他と比べて10倍近くも古い、白いチムニーの存在
「熱水噴出孔」という言葉を聞いたことはあるでしょう。熱水噴出孔は、海面下何千メートルもの深海底にあり、地球の深部から、鉱物を豊富に含有する強酸性の黒煙を、チムニーが噴き上げています。地球上でもっとも過酷な環境の一つであり、現存のもっとも興味深い生物たちの棲み処でもあります。
カンラン石は、地球の地殻下の、粘性の高い融解した岩石層であるマントルで形成されます。マントルはカンラン石を豊富に含み、ロストシティでは通常よりも地表にほど近い位置に迫っています。ロストシティの位置が、中央海嶺と断層の交接部に近いからかもしれません。
カンラン石の鉄分と酸素の原子が結合し、磁鉄鉱が生成されます。そして水素の原子が結合して水素ガスが発生するのです。ところが、これに海中の二酸化炭素が反応すると、ある物質が発生します。二酸化炭素の炭素の原子と、蛇紋岩の水素の原子が結合して、メタンガスが発生するのです。これが、実はロストシティを特異なものにしている理由なのです。この話には、また後ほど戻りましょう。
さて、二酸化炭素が海水に溶解して反応すると炭酸が生じます。それがさらに反応を起こすと、炭酸塩と重炭酸イオンが発生します。最終的には水素イオンが発生し、海水の酸性度が上がります。
ロストシティのチムニーが吹き出す煙が白いのも、同じ理由です。炭酸カルシウムという鉱物の名は聞いたことがあるでしょう。貝の殻やサンゴを形成する白い物質です。これは、酸性度がそれほど高くない海水中であれば、建材としてうってつけです。
12万年前から存在するロストシティが、生命誕生の地?
ロストシティが他の熱水噴出孔と異なる点が、もう一つあります。それは、ロストシティが遥かに古いことです。(ロストシティ以外の)ブラックスモーカーの活動源は、火山活動です。活動熱源が枯渇したり、火山活動が構造プレートの移動によって終息すると、チムニーは活動を停止します。
地球上でいかに生命が誕生したかはまだ解明されておらず、このような深海底が始まりの場所ではないかもしれません。とはいえ、生物を形成する成分が噴出されている、このような場所を研究するのは、よいスタートであるといえましょう。さらに、ロストシティには、他にも生命の秘密が隠されている可能性があります。科学者たちは、そのユニークな微生物コミュニティとその生息地である温かなアルカリ性の海水を、研究し始めたばかりなのです。