コロナウィルスが免疫を潜り抜けてしまう可能性

ハンク・グリーン氏:現在、COVID-19パンデミック戦線に投入されるべく、数十種類のワクチンが開発中であり、その何種類かについては、すでに臨床実験が実施されています。

ワクチンは、医学において非常に強力なツールの一つです。実際に重い病気に罹らなくても、免疫を獲得できるからです。さらに、ワクチンを接種したり感染から生還したりして一定数の人が免疫を獲得すれば、集団免疫により感染率は劇的に低下するはずです。

ただしこれらが有効なのは「COVID-19」つまり新型コロナウイルス感染症の原因ウィルス「SARS-Cov-2」に対して、長期間の免疫が獲得できるという前提の下です。残念なことに、現時点ではそれは不明確です。

そこで今日は、免疫の働きについてや、コロナウィルスが免疫を潜り抜けてしまう可能性、そしてありがたいことに、それを心配するには時期尚早であることについて見ていこうと思います。

免疫システムは2種類ある

免疫システムとは、基本的には感染症に対する私たちの体の防衛反応を指し、良質な防衛策の例に漏れず、幾重にも張り巡らされたものです。免疫システムは広義には「自然免疫」と「獲得免疫」の2種類に大分されます。

自然免疫システムは、防御系遺伝子に起因し、直ちに反応するものです。これには、皮膚や鼻腔内の毛など、病原菌の侵入を阻むために身体に備わっているものも含まれます。それ以外にも、自然免疫システムには、体内を回り明らかな異物は何であれ攻撃する、特殊な細胞も含まれます。

例えばマクロファージは、敵対的な細胞を取り囲んで食べてしまいます。さらに、他の免疫システムを活性化させる成分を放出します。

どきりとするようなネーミングのナチュラルキラー細胞は、感染症ウィルスを速やかに攻撃し、より攻撃に特化した援軍が来るまでの時間を稼ぎます。

この援軍は、獲得免疫システムのもので、体が直面している特異的な攻撃に自らを適合させます。獲得免疫システムで活躍するのは、急速に増殖して、特異的な病原体を攻撃し破壊するための抗体を作り出すB細胞などが挙げられます。T細胞もまた、獲得免疫システムで活躍し、調整係として機能したり、自らウィルスを攻撃したりします。

コロナウイルスに再感染する可能性

さて、SARS-CoV-2のような初めての侵入者を体が認識しても、これらの特殊な免疫細胞が発達して増殖するには少し時間がかかります。また、感染から体が回復すると、免疫細胞はほとんどが死滅しますが「記憶細胞」と呼ばれる物が残ります。記憶細胞はリンパ節や脾臓などに留まり、仇敵が再び侵入すると、滅殺する細胞を即時に生成します。

この一連の流れにより「能動免疫」は獲得されることになります。科学者たちが言うところのCOVID-19に対して持続する免疫とは、これを指します。

水ぼうそうに対する免疫などは生涯持続しますが、百日ぜきなどの免疫はわずか数年程度しか持続しません。理由は不明ですが、体は「記憶細胞」をもはや不要と判断するのです。

さて、研究者たちが直面しているもっとも大きな問題は、新型コロナウィルスが、これらの範疇のどこに該当するのかということです。現時点では、COVID-19には、再感染する可能性の証拠が少なからずあります。

例えば、韓国疾病管理本部は、感染が再度陽性になった症例を180件報告しました。これは、回復した全感染者数の2パーセントに当たります。またこの半数に、軽い症状が再び現れました。しかし、この人たちの感染力の有無はわかっていません。

回復したかのように見える感染者が陽性になる理由として考えられるものは、いくつか挙げられます。一つは、韓国で使用されていたテストの精度があまり高くなかった可能性が挙げられますが、これは考えられません。回復したと認められるには、患者は、少なくとも中1日開けて2回テストを受け、連続して陰性にならなくてはいけないからです。

しかしこのテストが、結論にミスリードを促しているのかもしれません。テストは実は正確で、死滅したウィルスの残滓であるSARS-CoV-2の遺伝子の破片に反応しているのかもしれません。これを示す証拠もいくつかあります。

再感染における2つの原因

そのため、再感染をあまり心配しない研究者もいますが、用心を怠らない研究者もいます。なぜなら、テスト以外にも、回復した患者が再度感染する原因には、生物学的に考えられるものが2つあるからです。

最初の一つは、「潜伏感染」です。体内に隠れたウィルスが、時間をおいてから再度現れることを指します。ウィルスの潜伏感染でよくある例は、ヘルペスです。全世界の90パーセントの人は、単純疱疹を発症させる単純ヘルペスウイルス1型に感染しています。

獲得免疫は、一回検知したウィルスは排除してくれるので、ほとんどの人には単純疱疹は発症しません。しかし、潜伏感染したヘルペスは、人の一生の間、脳の感覚神経に潜みます。もちろん、免疫細胞は脳細胞を積極的に破壊することはありませんので、ヘルペスは活動を休止して長期間潜伏することとなります。そのうち、ストレスなどのさまざまな理由で、ウィルスが再活性化され、新たに単純疱疹が発症するのです。

潜伏感染は、人間に感染する一般的な風邪などのコロナウィルスでは通常見られません。つまり新型コロナウィルスでは、証拠が見られない限り、潜伏感染はあまり考えられないのです。

もう一つ可能性が高いのは、SARS-CoV-2では長期の免疫反応が獲得できない場合です。免疫システムが生成する記憶細胞の数が少なかったり、長期間残らなかったりする場合は、COVID-19に一度感染しても、まっさらの状態で再感染する可能性があります。

一般的な風邪の原因であるコロナウィルスが、このケースに該当するようです。1970年代初頭に実施された、アメリカ海兵隊の新兵徴募のための研究によりますと、ある系統の風邪に感染した人数のうち、再感染しないで済むほど効力のある免疫を持つ者は、半数にも満たなかったというのです。

なぜこのようなことが起こるのかは、いまだ謎が多いままです。風邪はそれほど症状が重くならないため、20世紀の研究者たちはコロナウィルスをそれほど熱心に研究しなかったためです。よほど大きなアウトブレイクが無い限り、今日の研究者たちでもそれは同様です。

一部の学者は、メモリーB細胞は一定期間生成されると考えており、大きな免疫反応を引き起こすウィルスほど、記憶細胞は長期間残るとしています。コロナウィルスは、免疫システムの反応を抑えるため、免疫の持続時間も短いと考えられています。

幸いなことに、すべてのコロナウィルスが一般的な風邪ほど免疫システムの効果が無いわけではなさそうです。COVID-19の原因ウィルスは、2000年代初頭にSARSを起こしたウィルスと構造の大半がよく似ており、このSARSのウィルスに対しては、ほとんどの人が長期間の免疫を獲得しました。

SARS感染から回復した176人に対して2007年に行われた研究では、効力のある防衛レベルの抗体が、平均で約2年ほど持続しました。2016年に発表された論文によれば、SARSから回復後12年間存在したメモリーT細胞が、3人の患者から発見されました。

とはいえ、SARSの原因ウィルスがCOVID-19の原因ウィルスに似ているからといって、両方の感染症に対して免疫システムが同様の反応を起こすとは限りません。SARSを調べることによりCOVID-19についての仮説を立てることは可能ですが、結論として、COVID-19に対する持続的な免疫については、調査に近道などは無いのです。

つまり、一度感染したりワクチンを接種したりすれば、10年は持続する免疫を得られるといった答えを得たいのであれば、10年以上ははっきりとしたことはわからないのです。しかし、数週間ないし数か月しか持続しないなどのあまり芳しくない答えであれば、それほど待たずに判明します。いずれにせよ、どのような答えであれ、科学者たちの力と資源を何に注ぐかを決める重要なものです。

新型コロナウィルスに対する免疫力の持続が非常に短くても、まったく希望が無いわけではありません。ワクチンの開発よりも、効果の高い治療法を探す方が優先されるだけです。どちらの手段にしても、研究者たちはすでに研究に尽力しています。SciShowでは、この双方の予測についてすでに1エピソードを費やして解説済みですので、当動画を視聴した後にはぜひご覧ください。

いずれにせよ、上記のような理由から、COVID-19の再感染についての心配は時期尚早です。将来の研究がどのような結果であれ、私たちがお互いの安全を守るためにできることはまだあるはずです。

マスクを着けたりソーシャルディスタンスを取ったりすれば、以前に感染していようがいまいがに関わらず、感染拡大を抑えられるはずです。医師や科学者たちは新型コロナウィルスについて重要なディテールを猛スピードで調べていますので、いろいろなことがわかってくれば、私たちが次に取るべき対策がわかるでしょう。