていることや、ガラスの壁と言いながら部長職を嫌がる女性が多いといったような話もある中で、例えば小島さんのような方がもっとジェンダーのそういった部分でがんばっていきたいと思っているのに、こちらの女の人たちが邪魔をしているというか、女性の自立の足を引っ張っているんじゃないか。それが両方進んでいかないかとも思ったりするんですが。
小島:お答えしても大丈夫ですか? これは男らしさでも女らしさでも両方だと思うんですが。私ね、いろんな人が生きていけることがいいと思っているんですよ。
ですから私は、男の人についていって男の人に守られたいという人も、その望みどおり生きていけるし、私は自立してるから男の人に男尊女卑的なことやられるのは嫌い、という人も生きていけるのがいいわけです。どちらか1つにしなくてはいけないとは思っていないんですね。
例えば「私は男の人を立てることがいいと思う」と言っている人の中にも多様性があり、本当にそのようにそれがハッピーだと思っている人もいるかもしれない。中には先ほど言ったように、サバイブするのに一番合理的だから選択しているけれども、もし男を立てなくてもサバイブできるのであれば楽だと思っている人もいると思うんですよね。
あとは、本当に無意識にそこに過剰適応してしまい「自分の意思でこうしているんだ」と思っているだけかもしれない。環境が変わると「実はあれは苦しかったんだ」と、後で気づく人もいるかもしれない。
いろんな理由があるから、見え方としてはみんな、男尊女卑に対して違和感がない女性に見えているだけだと思うんです。そこを一括りにしないほうがいいと思っているんです、私はね。
やっぱり一番不幸なのは、女同士男同士で分断して足の引っ張り合いになること。マッチョなおじさんとここにいる男性の方々がいがみ合う。私のような女性と、女はお家にいて男の人の後ろを3歩下がってついていくことがいいという人がいがみ合っても、なに1ついいことがないので。
ここまで意見の違う人同士であっても、それぞれに嫌な思いをせず、それぞれにある程度自分の人生を納得して生きられる仕組みへの合意をどうやって作ろうかと、いつも考えるようにしています。
ただ、やっぱりそこでどうしても問題になってくるのは、自明のこととして今もまだ強固に残っている男尊女卑という構造が、男性のことも女性のことも追い詰めて過剰適応せざるを得ないような状況になってきて、しかもそれが報われない状況になっているのが、今の日本だと思いますから。
「誰も得しないよね」となりつつある男尊女卑の構造は、いい加減見直してもいいんじゃないかという。いろんな生き方の違いはあっても、合意はできつつあると思うんですよね。
『男が痴漢になる理由』という本を書かれた精神保健福祉士の斉藤章佳さんという方が、私との対談の中でおっしゃった「日本は男尊女卑依存症社会だ」という言葉を、私は名言だと思っています。
みんな、男尊女卑という構造が苦しくてやめたい。やめたいけど、働き続けなければいけないということ、自分の意見を言えば抑圧されるということについて、目の前の苦しさから逃れるためのサバイブ術として「俺は男だから男の道を貫くべきなんだ」「私は女だから、男を立てて賢くふるまうのが女の道よね」などと考えざるを得ない。
男尊女卑を強化して自ら首を締めてしまう、やめたいのにやめられない。辛さから逃れるためにそれに依存してしまう、男尊女卑依存症社会という呼び方を、私は名言だと思っているんです。ぜひ『さよなら! ハラスメント』という晶文社から出ている本を読んでいただきたいんですが(笑)。
みんなでこの依存症をやめるためには、私ら、俺らは依存症だと自覚する。「男尊女卑という構造の中でうまく回っていると思い込まされているけれど、これなしで生きていったほうがもっと楽なんじゃない?」と。あなたと私の選択が違ったとしても、どちらも納得してそれを選べる世の中がいいわけですから、もうこの構造はいらないとなったらいいと思って、こうやってイベントをやっておりますので。
今日は男性もたくさんいらっしゃるし、女性もいらっしゃってくださっていて、すごく嬉しいです。ねぇ!
田中:男性が多いと思います。10年くらい前であれば、この手の話は、全員女性というような状況だったんですよ。そうした問題意識を持って来てくれる方がいるということは、変わりつつあるんだろうと思いますよね。
小島:本当にここ数年でも、ずいぶん変わってきたなと思います。
まだまだみなさんからのご質問をいただきたかったのですが、残念ながらお時間となってしまいました。
最後に宣伝のようになりますが、オンラインサロンのメンバーになっていただいて、質問を投稿していただければ、こちらの3人もメンバーでいらっしゃるので、その質問にすこしお答えするというようなこともできます。もしこれを機会にご検討いただけるのであれば、DMMの小島慶子のオンラインサロンにお入りいただけると嬉しいです。
こうしたイベントをこれから2、3ヶ月に1回はやって、みなさんとの出会いの場も増やしていきたいと思っております。またぜひよろしくお願いいたします。今日は本当にありがとうございました。
イベントというものは、最後に一言ずつあるものですよね。時間が無いので、本当に一言だけ、もらってもいいですか?
(会場笑)
田中:今日言いたかったことがほかにもあったので、オンラインサロンの課題に書きますね。
小島:ありがとうございます。ぜひぜひ。ありがとうございます。
星野:男女比の話が最後に出たのですが、私もすごく嬉しかったです。なぜならば、やはりまだ教育関係の研修の講師やトークイベントに出ることも多いんですが、残念ながら女性9、男性1という状態がまだまだ続いているんですね。
でも「男らしさ」というキーワードで切り込むと、ここまで男性も取り込めるのかということが今回のイベントで得られた収穫でした。この光景がすごく嬉しいです。ありがとうございました。
小島:ありがとうございます。
村中:ありがとうございます。先ほどもお話ししたように、私は完全にこのテーマは門外漢で、おそらくこの中にいらっしゃる方のほとんどが「誰やねんお前」と思いながら私のことを見ていたと思うんですが(笑)。
脳科学的なところが進捗してきたり、心理士ももうすこし社会でがんばっていかなければというところで、ニューロ・ダイバーシティといった言葉をぜひ覚えて帰っていただければと思います。私はTwitterでも発信をしていますので、よかったらのぞいてみてください。以上、ありがとうございました。
小島:ありがとうございます。村中さんにはまた改めて、発達障害のことについてご一緒できればと思います。今日は本当に長い時間をおつきあいいただき、ありがとうございました。
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