食糧・飲料の市場規模は自動車の3倍の900兆円

岩佐大輝氏(以下、岩佐):はい。みなさん、こんにちは。改めまして、株式会社GRAの岩佐と申します。最近、「農業界のイチゴ王子」と呼ばれているんです。

(会場笑)

ちょっと今、藤原和博さん(注:あすか会議2019第1部に登壇)に乗せられて、教えを受けてやったんだけど……(笑)。あんまりウケなかったから、聞かなかったことにしていただきたいです。

(会場笑)

最初にみなさんの農業に関する関心度合いというか、コミット感を知りたいんですけども、今、農業関係の仕事に実際に携わっている方は、どれくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

けっこうお見えですね。ありがとうございます。「これから農業関係や食糧関係に挑戦しようかな」という方は、どれくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

ありがとうございます。「なんか抽選の順番がぜんぜんだめで、アグリに回された」みたいな方は……?

(会場笑)

ちょっと答えにくいよね(笑)。そういう人もいるんですけどね。みなさん今日はすごくラッキーですよ。みなさんは自動車産業の世界市場規模はどれぐらいだかわかります? 300兆円ぐらいですよ。食糧・飲料市場の規模は、なんと今でさえ900兆円ですね。

しかも車って、前年からシュリンク(縮小)しているでしょう? (このところ)前年割れになっています。農業は毎年10パーセントずつ上がっていて、2030年にはなんと1,300兆円市場ぐらいになるわけです。もう圧倒的な、そんな市場です。トライする市場としてはすごくおもしろいところです。

そういったことを前提に、今日はスケールのでかい話ができるメンバーが集まってきたと思うので、話を進めていきたいです。

農業に欠かせない「水」と「肥料」に関する自動化を推進

岩佐:「あすか会議」は自己紹介なしでということなんですけども、それにしてもみなさん初めて会う方が多いと思うので、まず「何をやっている方ですか?」と「今、一番力を入れていることは何ですか?」ということを簡単に語っていただきたいです。じゃあ、佐々木(伸一)さんからいきましょうか?

佐々木伸一氏(以下、佐々木):はい。当社でやっておりますのは、一言でいうと、「潅水(かんすい)」といって、水をあげることです。それから「肥料」。これらは必ず農家の方がやることですが、そこがボトルネックになってさまざまな問題が起きているところにフォーカスを当てて、自動化を行っている会社です。

何にフォーカスしているかというところは、(他の登壇者を指しながら)こういう横の連携をどんどん取って、バリューチェーン全体の価値をもっともっと上げていき、アジアに進出したいというのが、僕が今目指しているところです。

つまり今まで数値管理ができてなかったのが、数値管理できる農業がこれからどんどん広まっていきます。数値を基にしたビジネスができるようになること、そこに力を入れていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

岩佐:ちなみに、グロービス・キャピタル・パートナーズが唯一出資している農業案件じゃないですか?

佐々木:あー……。いつも叩かれています。

(会場笑)

岩佐:すごいですよね。ありがとうございます。じゃあ木内さん、お願いいたします。

専業農家だけで立ち上げた「和郷園」

木内博一氏(以下、木内):はい。和郷園(わごうえん)の木内といいます。僕がやっていることですね。大学を出た後からで、今年でちょうど30年です。和郷グループというのは何が有名かと言うと、「農業の6次化」と言われる、1次、2次、3次のすべてを自社グループでやっていることです。

これが正しいかどうかはわかりません。僕がやり始めた頃には自社でやるしかなかったということなんですけども、1次のところは和郷園という農協を作りました。よく言われますが、今のJAは専業農家よりも兼業農家の組合員が多いんです。僕たちは、すべて専業農家だけで和郷園という組織を作りました。

2次産業のところは、株式会社和郷というのを作りまして、ここが農産物の付加価値を上げるための加工や、流通というところを担っています。

それで、3次産業は、最近、和郷グループとしてはそっちの方が有名なんですけれども、ザファーム(THE FARM)という農園リゾートをやっています。我々の展開している地域が、ド田舎なんですけども首都圏から1時間ちょっとで来られる地域なんです(注:株式会社和郷は2019年7月現在、千葉県香取市に本社を置き活動している)。まずは農業を風景で知ってもらうとか、遊びながら農村にもう少し近づいてもらうという場を提供しようとやっています。

ザファームでは今、グランピングとか宿泊(施設)が50棟ぐらい。手前みそですけど、一応、グランピングで日本一らしいです。今、年間25万人ぐらいの人が来ているんですけども、3次産業ではこういうことをザファームとしてやっています。1次、2次、3次を事業展開しています。

プラスして、今年で18年目ぐらいになるんですけども海外へも進出しています。タイに最初に進出し、今年で18年目になるんですが、バナナを作っています。日本ではコンビニで当たり前に「1本バナナ」を売っていますけど、日本でやっていることをそのままタイに持ち込んで、タイのコンビニで「1本バナナ」を売っています。ファミリーマートさんとか、セブンイレブンさんとかに卸していますね。

うちは20パーセントぐらいのマーケットシェアしかないと思いますけど、OTENTOっていうブランドでバナナを売っています。

今はシンガポールとベトナムでも(事業を)やっています。うちもいろいろな品目があります。最先端の植物工場のテクノロジーの進化はすごく速いものですから、一番力を入れて注視しながら追っかけていて、植物工場のプラントも開発しています。以上です。

農家が稼ぐために必要なデータを提供する「テラスマイル株式会社」

岩佐:はい。ありがとうございます。じゃあ生駒(祐一)さん、いきましょうか?

生駒祐一氏(以下、生駒):はい。

岩佐:私が農業を始めたのは8年前なんですけども、師匠です。最初に聞きに行ったのが生駒さんですね。それで、その後に一緒に行ったのが、木内さんなんです。だからお二人がいなかったら私は今、農業をやってないです。そういう方です。お願いします。

生駒:なんか適当にハードルが上げられた感がある(笑)。生駒でございます。(グロービス経営大学院)2008期でございまして、先ほど僕は、前のセッションで動画ビジネスに出ていたんですけど、動画では明石さん(注:第4部分科会登壇のワンメディア株式会社 代表取締役)が「動画ビジネスの教祖」だって話だったんです。この横にいる岩佐さんは、僕のことをずっと「和尚」とか「住職」と呼んでいるので、最近、僕は「アグリテック界の住職」と名乗っていこうかと思っています。

(会場笑)

岩佐:ちょっとウケたね!

生駒:ちょっと(笑)。よかった。これで今日来た甲斐があったかな。今日は、宮崎から来ました。

僕らがやっているのは、農業者さんのデータをお預かりして、さまざまな市況データとか天候データと組み合わせ、農業者が稼ぐために必要なデータとしてお返しするサービスです。そんなことをやっている会社でございます。

農業界には135万人いらっしゃるうち、僕らと一緒にやっていくパートナーを”稼いでいく生産者”と捉えており、3.4万人ぐらいと試算をしています。”稼いでいく”という言葉はすごく炎上しそうですが、「規模を拡大して、雇用して、マネージメントして、工業化していく」そういった生産者は、現状3万人から3.4万人と試算しています。

そういった方々が稼ぐために必要な軍師となる。そういったものを、クラウドのサービスとして提供していこうとやっているんです。最近の興味は、今年になってからやっぱり情報の質が圧倒的に変わってきたなという流れです。すごく感じています。

それまでは「(ビニール)ハウスが3つあるよ」という話だったら、ハウス3つのデータをガッチャンコして、「今日、私はトマトを何キログラム採りました」というのが「データ」だったんです。

農業者さんは最近そこに「環境センサー」という、土壌とか気温とかCO2の情報、そしてハウス毎の出荷量の情報と、種苗の情報といった具合に細かくデータを取得する傾向にあって、それを分析するのでより高い質の情報を返せるようになってきたなと考えている次第です。

農家の収入に直結するのは出荷データ

岩佐:ちなみに生駒さんが集められている情報といっても、環境データから収穫データ、科学データまで、すごくいろいろあるじゃないですか? どのあたりまでを情報の範囲としているんですか?

生駒:今うちがだいたい1.2億件ぐらいのデータを持っているんですけど、多くは環境センサーですね。ただやっぱり、実際に使えるのは「稼ぐためのポイント」になるものなので、環境センサーのデータも必要だけど、出荷のデータが重要です。その出荷をより細かく、品種毎とか、ハウス毎とか、サイズ毎とかに細かく取ったデータが稼ぐところにもっとも直結するなと感じています。

岩佐:なるほど。ということは、収穫時期をある程度正確に当て込んで、マーケットと当て込むということですかね?

生駒:そうですね。まさにそんなことをやっています。

岩佐:なるほど。わかりました。

生駒:岩佐さんのところは、どの辺まで細かくやっていますか?

岩佐:そうですね、うちは生産者なので、とにかくもういわゆる環境制御ですね。空気環境だとか、あるいは天気予報だとか、地中環境だとかのあらゆるデータを集めて、常にリアルタイムに環境制御をして、常にイチゴにとって最適な環境を作るんですね。そうすることで、ムラがない生産物ができるようにやっています。……私はモデレーターなので、イチゴの話はまた今度にしようと思います。

アグリテックにおけるユニコーン企業へのビジョン

岩佐:今日はアグリテックがテーマになっています。GCP(グロービス・キャピタル・パートナーズ)も佐々木さんに投資をしたということですが、足元を見てみると、今、本当に純粋に農業をやっている会社で、上場企業があるかといったら実はないんですね。

農業関連の企業で上場企業というのはいくつかあるんですね。例えば具体的なところで言うと、ベルグアースさんっていう会社は、苗の販売をやっている会社です。売上高がだいたい40億円ぐらいで、時価総額がおそらく20億円ぐらいという会社です。

あとは我々のイチゴ業界でいうとホーブさんという会社があります。ここも売上高が40億円ぐらいなんだけれども、時価総額はなんと6.5億円ぐらいしかないんです。いわゆる「ユニコーン」(注:評価額が10億ドル以上で、未上場のスタートアップ企業)には程遠いようなのが足元、日本のアグリテックの現状です。とくに、プラットフォーマーみたいな人はいないです。

そんな中でプラットフォームということでは、佐々木さんがこの前から環境整備プラットフォームを展開されているんです。この「アグリテックにおけるユニコーン」へのストーリーみたいなものって、なんかあまり鮮明に語られることはないと思うんですけれども、そんなところでビジョンがあれば、お願いします。

当然、堀(義人)さん(注:グロービス経営大学院大学学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー)に「スケール、スケール!」と言われていると思うんので、そのあたりも含めてちょっとうかがいたいです。

佐々木:堀さん、いないの?(笑)。

(会場笑)

岩佐:写真を撮って帰っていったよ。

(一同笑)

農業は年に1回しかPDCAを回せない

佐々木:そうですね。まさに今、岩佐さんが言われたように、「スマートアグリ」「アグリテック」というものが、だいぶ前から世の中で言われてきております。みなさんいろいろと試行錯誤しながら、今日まで来ていると思います。

私はもともと半導体屋なんですね。半導体って、PDCAサイクルがものすごく速いんですよ。1年に何回(サイクルを)回せるかと言うと、たぶん月に1回は確実に回せます。

ただ、1つだけ言えるのは、農業って1年に1回しか回せないんです。まず、スピード感に関しては、アグリと普通の工業界はたぶん違います。(アグリには)そのぶん、時間をかけなきゃいけないと思っておいたほうがいいと思います。

堀さんからはもちろん「スピード、スピード!」と言われるんですが、やはり着実に1年に1回のPDCAを回していく。そういったところを、みなさんやっていると思います。

木内さんなんかも植物工場でずいぶんPDCAは回されたと思うんです。先ほど木内さんと話をしたんですけれども、令和元年イコール「スマートアグリ元年」「アグリテック元年」なんじゃないかと意気投合しました。まさに私はそう思っています。

それはなぜか。何が変わってきたかというと、(農業者の平均の)年齢層が今67歳って言われていますが、そういう方々がそろそろ世代替わりをしてきて、デジタルネイティブな方々が入ってくるというのが1つ目としてあります。

それから2つ目として、政府が「スマート農業」にものすごく力を入れているということがあります。

3つ目に、アジア全体に出られる環境がすごく整ってきているんじゃないかなと思っています。それはクラウドの発達であったり、それから通信網の発達であったり、アジアで見ると、日本の「生産技術」とか実際の「味覚の高い生産物」ですね。そういったものが非常に高く売れています。

水と肥料を減らすことで環境を保護し、生産性を上げる

佐々木:ですから(農業界における)ユニコーンを考えるときに、まず日本ではなくてアジア全体を市場として考えるべきだと思っています。私の試算でいくと、細かいですが面積にしてだいたい183倍、(つまりは)200倍ぐらいの面積がアジアにあります。日本で作った技術をアジアに展開するというのはものすごく重要で、あとはそれで何をやるかじゃないかなと思っています。

それで私が目をつけたのは、必ず農家の方々がやることで、水をやったり、肥料をやったりということです。この2つを自動化すれば世界に出ていけますので、用水技術を作っています。それで、ユニコーンという絵を描いていきたい。そう思っています。

岩佐:うーん。ということは、その環境制御というか、水やりだけですよね。水と……肥料?

佐々木:水と肥料ですね。

岩佐:肥料だけでちょっと込み入った話を聞いちゃっていいのかわからないけど、どうやってその競争優位を作っていくんですか? 水と肥料をやるプラットフォームって、けっこういっぱいあるわけですよ。その中でどうやってアジアを獲るところまで狙っていくのでしょう?

佐々木:私たちが狙っているのは「土耕」と言いまして、「水耕・土耕」の「土耕」なんですけど、土の上で苗を植えて、栽培して、出荷することを「土耕栽培」と言います。「土耕」っていうのはものすごく難しいんですね。土の性質が土地によって違う。場合によっては隣の土地と自分の土地が違うってことも、けっこうあります。

まず、そこに水をポトッと落とすとどのぐらいのスピードで落ちていくかを見ます。これによって、制御の時間が変わってくるんですね。こういったところをしっかりと、データをベースにしてコントロールをするのが非常に重要だと思います。

それからもう1つ、肥料も同じなんですけど、「どれだけの肥料が作物に必要か」をみなさん経験値でやっておりますので、大概は多めにしちゃうんですよね。

多めにすると、土の中に残る。残ると、ハウスの場合は雨が降らないので「塩類集積」というものが起きます。するとなかなか作物が成長しない状況になります。露地(栽培の場合)だと、最悪なんですよ。地下水は海に流れますけど、地下水を飲むアジアの子どもたちに健康被害が出るんですよね。

ですから水と肥料というのは農家の方々が必ずやっていることだから(ビジネスとして成立する)というだけでなく、環境という観点からいっても非常に重要じゃないかなと思っています。つまり水と肥料を少なくし、生産性を上げるんです。

これはチャレンジだと思っていますけど、そこのノウハウがもう計算すると300年分ぐらいたまったので、これには競争優位性があると思っています。

岩佐:うーん。本当に水は大事ですよね。我々もインドで農業をやっているんですけど、インドって水不足になると電車の上にタンクを積んで、それで州をまたいで運ぶぐらい水に困っているんですね。そういう「水をどれだけ節約するか」はけっこう重要です。その中で今、「土耕」をやられているんですね。