「働き方」のフジロックも7年目

横石崇氏(以下、横石):Tokyo Work Design Weekオーガナイザーの横石と申します。この働き方の祭典の言い出しっぺで、7年目になります。

篠田真貴子氏(以下、篠田):すごい。継続が力になっていますね。

伊藤羊一氏(以下、伊藤):そうですね、7年前には少なくとも働き方改革なんて言葉はなかったからね。

横石:ないですよね。先日、厚生労働省の人に改革の先駆者だって言われたぐらいです。

伊藤:ITの会社はワークスタイル変革とか言っていた時代。

横石:当初、「働き方のフジロックフェスティバルをやってます」なんて説明していました。「君はなにを言っているんだ」と怪訝に思われながらも、よくわからないままに評判になっちゃっいまして、今ではおかげさまでこんな豪華なメンバーでキャンプファイヤー形式で話せるようになったのはありがたいと思います。

今年も勤労感謝の日までの7日間をセッティングしました。会場は渋谷、大阪、横浜、滋賀、熊本、それから韓国のソウルでもやっています。

今日は「人を動かす」がテーマですね。1日かけてやりたいと思っていますが、この1部では、「自分を動かす」ということを軸に、この4人で進めていければいいかなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

『0秒で動け』著者と「ジョブレス」が登場

横石:じゃあ、ご紹介が遅れたんですけれども、お隣が伊藤羊一さんでございます。

(会場拍手)

1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術

伊藤さんと言えば『1分で話せ』という大ベストセラーがございます。いい本ですもんね。それはこないだ出版されたばかりの新著の効果も大きいですかね。

伊藤:新著が出たことによって、一緒に本屋に並んでいるんですよ。『1分で話せ』『0秒で動け』。それで『0秒で動け』のおかげで『1分で話せ』がまた売れるという(笑)。そんな感じになるかなと思っていたけど、案の定そうなりました。

0秒で動け 「わかってはいるけど動けない」人のための

横石:まあ、1分で話した後に0秒で動けというのもすごい話ですね(笑)。

伊藤:「動く」というのは今日のテーマなんですけれども、抽象的じゃないですか。抽象的だし、人それぞれ「動く」要素は違いますよね。そこも踏まえて。

横石:ぜひ今日は動くための秘技みたいなものを、お披露目いただければと思っております。続きましては篠田真貴子さん。みなさんになんとお伝えすればいいんでしょうか。

篠田:友達には冗談で「ジョブレス」と言っているんですよ(笑)。でもいずれ働きますので、今は充電中ということで。よろしくお願いいたします。

横石:現在は充電はどのくらい経ちましたか? 

篠田:もうちょうど1年。実は前職のほぼ日を辞めたタイミングでは、数ヶ月は間をおこうかなと思っていたのですが、いろんなすばらしい友人たちに「あなたは1年休んだほうがいい」とアドバイスをもらいました。

それで愚直に「おっしゃるとおりだな」と思って、もうじき1年でございます。

横石:おめでたいタイミングですね。今日はありがとうございます。

インドはガンジス川ほとりからオンライン参戦

横石:そして、ONE JAPAN共同発起人・共同代表の濱松誠さんです。現在は世界一周中ということでして、本日はオンライン越しでの参加となりますが……。

伊藤:「そこはどこだ?」ということですよね(笑)。

濱松誠氏(以下、濱松):よろしくお願いします。

横石:なんだか暑そうな雰囲気ですね。

濱松:今、インドのバラナシのガンジス川のほとりにおります。見えないですよね。

篠田:あ、でもお外は見える。バラナシの町も見える。

濱松:ガンジス川のほうを向いています。

伊藤:ガンジス川からこうやって映っている人を見ちゃうと、「俺らはここでなにをやっているんだ」という感じがしますね。

(一同笑)

篠田:今気がつきました。これは働き方のイベントなのに、このパネルは働いていない人が大半を占めるという。

横石:ジョブレスが2人というね。

篠田:「どうしちゃったんですか、働いていらして」と。そういうことですよ。

伊藤:でも僕もジョブレスみたいなものですよね。「お前はなにをやっているのか」とずっと言われているので。そういう意味では濱松さんにも篠田さんにもジョブレス度はあんまり負けていないかなという。

篠田:斜め上をいかれる。

横石:今日は「自分を動かす」というテーマなんですけれども、ほんとに大丈夫ですかね?

(一同笑)

篠田:大丈夫。自分は動いているから、大丈夫。

伊藤:濱松さんに聞きたいんですけれども。濱松さんは今、世界一周を始めて何ヶ国何ヶ月ぐらい? 

濱松:今、約半年。5ヶ月半ぐらいで、34ヶ国目がインドになります。この後は中東、アフリカ、南米、中米、北米、オセアニアです。

伊藤:、どのくらいの時間をかけてまわるんですか? 

濱松:世界一周は1年です。

伊藤:なるほど。

横石:1人で行っているわけですか? 

濱松:妻と2人です。夫婦で世界一周中なんです。

伊藤:すばらしいですね。

濱松:夫婦でジョブレス(笑)。

篠田:あ、裏でなんか声が聞こえた(笑)。

濱松:(笑)。

横石:奥様も近くにいらっしゃるんですね。

ピラミッドストラクチャーを考え続ける意義

横石:では、こんなメンバーでお送りしようと思うのですが、まずは伊藤さんの「0秒で動く」というお話を枕にして進めていければなと思います。

伊藤:スライドの文字がすごいですね、「さっと動けるようになるために」。そんなの、秘訣があったら苦労しない話ではあるんですけれども。

(一同笑)

要するに人を動かす・自分を動かすという話になると、なかなか踏み出すのがちょっとつらいんじゃないかということで。世の人はだいたい「そんなもの勇気を持って踏み出すんだよ」とか言ったりするわけなんだけれど、「いや、勇気を持って踏み出すだけじゃ踏み出せないだろ」ということが頭の中にあって。

「待てよ」と。「それを本にしましょうか」ということで『0秒で動け』を書いたんですよ。だからこの本は「0秒で、その瞬間になにも考えずに動け」という話では一切ないんです。

頭の働かせ方を書いていて。「ふだん僕はこんなふうに頭を働かせているよ」というのを出しています。

そのうえで例えば篠田さんや横石さん、濱松さんが「いや、俺はこう思うよ」とか。みなさんも日頃「こうやって頭を動かしているよ」というのは、普段なかなか共有されないと思うので、そこを話していければいいなと。

世間で言われる0秒で動け的なメッセージは、概してこの瞬間に「とにかく好きなことをやるんだよ!」「思いきって踏み出すんだよ!」みたいな感じです。

それはそれで大事なんですけれども、僕が重視しているのはスキル、左脳的な要素。それからマインド、これは右脳的な要素です。つまり両方ですね。これを、動く前に年がら年中動かしているんですよ。動かしていて、それがあるから動けるところがある。

左脳的なところ、スキルとは、なにかしら考える枠組みを常に頭の中で訓練しているんですよね。なにをやっているかというと、僕はピラミッドストラクチャーを常につくっているんです。

ピラミッドストラクチャーはロジカルシンキングをちょっと勉強された方なら誰でもご存じだとは思うんですけれども、僕は15年前ぐらいに初めてこれを勉強して衝撃を受けました。それからほぼ毎日、生活しながらピラミッドストラクチャーを考え続けているんですよ。

仕事は結論と根拠の組み合わせからできている

篠田:例えば「お昼はこれを食べよう、なぜならば」といか? 

伊藤:そう。「なぜならば今腹が減っている」「たんぱく質が足りなかった」「これでみんなを誘えばみんなが来てくれる」みたいな。

篠田:すごい。今適当に言っただけなのに(笑)。

伊藤:適当に言っているんですけれども、年がら年中考えているんですよ。「このTokyo Work Design Weekの電車広告はなんだっけ」みたいなことを、ひたすら考えています。

別にピラミッドストラクチャーである必要はないんだけれども、そういうふうにすると結論と根拠がぱっと出てくる、これは大事ですよね。なぜなら仕事の話はだいたい結論と根拠の組み合わせでできている。

大したことはなくて。「あの店で食べたい。(なぜならば)美味い・安い・清潔だから」みたいなことを年がら年中考えている。でも勉強された方はわかるかと思うんですけれども、それは案外難しい。勉強してロジカルシンキングの本とか読むと、難しいと思うじゃないですか。

横石:僕は読む気にもならないです。

伊藤:でもぜんぜん難しくないんですよ。なぜ難しいかというと、ロジカルシンキングの本は下(事実)から上(結論)に作っているんです。

どういうことかというと、ピラミッドストラクチャーは本来、先入観なく結論を出すためのツールです。ここ(事実)を先入観なしに集めて、そこから得られるメッセージみたいなものを集めて、ここ(根拠)を組み立てるとこういう結論になると。コンサルティングはこれをやるわけですよ、下から上に。もちろん仮説とかもあるんだけれど、ひとまずそうやってつくると「そりゃあ時間がかかりまっせ」という話なんです。

僕が言っているのは、「いや、もう上(結論)から下(事実)で作っちゃおうよ」と。上は直感で、仮説を持って結論をバンと出して、後づけで理由を作る。上から下でやってみると、これまでの自分のワークショップの経験でいうと、どんなテーマでも7分ぐらいでできちゃうんですよ。

だってそうですよね、結論をバーンと出して根拠は後づけで考えて、その根拠に当てはまる事実を後からつけるんだから。要するに先入観に基づいた結論が出ちゃうんだけれども、ひとまずそれができるわけです。

そこからはちゃんと人と話して「こう思うんだけれど、どうだろう?」と確認していけばいいのですが、ベースの形は7分とかで実際にできるんですよ。やってみると、すぐにできるようになります。

横石:結論から事実の順番なんですね。ついつい事実探しからやりがちです。

思考のトレーニングをすると「やばい」が常に出る

横石:この間、起業から10年経った会社の倒産率を調べていたら、10年で10パーセントしか残らないというデータもあれば、半分残っているデータもあるんです。

伊藤:そう。ありますよね。

横石:これは結論をどう言えばいいのかは、それを見ちゃったがゆえに結論が出せなくなるんですよね。

伊藤:結局、そういうデータに基づいて正解を出そうとすると、「正解がないじゃん」みたいなことになっちゃうんだけど、そもそも正解がないんですよ。ということは「俺が言ったことが正解だ」とまずは結論を出しちゃって、根拠を並べて、「違うよ」と言われたらそこを直していけばいい。

だから上から下にやっていけば、すぐにできるんですよね。その後修正していけばいい。大事なのは、これを日々繰り返すことなんです。僕はこれを、ずーっと日々繰り返しているんですよ。

横石:トレーニングなんですね。

伊藤:そのためにいろんな情報をインプットしないといけないじゃないですか。でもインプットしようとしてなにも考えずに情報を見ようとしても、インプットはつまらないですよね。だから僕は「すげー!」「やべー!」と声に出して言うようにしていて。

そう言っていると、だんだん「あ、これもすごいし、あれもすごいかも」みたいな感じでテンションが上がってくるんですね。だから「すげー!」「やべー!」と言ってインプットする。それでインプットした情報を、常に自分で勝手に妄想しているんですよ。

横石: たしかに伊藤さんに会うと、しょっちゅう「やべー、やべー」って言ってますよね。

「軸」から自分の結論は出てくる

伊藤:たとえばさきほど篠田さんとお店の話をしていたんですけど、「篠田さんはまた別なことを考えているな」「篠田さんのスキームで、篠田さんはこういうふうに考えているのか」とか。

この間、石川善樹さんと話したら、ポジショニングマップを5年間切り続けていたと言っていたんですよ。「だからこれとこれは同じだな」と思って。よくよく考えてみたら、うちの安宅和人も話の最初に、いつでもホワイトボードに十字を切るんですよ。「これは儀式だ」とか言って。これは、思考をグルグルと回し続けているんだと思います。

そういう思考とか妄想を、ミキサー車で生コンをかき混ぜているように年がら年中考えているんですよ。だから、「いざここについて結論を出さなきゃいけない」というときに、ぱっと構造化ができる。なぜなら、ふだんからやっているから。

「というふうに思うんだけど、どう?」と言って、「違うよ」と言われたら直せばいい。これを日々繰り返しているんですよね。訓練してスキルを鍛えるのです。こんなことでいいのか? と思うんですけれども、僕はこうやって頭を働かせているんですよ。こういうスキルでね。

横石:結論脳にすればいいんですね。

伊藤:一方でそれだけじゃなくて、軸もあります。自分のマインド的なところがあって、軸とはなんだということなんですけれども、これは大事にしている判断基準のことです。判断基準はどこから来るのかと、これも毎日考えているんですよ。

それはどこから来るかというと、軸は過去の経験から来ているんですよ。だって、人はみんなそれぞれ違う人生を歩いているじゃないですか。だから、その経験を踏まえて「自分はこう」というのがある。

そこを明確にするために、ライフラインチャートとかを使いながら、上がったり下がったりしていた時のことを思い出す。「あのときこんなことがあったね」「このときがあるから今がある」みたいなことを考える。

横石:生まれてから今までを山と谷であらわすものですね。

伊藤:これを1個1個話していると、たぶん90分ぐらいかかるので。

横石:絶対やめてください(笑)。

過去や現在を大事にすると、一瞬でアウトプットできる

伊藤:そういうことで自分の人生を振り返ってみて、全部ショートカットする。ちょっと話がずれるんですけれども、リーダーとはなにかというと、意思決定する人だと思っていて。東日本大震災のときに経験したんですよ。

そのときに、「リーダーの仕事とは意思決定だな」と気づいて。なにに従って意思決定するのかというと、別に多数決で決まるのはそれでいいし、プロコンを書いて決まるならリーダーなんか別にいらないですよね。でも、そうじゃない意思決定もしなきゃいけないじゃないですか。

例えばいろんな都市で、このイベントをやってみたとします。「この都市はぜんぜん無理だ」となったときに、やるかやらないか。考えてみるけれど、最後の最後にそんなことは事実をベースには決められないわけですよね。といったときには、自分の信念で決めざるを得ないんですよ。

だって最後の結論は、自分が決めなきゃいけないから。で、それは信念に従う。自分自身の信念としては、メンタルがやられたときから今に至るまでの25年の変化で、「人は変われる」という思いがあるんですよね。

ライザップの瀬戸社長も同じことをおっしゃっていますけど、人は変われるんですよ。だからYahoo!アカデミアをやっている人、彼らはライザップに行っているもんなんだと。ここがつながっていると、ものすごく自分の仕事と自分がリンクしてますよね。

ここの軸が大事です。要するに過去や現在を大事にするというのは、(現在は)過去の自分の経験から来るからね。過去を振り返って現在があるでしょ。その先に未来がある。

だから、これをしっかり知ることが大事。過去は現在につながって、現在が未来につながるんだから、過去を振り返って、現在を知って、未来に思いをはせる。すると、これが自分の軸になるわけです。

そうすると、例えばなにかがあって「これ、横石さんやる?」「篠田さん、やる?」と聞いたときに、篠田さんにさっき聞いたら本能的に「やりたい」「やりたくない」は当然出てくる。だけど、それは軸に当てて考えているわけですよね。

それがどこにあるかというと、過去・現在・未来みたいなものがしっかりしていたら、そこにピューンとなれて、パーンと答えが出てくる。

それでうまくいくので、今は本能的にこう答えていただけだったんだけど、頭の中で「こうで、こうだからこうやるんだ」みたいなことをピラミッドストラクチャーで改めて整理するようにすると、瞬間でアウトプットできるようになる。それを僕はやっているということですね。

これは正解でもなんでもなくて、単に僕がやっていることですが、これと(登壇者の)みなさんがやっていること、あと会場のみなさんがどんなふうにやっているかとを共有すると、すごくいい知見になっていくと思います。

横石:ありがとうございます。今日はトークセッションでもあるんですけれども、キャンプファイヤー形式のレイアウトにしているので、たくさんの方の感想をシェアする時間を少しでも取りたいと思っております。