2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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廣瀬聡氏(以下、廣瀬):ありがとうございました。最後の質問に入りたいと思います。そうした中で起業され、あるいは自分で会社を始めてオーナーとなり、それで実際に拡大していく過程のなかで、どういったハードルがありましたか?
改めて今日のテーマは、いわゆる「巨大市場日本の可能性」ということになります。あるいは成長戦略ということになります。そうした中で、今、事業を進めていく上でのハードルは、どのようなあたりでご覧になっていて、どのように対応していこうとお考えなのか。あらためて遠藤さんからお願いします。
遠藤謙氏(以下、遠藤):先ほど話したとおり、義足で儲けようというのはかなりの無理ゲーで、儲からないんですよね。僕は別に義足で儲けようという感覚は正直なくて、どちらかといえば社会に対してどのような変革が起こせるかのほうが大事。僕はモノづくりなどが大好きなので、テクノロジーがベースにあって、どうすればみんながおもしろがってくれるかということがゴールであり、そのツールとして義足を作っているんだと思います。
そうなったときに、研究者としておもしろい「ロボットで義足を作りましょう」「速く走れる義足を作りましょう」というのはもちろんテーマとしてはあり得るんですが、よく「死の谷」と呼ばれている部分がありますよね。それが実用化されるまでの資金がかなり大変なんだけれども、時間がかかってしまうような期間をどうやって乗り切るかというところで、起業家たちは投資を受けたり、融資を受けたりという手段を取っていると思います。
僕はどちらかというと、その先の産業があまり見えていません。それでは儲からないじゃないですか。だから回収できるという感覚は正直なくて、そこにはあまり期待していないんですよね。
遠藤:ですから義足で儲けるという話よりは、むしろその死の谷でどうやって資金を回収するのか。その先の義足以外のところでどうやって儲けるかということももちろん考えてはいますが、どうせなら何か社会変革を伴ったかたちで会社を使いたいと思っています。それでいまやっているのが投資でも融資を受けるでもなく、イベント屋さんだと思うんですね。
たとえばオリンピック・パラリンピックが来年あるので、それに便乗して選手たちを速くするというプロジェクトに対して、企業にスポンサーになってもらって選手をサポートする傍らで義足をつくる。その中で、それだけではやっぱりなかなかおもしろがってくれませんから、障がい者と健常者の境目をなくすようなプロモーションができないだろうかと。社会に合ったニーズにメッセージ性を乗せるようなことを考えながらやっています。
もうひとつは、やっぱり乙武さんのような人が歩くことによってどう思うかという感覚ですね。エンジニアリングなのですが、結局はたぶんアートに近い感覚だと思うんですよね。
車椅子のイメージがある乙武さんが歩くことによって、やっぱりびっくりするんですよね。僕はそれが当然の未来だと思うんですが、その未来に対しての一歩目をどうやって見せるかということは社会変革の方向性を決めると思うんですよ。その一歩目をどうつくるか。
それを僕はものを作りたいので、そこに対して価値観、付加価値をつけるんです。そこにお金が集まる仕掛けを作るというようなプロモーションですね。
ですから義足を作って売るというだけではなく、他のいろんな産業も巻き込みながら事業を進めていくことに関して言うと、ものすごく大きなマーケットがある。そういった人たちを巻き込みながら事業を進めていきたいと思っています。
廣瀬:今のお話だと遠藤さんにとって死の谷を超えるのは、いかに世に説いて、いかに理解をしてもらい、そして社会を変えていくのか。それが死の谷というものに対する乗り越え方であると。そういった理解でいいですか?
遠藤:僕はそれが楽しいので、それをどうやってつなげるのかというような感覚です。
廣瀬:お金儲けではなくてということですね。
遠藤:はい、そうですね。お金儲けというのはやっぱり難しい。どうしても0円ではできません。ただ好き勝手に研究者でいるなら大学でもできますが、そこにどうやってお金をつけていくか。自分がやりたいことをやりながら「これで儲かるぜ」というわけではなく、続けていくための新しい方法を模索しているような感じです。
廣瀬:ありがとうございました。高橋さんお願いします。
高橋祥子氏(以下、高橋):なんでしたっけ。可能性でしたっけ。
廣瀬:ハードル。実現のハードル。ごめんなさい。わかりにくくて。
高橋:いえいえ。ハードル……あっ、ハードル。そうですね、どうなんでしょうね。
ゲノムや生命科学の領域で言うと、そもそもヒトゲノムが解読されたのが2003年で15年前ぐらいですね。この15年間でもう一気にゲノムの解析技術が上がってきて、それによってできることがたくさん増えました。
それをどうビジネスに応用するかを世界中の人がやっているわけなんですが、新しいがゆえにまだビジネスモデルや「これをやればもう勝ちです」という勝ちパターンがわからない。わからないからこそみんながチャレンジしているわけですが。そうした面はありますよね。
高橋:この状況下でアメリカと、最近だと中国ではゲノムの企業1社当たりにすでに当然のように数百億円が集まっているんですが、日本の場合そうした新興領域にリスクマネーがなかなか集まらないのです。そうしたところは日本の課題だと思いますね。
だから「結局ゲノムデータを集めて、あなた、いくらになるんですか?」という質問も500回ぐらい受けましたが「それがわかっていればみんながもうやっているよ。わかっていないからこそチャレンジしてるんじゃん!」という。常にイノベーションのジレンマのようなところがある領域だとは思いますね。
そうはいっても、どうして私がこうしているかといえば、ゲノム関連のバイオテクノロジーに関するなにか宗教にも近いような信仰、生命の可能性を信じている。謎の生命教の教祖のような感じなのですが(笑)。明らかに可能性があると信じているからこそ、ビジネス的にも成り立つはずだとして取り組んでいるんですよね。それが本当に正解がどうかはわかりませんが。
でも世界の研究者や科学者がみんなチャレンジしている領域ですから、必ずうまくいくと思ってやっています。
廣瀬:今は日本でもそうしたことにチャレンジしようとする大きな企業も出はじめてきているのではないかと思いますが、その中で自分はやっぱり自分の足で立ってやっていこうというときの大変さといいますか。でも、それがやっぱりいいんだというような思いは、どういったところから出てくるのでしょうか?
高橋:ベンチャーでやることのメリットですね……もちろんいくつかあると思うんですよ。ベンチャーでやること、大企業でやること、あとは国や大学がやること。その中でベンチャーでやることの意義は「速くいける」。
10年間もかけてインフラを整備するようなことは国がやりますが、テクノロジーの流れがものすごく速いなかで、とりあえず最初の検証を早くスタートできるということはベンチャーでやるメリットだと思っています。
大企業の中では社内的に承認を得なければ始められないこともあると思うんです。それを、意思決定のプロセスのサイクルをすごく速く回せるベンチャーとしてやる。それである程度のところから大企業と協業するというように、組んでいければいいと思いますし。やっぱりゲノム系はみんなスタートアップがやっているというのは、そうした部分があるからだと思いますね。
廣瀬:ありがとうございました。では、続いて中尾さん。いろんな業界の中でのバランスを取っていかなくてはいけない大変なお仕事ではないかなと思いますが、そのあたりを含めてよろしくお願いします。
中尾豊氏(以下、中尾):ちょっと悩みました。今日のこの質問はたぶん、たとえば僕の事業のハードルの話をしても「ふーん、そうなんだ」となってしまって、すごいギブを与えられるかどうかはわからないとふと思ったので。ですから、僕が学生だったら聞きたいと思うような話を勝手にしゃべります。
おそらくハードルを聞きたいという本質は、チャレンジをしたときに何か自分の、今のみなさんが置かれている環境の中でチャレンジする、もしくは違う環境にいくチャレンジをするときに「何に気をつけなきゃいけないのか?」という話じゃないかと僕は思っています。
ですから、そうした意味でハードルを知っておくほうがいいと思うのですが、まずハードルを知る前にご自身にとっての幸せは何かを定義しにいくのが一番早いと思います。
正直、各事業や各組織においてハードルなんてクソほどいっぱいありまして、さらにフェーズによってもぜんぜん違います。「採用できません」「プロダクトできません」「調達できません」「組織をつくれません」「顧客が買ってくれません」。
いろんなペインがいっぱいあって、それはおそらく細かくフェーズによって違うので、いまそれを話す気はまったくないのですが、組織においても大企業においても絶対に困ることは起きるので、大切なのはそのミッションをやりきりたいかどうかですよね。
中尾:ご自身にとって、それが本当に自分の時間を費やして幸せに行き着く先の過程をたどっているかどうかが「イエス」ならば、どんなハードルでも超えられると思うんですよ。教祖になれると思うんですね。「いや、そこに可能性があるからやりましょうよ」「うるせーよ、やるんだぞ」というような世界になるんですよ。
そこを見つけないと不幸になるんですね。モヤモヤしながら続けて、環境にやれと言われているから私もがんばりますというように。でも「そこに知識がないから勉強します」では「それを何のために勉強しているんですか?」と言われたときに、「やりたくないのに勉強しているんだ」となるとそれは本当の勉強になっていない可能性もある。だから僕はまずは幸せの定義をするべきだと思っています。
それが家族と過ごすことが幸せであるならば絶対に家族と過ごしたほうがいいと思っているので……全員がチャレンジする必要があるのかどうかはまた別問題なんですが。
ここにいる、社会的に非常に価値のあるみなさま方は……まぁ義務としてはチャレンジしていただいたほうが日本や国のためになるという気はするんですが。いちばん大事なことはご自身の幸せを定義して、そこに突き進んだときに起こるハードルはたとえどんなものであっても、だいたい超えられるはずだと思っていますね。
廣瀬:中尾さんにとって幸せとは?
中尾:僕にとっての幸せは、患者さんがすごく楽になって安心して暮らせる世界をつくりたいとしか思っていなくて。「医療領域の新幹線」のようなものをつくりたいという感じはしています。そういう世界をカケハシという会社がつくったかどうかは正直どうでもよくて、中尾豊がつくったかどうかもどうでもよい。もう承認欲求は超えました。
自分の娘や息子や孫たちがしんどいときにすぐに医療従事者と相談できて、お薬もすぐ届いて、あとは寝てればいいじゃんと。一方でおじいちゃんおばあちゃんは、寂しいときはあるコミュニティに行って、自分の知っている医療従事者や地域の人と会話しながら健康に暮らしている。
利便性を求めるセグメントも利便性を求めずに安心感を求めるセグメントも、それが自然になっている状態をどうつくるのかということを考えていて、そこに行き着くためにはまずはインフラを取らなければいけませんから、何年かかるかわからないことを調達しながらごりごりやっているという感じです。
廣瀬:ごめんなさい。もう1点だけ。その「医療業界の新幹線」ということなのですが。
中尾:はい。
廣瀬:なにかそのように思い至る原体験のようなものがあったのか、それとも自分の頭の中で生まれてきたものなのか、そのあたりは何だったのでしょうか?
中尾:原体験ですね。まず僕は扁桃腺が腫れやすかったので「なんでしんどいときにお医者さんのところへ行って、寒いなか薬局で待って、またタクシーに乗って帰らなきゃいけないんだろう。寝ていたいのに」と思っていたことがひとつ。
あともうひとつは製薬会社で薬のシェアを取る仕事と、経営者としてコモディティ化した市場の中で店舗展開をしながらシェアを取っていく仕事というのは、本質的にはあまり変わらないと思ったんです。それならば本当に価値のあることは何だろうということを深く考えた、ということがあります。
お金は僕の人生の要素で言うと優先順位は3番目ぐらいなので「社会的優先度のほうが高いな。次に自己成長だな。その次にお金だな」というようになったことから、社会的欲求に対して僕はチャレンジし続けることが自分の人生にとって幸せだと定義できた。その瞬間に適切な動き方として転職も無理だったので起業したという感じですね。
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