カタカナ語の使いすぎがもたらす混乱

橋口幸生氏:たぶん企画書というところでは、これが一番多いと思います。ビジネスの企画書って、ついつい変なカタカナ語を使ってしまいがちですよね。なんでカタカナ語がよくないかというと、意味をわかっていない場合が非常に多いからです。

例えばアイデアと言っても、この言葉って当たり前のようでいて、人によってぜんぜん解釈が違うんですよね。僕らも仕事で「アイデア作りのワークショップします」とかやって、よく揉めるんです。

僕たちみたいな、いわゆる広告のクリエイティブ、広告の企画をやってる人間にとってアイデアというと、例えばお父さんがなぜか犬でしゃべるとか、桃太郎と昔話の主人公たちが集まって携帯電話のCMをやるとかを、僕らの業界ではだいたいアイデアと言うんですね。

だけど、例えばコンサル会社の人と会話してると、「家族向けの携帯電話のCMを作るというアイデアはどうかな?」とか言ってきたりするんですよ。カタカナ語って人によって解釈が意外と違って、かけ違ったまま議論を進めていてわけがわからなくなることがすごく多いので、なるべく使わないのがいいのかなと思います。

コンセプトとかデザインとかストーリーというものも、非常に要注意な言葉ですよね。どんな解釈でもできて、人によって指している内容が違ったりするので、揉めごとになりやすいんじゃないかと思います。

カタカナ語に限らなくて、当たり前に使っているけど意味がわかってない言葉って意外とあるんじゃないかと思います。例えば広告のコピーのコピーってよく言いますけれども、コピーライターのコピーって、広告の文字のことをなんでコピーって言うのかよく考えると意味がわからないですよね。

僕たちより1世代、2世代上の人たちって、いわゆる会社のコピー機、紙のコピーのことはゼロックスと言って、広告のコピーと区別したりするんです。コピーライターと当たり前に言いながらも、意外となんでコピーをコピーというのか、わかってないんじゃないかと思います。

調べてみたら、これは確か語源はラテン語で、活版印刷技術とかが発明されたときに出てきた言葉で、印刷するための文字という意味なんだそうです。そう言われると腑に落ちますよね。

プレゼンは短いほうがカッコいい

カタカナ語がよくない理由って、なにも言っていないのになにか言った雰囲気を出せてしまう。だからこそ企画書でよく使われると思うんです。文章のかさ増しに便利なんですよね。

ある意味企画書がどんどん長くなってしまうのって、間違ったサービス精神によるところもあるのかなと思っています。クライアントさんとかプレゼンをする相手も時間を割いてくれるから、ある程度長いボリュームのある企画書を作ったほうがいいんじゃないかと思ってしまいがちです。僕も心配性なのでよくやります。

そういうときに必ず思い出すようにしているのが、若手のころ先輩に言われた「プレゼンは短いほうがカッコいいよ」という言葉です。これって当たり前のようでいて、僕にとってはけっこう目から鱗でした。

どうしても企画書を作るときやプレゼンをするときって、それっぽい体裁を整えなきゃいけないと自分の中で思い込んでしまって、内容よりも優先してしまうことがけっこう多いと思うんですね。そういう場合にどんどんカタカナ語を使って文章をかさ増しして企画書っぽい体裁にしていくと思うんです。やはり短いに越したことはないので、内容があるのであれば短くまとめることを恐れちゃいけないんじゃないかと思っています。

意外と難しいファイル名の付け方

あとファイル名もすごく要注意です。これは僕が以前ツイートしてバズったものです。最初は「企画.pdf」というシンプルなファイル名だったのが、「企画_修正.pdf」とか「企画_修正_最終_」となったのちに、「赤字対応」とファイルに入ったりとか。迷走を重ねていくうちにファイル名がどんどん長くなってわかりにくくなるところがあると思うんですよ。

例えばこんな添付ファイルをよくもらうんですよね。「クライアント様_お戻し_山田追記_令和2年……」この和暦がポイントなんです。「1月20日時点.pdf」って、もうすごく面倒くさいじゃないですか。こんなのがフォルダに並んでると、それだけでパワーが吸い取られちゃいますよね。

でも短ければいいってものでもないんですよね。僕は「恐縮.ppt」というパワーポイントをもらったことがあるんですよ(笑)。開く前からろくな内容が書いてないことがわかっていて、実際開いたらつらい内容だということをよく覚えています。ファイル名って意外と盲点で、なかなか付け方が難しいのかなと思います。

僕がなるほどなと思った例があるんです。「しプ3」ってどういう意味だと思いますか? これは僕の子どもたちが小学校からもらってきた連絡帳に書いてある文字で、「宿題プリント3枚」という意味なんですよ。

これは非常によくできていて、小学校1年生のちっちゃい子だったりするとまだ長い文章が書けない子が大勢います。先生が宿題プリント3枚って全部連絡帳に書くことができないだろうから、「しプ3」と書けとやってるんですね。

これはさっきの令和2年みたいなファイル名に比べてずいぶん工夫がされていると思っていて、このやり方を僕たちビジネスパーソンも学んだほうがいいんじゃないかと思います。

例えば「クライアント_お戻し」と書くよりは、「CL_FB」とか書けばそれでわかるし、令和2年と書くよりも「200120」と書いたほうがわかりやすい。企画書もファイル名は文章ではないので、こうやって端的にまとめることが大切なんじゃないかなと思います。

矢印と色は使いすぎるほどわかりにくくなる

その他のポイントとしては、矢印問題ってありますよね。企画書ってつい情報を手当たり次第に詰め込んで矢印でまとめてしまいがちだと思うんです。

例えばこんな企画書ってよくあるじゃないですか。真ん中にブランドがあって、アーリーアダプター、レイトマジョリティとあって、それに矢印がつながっている。消費者、購入、還元、社会、インフルエンサー、フォロワー、バズ、炎上、口コミとか、手当たり次第にそれっぽい単語をぶち込んで矢印でつないでいると。

これは僕がでっち上げたものなので、なんの意味もない企画書なんですけれども、こういうものってすごく多いと思うんですよね。

さっきの駅の標識とかと同じような問題で、情報を手当たり次第に詰め込んで矢印で繋いでおけば見てくれるだろうと思うのは、今日本にはびこっているコミュニケーション上の大きい問題なんじゃないかと思います。

なので矢印禁止というのは、企画書をつくるうえで覚えていたほうがよいです。やってもせいぜい2個まで。矢印を2個以上入れたくなったらスライドを分けたほうがいいんだという気持ちでやっていくのは、けっこう大切なんじゃないかと思います。

あとは色禁止ですね。さっき最初のほうで見ていただいた、わかりにくい企画書。こんな感じでとにかくパワーポイントの機能をいろいろを使いたくなって、目立たせたいところの色を変えたりフォントを変えたりしがちなんですけれども、僕を含めて専門知識のない人間が色を使っても、ろくな結果にならない。目立たせたいところを赤にする程度で止めておくのがいいんじゃないかと思います。

企画書で文字が大きくて損することは絶対にない

あと忘れがちなのが、スライド番号を必ず入れるっていうのが大切なところです。これは僕もよく忘れます。最近のプレゼンって、プロジェクターで投影します。紙でやることってなかなか少ないので、スライド番号を入れとかないと「スライド15番に戻ってください」みたいなことができないので、必ず入れたほうがいいんじゃないかと思います。

これは一番というくらい大切なことだと思うのは、文字はとにかくでかくしたほうがいいですね。僕は一度大失敗をしたことがあります。名前を出せば誰でも知ってるような有名な広告のクライアントの競合プレゼンがあったんですね。その競合に勝てば大手柄なのでものすごくがんばって、これは絶対勝てるだろうという自信を持って企画をして、企画書も作ってプロジェクターに投影したんです。

その文字がちっちゃすぎて、まったく読めなかったんですね。文字が読めなかった瞬間、これは負けたと。実際負けました。そのときから、文字は可能な限りでかくするというのは心掛けています。

これは当たり前のようでいて意外と難しくて、とくに自分1人で作っているときはともかく、みんなで企画書を作っていると必ず文字ってどんどんどんどんちっちゃくなっていくんですよ。なのでそこで僕は、文字はとにかくでかくしろと言うようにしています。

みんなが一生懸命アイデアを考えているときに文字をでかくしろと言うのって、意外とバカっぽくて難しいんですけれど、そういうことは構わず「文字は本当にでかくしろ」と言うのが大切だと思います。

今まで僕が見たプレゼンの中で一番文字が大きかったのは、スープストックトーキョーの遠山正道さんです。とにかく大きかったですね。1スライドに10文字くらいしかないんじゃないかというくらい大きかった。たぶんあれくらいの立場の方でいろんなところでプレゼンする機会があると思うので、会場が大きいところとか、小さいところに合わせているんだと思います。

とにかく企画書において、文字が大きくて損することは絶対にないので、大きくすることが大切なんじゃないかと思います。

いいお手本を見つけて真似をする

あと真似をするというのはすごく大切です。最初のほうで、読みにくい企画書をお手本だと思い込んでいてやっているから読みにくくなると言いました。いいお手本があったら、それを真似するというのはすごく大切だと思うんですね。

これはコピーライターだったら、誰でも知っている名作広告です。サントリーの角の、「角÷H2O」という広告です。これはボディコピーでどういうことを言っているかというと、ちょっと長いけど読みますね。

たかが水割りというものをこれだけ文学的に語るって、本当にすごい広告コピーだと思うんです。これって実は元ネタがあるんですね。どういうものかというと、カレル・チャペックの『園芸家12カ月』という小説の一説です。

これは僕も最初に知ったとき、びっくりしました。ほとんど同じですよね。これはパクリかというと、そんなことはぜんぜんないと思っています。サントリーの角の広告を作る仕事があったときに、そこにカレル・チャペックの『園芸家12カ月』を持ってきて引用したというのが最高にクリエイティブなことだと思うんですよ。

園芸家12カ月 (中公文庫)

「何をお手本にするのか」がその人のオリジナリティ

よくアイデアとかコピーを作ろうと言うと、何もないところからみんな思いつこうとすると思うんですけど、それってできないんですよね。やっぱり何をお手本にするのかというのがすごく大切です。

例えば企画書であれば、職場の活躍している人の企画書を見せてもらうのがいいと思います。なかなかそういうのが難しい環境にいる人もいると思うので、その場合はTEDのプレゼンを見るとか、AppleのWebサイトに行って新商品発表会の映像を見るとか、とにかく真似をする。お手本を見つけることがすごく大切なんじゃないかと思います。

例えば映画監督のインタビューを読むと、「今回の映画は1970年代のあの映画にインスパイアされた」とか必ず言うじゃないですか。あとファッションショーのファッションデザイナーのインタビューを読んでも、「今回のショーは昔のなんとかをモチーフにした」と必ず言いますよね。

そういうお手本を真似することはすごく大切です。みなさんが企画書を書くときもお手本を何パターンか持っていて、それを真似するのがいいものを作る早道なんじゃないかと思います。

僕の場合も、例えば泣かせるCMを作りたかったらあれを元ネタにするとか、ちょっとおもしろいタレントCMを作りたかったらあれを元ネタにするという、お手本のストックがけっこうあります。たぶん何をお手本にするのかが、オリジナリティなんじゃないかと思っています。こういうお手本を持っていたほうが、その後の作業がずっと楽になるので持っているんですね。