マイクロマネジメントの逆を目指す

伊藤セルジオ大輔氏(以下、伊藤):デザイン組織で実際にサービスデザインを回していく上で、例えばそれほど大きくないサービスであれば、そもそも1つのチームのようなかたちになってくると思うんです。複数のプロダクトをやっているときに、そもそもどうやってエクスペリエンスを統一すべきなのかという話もあると思います。

例えばマネーフォワードの場合だと、事業部ごとにデザインチームをつくって、横断チームでそこをつなぐようにしているんです。サービスデザインをうまく回していく上で、デザイン組織のポイントはありますか?

深津貴之氏(以下、深津):個人的な話でよければ。さっきのステークホルダーの話ともくっついて、「細かいことと難しいことはわりとさっぱり諦める」というのを僕はやっています。

伊藤:どういうことでしょう。

深津:つまり、デザインするとマイクロマネジメントに陥りがちではあるんですけど、どっちかというと逆。すごく大雑把で雑で、専門用語なしに伝わるものを最初に作るのが大事かなと考えてます。さっきのキーワードにしろコンセプトにしろ何にしろ、専門用語が必要なものになると部署をまたがったら伝わらなくなったり、翻訳するごとにどんどんズレていっちゃう。

伊藤:そうですね。

深津:例えばnoteの話だったら「すべての人が創作を始められて、続けられるようにするための場をつくります」みたいな話とか、「読んで楽しくて、書いて楽しくします」ぐらいの雑さで、「誰が聞いても1個にしか取りようがないよな」ぐらいの玉をまず置きます。

そっちで共通認識を作ってから、これをビジネスの言葉で翻訳すると「会社が潰れないように利益を上げながら、ユーザーの数を最大化して……」というような話になる。それで「テックの話にすると」とか「デザインの話にすると」みたいな感じでやっていくといいんです。最初に細かいマネジメントで精緻な設計をして、マニュアルとかドキュメントをぶわーっと作ることの逆を、僕はやる感じかなと。

むしろ「あっちに光ってるところがあるので、こけたり道に迷うかもしれないけど、とりあえずみんなで光っている方向に行けば全員目的地に着くから」ぐらいの設計に落とすことを意識しています。

組織の人数が多いほど、横軸での展開の難度が上がる

伊藤:なるほど。お二人はデザイン組織化についてはいかがですか。

坪田朋氏(以下、坪田):これは僕もけっこう昔から取り組んでいるテーマで、あんまり答えがないんですけど……組織のステージと、どの段階でいわゆる「CX~」クラスを入れるかは重要な話かなと思っています。

例えば今の大企業でCDOやCXOのようなユーザー体験の知見を持ったとしても、あとから役員レイヤーで入っても、今度はその派閥争いに参加するときに一番下から入ります。横軸の横断の実現ってかなり難しいんですよね。それで、そこの政治で2〜3年ぐらい消費する(笑)。

そういうことが起きると、やっぱり大きい組織に横軸で入れるのは相当難しい。その場合はもう、1つ会社での成功モデルを作るというので、当然縦軸を特化したほうがいいかなというのがあります。今は、結果を出して、ある程度影響力とか経営会議での発言権が出たら横にしていくかたちでやらざるを得ない状況かなというのはありますよね。

当然組織の人数が少なくなればなるほど、横軸での交渉がしやすくなる。今だったらスタートアップで、ミッション・バリューとかサービスのプラットフォームのあるべき論をビジュアル化して落とし込むというのは……500人以下ぐらいの組織だったらギリできるんですけど、それを超えるとなかなか。「外敵が来た」という扱いになる可能性もあるので、また口説き方はちょっと変わってきますよね(笑)。

伊藤:やはり規模感に応じてやり方は変わってくるところですね。

大企業に鳴り物入りで入った優秀な人が潰されるわけ

坪田:そうですね。よくあるのが、今「デザイン思考」とか「デザイン経営」みたいに言われてるじゃないですか。すごく優秀な人を雇いましたと。大企業に社長の鳴り物入りで入ってきたんだけど、潰されて1年ぐらい気がついたらいなくなる、みたいなのはここ2~3年ぐらいで起きてる気がします。

深津:なにも動けない、みたいなやつですよね。

坪田:そうですね。やっぱりいいユーザー体験とか、本当にユーザーファーストのサービスを作ろうとなると、部門を横断せざるを得ないんですよ。例えばカスタマーサービスとかマーケとか営業とかも、横断することをしないといけない。それを社内でやれる環境なのか立場なのか。実績を持った人がやれるといいんでしょうけど、なかなか規模が大きくなってくると難度が高くなってくるというのがありますね。

伊藤:そうですよね、うん。

安藤剛氏(以下、安藤):坪田さんってどこまで見てるんですか? 年末に僕はクラシルさんの記事で「ソーシャルアカウントの全部のフォロワーが570万人を突破しました」というのを見て、ぶったまげました。ああいう全部のソーシャルのチャネルで、どういう人格で振る舞う、みたいなところまでコントロールしてるんですか。

坪田:今の干渉範囲で言うと、開発部というのがあって、サービスにおける責任を全部持ってるんですよね。それのリソースと意思決定を持っています。ただ、SNSに関しては基本的にはマーケ部門の干渉範囲なので、干渉役員がいます。そこのアウトプットに関しては、それこそ深津さんが言っていたように、僕が抽象的な「こうしよう」という指標を決めて、それをマーケで仕組み化していくことが多いかもしれないですね。

すべての企業がメディア化していく時代

伊藤:ありがとうございます。残り10分くらいです。一応用意した最後のテーマは、今日のイベントのタイトルでもあります。「サービスデザインがどう変わっていくのか」と、ちょっと抽象的なテーマではあるんですが、「これから」ということでちょっとお伺いしてみたいんです。

例えばテクノロジーの進化によってサービスのデザインの仕方も変わっていくのかどうかとか、サービスデザインに求められるスキルとか、あとライトな質問で「2020年になにかチャレンジしたいことはありますか」というのがあります(笑)。

テクノロジーというところで言うと、安藤さんはデータを使ったサービスデザインをかなりやっていらっしゃると思います。例えばデータをより取得できる接点が増えていって、機械学習などで分析する精度も上がってきたときに、PDCAを回すときに変わってくるのかどうかとか、データの意味とかですね。

ぜんぜん違うテクノロジーでもいいんですけど、なにか注目しているテクノロジーなどがあれば、ちょっとお伺いしてみたいです。

安藤:あんまりテクノロジーではなくて、社会的な構造の変化というような視点です。今すべての企業がメディア化していくという文脈の中にいると思うんですね。従来のデザイナーやUXをやっている人の責任範囲は、わりとプロダクトを使っている人が中心だったと思うんです。

今のサービスが置かれてる状況は、それを取り巻く……クラシルだったらさっき「570万フォロワーがいる」と言ったように、すべてのソーシャルのチャネルでクラシルに触れているところまでをコントロールするのが、戦う領域になってきてると思うんですね。

なのでこれからUXをする上で、そういったメディア的なところのコントロールが必要になるのかな、と思っています。

伊藤:「コントロール」というのはどういうことなんでしょう。意図的になにか気をつけなきゃいけないポイントはありますか?

安藤:結局そのブランドに対してどう思うかを……。

深津:「守備範囲になる」という理解。

安藤:そうそう。

伊藤:より見ていかなきゃいけない範囲が増えていくということなんですかね。深津さん・坪田さんは、テクノロジー絡みで言うとなにかありますか。

自動運転やAIはスペック競争の段階

深津:テックの話ですか。個人的にはさっきの会社の時間軸と同じで、僕はテクノロジーとエクスペリエンスとデザイン、時間軸でよく考えているんです。テクノロジーが出た直後か、マンネリ化した直後にはデザインの価値が上がって、急成長の最中にはデザインの価値が下がると考えている。テクノロジーによるんですよね。

AIとかは、しばらくはデザインの価値は下がる。なぜかというと、デザイン云々以前に、日本語をちゃんと理解できるかどうかとか、命中精度がどうかというスペック競争が流行っている時期はあって、そっちのほうが重要になる。

デザインが重要になるのはその手前の、「このテクノロジー、そもそも何に使っていいかまったくわからないんだけど」というステートか、「全員もう日本語のAIの言語理解制度も命中精度も同じところになっちゃって、勝負がつかなくなってマンネリ化してきたんだけど」という、始めか最後のところで価値が出やすい。

伊藤:なるほど。テクノロジーが成熟していくと、よりUXの部分がフォーカスされていく。

深津:そうそう。なので自動運転とかAIは、デザインのフィールドよりも力技の殴り合いがしばらく続くと思う。逆にさっき言ったnoteとかがやっているようなブログプラットフォームみたいなところだと、デザインとか価値提案・再設計のほうが重要になるし。そういうものは、ステートや時代ごとに変わるんじゃないかなとは個人的に思う。

ここ1~2年で大きく変わった、ものづくりのやり方

伊藤:ありがとうございます。あと5分ということで、じゃあ「これからのサービスデザインに求められるスキル」をちょっと聞いてみたいと思います。みなさんはビジネス・テクノロジー・クリエイティブ、3つの領域を行き来するのを得意にされてると思います。その中でもいいですし、もしくはぜんぜん違ったところでなにか注目しているスキルとか、「これからこういうものを身につけておくべきだよ」というものがあれば、教えていただけないでしょうか。

坪田:注目していることか……やっぱりここ数年、1~2年ぐらいかな。明らかにものづくりの仕方は、自分の中でも変化させていったところはありますかね。例えば昔だと本当に、そこそこ質のいいアプリを作ってマーケットフィットしていれば、それなりに売上が上がるゲームをしていた時代だったんです。

最近はオフラインもそうだし、データサイエンスの文脈で、例えばデザインとしては1つのタイムラインなんだけれども、そこに何の情報を表示するのかというアルゴリズムがより重要になってきたり。それを「パーソナライズ化していきます」という話なのか。そういう複合要因で考えることが多くなってきたんですよね。

なので、やっぱり縦軸のスキルも必要なんですけれども、縦軸のスキルを深く磨いたあとに、横軸となるマーケティング的な話なのか、データサイエンスの話なのか、それを結合して最終的にアウトプットする立ち回りが必要になってきたなと思っています。

そのときに今度は、強いスキルの人たちと話す能力が必要です。それを自分の言葉というよりかは、相手の言語でちゃんと話し、最終的に1つのデザインとして仕上げるのをなんとか実現するのは、すごく意識していますかね。

かつそれをスピード感を持って進めなきゃいけないので、ある程度のマインドシェアとコミット量が必要になる……みたいなことは、ここ2~3年ぐらいで考えて実行してきたことですかね。

伊藤:それを身につけていく方法としては、基本的には勉強してという感じなんですか?

坪田:勉強してもそうだし、例えば今うちにはデータサイエンスチームがあって、そこの人に「おすすめの本を教えてください」と言って3冊読んで、それの輪読会を通して会話をしていってるんです。その関係値づくりと、相手の言葉で話すところをつくることで、点と点をつなげていく感じですかね。

必要なスキルは、ビジネスサイドの理解と認知工学

伊藤:なるほど、ありがとうございます。深津さん・安藤さん、スキルの面でなにか注目していることはあります?

深津:これからですか? 今?

伊藤:そうですね。今からでもいいかもしれないです。

深津:個人的には、デザインと経営などがくっつけばくっつくほど、デザイナー全般としてお金の話・マーケティングの話は理解したり、言語としてしゃべれるようにならなきゃいけないかなというのを考えています。

伊藤:ビジネスサイドの話ですね。

深津:ビジネスサイドの会話を翻訳できる、というようなことは必須作業です。これからもそこはトラックし続けないといけないかなとは思っています。

伊藤:ありがとうございます。

深津:あとは脳みその仕組みですね。

伊藤:……「脳みその仕組み」というのはどういうことなんでしょうか(笑)。

(一同笑)

深津:結局車でも料理でも山でも文章でも、最終的にはインプット情報として脳に入って、脳の中でプロセスされて、脳からアウトプットされるというところに抽象化されます。脳の中でどういう処理が走るのかをそもそも知っているというのが、普遍的にものを設計するのに一番役に立つかなとは思います。

伊藤:脳の仕組み自体を理解しておくということですね。

深津:人間はこう認知する、こういうことは記憶できない、こういうことは回避する、とか。そういうのを知ってるという。

伊藤:なるほど。みなさんうなずかれています(笑)。けっこうそのあたりは、実際脳の理解というのは、共感する感じですか。

安藤:認知工学はデザインですごく重要なので、やっぱりみんな勉強してますよ。

デザインを重視する企業が増えることが日本経済の価値を高める

伊藤:ありがとうございます。残りあと1分ですね。じゃあすごくライトな質問で、「2020年、なにかチャレンジしたいことはありますか」ということで、最後の質問にさせていただきます。今日はイベントが「チャレンジ」ということもあって、サービスデザインに限らずでいいので、ひと言ずつお伺いしてもよろしいでしょうか。

安藤:深津と2人でGUILDという組織をやっています。うちのデザインファームから、CXOが私と深津の2人出ています。今年はもう1人、1人と言わず2人、外部の事業会社のCXOを任される人材を輩出したいなと思ってますね。

伊藤:なるほど。

安藤:それはさっき申し上げたとおり、CXOという人間が立つということは、デザインを重視している企業が増えるということなので、それが日本の経済の価値につながるんじゃないのかなと思ってます。

伊藤:今日お越しくださってる中にも、CXOを求めていらっしゃる起業家さんがもしかしたらいらっしゃるかもしれません(笑)。

安藤:お声がけください(笑)。

(一同笑)

伊藤:なにかチャレンジ、大丈夫ですか。

絵を描くこととサービス設計のプロセスの共通点

深津:いいですか? 絵の教室に行って絵の勉強をしようかなと思っています。デッサン教室に行こうかなと(笑)。

伊藤:なるほど(笑)。本当に絵を描くということですよね。

深津:別に絵が描きたいわけじゃないんですけれどもね(笑)。絵の描き方の中に、サービス設計の答えのようなプロセスが全部入ってるんです。ちゃんともう1回復習しておこうかな、という。要はものを正しく見て、比率や配置を全部理解して、脳の中にある認知バイアスを全部回避して、正しくアウトプットをして、物事の配列を見て状況を俯瞰して、PDCAを回して修正をする。それをサイクルとして何サイクルも回す。

伊藤:なるほど、共通点があるということですね。

深津:あれをもう1回勉強し直そうかな、というのが今年の目標ですかね。

伊藤:ありがとうございます。

CXOの存在意義を可視化していく

坪田:僕もそうですね。CXOってたぶん、今はまだそんなに役職として多くないんです。それを日本に広めると、やっぱり経済価値は上がるかなと思っています。そこで早く結果を出して可視化するというのがミッションの1つと。

あと、僕も料理がめちゃくちゃ上手くなりたいなと思って、勉強しています。「料理がめちゃくちゃ上手くなりたいな」というのが2020年のチャレンジですね(笑)。

伊藤:ありがとうございます。では時間になりましたので、こちらで終わりにしたいと思います。今日いくつか、サービスデザインのポイントをお聞かせていただいたのかなと思っています。ぜひみなさんのビジネスにもお役立ていただけるといいかなと思います。改めまして、深津さん・安藤さん・坪田さんに大きな拍手をいただければと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)