シリコンバレーを支える人材の流動性はどうなるか

朝倉祐介氏(以下、朝倉):ということで、だいぶ残り時間も少なくなってきたので、ここで1回会場にオープンにして、ご質問のある方、挙手いただければと思います。3~4つぐらいザッと受けましょうかね。じゃあ、まず一番前の方いらっしゃるのでお願いいたします。

質問者1:今日、お話どうもありがとうございました。私、仙台校、イトウと申します。よろしくお願いいたします。

実は小林さんに質問があるんですけれども、実は私、昨年も小林さんが登壇されたセッションに参加させていただいて、その際の「起業家・アントレプレナーの本質というのは、熱い志を持って新しい価値を創造することなんだ」という言葉が非常に印象に残っているんです。

今日はみなさんのお話を聞いていて、恐ろしいまでに環境が変化していると知りました。その中で、どういうふうにブレずにやっていくのかというのと、今後、実現したい志や新しい価値を、お話しいただける範囲でけっこうですので教えていただけないでしょうか? どうぞよろしくお願いします。

朝倉:ありがとうございます。じゃあ、お次の方どうぞ。じゃあ、また前の方いきましょうかね。サクサクっといきましょう。

質問者2:シリコンバレーを支える人材についての質問なんですけれども、今アメリカの政府のほうでエンジニアに対するビザの発給が非常に厳しくなっていて、そもそもシリコンバレーを支えているインド人ですとか、中国人ですとか、もしくは台湾人ですとかへのビザの発給が厳しくなっています。

あと、彼らの自国がけっこう立ち上がってきているので、そもそも「もうシリコンバレーにいる必要ないですよね?」というエンジニアも出てきていると思うんですよね。そういった人材の面からシリコンバレーが今後どうなるか、というのが質問です。

朝倉:ありがとうございます。他にご質問ある方どうぞ。じゃあ、ちょっと後ろの方、お願いできますか。ストライプのシャツの方、お願いします。

インフラが発達しているのはどこなのか

質問者3:お話ありがとうございました。インフラに関してちょっと質問させてください。

私、MaaS業界のところにちょっと携わっているんですけれども、インフラについてシリコンバレーは遅い、行政の動きもイマイチとおっしゃっていました。

私の肌感覚で、個人的には日本の行政にそういうインフラの発達の弱さみたいなところを課題として感じていたんです。やはり日本と相対的に見てどうなのかというところ、世界の中で相対的に見たらどこが強いのか、そういったところでちょっと教えていただけるとうれしいです。

朝倉:ありがとうございます。もう1つ2ついきましょうか。じゃあ、真ん中の方どうぞ。

質問者4:中国で今「996」(朝9時から夜9時まで働く、週6日間の勤務形態)が少し問題になったりしていますけど、実際、世界のシリコンバレーやインドネシアなどがどういった働き方をしているのかや、日本も今、働き方うんぬんという状況になっているんですけど、それを外から見た時にみなさんがどう捉えているかを教えていただければと思います。

朝倉:ありがとうございます。じゃああともう1つぐらいいきましょうか。けっこう挙がっちゃったな(笑)。じゃあ、その右後ろの方でいったんここで。時間があれば、またうかがいます。

質問者5:情報のソースのことでお聞きしたいんですけれども、我々みたいに日本にいてシリコンバレーの最前線の情報を聞きたい場合に、どのような情報のソースにアクセスすればよろしいのか、いくつかレコメンデーションをいただければと思います。

朝倉:ありがとうございます。じゃあいったんここで切らさせていただいて、パネリストの方々に回答していただこうと思います。

ブレずに起業家としての志を持ち続けるには

朝倉:まず、最初のブレずにという話と、情報の集め方とかも詳しそうなのはキヨ(小林氏)かな。

おそらくシリコンバレーの人材という話は、さっきタクさん(宮田氏)がちょっとそんな話をなさっていたのでお願いします。インフラのところはとくにアレンさんから。あと働き方のところは、どなたかお答えしやすい方からお願いいたします。

小林清剛氏(以下、小林):「ブレずに起業家としての志を持ち続けるには?」という話ですね。GLOBISでみなさん学んだと思うんですけど、人間はやっぱり誰でも弱さを持っていて、必ずブレます。

僕は周りからメンタルが強くてロボットみたいだって言われるんですけど、それでもやっぱりブレるときがあります。でも、経験を重ねるにつれてブレる幅が徐々に小さくなっていく。それがメンタルが強い人の定義だと僕は思っています。

ブレた場合にどうやって戻るのか。そういう時には「なぜサンフランシスコでやっているのか?」「なぜ起業しているのか?」「なぜこのプロダクトなのか?」みたいなところを書き出して、見返したりすることなどですね。僕は月に1回は見返すようにしています。

あとはすごく大事なのは、GLOBISでも習うと思うんですけれども、よく「企業にはカルチャーがある」って言いますね。7S(注:企業戦略における、いくつかの要素の相互関係を表したもの。Shared value、Style、Staff、Skill、Strategy、Structure、Systemの総称)とかですね。企業文化を習うと思うんですけれども、実はコミュニティーにもカルチャーがあります。

自分がちゃんと走り続けられる仲間を常に置き、例えば自分がやっていることに対してネガティブなことを言い続ける人にはなるべく会わないようにするなどして、なるべく自分と同じものを目指している人を周りに置いておく。そうすると、自然とそのグループだと、すごく難しいことでも簡単に思えてきたりとか、挑戦することが当たり前になってきます。

やっぱり自分の周りにいる人たちに、自分の前提とか共通認識が流されるんですね。なので、「自分の周りに同じような志を持っている人をどれだけ置くか」「そういうコミュニティーを作れるか」みたいなことをすごく大事に考えています。

あと情報ソースに関してなんですが、すごく具体的なんですけど、メルマガですと「LAUNCH Ticker」というメルマガがあって、それがテックニュース周りのことを短い文章にまとめてくれています。毎日2回送ってくれるので、それを見るとけっこうわかりやすいです。あと、僕は「The Information」というメルマガを見ています。有料のメルマガなんですけど、それもすごくわかりやすいです。

あと、もし英語が聞ける方であれば、Podcastを聞くとけっこういろいろおもしろい話が聞けます。Andreessen Horowitz(a16z)のPodcastとかもおもしろいです。

なので、そういったところから情報を取りはじめて、それが自然にできるようになったら、さらに深い情報を取っていくといいんじゃないかなと思っています。

朝倉:ありがとうございます。どうしましょう。じゃあ、タクさん、いきましょうか。

シリコンバレー以外でいろんなイノベーションが起きる

宮田拓弥氏(以下、宮田):人材の話ですよね。まさに僕自身も直面していて、うちのインド人の社員が全部揃っているのにぜんぜんビザが取れないみたいなことがファクトとして起きていますね。

たぶんロングランで言うとものすごい損失で、明らかにタレントが集まらなくなっているので日本視点でいうとチャンスだし、まさに昔は中国の人なんかも中国からアメリカに行っていたのが、中国で始めています。それこそさっきから何回も言っているインドネシアやインドのGrabとかGojekとかも、みんなアメリカに行って帰ってきて、ローカルでやっていますね。

たぶんそういうパターンはこれからどんどん増えるので、逆説的ですけどさっき申し上げた「シリコンバレー以外でいろんなイノベーションが起きる」というのが、ビザの難しさが影響してこれからどんどん加速的に生み出されていくんじゃないかなという感じがしています。

朝倉:ありがとうございます。じゃあアレンさん、インフラの話をお願いできますか?

アレン・マイナー氏(以下、アレン):今の話についてプラスアルファの情報があるんだけど、去年、サンフランシスコは数十年ぶりに人口が減ったんです。なぜ離れたかというと、1つは、起業家だとカリフォルニアでは10パーセントのキャピタル・ゲインを納めなければならないんですね。

アメリカでは去年のトランプ政権による税制改革で、州税のクレジットを国は認めないので、20パーセントで済んでいたキャピタル・ゲインがカリフォルニアに住んでいると30パーセントになっちゃうんです。

行き先がシアトル、オースティン、マイアミの理由は、日本人がシンガポールに引越しを始めているのと同じ理由で、州の所得税がなくてキャピタル・ゲインがないからです。できる起業家が自分に残す財産を10パーセント増やすために、州税がないテキサス、フロリダ、シアトル、ワシントンに引越しを始めている。

アメリカのどの町を経験してもそうですが、例えばニューヨークはサブウェイシステムがあるんだけど、汚くてお金持ちの人は乗らないです。今この質問が出て自分の新しい気づきがあったんだけど、世界中で老齢化が進んでいるから、日本はインフラが整備されているというところに世界中で通用する起業家のチャンスがあるんだろうなと思います。

ビジネスチャンスは日本の社会インフラにあり

アレン:整備されたインフラが当たり前の会話になっているんだけど、日本はインフラのところについては間違いなく、世界一、社会移動インフラが進んでいる国です。新幹線が1960年代から走っているし、ローカルバスの会社がずっとなんとか苦しみながらもサービスし続けているし、タクシー会社は今、シェアリングエコノミーを進めている。とにかく社会インフラが充実しています。

あとは、医療関係。社会インフラがちゃんと整備されていて、みんな毎年人間ドック受けますよね。それで健康か確認できて、非常に効率的にたくさんの確認をするんですけど、こういう仕組みがアメリカには存在しないんです。人間ドッグという仕組みをアメリカに持って行ったら、すごくいい福利厚生のサービスとして企業に売り込めるんじゃないかなと昔から思っています。

要は、日本の進んでいる社会インフラを海外展開するビジネスチャンスがあると思うんです。カリフォルニアは新幹線を建設予定で、電車の会社に負けちゃうので大手企業がそこに攻めにいかないんだけど、例えばSuicaカードの周辺サービスみたいなものをアメリカで発展させるのがいいのではないでしょうか。

我々は、最近始めたのですが、姫路のローカルバスカンパニー(神姫バス)とCVCファンドを共同運営して、10年後の姫路の街のあり方、移動形態のあり方を世界中の技術を集めてやろうと思っているんだけど、たぶん実証実験ができます。

そこのバス会社の持っている経営課題というのは、実はアメリカ以外の国では課題として取り上げて公共交通にちゃんと投資し続けているんです。アメリカで公共交通機関を作る・作らないは別として、その周辺にあるビジネスの機会は世界中に存在する。たぶん世界を見てもバス会社がCVCをやっているというのは、たぶん神姫バスしか存在しない。

だから、そういう非常に恵まれた機会があって、彼らと10万人ぐらいの人口の街の将来のあり方をシミュレーションしています。いろんなトライアルをして生まれた技術を世界に出していくということですね。こんなに恵まれている社会にいれば、周辺のビジネス・オポチュニティはたくさんあると思う。

アメリカでは展開しにくい、ニューヨーク以外は展開しにくいかもしれないけど、他の国では世界中に公衆衛生のインフラストラクチャーがあるし、公共交通機関のインフラがあるから、公共を大事にしている国に対しては日本から世界中にイノベーションを発展させるチャンスは絶対にあると思っています。今の質問で、すごく大きなヒントをもらったかなと思っています。質問ありがとう。

「働き方改革」は日本を不幸にする

朝倉:なるほど。ありがとうございます。あともう1つ、働き方のお話ですね。どなたかいかがでしょう。これは「月月火水木金金」みたいな、そういう話ですよね?

アレン:おかしい。

(会場笑)

朝倉:おかしい。おかしいです。

宮田:あと、1つあると思うのは、たぶん今のアレンさんの話とも連携しているんだけど、日本ってやっぱり国が小さくて公共交通機関がすごくしっかりしているから、みんなしっかり通勤してオフィスに集まってというのができるし、やるじゃないですか。

僕が初めて20年前にアメリカで仕事した時に、アメリカってでかいからそもそもなかなか集まらないし行けないので、アメリカ人って「電話1本で1億円のものを買う」という日本ではあり得ないことをやるんですね。

その前提で考えると、今Zoomもあるしいろんなツールもあって、実はもうちょっと負担を下げながらたくさん働くことができる時代が来ていますね。実は「ブラック企業」みたいな環境の中でも、労働時間を短くしなくても生産性を上げるツールはたくさんあります。

オフィスに無理やり行って働かなくても働けるツールがあるし、アメリカ人のほうがたぶん使うのがうまいから、そこは日本も「オフィスにいないと働けない」という感覚を変えれば、もっとたくさん働けると思います。

アレン:なるほど。今ちょっと聞きたいです。先ほどのシリコンバレーどうのこうのって、みんなは働いている時が一番幸せな人ですか? 一生懸命に仕事をしている時が一番楽しい? 一番幸せ?

(会場挙手)

「その幸せを週40時間に収めなさい」と言われてうれしい人は? ……あっ。週40時間は、やっぱり働かせすぎているんだね。うん、OK。

でも、実は「幸せ」の研究をしている人たちが言うには、だいたい「いい人間関係」を持っているかどうかがその人の充実感、幸福感に一番影響が大きくて、収入は本当にもうある一定以上だと関係ないそうです。

あとは、自分が「意義がある」と思っている仕事をしているか・していないか。「意義がある」と思っていない仕事をさせられるのは確かに不幸なんだけど、「意義がある」「興味があって、こういう仕事をしている」という達成感が実は幸せに一番影響が大きい。「働き方改革」について僕は、日本を不幸にする、一生懸命にやりたい日本人を不幸にする制度だと思っている。だから、「おかしい」と言ったんです。

朝倉:ありがとうございます。まだまだ質問を受けつけたいところなんですけれども、ちょうどお時間になってしまいましたので、このパネルのセッションはここまでにしたいと思います。パネリストのみなさんに大きな拍手をお願いいたします。

(会場拍手)