2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
提供:富士通クラウドテクノロジーズ株式会社
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上島邦彦氏:さて、今日の本題です。弊社から見て地理空間情報の分野がどのように見えるか。ちょっと強気で「超速」と銘打たせていただきました。
GIS(地理空間情報)の歴史を1枚にまとめたのがこの表です。ざっくり半世紀くらい歴史がありまして、1950年代が創成期です。
第二次世界大戦後、軍事情報を各国内で集約する動きの中で「地理行列概念」のような基本的な概念が考案されるなど、地理情報の整理が始まりました。
1960年代になると民間に広がって、「都市情報システム構想」が立ち上げられました。人が手書きで地図を書くのではなく、自動で作図していく技術が出てきました。
1970年代になると、日本でも国土情報整備事業が始まり、日本の地図をきちんとデジタル化して整備するための長い取り組みが始まりました。民間のGISツールが出はじめたのもこの頃で、宇宙開発に伴って衛星データに関する技術も世に出てきた時代ですね。
1980年代には、学問としての成熟が進む一方で、主として欧米でGISに関連する産業振興政策が行われてきました。ここで活躍されていた企業が、今でも名だたる企業として活躍しています。
1990年代に入ると、国際標準を作って地図データの共有や品質管理を徹底していく動きが起きました。GISをWebで見られるようにしたり、Location Based Service、位置情報や位置に関連するサービスをより民間向けに提供していく動きが出てきます。
2000年代には、スマートフォンの普及に伴ってモバイル位置情報がいろいろなところで使われていて、Web広告の世界では実質的に石油や血液みたいなものとして売買されていますね。
地図データや地理に紐付けられるデータの公開も進んでいて、オープンデータが増えたおかげで政府統計もかなり使いやすくなってきています。それを受けて、一般の市民の方にも地理空間情報を扱う技術が少しずつ浸透する動きが出てきました。
歴史を長々と紹介しました。では、その歴史がどう仕事に使えるかと言いますと「それぞれの組織の中でのデータ活用がどれぐらい進んでいくか」というプロセスに置き換えて考えられるんじゃないか。
ざっくり、レベル1からレベル6まで置かせていただいたんですけれど、例えば1950年代のように、きちんとチームを編成して、関連する基礎知識を習得して、一番大事な業務でどう使えるかを検討する。多くの企業が最初に気にするところです。
そこからは主題地図の選定が必要です。主題地図とは、それぞれの目的に沿って表示したい・描画したい地図を作成することです。実務に関わる地図をきちんと選んだうえで、使いやすいサービスやある程度お値打ちなデータを試験導入するのがこのタイミングでしょう。
さらに進みますと、組織内で共通で使える情報システムを入れたり、そこに対して、すでに出来合いのデータ製品を組み込んでいきます。ご家庭でいえば、冷蔵庫を充実させるのに似ているんですかね。
どんどん進んでいくと、社内に人材をきちんと育てていきましょう。組織を作っていきましょう。あるいは事業計画に組み込んで業務を回していきましょう。こうしたことをレベル4では意図しています。
レベル5はデータの標準化。ここらへんでようやく取り組みのKPI、投資対効果を気にする時期だと思います。社内でも詳しくない方や、初めての方向けのツールも普及させていって、どんどん社内で浸透させていく段階です。多くの会社がまだまだ手をつけられずにいる領域で、専門会社がこの役割を担っているでしょうか。
レベル6には、おそらくごく限られた会社くらいしか、たどり着いていないでしょう。分析作業そのものをルーティンにしたり、自動化したり。活用事例の世の中への発信までいくと、ものすごく高度な活用が進んでいると言えます。
2枚でざっくりお伝えしてきました。ほかの分野に比べてGISは歴史が深くて、自分の組織が今これぐらいの年代まで来ていることがざっくりわかります。一番最初にデータ活用に取り組んでいくときにも、うってつけの分野なのかなと。社外データも充実していますしね。
トピックとしてもう1つだけ。高校の地理の新課程が変わります。学習指導要領が新しくなりまして、高校生たちがGISツールを普通に使う授業に変わります。
学生たちに「何を学んで欲しいか」という指導要領の文章があるんですが、社内で「どういう技術知識を身につければいいか」のポリシー作りの叩きとして、意外に使い勝手が良さそうで、引用してみました。
扱う分野も網羅的です。自社のペインポイントを俯瞰して探るために、高校地理にさかのぼるのも意外とありです。
2000年代まで動きをお伝えしてきました。次は、直近10年で何が起きたのかを駆け足でお伝えします。そもそもデータを集めるデバイスの多様化が進んできました。ご承知のとおりスマートフォンやドローンなど。カメラもいろいろなところに設置されていますね。衛星測位や、屋内での測位も話題です。
データを測定したり、分析する技術も学術研究の分野では古くから使われてきているんですけれど、一般の方々や少し詳しい方々にも知られるようになってきました。
例えば、ジオフェンシングは地図上に仮想的なフェンス(柵)を作って、その区画に対象物、たとえばお客さんが入ってきたら検知します。私が聞いた中ですと、里山で野生動物が入ってくるのを検知するなどですね。Internet of Animalという取り組みもあります。
ダウンスケールは、衛星や気象のデータをより狭いメッシュで分析できるように再加工します。リアルタイムに解析の速度を上げるところも進んできております。
また、大規模なデータの処理も注目ですね。平面ではなくて、三次元で地図を処理する。自動車業界が取り組んでいるところです。コンピューター上の三次元地図で、実世界でも物体を走らせる。このコンセプトが自動運転の本質だと思っています。
そう考えると、三次元の空間をゼロから立ち上げたり、仮想空間に立ち上げられた三次元の空間を現実空間に持ち込むのが、AR・VR・XRと言われる技術領域だと言えるでしょう。
建設の世界でも「CAD(コンピュータを用いて設計すること)からBIM(リアルタイムで3次元のソフトウェアを用いて設計すること)へ」という言い方がなされたり、地図の自動更新もなるべく低コストでできるようにする技術開発も進んでいます。
グローバルプラットフォーマーさんの地図のアプリで、データ取得の仕方が大きく変わったというニュースを、聞いたことのある方もいらっしゃるかもしれません。
もう1つ、データ製品が「コンテンツ」として独立して流通するようになってきました。入手しやすいデータよりも粒度の細かいデータを集めて、その地域で必要とする人たちが使う「マイクロジオデータ」も、研究会が立ち上がって何年にもなります。データストアを運用するような会社も増えました。
また数値を入れたり、リクエストを送るだけで一通りやってくれる「オールインワンサービス」もあります。より一般向けのハザードマップを作って「ここは災害リスクが高いですよ」「花粉症はここが危険ですよ」と知らせてくれることも。ダッシュボードは、今般の新型コロナウィルス感染症の流行で、多くの方がご覧になったはずです。
まとめると4点ですね。端末が多彩になり、技術が多能になってきました。
2000年代の前半から民間に出てきた大規模なデータ処理が、より一般的になってきています。そうした影響でデータ製品がコンテンツになって、本格的に売買の対象になってきています。
今後はどうなるか? 正直なところ、わかりません。ただ、諸技術の動きを見ていくと、いろいろな分野でデータが多次元で扱われるようになるでしょう。
地点だけを見ていたのが平面で扱うようになり、水平方向だけでなく、高さも気にするようになる。時間の動きを見るようになり、どういう意味を持つのか分解するようになったり。よりリアルタイムなデータの取得・入力・処理・表示が進むでしょう。
推計の精度だけではなくて、対象期間やメッシュもより細かくなる。より高精度、高分解能のデータが生まる。あるいはそれをもっと簡単に安定して運用できるようにする。
その諸々の技術や情報をいろいろなところに集約して、必要な人たちが共有できるフレームワークを作っていく。その潮流が進んでくる。将来の見通しをまとめるとこんな感じですかね。
そういった情勢の中で、地理空間情報を自社で実際に使えるのか、他社の事例をどう探すのか、どう解釈していくか。少しお話しさせていただきます。
とはいえ、あまり難しく考えるとややこしくなるので……。3つで考えるのがシンプルです。データを入力・処理をして、ほしい結果を出力する。ざっくり3区分で考えてみます。
「入力」は、わりと多種多様になってきて、選択肢の多い時代なのかなと思います。モバイル端末などや通信基地局のデータ、車のデータ。衛星航空のように上空から測定するデータがあります。あるいは地上にセンサーやレーザーをつけたり、設備と機器にセンサーを埋め込んだり。
調査パネルのデータを「位置」に紐付けることで、アンケート調査も充実してきました。現地に調査員の方が実際にうかがう方法もあります。民間気象会社のように、各地域の住民の方に気象状況を聞く例もありますね。文献や古地図の情報を現代に蘇らせていく取り組みもあります。「現実にないもの」を作る、仮想空間の取り組みもあります。
いろいろな「入力」方法があるなかで、これをどう「処理」するか。大きく、オブジェクトモデルとフィールドモデルの2つに分けるとわかりやすいでしょうか。
オブジェクトモデルは、その地理空間の中にある「形や特徴」を再現していく。「彫刻」のイメージですね。
フィールドモデルは、平面や空間にある「属性や区分」を与えてあげる。「絵」を描くようなイメージですね。要は「絵画」と「彫刻」だと思っていただけると、「処理」のイメージが掴みやすいかなと思います。
例えば、地点特定。あるものがどの場所にあるのか。日本にいるとあまり馴染まないんですけれど、アフリカ大陸各国に行くと、そもそも住所がどの緯度経度に対応しているかもわかっていなかったりします。そもそも住所という概念が、あまり一般的でない遊牧民の方もいらっしゃいます。
続いて、その地点で何が起きているのか。平面の重ね合わせを行ってみたり。さらには、平面を特定の条件で分割したり抽出・切り出したり。「豆腐」を切るイメージだとわかりやすいかもしれないですね。その豆腐の中身がどれぐらい詰まっているのか、スカスカなのか調べます。
わかりやすい例ですと、梅雨時期の湿気、大気中の水分がどれぐらいなのか。二酸化炭素の温度がどれくらいか。二酸化炭素濃度が各国・各地域でどう違うのかは定期的に測定・評価されています。さらには、そうした空間と空間の間の「人」や「物」の移動をきちんと描いたり、ルート探索を機械学習で最適化する。
それらを踏まえて、全体の空間表現や時系列推移などを見て、何ができるか対策を練る。これらが、地理空間情報に対する「処理」の一般的な説明として、言えると思います。
その結果、何を「出力」するか。弊社はデータの種類の分類をだいたい20項目ぐらいで分けています。結論から申し上げると、アイデア次第であらゆる分野に事例や可能性があります。
データも技術も進んできたので、いろいろなことができるようになってきました。今日知っていただきたいのは、基本に立ち返って「そもそも担当者や法人組織として何を知りたいのか」をハッキリさせるのが重要だということです。
視点・モノ・形・表現が大事です。
どの視点に立つか。例えばスーパーマーケットの駐車場に関する情報が欲しい場合に、人の視点で見た情報がほしいのか、上空から見下ろした視点がほしいのか、それとも地面の温度や湿度、積雪が知りたいのか。
あるいは、対象となるモノは何か。どの地域に起きているどんな現象なのか、花粉なのか、雨なのか。あるいは雨と雪をどう区別するのか。その中で起きてる事象は長雨なのか、突然のゲリラ豪雨なのか。
また、どういったフォーム(形)、キャラクター(属性)に着目していくか。家の情報がほしいのか、道路なのか、公園なのか。それら「地面」にあるものではなく、気象気候のような「空中」にあるものなのか。あるいはそこで起きている人や車の「動き」なのか。
そして、それをどう表現するか。きちんと数値を定義してあげる必要もありますし、ここがいつも悩ましいんですけれど、区画をどう切っていくか。政府の行政の区画と、社内でのエリアの区画と、あるいは他国での区画は、よくずれます。難しいところです。
要はどれぐらいの綿密さでやっていくかですね。年に1回でいいのか。5年に1回でいいのか。毎日ほしいのか、時間単位でほしいのか。そこを気にしていくと、いろいろな事例をご覧になる中で「あ、うちで使えそうかな」「うちだとちょっと遠いな」みたいなところが見えてくる。
そういったことを踏まえて、最後に、私がおもしろそうだなと思った例をいくつか挙げさせていただきます。スライドの文言をそのまま検索すると、出典が見られるようになっていますので、探してみていただければ。
日銀がレポートを定期的に刊行していまして、数年前に仙台の支店長さんが実際の各地域のデータを使って、GIS分析をした事例を公表しています。証券分析をもとに地域の金融戦略の立案に応用しようとしています。
地理空間系のツール会社や報道会社が、公開されたデータを使って、コロナウイルスの感染状況のダッシュボードをそれぞれに公表しています。みなさんにもかなり馴染みのあるものになってきたのではないでしょうか。
長期の推計・予測は、農業分野がおもしろいです。農研機構という国系の研究所と、国際機関のAPECの気候センターで、農業の収穫のデータと気象気候のデータを組み合わせて分析していました。地球の3分の1くらいの面積の穀物収穫量の予測がある程度できる、推計モデルができたそうです。地球規模での予測がされているんですね。
これもおもしろいなと思うのが、名古屋大の気象学の先生方がCReSSというツールを開発しています。気象庁のアメダスや雨量計で測定できるデータは、測定端末をすべての空間に均等に設置してはいるものの、その分、細かいところはなかなか取りづらいという課題があります。名古屋大では、地域の気象状況をもう少し細かい単位でシミュレーションできるソフトウェアを開発しています。
例えば、雨が少ない地域でゲリラ豪雨があったときや、ぜんぜん雪が降らない地域で突然豪雪があったとき、センサーでデータが取れない場所で何が起きていたかを検証するデータとして活用されています。
少し変わり種なんですけれど、アスコエパートナーズという会社さんがいらっしゃいます。1,700の自治体のWebサイトのコンテンツをまとめて収集して、保育サービスの内容や行政イベントの開催情報を、行政区画をまたいだ共通の分類体系で整理しています。
アスコエパートナーズさんは情報コンテンツとしてのデータ活用が多いとおっしゃっていたんですけれど、行政区で紐付くデータとして、新しい地理空間情報として使えそうです。
よりマーケティングに近い例で言いますと、みなさんもご存知かどうか、TikTokというアプリが昨今かなり流行っています。スマホアプリで中高生が短時間の動画を撮影して、動画でおもしろいことをして、それをみんなでシェアして遊ぶアプリです。
TikTokの広告の来店効果を分析するために、実際に来店したかどうかを検知して、広告を見た人がどれくらいお店までたどり着いてきたかを可視化する取り組みが行われていたりします。
より大規模なもので言いますと、位置情報ゲームが流行っていますね。サントリー食品インターナショナルさんが『ドラゴンクエストウォーク』とのタイアップで、位置情報ゲームと自動販売機での商品購入を連携させて、それで送客する事例も出てきました。
ほかにもいろいろあって紹介しきれないです。おすすめは『GIS NEXT』といって、3〜4ヶ月に1回ぐらい出ている専門雑誌があります。直近のホットなキーワードをかなり網羅しています。参考にバックナンバーの特集タイトルだけ、引用して紹介させていただきました。
ほかにも、基礎的な知識は、放送大学の教材が使い勝手がいいです。古今書院という会社が大学生向けの教科書を出版されておりまして、これも各トピックがまとまっていて、すごくわかりやすいです。また、学会賞の顔ぶれを見ますと、昨今の流行りもわかります。
駆け足でしたが、弊社のような多種多彩なデータを扱う会社から見ても、地理空間情報はかなりおもしろくなってきています。そういったところが伝わっていたらいいなと思います。
本日のまとめは大きく4つです。
やはりどうしても新しい領域ですし、専門的な知識技術が必要です。バスワードが出ては消える世界です。とはいえ、流行に乗っかるよりも、幅広い視点に立って、必要な要素をきちんと集めて、総合戦で取り組むのがいいと感じています。
その一環として地理空間データを取り扱うのは、社会のデータの活用という意味では、奥が深く幅広くて事例もたくさんありますので、かなり手が付けやすい領域です。
本日、私がお話ししたのは、氷山の一角の中の、そのまた一つの氷のかけらぐらいなものです。ほかの分野の事例などもぜひ参考にしていただいて、ノウハウの蓄積をしていくと、本当の意味でのデータ流通が進んでいくと思っています。
私の発表は以上です。ご清聴ありがとうございました。
富士通クラウドテクノロジーズ株式会社
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