あらゆる企業がリモートワークに移行

前田ヒロ氏(以下、前田):みなさん、ウェビナーにお集まりいただき、ありがとうございます。初めてEcamm Liveというツールを使うので、ちょっと不慣れな部分があるかと思います。(画面を切り替えながら)こういうふうに人の名前を貼ったり、切り替えができたり、すごくかっこいいツールです。1回使ってみたかったので、今回、鈴木さんをテストケースとしてやっています(笑)。

鈴木淳一氏(以下、鈴木):実験台(笑)。

前田:たぶん今週あたりから、本格的にリモートワークに切り替えている会社も多いと思います(注:2020年4月、新型コロナウイルス感染症〔COVID-19〕の影響により、リモートワークへの移行が推奨された)。うちの支援先もそうですけど、リモートワークに切り替えてからコミュニケーション・交流・パフォーマンスなどについて、課題を感じているところがけっこう増えていますね。

今回セールスフォース・ドットコムでは、リモートワークに切り替えてかなりうまくいっているという話をうかがっています。鈴木さんの肩書きは、セールスフォース・ドットコムの執行役員、セールスデベロップメント本部ですかね?

鈴木:そうですね。名前が長くて申し訳ないです。

前田:いえいえ(笑)。本部長の鈴木淳一さんに参加していただいて、リモートチームのマネジメントの仕方などを話していただこうかなと思っています。今回はSaaS企業だけじゃなくて、リモートワークをやっているさまざまな会社に当てはまる話だと思うので、ぜひよろしくお願いします。

「#SaaSTokyo」で、ウェビナー中に名言が出たときはTwitterとかFacebookでみんなどんどん発信していただけるとありがたいです。ではさっそくですが、鈴木さん、いいですかね?

鈴木:はい。

インサイドセールスもリモート体制へ

前田:では、自己紹介からお願いします。

鈴木:セールスフォース・ドットコムの鈴木と申します。スライドで言うと3枚目かな? まずこのような大変な状況下、みなさまご参加いただきましてありがとうございます。

今日お話しする内容ですけれども、セールスフォースとしては、本当にみなさんの健康と安全を第一に考えておりますので、我々のテレワークの取り組みが1つでも参考になればと思っております。

私は今、インサイドセールス本部で、インサイドセールスのメンバーの統括をしております。スタートアップや中小企業だけではなく、エンタープライズ企業に対するアプローチもすべて統括しております。セールスフォースに入って今年で10年になります。よろしくお願いします。

前田:よろしくお願いします。ありがとうございます。(ウェビナーでは)拍手が聞こえないのであれですけど(笑)。まずリモートワークの体制に切り替えて、今どれくらい経っていて、どんな効果が見えているかをおうかがいできますか?

鈴木:リモートワークに関しては、しっかりと切り替えたのが2020年3月の頭になります。ちょっと遅かったんですが、3月2日から本格的にリモート変更しています。そこから移行比率としては3割、5割と進んで、3月後半から100パーセント移行ができたという状況になっていますね。

前田:徐々に徐々に、やってきた感じですね。

鈴木:そうですね。もともとセールスフォースでは「週に2回、テレワークをしていい」という制度があるんですけど、みんな普通に会社に来て業務をしていました。3月2日の段階から「基本的に強くテレワークを推奨しますので、必要性がなければお客様のため、メンバーご自身のために可能な限り出社を避けてください」という言い方をして、移行してきました。

メンバーの活動量が20パーセント向上

前田:なるほど。実際、切り替えてからどんな変化とか効果が現れましたか?

鈴木:すごく幸いなことにセールスフォース・ドットコムとしてはクラウド、いわゆるSaaSを使っているので、切り替えた状態で業務が大きく変わるということはなかったです。

意外というか、我々の想定以上なんですけれど、「インサイドセールスの活動量が全体で20パーセント向上している」というのが3月2日以降のデータですね。7枚目のスライドを出していただけると……。

前田:これですね?

鈴木:これは本当に生のダッシュボードなんですけれども、左側が活動量で、右側にあるグラフがお客さんとつながっている有効会話数ですね。3月2日以降、どちらも20パーセント伸びています。

「テレワークになったら、やっぱりちょっとサボっちゃうんじゃないか」「活動量が下がっちゃうんじゃないか」という懸念は、みなさんお持ちだと思います。私も少なからず「そんなに上がらないだろうな」「現状維持かな」と思っていたんですけど、結果として活動量は上がりましたね。

前田:へ~。ちなみに「活動時間」って見ていたりするんですか? 稼働時間、実際にみんなが働いている時間とか。

鈴木:はい、CRM上に履歴が残りますので見ています。

前田:それはテレワーク前と後で、増えたり減ったりしています?

鈴木:うちは9時が始業時間なんですね。おもしろいのは、ほぼみんな、だいたい8時か8時半に活動開始していますね。出社してもらっているときは、9時前後や始業10分前に稼働する方々も多かったんですけど、テレワークにしてからは1時間前や30分前には業務をスタートしてくれています。

9時ちょうどには電話をスタートしているくらいのスピード感で動いてくれているので、むしろ会社に来ているときより動き出しの効率はいいですね。

前田:なるほど。それで活動量が増えているんですね。

鈴木:そうですね。それ以外の要因があまり見当たらなくて、メンバーに聞いてみると、朝の段階で例えばリストアップしたり、アプローチ方法の戦略を立てたり、事前にメールをお送りしたりするなど、しっかり動いてスタートできている状況のようです。通勤時間がなくなったのは、すごくポジティブに影響していますね。テレワークになっても起床時間は変わらないみたいです。

前田:そうなんですね。へ~。

鈴木:結局、同じ時間に起きるので、早く仕事を始めるということです。

自由に出入りでき、何でも話せる「部屋」を用意

前田:なるほど。実際にコミュニケーションの仕方やミーティングの仕方とか、そのへんは何か変えたところってあるんですか?

鈴木:ミーティングに関しては、基本的に同じようなミーティングを増やしたっていうのは実はあまりないです。ミーティングの量はあまり変わってないんですけど、基本的にSalesforceを見れば「どれくらい電話しているか」「活動しているか」という動きは見えてくるので、とくに増やしたっていうのはないんですね。

8番のスライドを出していただけますか? 個人名はマスクさせていただいているんですけど、活動のダッシュボードを作っています。これは私が作ったテレワーク用の「君は一人じゃないダッシュボード」です(笑)。

みんながどれくらい電話しているか、メールを送っているかが全部見えるように、今回のリモートワークのために改めて見たい内容を集約して作ったんです。これでチェックしているので、「何件電話しました」みたいな報告は一切ないです。

ただ当然テレワークなので孤独になりがちですし、対面のコミュニケーションが減ってしまいます。始めてみて「やっぱりちょっと元気が出ない」とか「モチベーションが上がらない」という声がけっこう出てきたので、朝の掛け声とか、通常のミーティングとは違うミーティングを増やしていますね。

例えば特徴的なものだと、ハングアウトを使っているんですけど、午後の2時から4時に関してはそのツールをチームで全部解放して、部屋を作っています。その2時間は勝手に人が集まってきて、コーヒータイムをしようと、案件の相談をしようと、雑談をしようと何でもいい。その部屋を各チームのマネージャーが用意してメンバーを受け入れています。

前田:なるほど。

鈴木:インサイドセールス的には14時から16時は電話がつながらないので、我々は「ノンコアタイム」と呼んでいるんです。データを取ってみても、電話が一番つながらない時間帯なんですね。

この時間に必死に電話をしても仕方がないので、この時間は完全に頭を切り替えるとか、リストを作るとか、仮説を練る時間にしています。その時間を「相談タイム」というかたちで、14時から16時にセットしていますね。

一週間の終わりに「褒め会」を実施

前田:ちなみに、もともとリモートに切り替える前から、リアルタイムでみんなの活動を見られていたんですか?

鈴木:もともとダッシュボードがあるので、見えてはいました。ただメンバーの表情や職場の雰囲気を視覚で見えているので、ある程度「このくらいだろうな」という想定はついていて、ダッシュボードを更新してマネージャーがチェックする回数ってそんなに多くなかったんですね。例えば午前中と午後の2回くらいだったんです。

正直、今は確認頻度がアワリー(Hourly)になりましたね。1時間ごとに「誰々が上位に上がったよ」「ランキングが入れ替わった」「誰々が調子がいい」とかっていうのを、かなり細かくアクションするように変わりました。「アワリーマネジメント」が今わりとホットトピックというか、「時間で見ようぜ」みたいな感じになっています。

前田:へ~! 「みんなのお互いの認識が上がって競い合う」みたいな、そういう効果もあるんですかね?

鈴木:そうですね。マネージャーがやってくれているのが「今、この人が上位だよ」というのを、数時間に1回ぐらいSalesforceの社内SNS「Chatter(チャター)」に出すことです。それに対して上位メンバーには「好調の秘訣を周囲に共有する」という流れができている。各項目で1位のメンバーが「今日はこれをやったから、1位だよ」というノウハウをシェアするようにしていますね。

前田:なるほど。さみしさをなくすために、いろいろ雑談できる時間を作ったりしているとおっしゃっていたと思うんですけど、そのほかに、何か工夫したりしています?

鈴木:金曜日の夕方に「褒め会」を導入しました。これ、実はリンクアンドモチベーションさんに推奨していただいて「やったほうがいいよ」と言われたことなんです。

テレワーク自体、だいたいみんなメリハリがつかないので、みなさん引きずったまま土日に入っちゃうんですね。数名のメンバーが土日に落ち込んでしまって、月曜日にスイッチが入らない状況になるので、金曜日の夕方6時からチームで集まって「ありがとう」と褒めることだけをひたすらする会を、あえて設定しています。

前田:おもしろいですね。そこはやっぱり、マネージャーが主催してやるんですか?

鈴木:マネージャー主催でやります。

前田:確かにメリハリつけるってすごく重要ですよね。

リモート環境整備のための補助制度

鈴木:そうなんですよ。みなさんに聞いてみると、大前提として、朝のちゃんとした時間に仕事を始めてくれるんですね。でも、ちょっとマイナスなこととして「仕事の終わりが見えない」という声が多くて、「ご飯を食べながら、もう1回パソコンを見ちゃいます」「お風呂に入ったあと、残った仕事をやっちゃいます」とか。

日常的に出勤していれば絶対そうならないんですけど、テレワークでは仕事に戻っちゃうという状況を作れてしまいます。なので、しっかり「今日はここでおしまい」「もうログインしちゃダメ」「みんなPCを畳んでね」という時間。「終わり」の時間のほうをちゃんとやらなきゃいけないというのは、1つの学びですね。

前田:確かにそうですね。リモートワークに切り替えるときに、事前準備でやったことってあるんですか?

鈴木:事前準備としては当然、リモートで働ける環境を整えてほしいというのがありました。実際には、自宅のインターネット速度のチェックをし、それが遅い方に関してはモバイルWi-Fiの支給ですとか、iPhoneの支給、あとは会社からテレワーク用の機材を買うための金額の援助をしました。

前田:へ~!

鈴木:なのでみんなモニターを買ったり、椅子を買ったり最適な環境を整備していますね。

前田:確かにインサイドセールスをやっていると、回線の強さとかがけっこう重要ですもんね。

鈴木:そうですね。IPフォンで電話して回線が遅れると、それこそお客さんと会話が成り立たないので、インターネット速度はしっかりと確保するようチェックしました。

前田:なるほど。ほかにやったことってありました?

鈴木:事前の準備というところは、それくらいですかね。ちなみに9番のスライドが「業務開始メッセージ」の例ですね。

前田:これですね?

鈴木:けっこうエモーショナルなやつが多いんですけど(笑)。

前田:どういった目的というか、どういったことを意識して、これを発信したんですか?

鈴木:「業務開始のメリハリがつけられない」というのが心配だったのと、人によってはちょっと出だしが遅れちゃうみたいな方々も、ちょこちょこいました。なので業務時間になったらまずはみんなで、Chatter(チャター)にこういうメッセージをポストして、全員で声を掛け合います。

顔が見えているというか、「この人は今日も元気だな」というのを確認して動く。チェックをするために、「みんな出勤していますか?」ではなくて、こういうポジティブなメッセージをポンと出して、それに対してみんなで反応しよう! という空気を作っています。

前田:なるほどですね。それに反応するのは必須にしているんですか?

鈴木:必須にはしていないです。必須にはしていないですけど、基本的に今はみんなすごくポジティブに反応してくれるので、逆にメンバー同士で「見ている?」みたいなメンションが飛び交うようになっていますね。

アンサーファーストで伝えることが重要

前田:ちょっと切り替わって、マネージャーやリーダーの視点から、リモートワークでチームをマネージするときに意識しないといけないことって、どういったことがありますか?

鈴木:実はちょうどマネージャーとミーティングでディスカッションをして、やっぱり難しさがあるなと話し合ったんですね。あと正直、マネージャーとしてはチェックする業務が増えるんですよ。(リモートワークでは)顔が見えず、「やっているな」という雰囲気が感じられないので、実際に数字の動きを見に行ったり、それこそ一人ひとりがちゃんとしたメールを送っているかとか、電話履歴を残しているかを見に行くので、チェック工数がすごく増えちゃうんですね。

その前提で、我々としてはコミュニケーションをどうやっていこうかというのを……。10枚目のスライドですかね。ちょうど話し合ってまとめたものがあります。これが絶対で、すべてだとはぜんぜん思ってないんですけど、今1ヶ月やってみて見えているところですね。

「端的にアンサーファーストでメッセージを伝えましょう」とか、営業とかオンラインセールスのノウハウ、非対面営業とすごく近いんですけど。やっぱり視覚情報がないので定性的なコミュニケーションは伝わらないんですよね。「今これくらいのレートなので、あと3パーセント上げるにはどれくらい活動する?」みたいな定量的なアクションに対する質問をしないとけっこうわかりにくい。

前田:なるほど、なるほど。

鈴木:なので「端的にアンサーファーストでわかりやすく伝えましょう」とか「定量的なコミュニケーションにシフトしましょう」とか……。

前田:これは例えば、できる限り電話やテレビ会議でコミュニケーションを取るのか、できる限りチャットやメールでコミュニケーションを取るのか。場面によってはメールで、場面によっては声でとか。そのへんの使い分けは意識していたりします?

鈴木:基本的に、モチベーションとか感情に語りかけるようなときは、テレビ会議を使っています。そこは、けっこうゆるくコミュニケーションできる状態にしています。あとは全体の指示も含めて公開で話すとか、一人に対する指摘をほかの人にも共有してほしい場合にはChatterを使います。

個人的なコミュニケーションの場合にはチャットを使っています。今うちはGoogleのハングアウトを導入しているんですけど、個人的なちょっとしたコミュニケーションとか、ちょっとした質問をするときには、チャットで。うちの場合はメールはほぼ一切使っていないですね。

前田:メールがなくてもコミュニケーションが成り立っているんですかね? メールをあえて使わない理由って、あるんですか?

鈴木:SNSツールとチャットツールがあるのでメールを使う理由がないというか、用途がないですね。メールはお客様、対外向けのコミュニケーションのみで使うっていうのが基本ですね。メールは本当にほとんど使わないですね。

非対面だからこそ、お互いに細かく感謝を伝えあおう

前田:あとは、「細かくお礼をする」?

鈴木:そうです。細かく、多くですね。「ありがとう」とか「お疲れさま」とか称えるシーンがめちゃくちゃ増えましたね。

前田:それは何か理由があるんですか?

鈴木:理由はあります。

このような状況下なので、誰もが元気が出にくい状態になる。意外なのが、ふだんオフィスにいるとすごく明るくて元気なキャラクターの方ですら、「やっぱりちょっと力が出ない」「パフォーマンスを上げられない」という声が出てくるんです。

なので、できる限り盛り上げたいというのもあって、たくさん「ありがとう」を言うとか、お礼を言うというふうに、マネージャーとしても、チームとしても気をつけるようにしています。

(スライドを指しながら)このダッシュボード、「ありがとうダッシュボード」を作ったんです。SNSの中で誰が「ありがとう」を一番言っているのかとか、どのチームが「ありがとう」が飛び交っているのかというのを、ランキングにして出しています。

前田:淳一さんが1位になっているところがありますね。感謝の気持ちを伝えた投稿。

鈴木:そうですね。真ん中のところ、自分がポストした投稿に「ありがとう」が返ってきたという。でも私の場合は正直、立場的な下駄を履いていると思うのでちょっとずるいですね。一番左の下側は、マネージャーの「ありがとう」と言っているランキング。

前田:なるほどね。へ~。これは全部、(対象が)マネージャーのみなんですね。

鈴木:基本的にはまずマネージャーにしています。やっぱりマネージャーが率先して「ありがとう」をたくさん言っていけばチーム全体の「ありがとう」が増えるので、まず我々としてはマネジメントリーダー層がたくさん「ありがとう」を言いましょうと。それを可視化しています。

前田:重要ですよね。非対面だと、すべてが冷たく感じたりするじゃないですか。フィードバックもそうですし、コミュニケーションの1つずつが冷たく感じます。なのでやっぱり僕も意識していて、感謝の気持ちを伝えたりとか、最近はすべてのメッセージに絵文字を入れたり、スタンプを入れたりとかしているんですね(笑)。

鈴木:僕も絵文字が増えました(笑)。

前田:テキストでもできる限り感情を入れるというか、ハッピーな感情を入れるのをやっていますね。

鈴木:ヨーロッパのチームから聞いたんですけど、彼らは今「キャビンフィーバー」と言っています。いわゆる「閉所」「狭い同じ環境」でずっと仕事をしていると、ちょっとした鬱じゃないですけど「落ちてしまう」というのがシェアされています。

彼らから「どんどん閉鎖が進んでくるとその状況になるので、今のうちからちゃんとポジティブにコミュニケーションを取っておいたほうがいいよ」というアドバイスをもらっていますね。

前田:なるほど。確かにこれが長引くと、「キャビンフィーバー」になる人はたぶん多いですよね。

鈴木:なると思いますね。