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アグリテックの新たな成長戦略(全4記事)

2週間でレタスの収穫ができる「植物工場」 低コスト化が進む水耕栽培の裏側

経営に関する「ヒト」「カネ」「チエ」の生態系を創り、社会の創造と変革を行うグロービス。「あすか会議2019」では、テクノロジーや宇宙、地政学、ダイバーシティなどのさまざまな分野の有識者らが集い、日本の未来のあるべき姿と、その実現にむけて一人ひとりがどう行動していくべきかを考えます。本パートでは「アグリテックの新たな成長戦略」をテーマに、日本の農業界の変化と海外展開について語りました。

レタスの苗を2週間で育てて出荷できる水耕栽培

岩佐大輝氏(以下、岩佐):木内さんは植物工場系に近年だいぶ投資されたと思うんですけども、そのあたりのお話を聞かせていただけますか?

木内博一氏(以下、木内):佐々木さんは「土耕」の話で、僕は「水耕栽培」の話をします。「水耕栽培」というのは、簡単でわかりやすいんですよね。作物が吸った分しか(水が)減らない。蒸散した分は2~3パーセントぐらい。水を最大限、作物に転換するという意味では、たぶん「土耕」より「水耕栽培」のほうが実は優れているというのが現実かと思います。

近年のLEDとかの人工光型の植物工場について、先ほど佐々木さんとお話をしました。私の感覚で言うと(そういったものが出てきた点で)「元年」と思っているんです。これはまさしく、PDCAを工業の部分で回していきます。

作る作物にもよるんですけれども、だいたいうちの植物工場は本圃(ほんぽ/注:苗床で育てた苗を移し、収穫まで植えておく畑のことを言う)のほうへ2週間ぐらいで回していきます。どういうことかっていうと、2週間で出荷です。

岩佐:種からですか?

木内:種からではなくて苗からです。

岩佐:苗からですか!? 速い!

木内:だから専門的にいうと「スペーシング」という考え方なんですけど、小さいときには本当に種は(親指と人差し指で輪を作りながら)こんなに小さいですから、(学校机1つ分程度の大きさを示して)こんなところに、200~300株を植えちゃうわけですよね。

それで、ここで育つ。スペーシングが耐えられるところまで、例えばそれが3日とか4日だとします。次のスペーシング、そして次のスペーシングで本圃に行くということになると、ここの部分(初めのスペーシングを行う部分)は、ものすごく小さいスペースでいいわけですね。

今、我々の植物工場で言うと、だいたい150グラムぐらいあるレタスが、毎日だいたい2万個ぐらい収穫できます。

「カット野菜」の意外な加工の難しさ

木内:例えばこれの何が「元年」なのかというと、コストですね。先ほどもちょっとお話をしましたけども、例えば水の話で言うと、加工の分野では「カット野菜」っていわれるグリーンサラダなどがありますよね。あれは加工が一番難しいんです。

「洗って切るだけでいいじゃないか」と言われますが、洗って切るだけで加工品としての条件、要は菌数だとかの条件をクリアしなきゃいけないんです。なので、実は膨大な水を使いますし、加工工程の中で、ものすごく衛生管理に気を配らなきゃいけないんです。

実は総菜のように火を通して、焼いたり温めたりしちゃうと簡単なんですよ。意外と知られてないんですけど、カット野菜工場は極めて大掛かりな投資が必要になってくるし、大量の水を使ったりするわけです。

従来の露地の畑、自然の中で作ったようなレタスには、だいたい「初発菌」という、収穫した原料段階での菌が10の10乗とかの数います。これをカット工場で水洗いをしながら、例えば殺菌水とか、次亜(次亜塩酸ナトリウム)を使ったりしながら菌数を落として、だいたい10の4乗以下の数に落とすんですね。

今、我々が目指しているのは、だいたい10の2乗以下の数に安定させることです。ちょっとばらつきがあるんですけど、植物工場の場合は人的なマニュアルをしっかり作りこむだけでクリアできると思っています。

たぶん数字からわかると思いますけど、生産の現場で10の2乗以下の数に安定させられると、カット工場では切るだけでいいんです。そうすると水の話で言うと、加工業者の労力負担も減りますし、設備投資も減ります。なおかつ菌数が下がることによって、消費期限を伸ばせるんです。コンビニやいろんなところで起きている、消費期限による廃棄ロスの問題も軽減できます。

低コスト化が進む水耕栽培の現状

岩佐:ちなみに、いわゆる加工工程まで含めると、「苗床から安く作って、加工して、出荷します」と、「きれいなクリーンルームで作って、出荷します」という場合とでは、コストってどれくらいの差があるんですか?

木内:それが要は「元年」という理由なんですけれども、実は3年ぐらい前までは「1キログラムあたり1,000円以下の生産原価で作る」ということを、国をあげて、業界をあげて目指していたんです。

岩佐:それは、加工工程を含めて1,000円ですか?

木内:いやいや、違います。原料です。

岩佐:原料ですね。はい。

木内:植物工場での原料です。1キログラムあたり1,000円。「レタス系のもの、葉物系であれば(1キログラムあたり)1,000円を切って作れるようにしましょう」というのを目指していたと思います。

(今日は)テレビも入っているからあれなんですけど、今はだいたいざっくりですが「1キログラムあたり600円」を切るところを我々は目指しています。

岩佐:ということは、……ちょっと待ってくださいね。土耕栽培で作るよりも、人工光の植物工場で作ったほうが、いわゆる減価償却も全部差し引いても安くなりつつあるってこと?

木内:例えば土耕栽培ですと、やっぱり自然で作りますから台風であったり、いろんな価格のリスクがありますよね。だから価格って平均値でしか言えないと思うんです。だけど、平均値で1キログラムあたり400円ぐらいだと思うんですよ。

それが今、従来の労働環境の中では、やっぱり労働賃金が上がってきています。そうすると土耕栽培のほうは、たぶんこれ以上にコストに反映してくる技術イノベーション的なものはないと思います。なので、予測ですけれども、たぶん1キログラムあたり400円より上がっていくと考えたほうがいいです。

例えば人工光の植物工場のほうは「1キログラムあたり600円を目指しています」と言っていますけれども、実はこれは業界(全体)の話で、その中で競争しています。我々はもうクリアしているんですね。

太陽を浴びて育った畑の野菜こそ、おいしくてエコ?

岩佐:ちなみに数多の企業がレタスの植物工場に参入していまして、ここ10年、もういろんな人を見ていました。だけど、ほぼ全部全滅しているじゃないですか? あれは、なんで全滅しちゃっているんですか?

木内:従来の植物工場をやっているメーカーさんは、要は事業で収益を上げるというよりも、プラント販売になってしまっていると私は思います。大手の企業はいろんなところに挑戦しますから、例えばパナソニックさんなんかもやっています。そもそもパナソニックさんなどは、農業をやるのではなくて、やっぱりプラント販売なんですよね。

だから結局、今まで農家のほう、それを受ける業者のほうが、要はやっぱりプラントを買って、(そのあと事業が)成立するところまでいってなかったわけですよ。我々は実はプラントを自社で開発しています。

もちろん作るのはアウトソーシングしますけれども、設計とかそういうものは全部、自社でやっているんです。なので我々はちょっと変わっていて、「自前のプラントで作るからコストを下げていく」という感覚です。

岩佐:なるほど。やっぱりなかなか、ハウスのコストってものすごく高いですよね。もう、ありえないぐらい高いですね。本当に業界としては非常に厳しい中で、農家は非常に苦労しているわけです。

今ちょっとサスティナブルという話では、どうしても消費者の方にとってみると、「太陽の下で土から職人が作ったレタスです」と言ったほうが、なんだかサスティナブルでおいしいようなイメージがあるんだけど、最近は現実として実はそうじゃなかったりするわけですね。

実は土や地下水を使うことが資源を破壊して、実際はサスティナブルじゃないってこともあって、このあたりの「消費者のイメージ」と「生産現場のイメージ」をファクトとして合わせていくのが重要なんじゃないかなって、今、木内さんの話を聞いて思ったんです。

その中で生駒さんは今、東京のIT企業を辞めて、宮崎のほうにいらっしゃいます。アグリテックっていう、ちょっと山っ気のあるアプローチだけではなく、ソーシャルアントレプレナーというか、地域創生のような切り口で動いておられるかと思うんです。その辺の話も、聞かせてもらっていいですか?

農家にとって魅力的な農協とそうでないところが二極化

生駒祐一氏(以下、生駒):そうですね。初めて「社会起業家(ソーシャルアントレプレナー)」って言われたなと思って、ちょっとうれしく、わくわくした気持ちになりました!

(会場笑)

岩佐:住職。

生駒:ね(笑)。農水省がいろんなところをアグリテック(企業)として挙げていますけど、僕らはそういった意味だと圧倒的に自信があるのは、現場力です。現場に一番近いところで課題解決を図って、知恵を絞って、アウトプットを出している会社だなということを自負しています。

地域課題は本当にさまざまなものがあって、みなさまのわかりやすいところでいくと農協です。東京にいたときは、農協ってどちらかというと「悪」というか「ネガティブ」なイメージがあったんです。

もう宮崎に行くと半数以上は農協系統で出荷していて、生まれたときから死ぬときまで農協にお世話になっている方々が多く、アグリテックで何かをやろうというときも、基本は「部会でグループになってやりましょうよ」です。その部会を外れるとなかなか大変というとこがあったんですが、そこも最近は変わってきています。

販売力のない農協さんは、農業者にとってほとんど魅力がなくなってきているんです。なので、農協自体が二極化しているかな。実は都心もそうなのかなって思ったんです。販売力をつけて、スーパーさんと直接交渉する農協(が魅力的ですよね)。

ただそんな中で農業生産法人さんのデータの集め方とデータの質は本当にすばらしく、本当に産業・工業に近いなと思っています。ちょっとソーシャルという話からはそれますけど、僕らとしては、宮崎にいながらそういった産業に挑戦する方々を間近で見て、「一緒にお手伝いしたいな」と思っていますね。

「農業者の軍師になる」

岩佐:ちなみにさっき生駒さんがおっしゃられた、「軍師」というキーワードがものすごく気になったんです。「農業者の軍師になる」ということは、サービスとしてはいわゆるプラットフォーマーとして何かシステムを提供するというよりも、ハンズオンで支援されるというか、そっちを重視しているということですか?

生駒:将来的にはプラットフォーマーと見てもいいかと思います。僕が今、宮崎を拠点にやっている理由は、大企業勤めだった前職で新規事業を立ち上げるとき、「3年で1億円、5年で10億円からの予算を立てて事業計画を作りましょう」というのにすごく違和感を持っていたという経験にあります。価値を提供できなければ対価はいただけないわけで、その対価が何か、価値が何かという前にお金だけ積み上げるということに、すごく違和感がありました。

今、僕らの提供しているものが手がかかるプラットフォームなのは確かです。仕組みになっている部分もある程度ありますが、非常に多いながらも人の手をプラスしつつ、コミュニケーションをどんどん仕組みにしていくと、最終的に、他には追随できない競争優位性になるなと思っています。

要はコミュニケーション領域がしっかり入っていて、それをどんどん仕組みにしていけば効率化も図れるし、横展開も図れるってイメージですね。

日本とベトナムの決定的な違いは「貪欲さ」

岩佐:うーん、なるほど。ちょっと話題を変えて、海外の話を振りたいと思います。それぞれみなさん海外の展開もされていると思うんですけれども、佐々木さんも、もう今、海外で展開されていますよね?

佐々木伸一氏(以下、佐々木):そうですね。

岩佐:アジアのプラットフォーマーになるということだと思うんですけど、そのあたりはいかがでしょう?

佐々木:今、当社の海外進出先には、ベトナムのダラットという地域があります。ものすごくいいところで、木内さんなんかも出られているという話です。そこが1つと、それからタイと、中国の上海です。2年前から出ています。

とくにJICA(独立行政法人国際協力機構)の事業をいただいて、2年前にベトナムのダラットで案件化調査というので調査をして、ものすごくいろんな事がわかってきました。

何がわかったかというと、まず1つは日本と本当に類似していることです。家族経営、面積、作っているものもほぼ同じ。あと、中山間地域というんですけど、ちょっと斜めになっている土地ですよね。そういったところをうまく使っているんですね。

一方、日本と決定的な違いだと思ったのは、彼らは新しいものに対してすごく貪欲。つまり我々が持っているものに対して、貪欲です。アグリテックってやっぱり「道具」なので、ユーザーが使ってなんぼのものなんですよね。それをどんどん使い倒してくれるんですよ。

ということはどうなるかというと、使い倒せば倒すほど、道具はどんどん逆に賢くなっていきます。だから、フィードバックが入って、我々がそれを開発していきます。

ですから、ちょっと今やばいなと思っているのは、アグリテックに対する意欲は、日本と海外の動きを比べると海外のほうが3~5倍速い。向こうのほうがかなり速いと感じています。

そういう面でいくと、さっきのプラットフォーマーの話も、アジア全体を持ったうえで事業を展開すれば、ユニコーンって姿も徐々に見えてくるかなとちょっと思っています。

農産物の輸入リスクに対する考え方

生駒:佐々木さんの中で、例えば輸入というリスクはどんなふうに思いますか? これは木内さんにも聞いてみたいんですけど、去年とか「キャベツが足りない」というときには、輸入することで加工会社さんは生産性を保てました。そうすると輸入したものでも、「ある程度、一定の品質があればいいよね」みたいな感じでしょうか?

佐々木:それ、日本ですか?

生駒:日本ですね。輸入リスクみたいなものってどう思いますか?

佐々木:私の描いている姿は、日本の農家の方々が技術を持って海外へ出て行って、海外で日本の味覚を作るという姿です。例えばトマト、それからキュウリなんかを作るという姿なんですね。それを輸入できるかどうかは、ちょっと置いておきます。

ですから、「メイド・バイ・ジャパニーズ」とよく言われますけど、アジアで展開するときに、アジア市場に売るだけではなくて、輸入というかたちで実はそういったものが日本にまた戻ってくるんです。そういった姿がいいんじゃないかと思っています。

生駒:アグリテックだからこそ、日本のベンチャーが海外に挑戦することもできる。

佐々木:アグリテックの会社と農家が一緒に海外に行くんですね。行って、農家の方は栽培技術を持っています。(アグリテックの会社は)クラウドに栽培技術が全部入っています。ですから、逆にベトナムに行かなくてもこちらの、例えば宮崎からリモートでできますよね。そういった姿も、1つありかなと思っています。

ベトナム・ダラットでの野菜のブランド化に成功

岩佐:ちなみに今、日本の農業生産法人をダラットで作って、どういうマーケットをターゲットにしているんですか? ベトナム国内ですか?

佐々木:今、うちのお客さんは日本法人ではなくて、完全にダラットの農家の方ですね。ベトナムもGAP(注:農業生産工程管理。Good Agricultural Practicesの略)っていうのがあるんですね。VietGAPって言うんですよ。

VietGAP(Vietnam Good Agricultural Practiceの略。ASEANGAPを参考に農業農村開発省が定めた農業生産管理基準)もしっかり取って、国からも認定されて、うちの商品も入れてしっかりと開発しています。1年に1回ずつ行くんですけども、家がきれいになったり、車がきれいになったり、新しくなっている。要は儲かっていますよね。

あ、すいません。質問は何でしたっけ?

(会場笑)

岩佐:みんなダラットとかに行っているけど、「どこに売るのかな?」って思っています。

佐々木:了解です。ダラット野菜は、もうブランド化できちゃっているんですよ。ダラットで作るだけでなく、ブランド化ができています。ダラットで作るためにブランド化したんじゃなくて、努力してダラットで作ったからブランドになった。同様に、そういったものを他の高原などでも作れると思うんです。

岩佐:みなさん、ダラットにいらっしゃったことってありますか? 行ってみるとおもしろいんです。もうすごいですよ。山全体が開拓されて、もはや(空いている)農地がないぐらいの場所です。

そういう場所なんですけども、でもコールドチェーン(注:生鮮食品などを生産、輸送、消費の間、途切れずに低温に保つような物流方式)がまだないし、あそこの空港自体がインターナショナルじゃないから、ドメスティックな所にしか送れないということがあります。

ダラットがあれだけ外国の法人を含めていろんな人たちを誘致したのに、ベトナムのマーケットに限られるんじゃないかなっていうのは心配ですね。

マーケットを広げるには、流通の確保とブランド化が必要

佐々木:それは確かにそうです。ですから流通とコンビネーションしておかないといけませんね。なんていうんですかね。流通とブランド化というものが必要だと思うんですね。

「流通」=「コールドチェーン」となるかもしれませんが、これをパッケージングにしてモデル化して、それで他の国へ持っていくというのが一番いいと思います。

生駒:ダラットでミガキイチゴ(注:岩佐氏が株式会社GRAで展開しているイチゴのブランド)っていう可能性は、どうなんですか?

岩佐:ダラットの企業とジョイントベンチャーを作ろうとしたことはあったんです。でも、ちょっと止めたんですよ。そういうのはやっぱり、輸出できないとだめなんですよね。ベトナム国内のマーケットはまだまだ小さいし、空港はまだ国内線しかないから止めました。

キャメロンハイランド(注:マレーシアの高原リゾート地)とか輸出できる場所でかつマーケットがある場所ですね。ヨルダンとかでは生産しているんですけども、そういうことでダラットでは今、やってないです。

佐々木:ホーチミンとかハノイとかはあんまり市場はないですか?

岩佐:ハイエンドはなかなかないですよね。といってもコモディティを作るんだったら、我々日本企業が行ってやる意味がないんじゃないかなって当時は考えました。

生駒:そういった意味で木内さんには、海外の市場ってどう見えていらっしゃるんですか? なんか、質問ばっかりしているね(笑)。

(一同笑)

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