なぜ“小さい恐竜”がいないのか?

ステファン・チン氏:中生代(約2億5217万年前から約6600万年前まで)に生きた巨大な非鳥類型恐竜は、陸生哺乳類が夢にも思わないほどの巨体を誇りました。巨大な肉食恐竜や、首長竜などの大型草食恐竜が生息していたのです。

しかし今日生きている恐竜、つまり鳥は、はるかに小型です。例えばハチドリの大きさは(昆虫の)ハチほどしかなく、同じくその卵の大きさはコーヒー豆程度しかありません。では、小型の非鳥類型恐竜は、はたして存在したのでしょうか。

古生物学界では、非鳥類型恐竜の小型種が存在したのか、それとも巨大な非鳥類型恐竜しか存在しなかったのかで、長らく論争のようなものが続いてきました。

いずれにせよ、中生代には小さな恐竜がちょこまか走り回っていたことはわかっています。なぜなら、その足跡が発見されているからです。

体長1メートルほどのミクロラプトルは、1999年に発見された時点で最も小さな既知の恐竜でした。その後、わずか110グラム程度の体重しかなかったとされるアンキオルニスの化石など、さらに小さな別の化石の発見が続きました。ちなみに、これは成長しきっていない個体だとされてはいますが、見つかっている骨格化石としては、最小のものだといえるでしょう。

大型種の幼体であれ、小型種の成体であれ、小型の恐竜があまり見つからない理由は、現存の化石に偏りがあるせいです。骨格や体が化石化されるには、堆積物に速やかに埋もれ、なおかつ化石化するまでに肉食獣に食い荒らされたりバラバラにされたりしないことが条件です。しかし、小さな体は壊れやすく、埋もれるまでに損傷してしまうものが大半です。

その上、小さな化石はその小ささゆえに見つかりにくく、崖から突き出たティラノサウルスの大腿骨のように目立つわけでもありません。

つまり、存在した痕跡が残っているにも関わらず、小型の恐竜そのものをまったく見つけることができないのは、そういった理由なのです。

小さな足跡は見つかっているが……

さて、非常に保存状態の良い小型恐竜の足跡が、韓国で見つかっています。これは、専門用語でいうところの「生痕化石タクソン」で、生物の痕跡の化石を指す古生物学用語(注:国際動物命名規約に基づくもの)です。

学術的には、発見されていない恐竜を命名することはできません。さらに、足跡と現存の化石とを関連付けることも、正確には不可能です。そのため、足跡そのものに名前が付けられるようになりました。そのうちの一つ、ミニサウリプス(注:「小型恐竜の足跡」の意)は、大量に見つかっています。

2019年の論文では、0.5ミリメートルほどの細かなウロコまで皮膚の跡を完璧に残した、明瞭な足跡の発見が公表されました。細部が隅々まで残っていたため、現存の鳥やその祖先のものではないことも確認できました。この恐竜の足跡、ミニサウリプスは、ほぼすべてが3センチメートル足らずの大きさでした。

研究チームは当然のことながら、足跡だけから持ち主の体長を推測することには消極的でしたが、この足跡の主は体長28センチメートル、体重はなんと数十グラム程度だろうという推定を下しました。これは、クロウタドリ(注:スズメ目ツグミ科)と同程度です。

「ベロキラプトルあたりの赤ちゃんではないの?」と思う人もいるかもしれませんが、足跡はすべて同じ大きさでした。幼体のものであれば、さまざまな大きさが残っているはずです。つまり、足跡の主は成体であると考えられます。

さらに同じ研究チームは、1センチメートル足らずの足跡を残した、より小型の恐竜の痕跡を発見したと発表しました。これは、成体であっても掌にすっぽり収まるほどの、ベロキラプトルに似た恐竜のものであり、「Dromaeosauriformipes rarus」(訳注:「ドロマエオサウルス類の恐竜と足の形が似ている珍しい恐竜」の意)と名付けられました。

しかし研究チームは、この足跡が小型種の成体のものではなく、生まれて間もない幼体もしくは若い個体のものの可能性が無いとは言い切れず、確証には骨格が必要だとしています。しかし、今後骨格が見つかる保証はどこにもありません。

一つ確かなことは、おなじみの巨大恐竜と共に、小さな恐竜が生きていたことを、これらの足跡が伝えてくれることです。そして、このような痕跡が見つかれば見つかるほど、太古の生態系が明らかになってくるのです。