2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
株式会社アラヤ 代表取締役CEO 金井良太 氏(全1記事)
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藤岡清高氏(以下、藤岡):まずは金井さんの生い立ち、幼少時の思い出などをお聞かせ下さい。
金井良太氏(以下、金井):ごく普通の家庭環境で、中学までは公立の学校に通っていました。アインシュタインの漫画を読んで憧れたのがきっかけで子どもの頃から科学や宇宙などに興味があり、将来は科学者になりたいと思っていました。
藤岡:武蔵高校に進学されましたが、高校生活で印象に残っていることはありますか?
金井:私が現在取り組んでいる「意識」は、高校で受けた授業の影響が大きいと思います。国語の授業で「ソシュール言語学」というものを知ったのですが、それは現在の「意識」を深掘りする仕事にも繋がっている部分があると感じています。
藤岡:「ソシュール言語学」とはどのようなものでしょうか?
金井:ソシュール言語学では、言葉の意味がどのように決まるかというようなことを学びます。例えば「赤」という単語になぜ「赤い」という意味があるのか。「赤」という音にはとくに赤らしさはなく、私たちが「赤い」と信じているものは実際には脳がつくり出した幻想です。さらにそこには「なぜ意味が決まるのか」という言語学的問題もあり、「赤というのは青とは違うものである」等、他のものとの違いにより意味を確立させています。
だとすれば、物事とはすべて他との関係性で決まるもので、それ自体に意味なんてないのではないかという解釈もありますが、実際にはそれぞれに意味があるわけです。
そして、それは意識の問題においても同じだと思うのです。例えば赤いものを見れば「赤い」と感じますが、実際にはニューロンが繋がり合ってインタラクションしているだけです。なのに、私たちはそれを赤と感じるわけですが、これまではそういった事象が言語学や哲学の分野で扱われていました。私はこれを科学として解けるのではないかという興味を持っており、さらにその発想を、AIを利用して解明できないかと考えているわけです。
藤岡:金井さんは意識の謎を解き明かしたいという欲求からAIに入られているのですね。
金井:脳科学への興味から進学先を選び、京大の生物物理学科に入学しました。受験にはさほど熱心ではありませんでしたが、「とにかく早く大学に入って勉強をしたい」と考えていました。
入学当初は何を研究すれば自分の知りたいことがわかるのかもよくわからないまま勉強していましたが、途中で「自分は脳から意識が生まれる仕組みが知りたいのだ」と気が付きました。『脳のなかの幽霊』などを著しているラマチャンドランの論文を読んだときに「クオリア(主観的な意識体験)」という言葉が出て来たのですが、これをやりたいと思ったのがきっかけです。
藤岡:大学在学中に海外留学されていますが、オランダのユトレヒト大学を留学先に選ばれたのも、意識や脳の研究をするためだったのでしょうか。
金井:オランダが自由そうな国だと感じていたこともありますが、セース・ノーテボームというオランダ人小説家の小説を読んだことも、オランダに興味を持った大きな理由です。
セース・ノーテボームの小説には2つのテーマがあり、1つは科学、もう1つは体験するリアリティ、つまり科学とクオリアという私の興味に非常に合致するテーマだったことで、「こういうことをテーマに書いている作家がいる国はおもしろそうだ」と感じたことが、オランダ行きの決め手になりました。
私が読んだ小説は古典ギリシャ語の教師が主人公なのですが、古典の知識として知っている文献に出て来る神々の体験と主人公自身が現実の世界で恋をする体験との対比、つまり、文献からの知識と生々しい体験の違いの描写が非常に興味深かったのです。
また、小説の中で主人公が映画を観るのですが、宇宙探査ロケットが描く宇宙の大きさが圧倒的で、しかもこれはフィクションではなく現実に存在する世界であることに感動します。人間の創造した神々の世界も壮大ですが、宇宙の大きさとは比較にならない。人間の想像を超えたものを事実として出してくる、ここに私自身も科学のすごさを改めて感じたのです。
先に言った「クオリア」的な部分と、なぜ科学はさまざまなことを相対的で無意味にせず、事実として突きつける力があるのだろうという、その2つのことに強い興味を持ちました。
そんなオランダ文学への関心から交換留学生として1年弱滞在し、その後「もう少しオランダにいたい」と考えて大学卒業後に改めて行きました。そのままPh.D.まで取得したので、トータル6年ほどオランダで過ごしました。
金井:Ph.D.取得後、ポスドクとしてカリフォルニア工科大学で2年間過ごしました。下條信輔教授という方がカリフォルニア工科大学にいらして、大学院時に共同研究でお世話になっていた縁からです。オランダでの大学院やカリフォルニア工科大学では、「人はどうやって物が見えるのか」など脳科学から少し心理学にも近い研究をしていました。
その後、5年ほどUniversity College London(UCL)にいました。UCLは脳科学分野において突出して秀でた大学で、大変優秀な研究者が集まっていました。
ディープマインド(2010年創立の人工知能を研究する英国企業。現在はGoogleの子会社)を立ち上げたデミス・ハサビスもUCL時代の同僚です。彼はもともとゲーム開発をしていたのですが、それを辞めて脳科学研究を始めました。その後コンピュテーションニューロサイエンスという脳科学とAIの間のような分野で人を集めて、ディープマインドを設立しました。
UCLで過ごした5年間で得たものは大きく、今も仕事のやり方などはUCL時代のやり方を参考にしている部分があったりします。
そして、同じイギリスのサセックス大学で認知神経科学の准教授として3年間教鞭を執りました。サセックスは大学のランク的にはそこまで高くはないのですが、意識の研究所があり、意識研究の世界では著名な人もいたのでおもしろかったです。
藤岡:その後2013年12月にアラヤを起業されたわけですが、なぜアカデミアの世界からわざわざ起業というリスクを取られたのか、その背景についてお聞かせ下さい。
金井:その頃からアカデミアで研究するよりも企業に強みを感じるようになりました。私のやっていた分野ではより多くのデータがあることが非常に重要なのですが、大量に集めようとすると研究費では全く足りず、「大規模な研究成果を出すためには会社を作らないと」と思ったのが起業のきっかけです。
起業ではなくGoogleなどの会社で脳科学のチームに入るという選択肢もあったかも知れませんが、よりおもしろそうだと感じた方に進むことにしました。
藤岡:起業されて6年になりますが、ここに至るまでいろいろな問題に直面されたと思います。どのような壁に突き当たり、金井さんがどのような意思決定をして乗り越えてきたのかについて深く伺いたいと思います。
金井:当初、何が壁だったかと考えると自分自身のマインドセットの部分かもしれません。研究者から起業家になるということが精神的に難しかったのです。
やりたいことに集中するために起業したのに、それに時間が割けない。収益を上げて会社を成長させて、という経営者として当たり前のことをやらないといけない。むしろそれを「やりたいこと」にしないといけない、という現実を受け入れるのに時間が掛かりました。
また、例えば社内で取り組んでいる新たなビジネスがあったとしても、自身はもう少し壮大なところを目指していて、そうすると「目の前の経営はどうするの?」というギャップが生まれるわけです。
実は経営的にピンチの時期もあったのですが、その頃のことを思い出すと「おもしろそうだからやってみたい」という意味ではやる気はあるものの、内心ビジネスは面倒だと感じ「絶対成功させなければ」という気持ちになりきれていなかった部分があり、経営者としての覚悟が足りなかったと感じています。私に対して「もっと経営者としての自覚を持って欲しい」と考えていたメンバーもいたと思います。
藤岡:いつ頃からそのマインドが変わってきたと感じますか?
金井:1年ほど前でしょうか。社員が現在取り組んでいることにしっかり目を配る一方で、経営者としては「その先」、例えば「もっと高いレベルの研究をする」といった会社の存在意義を発信して会社を引っ張る、その両方のバランスを取れるようになったと感じています。
社員の取組みを常に気に掛けるようになったところで「研究者から起業家になれたのかな」という心の変化がありました。今は経営者としてこの会社を成功させたいと思っています。
藤岡:今は、金井さんご自身はもう研究者としての時間はほぼ取らず、経営に専念している状態でしょうか?
金井:そうですね。研究者と経営者の違いには、私自身いまだに違和感を覚えることがあります。研究者は自分の研究対象のことを全て把握している状態、仮に大量の論文が出ていてもほぼ全部内容を把握している状態が当たり前でした。経営者の場合には、専門外のこともたくさんやらないといけません。完璧でない状態で、例えば公認会計士などいろいろな専門家とうまくやっていく必要があります。
翻って社内を見ても、それぞれ専門性の高い仕事をしていますから、技術的なことやハードウェアのことなど、やはり完璧にはわからない。でも、そういうチームに対しても「こっちに行こう」という方向性を示せる程度には理解していないといけないわけです。そういったインタラクションの仕方が全く違うことに、研究者時代と比べて不安は感じました。
藤岡:ずっと研究者としてキャリアを築いていらして、当然周囲の方も研究者が多かったと思うのですが、経営者として金井さんが指示を仰ぐようなメンターはどなたかいらっしゃるのでしょうか。
金井:メンターという言い方が適当かはわかりませんが、他の似たようなベンチャーの創業者の方々と話すとやはり抱えている問題も似ていますし、何か教えてもらうと言うよりは「自分だけじゃないんだ」と心強く感じたりはします。
藤岡:資金調達に関してのお話も伺えますか。当然、起業してすぐに売上が上がったわけではないと思いますが、どのように資金問題を解決されたのでしょうか。
金井:もちろん、最初の1~2年は大変でした。妻がこつこつ貯めてきたお金を全部使い果たしましたから。ただ、その後は比較的スムーズに資金調達できています。
立ち上げ初期はコンサルや受託、補助金などで凌いでいましたが、AIを幅広く扱うようになった頃から本業で稼げるようになりました。
受託はある程度の売上にはなりますが、「これだけやっていてはダメだ」とみんなが感じていました。そこでAIをどのようにプロダクト化していくかという課題が出てくるわけです。現在はエッジAIが我々の強みだと考え、そこを中心にやっています。
藤岡:金井さんがAIを始めた頃は、まだまだ世の中の空気が「AI?」という雰囲気だったのではないですか? 信用の壁は厚かったのではないかと思います。
金井:確かに、創業時のひどい扱われ方は辛かったですね。研究者としては業績もあって成功した方だったと思いますし、「大学の先生」というステータスもあったので社会的安定が確保されていたのですが、起業と同時にドラクエで転職して一気にレベル1に戻ったような感じがありました。
とくに私の場合、「研究者が起業家になった」「海外生活が長く、日本で社会人生活としての経験がゼロだった」「脳研究からAIに移動した」など、あらゆる要素でことごとく実績のない素人に戻ったため、なおさら冷たく扱われた気がします。
そういう意味で、他のベンチャー創業者の方と比較しても壁はひときわ高かったと思いますが、まずは知り合いから仕事を振ってもらうところからスタートし、徐々に実績を上げながら地道に乗り越えて来ました。
藤岡:AIに対する社会的認知度は以前と比べてどう変化してきたとお感じになりますか。
金井:私がAIをビジネスに使い始めたのは2015年ですが、その当時はAIのビジネスへの応用も手探り状態でした。2016~2017年にはディープラーニング関係の論文も数多く出て、初期のブレイクスルーが起きたのはこの時期だと思います。ここ1~2年で「AIで何ができるのか」というビジネス側のアプリケーションも整理されました。現在は、普通のことをやっても差別化はできないような、成熟した状態になりつつある印象です。
藤岡:人材についてもお聞かせ下さい。今でこそこうやって人が集まってきますが、起業当初はどのように採用を進めたのですか?
金井:初めはやはりアカデミックな繋がりの方が入ってくれました。それほど人数はいませんでしたが、少数であれば優秀な人材も何とか確保できました。
藤岡:アラヤさんが求める人材は、恐らく能力の非常に高い研究者や特殊な分野の方など、よりピンポイントに近い採用になるかと思うのですが、そういう人材には出会えるものなのですか?
金井:案外すごい人に出会えます。AI分野が得意な人の中には、能力的には申し分ないのに割と最近まで活躍の場がなかったという人材が多くいて、ようやく彼らの活躍の場が増えてきて良かったと感じています。
実は、これは起業のモチベーションにも関係があります。研究者や能力の高い人があまり社会で生かされていない現状、とくに応用分野と社会の繋がりが弱いことで、研究を頑張っても生きて行く上では不幸になってしまうという現実があり、何とかそういう問題を解決したいと考えています。
私自身、数学などもすごく好きなのですが、アラヤではそういった自分が好きなことを楽しむ気持ちが生かせる仕事や場所を作りたいという思いがあります。
藤岡:具体的には、そういう人たちにはどのようにアプローチをされて来たのでしょうか。
金井:人材エージェント経由の方も多いです。とても不思議に感じるのですが、実は大企業の中に十分なスキルを持ちながら、そういうおもしろい仕事をするチャンスに巡り会えていない方がけっこういます。そういう方が当社に魅力を感じ、転職してくるケースもあります。
藤岡:金井さんは「意識の情報原理を解き明かす」「意識を持った人工知能を構築する」など明確なビジョンを持って今の会社を立ち上げられたと思うのですが、起業されて6年経ち、どのような手応えや課題を感じていらっしゃるのでしょうか。
金井:我々が目指しているのは「人工意識」と言っていますが、現状では科学でも解明できない非常に難しい問題です。ただ一方で、これができればイメージ的には相対性理論レベルのものができるのではないかという期待もあります。
意識の問題が解明できるということは、情報の本質が解けるということです。現在、そういう研究をしている人たちは汎用人工知能というものを作ろうとしています。汎用人工知能は、AIに自律性を付加することで、より幅広い範囲の問題解決力を備えたもので、AIの「普及が難しい」という課題を解決する人工知能です。
AIがなかなか普及しない理由は主に2つあり、その1つは計算にコストが掛かるところです。「ディープラーニングで問題解けました」となったところで、それを自動車に載せるにはそこで計算ができないといけません。それをやるためには我々が取り組んでいるエッジAIの技術が必要なのです。
そして、もう1つの理由は毎回データを最初から作り直さないといけないところです。汎用人工知能の機能として「転移学習」という、すでに学習したことを新しいことに応用できる仕組みがあり、これをうまくビジネスに応用できないかと考えて、いろいろ研究を進めています。これができると、先に挙げたAIの普及課題の2つ目を解決することになります。
このような最先端の研究成果と今あるビジネスの課題を結びつけて解いて行くというのを我々の勝ちパターンにしていきたいと思っています。
AIも今後ユニークなものがないと苦戦するはずですから、社内で新技術を開発する力を持つ意味があると考えています。
藤岡:金井さんご自身がアラヤに対して感じていらっしゃる経営課題について、短期的なものと中長期的なものとお聞かせいただけますか。
金井:短期的にはもっとスケールするビジネスにしなければと考えており、そのためには人工(にんく)ビジネスにならないような方法が必要です。我々は現在ライセンシングへの移行を進めており、とくにエッジAIのところではそれが見えてきたかなというところです。
長期的には、自分たちで独自の技術を生み出せる体制を作って行きたいです。初めにも少しお話ししましたが、ビジネスは採算の取れる目論見のあるプロジェクトであれば強いパワーを注いで動いていけます。対してアカデミアは個人技の勝負です。例えて言うなら、強力な格闘家でも軍隊にはとても勝てないでしょう。この力学をうまく生かして、物事を推進させて行きたいです。
藤岡:Googleなどは軍隊レベルということですね。
金井:はい。彼らは組織としての力を最大化する仕組みを持っていると思います。当社にもそのような仕組みがあれば大きな成果を生み出せると考えています。研究とビジネスを繋ぐことで新しい発見があるのではないかと思っているので、そういうプラットフォームを作りたいと考えています。
藤岡:現在御社の社員数は40名ほどですが、今後もさらに採用を進めていくと思います。現在求めている人材についてお聞かせ下さい。
金井:まずは何かにずば抜けている人です。全体的にある程度できるよりは、1科目だけ偏差値100みたいな、そんな感じの尖った方がいいです。
一方で、プロジェクトのマネジメントや調整ができる大人の方も欲しいです。私の「研究者と起業家の葛藤」のように、技術のことがわかる人は自分で手を動かしたくなるものですが、チームとして強くなるためにマネジメントに徹する、そういう気持ちの切り替えができる人材が必要だと思っています。
また、多様性も大事にしたいと考えています。例えば現在台湾出身者が2人いるのですが、中国のお客様に資料を出す時などは非常に頼りになります。また、建築など別の分野から来た方もいます。いずれも中途採用ですが、彼らの経験の種類が多いほど、会社としてできることの幅が広がったり、新しい発想に繋がったりするのではと期待しています。
藤岡:これからアラヤさんに参画する魅力とはどこにあると思われますか?
金井:実は、私は毎日社員と1 on 1で話しているのですが、みんな「仕事が楽しい」と言ってくれます。それは最先端の領域に関われていることも大きいと思いますが、他のメンバーから学べることが多くておもしろいと言われます。滅多に会えない著名な研究者が講演に来てくれることもあり、そういう交流から得られる刺激も魅力の1つかもしれません。
また、当社では社員の興味に仕事を合わせるようにしています。エッジAIなのかディープラーニングなのか等、毎回希望を聞いて調整し、やりたい仕事ができるようにと考えています。
社内には提案する仕組みもあり、おもしろい提案には予算を付けてチームを作り、実際に製品化したら全員で協力して売るところまでやることも考えています。
全てトップダウンで決めるのではなく、おもしろそうだと思ったことをどんどんプロダクト化していけるようなプラットフォームとして、容れ物として会社が存在していけたらいいと思っています。
藤岡:本日は素敵なお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。
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