「言葉の精度を高める」2つの手法

岡島たくみ氏(以下、岡島):じゃあ次が④(「話し言葉」を「書き言葉」へ)。日本語はみんな適当です。「あれじゃん」とか言っちゃうんですよね、会話だと。それは仕方なくて。会話に最適なのは、やっぱり適当な言葉なんですよね。スピードが求められるので。

いちいち精度を気にしてしゃべってる人は、コミュ力がない人になっちゃうので。そこはあえてそういうふうにやるものだと思っております。ぴったりな表現じゃなくて、すぐに思い浮かぶ表現を使う。

一方で記事だとやっぱり違うので。「話し言葉と書き言葉」「会話の情報と読み取る情報」というのは順番だったりがぜんぜん違うので。そこを記事の場合は、ぴったりな表現を追求しないといけないよねということになってます。

(スライドを指して)こちら、僕のnoteにあるんですが、長谷川リョーさんの受け売りです。教わったことを言葉に落としたという感じです。「汲み取りと言い換え」っていうのは、もともと長谷川リョーさんが言ってて。それってどういうことなんだろうというのをいろいろ考えて書いたのが、件のnoteになってますね。

もしこの中でまだ読まれてない方がいらっしゃったら、僕が今日話している話と合わせて見ていただけると、もう少ししっかり(内容が)頭に入ってくるかなと思ってます。

「汲み取り」というのは、口頭でしゃべっているときにはちゃんと意味があるんですけど、言葉として発されなかった言葉を「何だろう?」って考えて書き足す。「言い換え」は1個1個の表現を、より読みやすい表現に変えていくということですね。大きくこの2つについて話していきます。

「汲み取り」の実例

岡島:たまたま本田圭佑さんに取材をした際に、取材の様子がYouTubeにアップされてたんですよね。文字起こしで書かれている内容がすでに公開されちゃってるので、動画で公開されている部分は文字起こしを公開しても問題ないんじゃないかと考えて、これを資料にさせていただきました。

(スライドを指して)上が原稿の中のテキストを1ヶ所抜粋したもので、下がそれの元になった文字起こしですね。

どんな記事なのかというのをちょっとお伝えすると、本田さんに「どんな漫画が好きですか?」と聞いたんですよ。そしたら『キングダム』がすげぇ好きだという話をされてて。「『キングダム』がなんで好きなんですか?」について聞いた内容ですね。

「サッカー漫画はそんなに読まないんですか?」と聞いたら「サッカーより『キングダム』」みたいな話をしていただいて。「あ、そうなんだ」という内容になってます。

(スライドを指して)見ていきますと、これは「汲み取り」のほうですね。下の文字起こしの「読んでますよ! ただ生死に関わっているほうが好きなんですよ」の部分。ちゃんと意味を説明するときに、抜けてる単語があるんですよね。それを足していくという話です。

汲み取りというと、(取材対象者が)言ってないことを書くって怖いんですけど。抜けてる意味を足したら、取材対象者も「そうそう、これが言いたかった」となるので。失敗すると「これ言ってねぇじゃん!」ってなっちゃうんですけど。それを正しく足していくというところです。

(スライドを指して)「ただ生死に関わってるほうが好きなんですよ。だから、キングダムとか惹かれますよね。惹かれるっていうか、人間の本質かなと思う。生きるってところでいうと」までの内容。ここを「生きるという人間の本質が描かれている作品に圧倒的なおもしろさを感じる」と書いていますね。

(取材では)言ってないんですけど「惹かれる」っていうのが「そういう作品におもしろさを感じる」ということだと思うんですよね。ちょっと言い換えにもなってくるのかな。

そこを1個1個の要素を整理して。「生死に関わっているほうが好き」のところで、後ろのほうの「生きるっていうところでいうと」という言葉を前に持ってきて。「生死に関わっている」というのは「生きるっていうことに関わっている作品」ということであり、それを「惹かれるっていうか、人間の本質かなと思う」って本田さんは言ってると思うんですけど。

「生きるっていうことを本田さんは人間の本質だと考えているんだろうな」ということが読み取れますので、そこをつなげてこう書いてます。

最後の行かな? 「サッカーやと、それがないからなぁ(笑)」って書いてるんですけど。これがさっき言ってた、嘘の関西弁ですね。

そんなこと言ってないんですけど「世界の舞台でサッカーしてる本田さんの認識でも、サッカーって生死に関わっている作品ほど盛り上がれるテーマじゃないんだよな」という考えを話されてるので。それを一言に、できるだけ短いテキストで落としたという感じですね。「サッカーやと、それがないからなぁ(笑)」と書いてます。

「取材の温度」をそのまま伝えるか否か

岡島:「汲み取り」に関しては、そんなところですね。小山さん、何か思われたことありますか?

小山和之氏(以下、小山):そうですね。「汲み取り」と言いつつ、けっこう「組み換え」でもありそうだなと思ってたりしてて。同じこと、近いことを言ってるのを、1つの言葉にまとめたりとか。

「生きるっていうこと」と「人間の本質である」って、(取材で本人は)2文に分かれて言ってるし順番も逆なんだけど「生きるは人間の本質」と言ったほうが、たしかにわかりやすいなと。

岡島:言ってる言葉をそのまま書くというよりは「この人はどう考えてるんだっけ?」というのを、しっかり文脈から読み取る。整理すると「どういう言葉なんだっけ?」となったときに「生死に関わっているほうが好き」と言ってるんですけど、ここで「作品」という目的語が抜けてたり。(末尾が)「好き」なので。

目的語が抜けていたりするので、そういうものを足したり、場合によっては削ったり。「汲み取り」って書いてますけど、削ることのほうが多いのかな、もしかすると。

小山:質問が来ていますが、最初に「うーん」って本田さんを悩ませたのはなんでなんですか?

岡島:これも文章の流れですね(笑)。記事を見ていただけると、という感じなんですけど。考えてる本田さんの写真を入れたような、入れてないような。

小山:絵との組み合わせもあって、という感じなんですね。

岡島:そうっすね。「サッカーと、それ以外の本田さんが好まれている作品の違いは、どこにあるのでしょう?」っていきなり言われて、すぐに答えてもいいんですけど。たぶんその記事を書いてたときの僕が「ここ本田さん、そんなパッと答えねぇよな。ちょっと考えるだろうな」って思ったんですかね、たぶん。

小山:質問の意図もけっこう変わってたりしますもんね、そういう意味では。なのでそれに合わせて即答するよりは、ちょっと悩んだほうが自然だよなっていう感じですかね。

岡島:ですね。「文字起こしから見ると、即答されてそう」ってコメントがあります。これも実は、YouTubeの動画を見ていただくとわかるんですけど、そんな即答でもないんですよね。文字起こしだけを見ると、やっぱり温度感がわからなくなっちゃったりするのはあるかなと思います。

わりと考えながら……とはいえめちゃくちゃ回答早かったんですけど。少し「うーん」という感じが伝わったのだろうなと思います、取材のときに。それがたぶん僕の頭の中に残っていて。それをどう記事で「温度をそのまま伝えるか」と考えたときに、この「うーん」が出てきたのかなと。

小山:書き起こしのところで話に上がってましたけど「テキストからだと発話者の温度感が伝わらないから、書き起こしの段階から自分でやってる」っていう人が何人かいらっしゃったのは、そういう温度感が原稿に反映されないからってことですよね。

岡島:それはありますよね。本当に。

小山:岡島さんは当時のことを覚えていたので、それをテキスト上で反映しているという感じですね。

岡島:文字起こしを読んでいると、そのときの情景とかが思い起こされてくるので。取材を自分でやってない音源ってたまーにあるんですけど、そういう原稿だと温度感みたいなものはなかなか出せないんじゃないのかなと思ってます。なので、取材は自分でやるのがやっぱりいいなと思ってます。

文章はシンプルなほうが頭に入りやすい

小山:次いきましょうか。

岡島:次は「言い換え」について。(スライドを指して)ポイントとして、めちゃくちゃ細かいことを書いている。「人間の本能の一部が感知している」を「人間としての本能が反応している」……う~ん、今見ると自分の原稿の文章も微妙に思えてきたな(笑)。

小山:よくある(笑)。

岡島:「本能の一部と言ってますけど、本能でいいですよね」という話がありますね。「本能の一部」なんでしょうけど「本能」で通じると思うので、ここは一部を削る。

できるだけテキストは短いほうが、当たり前ですけどシンプルな字のほうが頭に入ってきやすいので、できるだけ削る。かつ、テキストの分量が短いほうが読みやすいっていうのは、もちろんあるので。いろんな観点で、文章における短さはすごく大事だなと僕は思っているので、よく削ります。

感知って言ってるんですけど「俺、感知したよ」ってそんなに言わない気がしてて。「感知」を「反応している」に変えてますね。「僕の本能が反応しました」って言うほうが、まだ口語っぽい。っていうと「話し言葉じゃねぇの?」みたいな話になっちゃうと思うんですけど。

それとはまた別の話で「書き言葉でありつつ、その人が話しそうな書き方をする」っていうのが大事だなと思っているんですけど。本能が感知……そんなに変わらないんですけど「感知は言わねぇだろうなぁ」って思ったんですよね。登壇者失格みたいな言い方をしちゃってますけど(笑)。伝わりますか? 小山さん。

小山:今ちょっと調べたら感知は「直感的に心に感じて知ること」ってあるので。意味がかぶってくる部分はある気がするんですよね。

岡島:はいはい。

小山:「本能の」が意味かぶりそうだなっていうのがあるので。どっちかを言い換えないとマズそうだなっていうのは、読みながら思ってました。

岡島:なるほどです。僕がそれを言えなきゃダメだったんですけど(笑)。さっきファクトチェックっていう話をしたんですけど。それも長谷川賢人さんからいつも言っていただいていることで。「1個1個の言葉の意味をちゃんと調べなさい」と。

1個1個ググりなさいっていうことを、すごく言っていただいていて。それはすごく大切なことだなと思っております。徹底できておりませんでした。すみません。誰に謝ればいいんだろうな(笑)。

という感じで、1個1個の意味を「たぶんなんとなくで違うんだろうな」っていうのが自分にありつつ、それで「反応」に変えたんだろうと思うんですけど。そういう違和感が発生した瞬間に、すぐ検索して正しい日本語的な意味を調べる。で、書き換える。ということが、すごく大事だろうなと思っております。

(スライドを指して)2行目の真ん中くらいで「殺す殺される」を「殺される殺す」って言ってるんですけど。「っていうの」の「の」は英語で言うitですよね。itでいいのかな? 指示語みたいになってるんですけど、それって何だろうってなったときに「真剣勝負」って言い換えるというのをやってます。

さっきの「感知が反応が」っていう、ちゃんと正しい意味に書き換えるっていうのもありつつ。「あれ」とか「それ」とか、指示語でそのまま伝わる……むしろそのほうがいい場合もあるんですけど、難しいことに。指示語のほうがシンプルで読みやすいっていうときもありつつ、できるだけ具体的にちゃんと意味のある言葉に書き換えるっていうのは、すごく大切なことだなぁと思っております。小山さんなにか?

小山:シンプルに言い換えてるっていう感じでもありますよね。「っていうのがあるのは」って「長ぇな」って気持ちになるので。それを「殺すか殺されるかのなにか」っていうのを、前半にある「マジで」の後ろに持ってきて「殺すか殺されるかの真剣勝負」って言い換えてる感じですよね。

「汲み取り」と「言い換え」に必要な能力

岡島:次はざっくり書いてます。(スライドを指して)「現代文の授業が得意だった人は余裕です」と書いております。私、まだ2年ほどしかこの仕事をやってないんですけど、現代文の授業だけはものすごく得意だったんですね。だから、文章書くのがめちゃくちゃ苦手なのにライターみたいな仕事を始めちゃって、ちょっとえらい目に遭っちゃったんですけど。

現代文の授業では「この人の気持ちを答えなさい」みたいな「読み取り」の問題と、日本語の文法があると思うんですけど。助詞、助動詞とか、たくさんあったじゃないですか。あれをしっかり覚えていれば大丈夫なんじゃないか、と思ってます。

(スライドを指して)4つ整理してます。1個、文脈を読む力。そもそもその人が何を言いたいのかを間違えちゃうと、(発言者に)確認に出したときに「俺こんなこと言ってねぇから」と言われちゃうので。それは一番避けたいなと思いつつ、ここは大事だなと思ってます。

2つ目。「現代文が~」とか言ってましたけど、文法だったり品詞についての正しい知識ですね。もちろん万全とは言えないんですけど。「なんかこの文章は違和感があるな」となったときに、何が違和感の正体なのかがしっかり調べられるっていうのは、ものすごく大事なことなんだろうと思っています。

よく見るのが「目的語なしで他動詞を使っちゃう」というケース。「伝える」だけ載ってたりするけど、そういうときは「この場合の目的語って何だろう」というのを考えて汲み取りをする、みたいなことが大事かなと思っているので。これがあることで、逆に汲み取りだったり言い換えだったりを、より正確にできるようになるというのはあるのかなと。

意外とこれが欠けている人が多い印象……ってなんかめちゃくちゃ偉そうですね(笑)。偉そうなんですが、自分もぜんぜんできてないというか。やっぱり1人で文章書いてるとき、数日経って見返すと「なんだこれ」みたいな感じになったりするんですよね。モメンタム・ホースの先輩で、お互いの原稿を見合うみたいなことをやったりしたこともあるんですけど。

やっぱり客観的に自分でめちゃくちゃ見るってことも、なかなか難しいので。なので、できるだけちゃんと知識があるといいかなと思ってます。

3に「文章を変形する力」と書いてますけど、さっきの言い換えで。たしかに文章としては合ってるんですけど、読みにくい。漢字がごちゃごちゃ続いちゃうとか。よくあるケースが副詞ですね。「結構」とか。「結構」のあとに形容詞が来ることが多いんですよ。

漢字4文字で「結構〇〇」みたいな感じで。「結構大きい」とか言うじゃないですか。この「大きい」が、漢字2文字の形容詞とかだったときに……。

小山:「結構巨大」とかね。

岡島:そうっす。1個の言葉っぽく見えちゃうんですよね。口に出して言うのはできるんですけど、読みにくくて。スッて頭に入ってこなかったりする。そういうのはちょっと砕いてというか。真ん中に日本語を入れたい。助詞、助動詞を1字入れたかったりするんですけど。書かないこともけっこうあるので。

小山さんに言っていただいた「巨大」というのを「大きい」というふうに別の漢字1字、あとひらがなの表現に言い換えたりとか。それが通じないときは、そもそも能動態、受動態を入れ替えたりしてみると……能動態、受動態で伝わりますよね? 主語と目的語を入れ替えるというのをやると、読みやすい文章になることが多いです。それでもぜんぜんうまくいかなくて、しんどいときもあるんですけど。

「巨大を大きいに言い換える」と言ってましたけど……が、4になるのかな。「巨大を大きい」とかはめちゃくちゃ簡単な言葉ですけど、ちょうどいい言葉をたくさん知ってるとすごく楽ですね。

「文章を変形する」というエネルギーを使う作業をせずとも、言葉を1ヶ所入れ替えるだけでいい感じにできるので。これができると楽です。書いてるうちに身につきますよね、たぶん。

あとはそれを「〇〇 類語」とかでサッと検索して、良さげな言葉を一瞬で見つけて使えるっていうことができるといいかなと思ってます。ググればオーケーと。「シソーラス、バリバリ使ってます」という方がいますね。

小山:シソーラス……? あ~類語辞典か。これ、難しいなと思うのが「言い換えていくと、誰も知らない表現にたどり着いてしまう」というジレンマはあるなと思ってて。

難しい言い換えになってしまった結果、みんながあまり理解できない単語になるとか。意味が固定的な言葉選びになってしまう、みたいなことがあって。どこまでやるか? はけっこう悩ましかったりしますよね。

岡島:わかります。

小山:さっきから話題に出てる『FastGrow』ってメディアの編集部での話なんですけど。「要諦(ようてい)」という言葉があって。「大事なことなんだよ」と言いたいんだけど「大事」とか「大切」とか「重要」だと、よく見る言葉になっちゃうので言い換えまくった結果「要諦」になり。「要諦(という単語)が頻出する」みたいなことが起こって。「こんな、あんまり見ない単語を頻出させてどうするんだ」って、一時期、編集部で問題になったので。言葉選びは大切だなという例で、ふと思い出しました。