他人に完璧さを求めない

辻貴之氏(以下、辻):ということで、そろそろ時間が迫ってきたので、オンラインQ&Aにいきます。いくつか質問をちょうだいしています。『相手が上司だとフラットに感じられません。遠慮など、気持ちの持ちようでしょうか』。さっきのフラットに向き合うという話ですね。誰かと向き合うときにフラットで、というのは難しい場合はどうしたらいいでしょうかという話です。

伊藤羊一氏(以下、伊藤):これは、結局自分の問題であることと、それから上司側の問題であることがあって。上司側の問題である場合はどうしようもないですよね。

自分側の問題であるときに、上司に対する生来的な気質というのが部下にあって。そもそも上司とか部下という言葉は僕は嫌いなんですけど。マネージャーは完璧であるという先入観を持つとなかなかうまくいかないですよ。

マネージャーだって完璧なわけないんですよ。ミスもするしだめなところもあるし。完璧だと思うと、なんかちょっと気に入らないことを言うと、「あの人は気に入りません!」という感じになっちゃったり。

逆に全部完璧だと思うから「わかりました!」となっちゃうと。こういう関係だとフラットになりようがないんですよね。そうじゃなくて、あなたも人間、私も人間。ミスもするし、みたいな関係値を自分が持てて変えられるのであれば……。

それで、あの人がだめなところは私がサポートしますよと。その代わり私がだめなところをわかってもらってサポートしてもらえるよねと、そんなふうに思えるようになったら、これはけっこう……。だから同じ目標を実行するチームの一員なんだと。上司というのは役割なんだと、機能なんだと思えたら、けっこううまくいくような気がするんですよね。

対立関係から抜け出すための対処法

澤円氏(以下、澤):アグリーですね。他人はコントロールできないので、コントロールできる部分で勝負するというか、暮らすというのが一番大事ですよね。

本当にその上司がストレスの種になって自分がすごくつらいというのであれば、もう正直辞めちゃえばいいと。今この瞬間に辞めちゃうというのが得策でないとすれば、転職活動をしている時点で復讐劇は始まっていますので。

その転職活動によって、「その人から自分は距離をおいているんだ、へへーん」という自分を褒めてあげる。そうやって心の平穏を取り戻してもらえるといいかなと。

その上司に、正座させて石でも抱かせて45分講義を聞かせたところで何一つ変わらないと思うので。無駄なことを考えてもしょうがないですから、自分ができることという。

もう1個が自分をねじ曲げる必要もないと思うんですよね。その人によって1ミリの影響も受ける理由はないので。これはボクがよく言っているんですけど、腹の中でずっと「うるせーバカ」と言っていればいいと。何を言われても全部それしか答えない。腹の中ではね。

口でこれを言うといろいろと問題が起きたりするので、だから生返事しておけばいいと。相手がそれでブチ切れて、なんか暴言でも吐こうものならハラスメントで訴えればいいので。

:それはよく澤さんがおっしゃいますよね。 その腹の中で話。あと羊一さんがおっしゃったところで、同じ目標を共有する。この目標、そもそも我々は何のために働いているんでしたっけという、他の人が否定し得ない目標を共有して、ただの役割分担なんだということを理解するという。

伊藤:そう、そう。それを図で描くとこういうことなんですよ。結局その人と……。だからこれがマネージャーとメンバーである場合もあるし、他の部署の人でもあると思うんだけど、結局自分の人と他の人を同じレイヤーで自分の職務に忠実に話していると必ず対立するんですよ。

自分の職務に忠実であろうとするんじゃなくて、俺たちだってボクたちだって、同じ目標に対して向かっているんだよねということを共有すれば、途端に対立はなくなるんですよね。なんとなく、そんなことをいつも言っていたら、エール株式会社の取締役に就任された篠田真貴子さんも、IT批評家の尾原和啓さんも同じことを言っているんですよ。

だから結局、たぶんここなんですよね。マネージャーとの間でも目標を共有できれば、対立はなくなるんですよね。そうねという感じになるんです。

「Why」は相手を詰める聞き方になってしまう

:いわゆる管理職の人たちに、叱り方についてアドバイスをするときに「絶対にWhyで会話をするな」と言っているのとまったく同じなんですよね。「なんでそれをやったの?」とか「なんでそれができないの?」とかいうのは、主語がその人なんですね。

「お前はなんでそういうやりかたをしたんだ」というので、becauseが全部その人の責任になっちゃうんですよ。いわゆる詰められている状態になると。だけど、「何があった?」と言うと、さっきの図とまったく同じことになるんですよね。

対象は別にあって、取り除かなきゃいけない問題があって……。ここに問題があって、Aさんと、例えば上司がやり合うというのではなくて、これ(問題)をどうするかという話。

図としてはまったく同じなんですよね。叱るときに何かをすると、これがものすごく強烈なのでこっちが潰れちゃうという状態になりかねないので。だからそうしないようにするには常に「何があった?」という問題を取り巻くトピックに持っていくという、そういう思考をしましょうよと。

:まさしく今、澤さんがおっしゃったように、「何があった?」に目を向ける。羊一さんの言うところの目標に目を向けると。さっき羊一さんがおっしゃったように、もともとの日本の会社のありようとか、先方のマインドセットとかでなかなか難しい場合に、いやいや僕たちは役割の違いだけでなんとか目標を共有する方に向かいましょうと持っていけるようにする何か。

伊藤:とにかくそういう状況があるんです。だから、ここのセッションに来ている人たちは、だいたいこの話をわかってくれると思うんだけど、案外、外ではわからない人が多いです。

でも、それはもうしょうがない。しょうがないけれども、そこを打開していく。どうするかというと、手っ取り早く言うとコミュニケーションの絶対量を増やしていくんですよ。

とにかく話す。そうすると、さっきもチャットで出てきましたけど、こういうふうに思っているんだけどわかってくれないというときに、それをちゃんと相手に言っていますかということなんですよ。

:なるほど。

伊藤:それだけ言うと唐突なんだったら、最初の朝の挨拶から含めてとにかくしゃべる。朝の挨拶とか「今日の背広かっこいいね」とか、そういうことをしていますか、というところなんですよね。

失敗をあえてカミングアウトしてみる効用

:そのフラットな話だと先ほどご質問をいただいたので、これにお答えしましたということで(次の質問が)来てますね。「澤さんは失敗を経験しまくるとおっしゃっていましたが、どのようにどんな観点で失敗を分析したり蓄積されたのかお聞きしたいです」。

:自慢じゃないですけど、そんなの冷静に分析なんてできるわけがない。もうへこみまくるし落ち込みまくりますので。そんなのはぜんぜんフラットにできないんですけど。

ただ、ボクは本当にありがたいことに周囲に恵まれていますので、周りがいろいろ言ってくれるんですよ。「ここはよかったよ」とか、「ここまでうまくいってたじゃん」と。その代表格がかみさんで、かみさんがとにかくそういうふうに言ってくれると。

あるいはイベントに行ったらイベントの場で、サポートしてくれる人たちがすごくたくさんいらっしゃって、ズタボロの中でもその人たちがいいところを見つけて、ちゃんと教えてくれたりするので、ようやく平静を保てると。

あとはさっきの羊一さんの話にも通じるんですけど。アウトプットをひたすらしていくことによって言語化をしていくやりかたですよね。モヤモヤしている状態が一番不快だし落ち着かないし、いいことは何もないので言語化すると。例えばVoicyでぶっちゃけてしまうとかね。

:この間のイベントとかね(笑)。

:そうすると、コメントでまあみなさんが慰めてくれるわけですよ。ああいうのが、実はむっちゃ励みになるんですよね。だからカミングアウトしちゃうのがすごく大事かなと。

その時点では詳細な分析ができていなくてもぜんぜんかまわないです。アウトプットしていくうちにだんだん言語化されていくので。次にそれがヒントになって、何か行動が変わったりすると思います。

自分が問題視していることは、本当に「問題」なのか?

:なるほど。ありがとうございます。もう1つ質問。「どうしても許可を求めがちです。謝罪しなくちゃいけなくなることやなにやらが起こってしまいます。どういうモチベーションやマインドセットを持つといいでしょうか?」。つい相手に許可を求めてしまうマインドセットを、どうしたら変えられますか? 

:うーん。今問題にされているのはまず行動の話だと思うんですけど、本当にその行動って自分にとって変えなきゃいけないものなのかどうなのかというのを、1回自分に問うたほうがいいでしょうね。

どういうことかというと、「許可を求めている」とおっしゃっていますけど、その行動は本当にネガティブなものなのかどうかって、ぶっちゃけわからないですよね。もしかしたら、それも含めてしてもいいことかもしれないわけですよね。

もっと言うと、許可を求めているのではなくて、その人を立てようとしているのかもしれないし、みんなでより一層大きなことをやるために必要な仲間を募っているのかもしれないわけですね。自分の中で1回、そういう分析をしてあげることで、より思考の深掘りができるんじゃないかなと思うんですよね。

伊藤:うん、本当にそう。あと思うのは、僕なんかもマネージャーとして言っていることがぶれたりするわけですよ。細かいところはぶれたりする中で、僕もしゃべりながら変わっているところがある。なので、これが完璧と思われたくないんですよね。

そうだとすると、やっぱり「ごめん、ごめん。今こっち側に言ったけどこうだよね」「こういうこともあるよね」と、マネージャーが常にそこを俯瞰する必要があるし、メンバーも「それってこう思うけどどうですか」ということをちゃんとコミュニケーションするということですよね。そこのすり合わせはすごく大事だと思いますね。

「今どういう状態か」を俯瞰する習慣を持つ

:今は確かに澤さんがおっしゃったように状況を分析するとか、羊一さんがおっしゃったように「あ、ごめん」と言えることが大事ですよね。

:ああ、それが本当に大事。できない人が多いのも事実。

伊藤:そう、そう。

:本当に大事なんですよ。

伊藤:周りがなかなかできないかもしれないけど、ここにいらっしゃるみなさんがどうすればできるようになるかというと、最近わかっちゃったんですけど、とにかく俯瞰ですよ。「今がどういう状態か」というメタ認知。

澤さんもたぶん日常的にやられているんだと思うし、僕も瞑想することによって俯瞰という視点を常に手に入れているんですよね。それで、「待てよ、今の俺の状態はどうなっているんだっけ」みたいなことを、とにかく年がら年中そのモードに入るという。これは習慣です。

:いつから俯瞰できるようになりました?

伊藤:そこはね、僕は昔からできているんですよね。なんか知らんけど、小学校の頃から。

:小学校から!? 

:へー。

伊藤:実は小学校の頃から、俯瞰だけはできている。

:別に学歴の話をやたら持ち出すつもりはないんだけど、ボクの経験上、これはやっぱり東大の人ってそういう人が多いんですよ。

伊藤:そうなの?

:ボクがすごく仲がいい東大卒のやつらって、なんか知らないけど昔からいろんなことがわかってたという言い方をするんですよ。何かはわからないけど、なんか知らないけど物事の全体が見えるんですって。

俯瞰できていることに気づいたきっかけ

伊藤:僕がなんで小学校の頃から(俯瞰が)できていたかとわかったかというと、尾崎豊の『SEVENTEEN'S MAP』という曲に、『電車の中押しあう人の背中にいくつものドラマを感じて』という歌詞があるんですけど。それと同じことを小学校のときに感じていたんですよ。

:ええ!? 

伊藤:電車の中、押しあう人の背中にいろんな人生があるなと。これを小学校のときに思って。そのときは、親から「そういうわかったようなことを言うのをやめなさい」と怒られたんだけど、その人たちの人生みたいなものを想像してたんですよね。それを封印していたんだけど、「尾崎豊が同じこと言ってんじゃん!」みたいなことに気づいたんですよ。

:(笑)。

伊藤:本当に。

:尾崎豊が大学生になって気づいたことを、羊一さんは小学生のときに気づいていたと。

伊藤:そう、そう。だから『SEVENTEEN'S MAP』の歌詞を聴いたときに、俺は小学生のときに明らかにそれをやっていたわと気づいて。

だから、学歴みたいなことで言うならば、そういう視点を持っている人間が、「あれ、今勉強しておいたほうが得かもね」って俯瞰して受験勉強をやって。「ああ、受験ってこういうゲームだからこういうふうにやったらいいね」とかはあったのかもしれないですね。

:なるほどな。いや、こうして楽しく聴いてきたら、もう、おかげさまで「あれ!?」が起こらずに20時53分までたどり着けました。

:本当だ。あら、なんてこった。

ミーティングを円滑に進めるための秘訣

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