恐竜が爬虫類から鳥類へと進化した過程が明らかに

Stefan Chin(ステファン・チン)氏:科学においては、時に思いがけない所から答えが飛び出します。先週の『Journal Science Advances』誌上では、ある国際研究グループが、長年の疑問に対する答えを、びっくりするような物から解明して発表しました。研究グループが恐竜の卵を分析し、卵が形成された時の母体の体温を調べたところ、恐竜が冷血動物である爬虫類から温血動物の鳥類へ進化する過程の詳細が明らかになったのです。

温血動物とは、内温動物ともいいます(原ママ)。この性質は、鳥類や哺乳類が地球上に広く分布するようになった重要な要素を担っています。

この性質は、生物のそれぞれのグループにおいて異なる進化を遂げましたが、結果は同じでした。寝そべって太陽熱を受け体温を維持する代わりに、私たちは、さまざまな気候下で生きられる自由を得たと同時に、長時間の活動能力を維持できるようになったのです。

多くの研究者たちは、鳥類が温血動物(原ママ)であるのは、その祖先である恐竜の頃におきた進化であると確信しています。そしていつ、どのようにその進化が起こったのかを、長年調べてきました。

今日、多くの研究者が、恐竜は温血動物と冷血動物(原ママ)との中間に位置する、中温動物だったのではないかと議論しています。内温動物と同様、中温動物はエネルギーを代謝して体温を発生させます。

一方で内温動物は、私たち人間でいえば、37度くらいの一定の体温を維持しています。現生の中温動物には、体温を維持する「サーモスタット」はありません。体温は発生しますが、細やかな調整はできません。

卵殻を調査し、体内温度を推測

恐竜の体温調整の進化を調べるには、恐竜の体内温度を知る必要があるのです。もし外気温よりも体温が高ければ、ある程度は体温をコントロールできていたと考えられます。

過去の研究においては、異なる種の恐竜の成長率が調べられました。成長率は、樹木の年輪のように、骨に残った痕跡から算出できます。冷血動物である爬虫類は、代謝が低いためゆっくりと成長するのに対し、温血動物は活動能力が高く、速やかに成長します。

問題は、成長率と代謝率の関係は一筋縄ではいかないことです。つまり、恐竜の成長率を調べても、恐竜の体温調節の可能性について、信頼のおける情報は得られないかもしれないのです。

そこで、前述の新しい方の論文の執筆者たちは、最近実用化された別のアプローチを取りました。凝集同位体温度計(clumped isotope paleothermometry)と呼ばれるものです。”paleothermometry”とは、「古温度の測定学」を意味し、通常であれば絶滅動物が対象の体温測定です。”clumped isotope”とは、測定技術の内容を指します。

「同位体」とは、同一原子の、質量が異なるバージョンの物を指します。同位体によっては大量に存在するバージョンがあり、さまざまな要因によってその量は異なります。

そこで分子の中で、存在が稀な同位体同士が凝集、つまり結合した場合は、その凝集同位体が生成された当時の状態について、例えば温度などのたくさんの情報を残してくれます。

さて、過去に凝集同位体温度計を恐竜の卵殻に用いて、卵が形成された当時の恐竜の体内温度を計算した研究グループがいました。

しかし、前述の論文の執筆者たちは、この調査が行われたのは、温暖な気候下で生息していた恐竜のみ対象であるという問題点を指摘しました。つまりこの計測温度は、恐竜が生息した当時の温暖な気温にほど近いものであるに過ぎないため、内温性・中温性・その他は判別できないというのです。

一部の恐竜は体温調整をしていた可能性も

かつて恐竜が世界に君臨していた2万3000年前から6千500年前の地球は、現在よりもはるかに温暖だったのです。とはいえ、平均気温が30度以下の地域もありました。こうした冷涼な気温に適応していた恐竜も存在したのです。

そこで研究チームは、凝集同位体温度計を、主に古代のカナダなどの冷涼な気候下に生息した恐竜の卵殻に用いてみました。すると、3種の異なる恐竜を対象に調査したところ、そのうちの2種の恐竜において、卵殻が形成された当時の体内温度が、推定される外気温よりも遥かに高かったことが判明したのです。その体温は36度と44度であり、どちらも現生の内温動物の体温に合致します。つまり、これらの恐竜は体温の調整ができた可能性があります。とはいえ、このデータだけでは内温動物か中温動物かの判別は困難です。

トロオドン・フォルモススという別種の恐竜では、27度から38度に渡る範囲の体温が実地で計測されました。つまりこれは、体温を発生させることは可能ではあるが、必ずしも調整はできていなかった痕跡かもしれません。つまり、トロオドン・フォルモススは少なくとも冷血動物ではなく、中血動物であった可能性を指しています。

このように、卵殻の化学構成を調べるだけで、一部の恐竜には体温調整ができていた可能性があることがわかったのです。そして、将来の研究において、凝集同位体温度計をもっと導入すれば、内温動物が長い時間をかけてどのように進化したか、より深く知ることができるかもしれません。これは、極めて思いがけない物を調べることによって私たちが学ぶことができる、好例なのです。