note、YAMAP、クラシルなどの人気サービスのCXOが登壇

伊藤セルジオ大輔氏(以下、伊藤):それでは始めさせていただきたいと思います。「これからのサービスデザイン」というテーマでお話しさせていただきます、マネーフォワードデザイン戦略グループのセルジオと申します。よろしくお願いいたします。

このセッションは、新規サービスの立ち上げやサービスのグロースに関する知識・ノウハウを学ぶセッションとなっております。本日はデザインスタジオを運営しながら、note、YAMAP、クラシルといった話題のサービスのCXOを務めていらっしゃいます、深津さん・安藤さん・坪田さんにお越しいただいております。よろしくお願いいたします。さっそく、自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか。

深津貴之氏(以下、深津):GUILD代表の深津と申します。あと、合わせてnoteというサービスをやっているピースオブケイクという会社で、CXOも務めています。今日は講演の中身の話をメインにしたいので、詳しい残りの話はあとで適当にググってください(笑)。よろしくお願いします。

(会場拍手)

安藤剛氏(以下、安藤):GUILDのデザイナーの安藤と申します。YAMAPのCXOをやっています。深津の同僚です。本日はよろしくお願いします。

(会場拍手)

坪田朋氏(以下、坪田):坪田と申します。僕はベースキャンプというデザイン会社を立ち上げ、そのあとクラシルを運営するdelyという会社に買収されて、今はそのdelyのCXOと、ベースキャンプというデザイン会社の代表をしています。よろしくお願いします。

(会場拍手)

伊藤:ありがとうございます。今日はサービスデザインに関するセッションということで、非常に幅広いテーマだなと思っています。ちょっとつかみどころがないんですけども、一応いくつかテーマを用意させてもらっています。

サービスデザインの入り口は、ゴールを確認すること

伊藤:ですが、先ほど打ち合わせで「自由にしゃべろう」という話はしました(笑)。いろいろお話できればなと思っています。ただ、きっかけとして最初に聞いてみたいのが、「サービスデザインを始めるときのポイント」をうかがってみたいと思います。

今日お越しくださっている中にも、「サービスデザインをこれから始めたいけど、どうしたらいいかわからない」といった方もいらっしゃるかなと思っています。例えば「プロジェクトの初期にはどのようなことをして何を決めているか」とか、「異なるプロジェクトでも共通する勝ち筋があるのか」とか。あと、ユーザーを深く理解するコツですね。

今日は経営者の方も多いと思っていますので、経営者側の心構えというか、スタンスはどういったものであると良いのかといった、サービスデザインの入り口のポイントから、まずお話しをうかがっていきたいなと思います。

じゃあ深津さんから、よろしいですかね。

深津:今日は比較的、経営者の方が多いですよね。個人的に一番大事なのは、「ゴールのレイヤーを何にするか、最初に決めて話しておくといいよね」ということだと思うんです。

それが「社会を良くしたい」みたいな話で、「多少赤字が出ようが何しようが社会を変えるんだ」みたいな目的のレイヤーの話なのか、「事業の3本柱の1個を新しく作りたい」という話なのか、「今季の株価を上げるのに、なにか話題になることが必要だよね」という話なのか。

僕はどのレイヤーかを最初に確認しておくところから始めます。みなさんはいかがですか?

CXOとして仕事を受けるかどうかの判断基準

安藤:私で言うと、けっこうプロジェクトの途中から参加するケースが多いんです。そういう場合にやっぱり深津が言ったように、そのビジネスの最終的なゴールはどこなのかというところから始めて、そこから徐々に枝分けをして落としていって、合意形成をやっていきます。

個人的によくやっているのは「ビジュアルに落とし込む」ということです。構造化して、どういうビジネスモデルの図になるのかを、けっこう初期の段階から力を入れてやりますね。

坪田:僕もデザイン会社をやっていたときは、けっこう経営者の方から声をいただくことが多かったです。やっぱり一番気にするのは「覚悟があるか」というのと、「マーケットフィットで適切なのか」というところですね。マーケットフィットでも1年で結果が出せるものと、5年で時が来るまで待つ系の仕事がいくつかあるかなと思っています。それで、今やるべきかどうかで「仕事を受ける、受けない」の判断をしています。

あと今クラシルでは「食」という事業ドメインを扱っているので、それをどう横展開していこうか、というような話は経営者と話しながらやっていますかね。

越えてはいけない「撤退ライン」を決めておく

伊藤:「目的の明確化」というところだと、いわゆる企業としてのミッション・ビジョンを決めていくようなことは、やっぱり最初にされるんでしょうか。

深津:ミッション・ビジョンだと、サービスの前に会社のミッションがあってのことだと思うんです。ない場合は、公式かどうかはともかくとして、僕はミッションの明確化は最初にやってしまいますね。そもそも「どんなやる意味があって、何が起きたらもうこの事業は意味がないから潰して解散しようぜ」というのは、最初にコンセンサスをとりたいなと。とくに撤退ライン、越えちゃいけないラインのところ。

伊藤:それはワークショップとかヒアリングをしながら決めていくんですか?

深津:それはケースバイケースですね。

安藤:私もミッションの確認が最初なんですけど、けっこうミッションがふわっとしてたりするんですよね。

深津:「夢が羽ばたく」「太陽が昇る」みたいな(笑)。

(一同笑)

安藤:なので、「それが実現すると世の中って具体的にどうなるの」みたいなことを突き詰めていきますね。

伊藤:なるほど。

坪田:そうですね……確かにミッションを決めるには決めるんですけど、僕はもう一段階、掘り下げますかね。それを事業部とかチームに落とし込んでいく。今で言うOKRみたいなことをすることは多いかもしれないですね。

意思決定は、ミッションを実現していくプロセスの1つ

伊藤:ミッションやビジョンを決めて、それを活用していくというか、たぶん旗みたいなかたちになる。それを中心に施策を打っていくようなかたちになってくるんですかね。

深津:それは、さっきの「目的レイヤーがどこにあるか」によると思っています。目的レイヤーが「社会を根本的に変える」とかだったら、そういうやり方をしますし。「今期の売上をちょろっと上げるわ」というものだったら、またぜんぜん違う作り方になるかなとは思います。

伊藤:なるほど。

深津:なのでミッションは、ケースバイケースです。基本は浸透させたほうがいいとは思います。ただそれは、サービス設計などよりもさらに手前の話なのかなと。

坪田:作りながら「これをする/しない」みたいな意思決定って、たぶんミッションを実現していくプロセスの1つかなと思っています。「なぜこれを実装しないのか」というような話をメンバーに周知するのは、その具体的な行動だと思うんですよ。

例えば深津さんのnoteで書いた行動指標で、「ランキングを作らない」という話があったじゃないですか。

深津:ああ、「ランキングをnoteでは作らない」みたいな話。

坪田:あれって機能要件レベルで言うと「ランキングを作らない、以上」で終わりかもしれないんですけど、たぶんランキングを作らない意図って、いろんな背景があって決めたということをみんなが認知している。書く人にも中の人にもそういう主張を伝えるというのは、深津さんの資料を見てておもしろいなと思いました。

サービスは“作って終わりマインド”との戦い

伊藤:なるほど、ありがとうございます。そしたら、ちょっと違った切り口のお話も聞いてみたいと思います。今日は経営者の方も多いと思っていますので、そういった(経営層との)コミュニケーションをしていく中で、経営者側としてどういった姿勢があると、うまく進んでいくでしょうか。

深津:あくまで個人的なサンプルの話というか、僕の仕事の仕方の場合です。経営者と一番お話ができてうれしいのは「目的レイヤー」と「撤退の条件」と、あと「時間軸に沿った話が考えられるかどうか」ということですよね。

「3月までにサービス作る! それ以外決まってない、出ればOK!」みたいなのはあんまりやりたくない仕事だったりします。結局このサービスがあることが、御社にとってどういう意味があって、これが5年後にどうなるために、今年と来年と再来年に、これとこれとこれの石を置かなければならない、みたいな。

5年後のために今年の石と2.5年後の石をどう置くか、みたいなことをちゃんと話せるかどうかを僕は重要視しています。別にボタンの位置が上・下とか、今年のキャンペーンに誰を起用するか、とかはわりとどうでもいいかなと。

伊藤:なるほど(笑)。今日ちょうどTwitterでも、「10年先まで見て」と。

深津:10年はレトリックですけれどもね(笑)。今見ているほとんどのインターネットのサービスとか……SI案件なども、たまに声がかかったりはするんです。タワーマンションを作るようなテンションの「作ったら完成! あとは営業すれば売れる!」みたいな感じでいるけど、ほとんどのサービスって本質的にはもう少し……。

横浜の駅の地下鉄みたいな、40年ずーっと改築して通路がどんどんできたり消えたりしていくのを、どう手綱を握るかという感じだと思うんです。“作って終わりマインド”との戦いみたいなものが多いんです。お二方はいかがですか?

経営者の覚悟を確かめる重要性

安藤:経営者との会話ですよね。さっき坪田さんがおっしゃったように、「経営者の覚悟を確かめる」というのはやっぱり大事です。サービスデザインって、デザイン思考の実装方法だと思うんです。今日は3人ともCXOなのでCXOの話をちょっとすると、CXOってちょっと特殊なんです。

いわゆるCTOとかCMO、COOみたいな、伝統的なCクラスオフィサーとちょっと違うと思うんですよね。CXOみたいな人材を立てるということは、その企業が「これからうちの会社はユーザー体験に注力しますよ」というスタンスの表明も兼ねていると思うんですよ。

ですからある意味、それをするためにはやっぱり経営上、「ユーザー体験が一番大事な指標ですよ」というふうにしないと、成り立たないと思うんですね。なのでそういう話をちゃんと確かめます。

伊藤:なるほど、ありがとうございます。坪田さんはなにか。

抽象的なものを具体化して浸透させるのがデザイン

坪田:今のクラシルでどういうことをしているかというと、うちの社長は堀江裕介さんというんですが、彼はすごくビジョナリーで「こうしたい、こういう会社をつくりたい」というイメージがすごく強いんです。それを現場メンバー向けに言語化すると、うまく浸透しなかったりするんですよね。

それを僕が言語化してドキュメント化して、メンバーに説明することは、すごくやっていますね。だから堀江とのコミュニケーションは頻度が高くて、今も近くの席にいます。あと毎週、朝に1on1をして、散歩をしながらとくにアジェンダなく話してるんです(笑)。そういうことをしながら、彼が考えていることのインサイトを引き出して発信するというのを、けっこう社内向けにやっていたりしますかね。

伊藤:そうすると、経営者と現場との翻訳者みたいなかたちでやってらっしゃることが多いんですか。

坪田:そうですね。たぶんここにいる3人もそうかもしれないんですけど、得意技って「抽象的なものを具体化してメンバーに浸透させます」と。それがデザインだと思うんです。

それがサービスだとユーザー体験でできるし、会社のミッションを浸透するという意味だと、それを(社員に)わかりやすく伝えたり言語化することは、やっぱり求められるようになってきたかなという気がしますね。

伊藤:ありがとうございます。