歳を重ねると早起きになってしまうワケ

ハンク・グリーン氏:高齢者が若者よりも睡眠時間が短く、午前4時くらいには目が覚めてしまうといった姿は、高齢者のステレオタイプとされていますよね。とはいえ、このイメージにはいくばくかの真実があるようです。

アンケートによると、多くの高齢者は明け方に何度も目が覚め、夜明けに起床するようです。しかし、高齢者の身体は目を閉じている時間をそれほど必要としていないのかといえば、そうではありません。若者と同じくらいの睡眠を必要としているのです。

身体の痛みや服用した薬によってなど、加齢に関連性のある事柄に睡眠が妨げられることがあるのは確かですが、原因はそれだけではありません。

高齢者が、ニワトリの鳴き声と共に目覚めてしまうのには、実はちょっと不思議で奇妙な理由があることが、研究により明らかになってきています。脳砂という物質が関係してくる説もあります。この名前の奇抜さは、見掛け倒しではありませんよ。

総体的には、年を取るにつれ、概日リズムに関連する何かが変化することが原因です。概日リズムとは、おおむね24時間サイクルの体内リズムで、疲労感や排便のタイミングなど、体内活動のすべてに影響があります。

さて、実際のところ概日リズムの何に変化が起こるのかという説は、バラエティに富んでおり、極めて多岐に分かれています。中には、身も蓋もない説もあります。脳細胞が死滅していくからだとする説や、ホルモンの変化を原因とする説などが挙げられます。

脳は一日を通して、体内時計を調整するホルモンを血中に放出します。このホルモンは、特定のたんぱく質の生成を促しては24時間サイクルで分解され、朝に自然に目が覚めるなどの作用を及ぼします。

そのため、このホルモンが変化すると睡眠リズムがおかしくなるのは、十分納得がいきますね。複数のエビデンスにより、このような現象が高齢者の体内で起こっていることがわかっています。

複数の研究によれば、高齢化につれ、これらのたんぱく質の分泌がどんどん早い時間になっていき、そのため、高齢者は朝早く目が覚めるようになるようです。

あるホルモンや血中成分が原因だとする説もあります。出だしだけを聞くと、いかにも説得力がありそうですが、この説の根拠となっているのは、世にも奇妙な実験です。

メラトニンが作用している?

2011年刊行のある論文で発表された実験では、20代の被験者18人から採取した皮膚細胞を、56歳から83歳の被験者18人から得た血清で培養しました。すると、血清には年齢に依存するホルモン、もしくは成分があるらしく、若者の細胞は、突如40年分年を取ったかのように、たんぱく質の分泌時間が早まったのです。なんとも驚くべき結果ですね。

さて、これにはとくに、メラトニンというホルモンが関係してくるようです。メラトニンは、睡眠リズムを整えるホルモンの一つです。加齢と共にメラトニン量が減ることが、複数の研究でわかっており、その理由とされるのは、納得できるものから、ばかばかしく思えるものまで、多岐にわたります。

例えば、メラトニンに関連性のある脳内のレセプターや酵素の減少が、理由の一つとして挙げられますが、それは脳の消費するメラトニンが、加齢につれ増加するためだと考えられています。

脳の松果腺の内部にある、脳砂という物質に原因があるとする説もあります。ここから話はおもしろくなりますので、よく聞いてくださいね。松果腺とは、脳の中央部に位置する大豆ほどの大きさの器官です。メラトニンを分泌し、概日リズムの調整において中心的な役割を果たす重要な働きをします。

ところが、高齢化するにつれ、不思議なことが起こります。何と、松果腺にカルシウムの沈着が起こるのです。カルシウムの沈着、つまり石灰化は、他の臓器にも見られます。しかし、松果腺は他の臓器に比べ、もっともその割合が高いのです。

ある研究で、40歳から70歳の人について調べたところ、なんと、松果腺の28パーセント近くにカルシウムが沈着していることがわかりました。これを脳砂と呼びます。脳の中の、小石のようなものです。このような沈着が起こる理由は、よくわかっていません。

高齢化に伴って起こる、血管の炎症や脳内酸素の低下などが原因だとする説もあります。これらの症状により、松果腺内部の幹細胞、つまり他の働きをする細胞に分化する能力を持つ細胞が、骨を形成する働きをする細胞へと変化するのではないか、と考える研究者もいます。

そうなのです。松果腺の石灰化とは、脳の中に骨ができるようなものなのです。これは、たいへん困った事態です。現時点では、これは単なる推論に過ぎません。とはいえ、脳砂により、脳やせき髄を覆っている体液内のメラトニン量が減少することはわかっています。こういったことが、不眠症や、目が覚める時間が早すぎてしまうなどといった睡眠障害の原因である可能性があるのです。

このように、死滅する細胞から脳砂に至るまで、高齢者が早朝に目が覚めてしまう理由には、数多くの説が唱えられています。そのため、複数の要因が絡み合っている可能性も考えられます。

いずれにせよ、原因とされる説があまりにも多様なため、進化上の理由が背景にあるのではないかと考える研究者たちもいます。これは、「よく眠れないおばあさん仮説」というものです。

太古の昔、人類が野外もしくは外部に開けた場所で眠っていた時代には、何人かが起きていて、ライオンその他の肉食獣を警戒している方が利益が大きい、という考えです。その結果、人類は年齢によって異なる概日リズムを発達させ、誰かが必ず起きていて歩哨の役割を果たすようになったのです。

これはすばらしい考えですが、仮説に過ぎません。人間の睡眠リズムの進化は、さまざま要因で起きたのかもしれませんし、単なる偶然の産物であった可能性もあります。

とはいえ、高齢者が家族の他のメンバーを人喰いライオンから守るために、体内に目覚まし時計を持っているのだとしたら、それは朝早くから起き出してデニーズに行くには、きわめてヒロイックな理由だとは思いませんか。