分断を認めることから逃げてはならない

新井宏征氏(以下、新井):(Slidoを指しながら)もう1つおもしろい質問で、今映っている画面の上から3番目です。

「複数のミッションって、ともすると分断を生む可能性がある」というものです。政治とかも本当にそうですけれども、やっぱりこれって正しいと思っている人同士にとっては、どこまでいっても、「相手(が考えていること)は違う」みたいなところがあると思うんです。

これが仮に組織とかコミュニティだとして、分断が出てきたとき、どんなふうに橋をかけるか。佐宗さんとしては、いかがですか?

佐宗邦威氏(以下、佐宗):これはすごく深い問いで、分断は起こるんですよ。今は起こる時期だと思うんです。たぶん、分断を「ない」ものだと思っちゃダメです。本当はあったのに「ない」と思っていたのが、「あった」って気付いたというのが今の状態。だから「ある」ということに対して、まず逃げちゃダメだろうなと思います。

今は言っても、ちょっと大局的な目で見るとある種、戦後にアメリカが作った共通の土台、「アメリカ帝国」ですよね。帝国が作ったルールというのがドルだったり、あとはアメリカの軍事力だったり、金融資本主義とかですね。

そういうパラダイムによって、僕たちは上に乗っかって同じである気がしていただけなので、その帝国がなくなっちゃったら「同じじゃない」と思っちゃうのが自然なんですよね。そうすると、一時的にでもバラバラになったものには、自分たちのベースというのを考え直すフェーズが絶対に必要です。

「自分たちって、何を拠りどころにしていたんだっけ?」って、それこそDNAとかを振り返る。歴史を振り返ったりDNAを振り返ったりするというのが、たぶん今やるべきことです。

長い時間軸で考えることで普遍性が見えてくる

佐宗:そこにはたぶんいろんなストーリーが生まれてきていて、人によってはそれを政争の道具に使ったりするという面も正直出てきちゃってはいると思うんです。だけど、歴史という鏡を使って自分たちの存在そのものを問い直して、その中に何かしらの普遍性が見えてきたらそれをもとにもう1回統合すればいいということです。

これは企業で言うと、例えば50年前に作られたミッションを、今の時代に合わせてもう1回考え直すとしたら「この時代に、この会社において、何を存在意義にすればいいのか?」「どこまで立ち戻ればいいのか?」「それは何なのか?」というのって、これは答えのない問いです。なので、リサーチをした上で哲学するしかない。

歴史を知った上で哲学していく中で「でも、やっぱり大きな物語ってこれだよね」というものが生まれてくるタイミングがたぶん来ると思っていて。物語が生まれたなら、それは分断がもう1回統合され直すということなんだと思いますね。

新井:ありがとうございます。まさに自分もシナリオプランニングをやっていて、未来を使うようなことを今の状況でやっていると、それこそミッションとか立場とかで、どうしても違いや分断が浮き出てしまうんです。

少し遠く、今みたいな感じで未来なのか、あるいは自分の根っこなのかみたいなところ、視点を今というところから違うところに遠く向けてみることは、1つのヒントになりそうですよね。

佐宗:まさにおっしゃるとおりで、時間軸をすごく長く取ると普遍性が見えてくるんですよね。たぶん「自分にとって、30年前も30年後も一緒のものって何だろう?」という問いです。それは足し上げると「集合的無意識」のような何かになると思うんですけど、これからすごくいろんな人がそういうことを考える時期に入ってくると思います。

なので会社自身もミッションを問い直し、存在意義を問い直していくし、(個人も)「今自分がやっていることで、未来にも残る本質的なものって何だろう?」ということを、自分の過去を振り返りながら、未来を考えながら揺らしていく。

そこに何かしら見えてくる共通点として「いろいろ消した結果、最後に残ったものが自分の本質だった」というイメージなのかな。これはちょっと感覚的な話ですけど、そう思いますね。

新井:わかります。ありがとうございます。

距離のある関係からどうコミュニティを生み出すか

佐宗:あと個人的には、さっきご質問いただいた中では「距離のある関係からコミュニティを生み出すイメージ」というのは超いい質問。かつ、これが最大の課題だと思っています。大きな変化のときって、基本的に協調すれば絶対に解決できるんです。大きな変化で大きな分断を起こすしかなかったときというのが、けっこうやばいんですよね。

さっき、1回分断は起こってしまうという話をしましたけど、それは外を見るんじゃなくて下を見ればいいというか、自分たちを見ればいいという話かなと思っているんです。それをやるときに、新しい人間関係が作りにくいように思えるというのは、1つ問題点としてあると思います。

僕が今思っている解決方法は2つです。自分が過去に蓄積してきた人の縁をもう1回見直すことから始まるというのが1つ。数は、そんなにいっぱいはいらない。今までみたいな人間関係とか、「いいね」の数とか、人の付き合いを友達とかがインプレしている感じじゃなくて、100人とか本当に大事な人に絞った濃い関係をどう作っていくかです。それは、自分の過去の人脈から生まれると思っています。

もう一方で、ここはデザインの課題になってきていますが、「初めての出会いがそれでもスムーズに成立するための、人が知り合うということのデザインは、いろんな世の中のサービスにどうビルトインされるべきなんだろうか」ということです。これはどの事業体においてもすごく普遍的な問いだと思います。

オンラインゲームでしか会ったことがなくても「恋人」

佐宗:例えば『どうぶつの森』(注:任天堂株式会社が開発・発売しているコンピュータゲームのシリーズ名)は、1個のいい例です(笑)。ああいうゲームでの出会いは……。

うちの会社にも20歳くらいの中国人のインターンの子がいるんですけど、オンラインのゲームで出会い、オンラインで付き合い、でも1回も会ったことがない(という「彼女」がいるようです)。「それは彼女なのか!?」というのは、けっこう世代によっては定義とかいろいろ考えさせられるんだけど、そこから会うという体験が成立してしまっている世代もあるんですよね。

今のはゲームの例でしたけど、例えばこういうコミュニティ作りとか、学びとかスポーツとか、いろんな場面で「この時代に合った初めての人とのいい出会い方、つながり方をどう作るか」というテーマは、答えが見つけられたらそれだけでもすごく大きな価値になるテーマだと思いますね。

新井:確かに。これはご質問いただいて、自分もすごくおもしろいなと思っていました。実は自分は社会人になる前、学生のときから社会人になるまでは、ずっと東京に住んでいました。2年前に静岡県の浜松に引っ越しをして、ふだんは浜松にいるんですよ。主に……まあ仕事の場は9割くらいが東京ですけれども、仕事のときは東京に行って仕事をするような感じでやっています。

今こうしていろいろなことをやったり、浜松の中でもいろいろつながったりしているんですけれども、そこで感じるのはやっぱり先ほどの「過度さのリバランス」というところです。

さっきのFacebookの話もそうなんですけど、何かをやろうとするときに、どうしても物量というか、「コミュニティにこんなに集まった」というところにすごく目がいってしまう。そして「浜松に来ると東京みたいに人が集まらない」とか、量で比較してしまって「やっぱり東京はセミナーいっぱいあるしな」と無意識のうちに比較して、ネガティブにとらえてしまうことが多いというのは、最初に来たときにすごく感じていました。

関係性の量から質へのリバランス

新井:そういう経験を経て言えることは「自分たちにとってのコミュニティで重視したいことって、数がいることなのか、そうじゃなくて自分がやりたいと思っていることに賛同してくれる濃さなのか」とか、そういう価値基準のようなところを改めて考えてみることが大事だということですよね。本当に「リバランス」みたいな感じです。

今はこうやって阿部さんと一緒にやっているみたいに、もうオンラインでいろいろやろうと思えばできるので、「知らず知らずに自分を判断しちゃっているところがないか」を見て、自分がやりたいことを掘り下げて考えていくのは大事だと思っていますね。

佐宗:いいですね。コミュニティってそもそも、たぶん数よりも関係の質の話が大事です。その背後にある信頼、蓄積みたいなものも無形資産としてあるし、あとはそこから「生まれてしまう」もの……。それは文化ですよね。文化というのはコミュニティから生まれますけど、どういうものが「生まれてしまっている」か。「生んでいる」と言うよりは、「生まれてしまっている」という感覚です。

そこから自然発生的に(文化が)どんどん出てくる状態になったときに、コミュニティはすごく価値のあるものになる。ほかにはない、独自性のあるものになると思います。もしかしたら企業の中でも、非公式のコミュニティをどれだけ意識的に持てるかが、これから大事になってくるのかもしれないなと思いましたね。

社外の勉強会を通して自分の世界が広がっていった

新井:ありがとうございます。あっという間に時間になってしまいましたので、最後にこの1時間半を振り返って、佐宗さんから「まとめの一言」をお願いできますか?

佐宗:僕のまとめはいいので、もし時間があれば今日参加されていた方は感想を何か一言、Zoomのチャットに書いていただきたいです。もしかしたらTwitterに書かれている方もいらっしゃるかもしれないですけどね。みなさんがどう思っていらっしゃったのか、個人的にすごく聞いてみたいです。なので、もしお時間の許す方は、何でもいいのでぜひチャットに感想をバーっと書いてみていただけると、すごくうれしいです。

阿部一也氏(以下、阿部):ぜひみなさん感想を書いていただければと思います。その間に、私が先講演やパネルを聴いた感想は「これまで自分がやっていることが何度も間違っているのではと悩んできたのですが、それが一気に解消された」ということです。

私は7年前に札幌から東京に転職し、メガバンクの研究所で働いていたんです。最初は社内の仲間としか繋がりませんでしたが、社外の勉強会に何気なく踏み込んでいくうちに、どんどんいろんな人たちと繋がっていきました。

最初は聞いているだけでしたが、自分で考えていることを、佐宗さんや新井さんに勇気を出して相談すると聞いてもらえることもあり、そうこうしていくうちにこんなコミュニティを作るところまで発展しました。

私より周りのほうが、さまざまなスキルや可能性を持っているので、もし社内だけで閉じていたならば、ちょっと勇気を出すだけで、一気に何かに発展するのでは思っています。

オンライン上に「ルイーダの酒場」を作る

阿部:あ、コメントがいっぱい来ましたね。

佐宗:「デザインするってそもそも何だ?」。

いいですねぇ。おっと、一気にチャットの行が変わったぞ(笑)。

「関係性の新しいデザイン」。 「これからやろうとしていることとピッタリ」。 「ワクワクしかないです」。 「ルイーダの酒場」(注:株式会社スクウェア・エニックスが販売しているコンピュータゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズに登場する架空の店。仲間との出会いと別れの場所となる)。

「ルイーダの酒場」はね、すごく必要だと思う。いいメタファーですね。

阿部:どういうやつですか?

佐宗:「オンライン上のルイーダの酒場を作る」。これはすごくいいコンセプト。「ルイーダの酒場」というのは登録して、かつ待っていて、必要に応じてアクセスするんですよね。そういうの、いいですね(笑)。

8~9人の濃い仲間がいれば何でもできる

佐宗:ちょっと最後に、最後にと言うか……。僕はドラクエ4が好きなんです。世代的にバレちゃうんですけど(笑)。ドラクエ4って、最初に勇者が本当に1人からスタートするんですよね。

途中で5~6人くらいになると急に音楽が変わって、一気に仲間と一緒に進んでいく感じの世界だと思うんですけど、今ってドラクエ4の第5章、勇者が1人になってしまった状態です。それがたぶん、僕らの今のソーシャルディスタンシングの状態だと思っています。

仲間は8人でいいと思うんですよね。まあ9人かもしれないけど(笑)。そういう濃い仲間ができてきたら、それは本当に何でもできるんじゃないかなと思っています。(立ち上げに関わった)ソニーのSAP(Sony Seed Acceleration Program)とかも、実際の本当にコアな仲間って5~6人くらいでしたね。それが200人くらいとつながってやったというかたちでした。

広くなくていい。広くなくていいから、がんばって人間関係を味わいながら「濃いところ」を作っていく。そういう動きが「ルイーダの酒場」的に起こっていったらいいなというふうに思いました。

新井:ありがとうございます。

始まりは自分が本当にやりたいことを叫ぶこと

新井:佐宗さん、今日はありがとうございました。自分も話していてすごく楽しかったです。最後のお話とかも踏まえて、自分がここまでどうやってきたかと言うと、やっぱり「自分はこれをやりたい」とか、「自分はこれが好きなんだ」みたいなのを叫び続けるというか、自分の場合はブログに書き続けるとか、いろんなところで言い続けるみたいな感じでした。

さっきの阿部さんのお話もそうでしたけれども、なんとなく最初は1人で叫んでいる感じだったのが、それが自分の感覚の偽りないところであればあるほど、いろんな仲間が集まってくる。仲間を集める前提として、「自分がやりたいこと」を見つけてそれを叫ぶみたいなのは大事だなと改めて思った時間でした。ありがとうございました。

佐宗:ありがとうございました。最後に、本の無料ダウンロードのnoteがあるので、ちょっとこれと……。さっき1回シェアしましたけど、もしこういう話を聞いてちょっとやってみたいなと思った方はTwitterとかでメッセージいただけたりすると、個人的にはすごくうれしいです。こういうことをきっかけに、よりよい未来のために少しでも動いていけたらいいなと思っています。ありがとうございました。

新井:ありがとうございました。

阿部:ありがとうございました。パネルは一旦こちらで終わりにさせていただきます。本当に参加者のみなさん、佐宗さん、新井さん、ありがとうございました。

新井:ありがとうございました。

佐宗:ありがとうございました。バイバイー。