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コミュニケーションとしての英語 英語で日本人が当たり前にコミュニケーションすることを考える(全8記事)

「とにかく話す」「聞き流すだけ」では上達しない 英語のプロが語る、語学学習の落とし穴

日本人は必修科目として英語を勉強しているにも関わらず、英語への苦手意識を捨てられない方も少なくないのが現状です。本イベントでは、「異文化と協働-相手を納得させるコミュニケーションを考える」と題して、英語圏でビジネスをして、圧倒的な成果を上げているプロフェッショナルたちが一堂に介し、自身の英語学習の秘訣や日本の教育システムの課題について意見を交わしました。本パートでは、英語学習におけるスピーキング偏重の風潮や、魔法のようなキャッチフレーズに惑わされないための考え方について語りました。

英語の4つの技能の理想的なバランス

松田亜有子氏(以下、松田):はい、そうしたらまだまだご質問があると思いますが。

(会場挙手)

はい、では女性の方。

質問者3:今日は貴重なお話をありがとうございます。今、よく本屋さんなどに行くと『3語でしゃべる』といったように、ますますイージーイングリッシュでどれだけ話せるか、中学校の単語で何を言えるかという感じですよね。

昔とは違ってどんどん、逆にすこし極端すぎるほど「短い言葉で」、「簡単な言葉で」、とにかく「話せ、話せ」。文法はどうでも……そこまでは言わないかもしれませんが、そうした風潮がかなり多いかと思っています。

私も、今日の講演とはすこし違うかもしれませんが、自分の個人的な感想として、中高の英語学習ではとにかく「話そう、話そう」と言われていたほうでした。それで私も話すことのほうがどちらかというと、もちろん好きですし、そうした姿勢だったんですが……学校で発音記号を教えてもらったこともありませんし。文法はいっぱい教えてもらうことはありますが。

そうした中において、世の中の英語がすこし行き過ぎているんではないかとも感じています。私はまだ社会に出て働いたことがないので、どれだけ簡単な英語で話すことが社会において大事なことなのか、ビジネスの世界ではいろいろなルールがあるとは思うんですが。やっぱりアカデミックな場であったり、普通に友人として話していくとき、人と人とのコミュニケーションでいくには、やっぱり3語では伝えられないことがどうしてもあると思うので……。

(会場笑)

「とにかく話して」という今の風潮について、御三方はどう思われているのだろうかと思いました。

安河内哲也氏(以下、安河内):まず英語というのが、やはり4技能のバランスがあります。リスニング・リーディングというインプット、そのインプットがないとアウトプット、スピーキング・ライティングというものは成立しない。

そうはいってもインプットだけでは、これは当然目的を持たないインプットですから、なかなか英語のモチベーションは育ちません。だから理想としての学校の授業は、例えば50分間あるならば、きちんとリーディングをやって、そのリーディングしたものをリスニングやQ&Aで回収する。

そこできちんとリーディングしたものを受けて、人の意見を受けて、それを自分の意見としてどう発話するかという。そうした融合的な指導というものができなくちゃいけないわけですよ。

魔法のようなキャッチフレーズに踊らされないために

安河内:一方でビジネスの場というのは、やはり人間関係づくり。つまりランチで話したり、会議で話したり、この「話す」ということが非常に重要な要素である。だからそのプレッシャーが世の中で大きくなると何が起こるかというと、やっぱり出版社としては本が売りたい。本を売るためには、過激な文言でタイトルをつけ、過激な帯をつけなければならない。そしてとくにネット通販の教材などは「簡単に、すぐに、話せるようになる」とうたう。

(会場笑)

魔法のようなキャッチフレーズのもと、販促をしていくと。そうするとやはり英語学習に詳しくない人は、それを見ると食いついてしまって、本当にそれで英語が話せるようになると思い込んだりします。これはやっぱり、すこし節度をなくしたビジネスの暴走、というようなところがありますよね。

私たちはおそらくそういうのを見て「おかしいな」と思っている。でも自分も著者の立場としては、やはり出版社さんは過激なタイトルをつけて本を売りたがる、過激な帯・文言を出して本を売りたがる。著者としてはやはり、出版社がそういうのであれば、書かせてもらっている立場としてはどうしようもないという部分もあるんですよ。

学習者のみなさんとしては、少しスタンスを置いて。やはり英語というのはここの極にいってもダメだし、ここの極にいってもダメだし、この極にいってもダメ。結局、バランス曲芸なんだということをよく理解したうえで、勉強したほうがいいですね。だから、あまりマスメディアに踊らされないこと。

先ほど先生がおっしゃったように、では文法はやらなくていいかというと、文法はやらなきゃしゃべれるはずがないわけですから。やっぱり文法はきちんとやらなくちゃいけない。逆にいうと今度は、文法問題ばかり解いていてもしゃべれるようになるはずはないと。だからそのバランスを、英語でいうと「hit the balance」というんですが、どうやってとるのか。

このバランスがとれる人だけがうまく英語ができるようになっているように思います。広告やマスメディアが出してくる文言に惑わされずに、きちんとすでに英語ができるようになった先輩を追いかけて、balanceをhitした人だけが英語ができるようになるというのが今の状況かもしれませんね。それが私の答えです。

「とにかく話す」「聞き流すだけ」では上達しないわけ

ATSU氏(以下、ATSU):質問は結局、「とにかく話せ」という風潮についてどう思うかということでしたよね。

質問者3:そうですね……今回のお話もかなり、とくに2人目の方と3人目の方はやっぱり「話す」ということにすごく重点を置いている印象を受けましたから。でも今のお答えを聞いて、そのように考えているわけではないんだということは理解したんですが。

ATSU:「話す」という言葉の定義ですよね。そもそも「ただ話せ」というのは、「I eat this」「I eat that」というようなことを言っていればいいのか。では文法知識を入れて単語の知識を入れて、発音の知識を入れたうえで、その知識を使って文章を作ってアウトプットしましょう。

アウトプットする中で自分が間違え、文法知識があるんだからもちろん間違えたら自分でわかるわけですよね。それでself correctをして自分で直して、よりよい文章を作れるようになるという、いわゆる「できる」ようになるためのプロセスというのが「たくさん話す」という言葉の中に入っていれば、私はそれは「話せる」ようになると思っています。ただなにも考えないでバカみたいに話していてもそれはどうかなと。

(会場笑)

そう、話せるようになるはずはないんだから。それは「聞く」というのも一緒だと思うんですよね。「ただ聞き流すだけで」と言っても、では聞き「流す」だけではやっぱりだめだと思います。「聞く」という言葉の中にも、では聞いたあとにどこが聞き取れなかったのか自分で識別して、なぜ聞き取れなかったかを分析してできるようにしていくという、いわゆる学びのプロセスがあれば、当然聞き取れるようになると思いますから。

そうした「どうしてこれをやっているのか」というのは、一人ひとり学習者が考えて学習していかないとだめだということは思いますね。

一番大事なのは「何のために英語を学ぶのか」という目的意識

田中慶子氏(以下、田中):私もいいですか。(質問者に)どうぞ、座ってください。疲れてしまいますから。

本当に、そもそも「英語を学ぶ」ということは、英語というツールをどうしたいのかということですよね。だから目的ではないんですよ。英語を使って何がしたいのか、ということがまずありきだと思うんです。

私は先ほどチラッとお話しましたが、まったく英語を話せないところから、今、英語の仕事をしているわけです。私という一人の人間だけを見ても、英語の学びというものは、それぞれの段階でまったく違うことをやってきているんですよね。

最初はカタコトも話せないような状態でアメリカに行って、ホームステイして、ホストファミリーの言っていることがなにもわからないから、とにかくサバイバルです。いわゆるサバイバルイングリッシュから始まったんですが、そのあとアメリカで、いろいろ紆余曲折ありますが端折っていえば、大学に進学した。

すると今度は、読み書きをしなければいけない。英語で論文などを書かなければいけないんですよ。「できないよ」と思うんですが、できないと卒業できませんから。それで今度は、読み書きを勉強していくようになる。帰国して通訳になったら、通訳は通訳でまた、通訳としての英語力。「訳す」ということは特別な技術ですから、そこを勉強しなければいけない。

私は18年間通訳をやっていますが、今でも毎日勉強をしています。ですから、自分は英語を使って何をやりたいのか、そのやりたいことをあらわすための英語力というのは何なのか。もしかしたらそうした「話せ、話せ」という教材が今出回っているというのは、日本人がまだその「話す」ところまでいけていない人が多いからなのではないでしょうか。

やっぱり安河内先生がおっしゃるように、出版社はとにかく売りたいんですね。だからキャッチーな「これなら俺でもできるかも」と思ってもらえるような教材をたくさん出すんだと思いますが。でもすごく大事なのは、自分が選べる能力を身につけるということですよね。

安河内:うんうん、そうね。

田中:そのためには、「私は何をしたいの?」、「私は英語を学びたい」。では「何のために学びたいの?」ということを、まずは自分の中でしっかり持つということが、一番大事だと思います。

知性のある英語を話すために必要なこと

安河内:すこしひと言。

田中:はい、どうぞ(笑)。

安河内:やっぱり本屋さんに行ってね、『1週間でネイティブ英語』というタイトルを見て、「おぉ」とは思わないこと。

(会場笑)

田中:怪しい、怪しい(笑)。

安河内:ね。それを本当にそんなことができると思ってしまうマインドセットは、やっぱり英語を習得できないマインドセットなのだと思いますね。

岡田兵吾氏(以下、岡田):私も一つだけよろしいですか。今、先生方がおっしゃったように、やっぱり「何を」という話です。今日僕、見ていて嬉しかったのが、このセミナーはみなさんがどんどん質問をされるではありませんか。やっぱり3語の英語が必要な人は、こういう場でも自分の意見ができない、自己紹介ができない人にはいいと思うんですよね。

やっぱりこういう場面に来て「通訳者になりたい」、「海外で働いてみたい」、「英語を極めていきたい」と思っているような方は、「No pain, no gain」というように、努力が必要です。

人から見るときに、ただ単に「話す」と言われるだけではなくて、話す中に知性があったほうがいい。日本語でも伝え方があるように、きっちり自分が思っていることを日本語以上によりよく伝えて、相手の気持ちを引き出せるような英語をおそらく、この場にいる方は話したいんだと思うんですね。

ですからやっぱり、3語は最初のきっかけとして使って、それ以上はいろいろと文法も勉強したり、読解して、いい文章も読んでみてほしいんです。それを自分の言葉で伝えていけるようになっていくというのが、これが大人の英語というか、正直いえばビジネスで外国人を巻き込んでリーダーになっていくためには必要だと思います。

質問者3:ありがとうございました。すこし憧れのATSUさんを前に緊張して……。

(会場笑)

ATSU:ありがとうございます(笑)。

質問者3:中身的に質問ができなかったんです。今のそうした英語の風潮に対して、成功したみなさんはどのように覚えているのかがよくわかって、ありがたかったです。ありがとうございました。

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