お年寄り向けUberの価値

宮田拓弥氏(以下、宮田):さっきアレンさんが最初に言ったフロリダの話、僕もおもしろいなと思っています。最近フロリダ・マイアミの会社をけっこう見ていて、アメリカにも老人がたくさんいるから実はけっこう日本は参考になるなと思っているんですね。この間、僕が1個、投資したくてできなかった会社でPapaって会社があります。

アレン・マイナー氏(以下、アレン):戦略的だな。いいね。

宮田:これは老人向けのUberで、簡単に言うと、大学生と暇な老人をマッチングして、一緒にNetflixを見てあげたり買い物に行ってあげたりするものでして、めちゃくちゃ伸びているんですよ。しかもこれはアメリカのメディケアの対象となったので保険が利く。なので、一緒に映画を見てあげる。もう老人的にはすごくハッピー。

実はシリコンバレー以外のそれぞれの地域課題はけっこういろんなところにあるもので、もしかすると日本の高齢化社会みたいのを先取りしていたりするので、マイアミとかを見てみるとおもしろいかもしれません。

小林清剛氏(以下、小林):あと、逆にモデレーターをしている(朝倉)祐介はシニフィアンをやっていて、今後レイターステージのスタートアップを支援していくわけじゃない? たぶんこの会場のみなさんは、祐介がどういうふうに考えているかを気にしている人も多いと思うので、そういった企業が例えばアメリカとかほかの国とか世界に展開する上で、何をどういうふうに活用していけばいいのかとか、何が今足りないのかという見解があれば話してほしい。

朝倉祐介氏(以下、朝倉):いきなりボールが返ってきてびっくりしました。

(会場笑)

えっと、ご質問に答えられているどうかわからないですが、僕は2年間スタンフォードにいて、そこで客員研究員をやっていました。やっていたことは、スタートアップエコシステムに関するリサーチですね。「どうすれば、スタートアップが出てきやすい環境をつくることができるのか?」を自分なりに研究してきたつもりです。

マザーズが日本のマーケットに貢献したこと

朝倉:1つのファインディングスは、まったく環境が違うんですよね。なんでアメリカではこんなにユニコーンがどんどん増えるのかという話をすると、当然、起業家の絶対数みたいな話もありますけれども、それって単純な話で1,000億円のバリュエーションの会社に投資する会社があるからじゃないでしょうか。1,000億円のバリュエーションに100億円以上の単位で投資する人がいなかったら、そんなの出てくるわけがないですよね。

これはよく言われる話ですけれども、日本の場合ってある種レイターステージのVCって今までほとんどなかったのかなと思っています。じゃあどうなっていたのかというと、マザーズがそれを代替していたんです。例えば2018年のマザーズに上場した会社の、IPO時の公募価格ベースの時価総額ってどれぐらいか、みなさんご存じですか?

公募価格ベースで2018年にマザーズにIPOした会社の上場時時価総額の平均額は、50億円です。これは、シリコンバレー水準で言うとシリーズBですよね。下手したらシリーズAかもしれない。

逆に言うと、それぐらいimmature(未熟)な会社が上場できるのが日本のマーケットであり、それぐらいそういった会社を支える「個人のマネー」があるという、ある種ポジティブな捉え方もできると思うんです。ただ、本当に産業にインパクトを与えるようなスタートアップを生み出そうと思うのであれば、上場後もさらに成長が続くようなお金の供給の仕方をしなければならないと思っています。

オプションは2つあると思います。1つは、上場しないまま、大きくなるまでじっと潜る、本当にユニコーンになってから上場するパターンというのが1つ。もう1つは、マザーズに上場した後もちゃんと支え続けるプロの投資家を呼び込み、持続的な成長を図る。時価総額1,000億円とか1,500億円までいったら、だいぶ機関投資家のお金も入ってくるわけですけれども、やっぱり100〜200億円の会社に投資する機関投資家はなかなかいないですからね。

マザーズに上場後、どうしてもVCの方々が資本の制約上、早いタイミングで抜けざるを得ない時に、その100〜200億円の会社を買っている人たちは誰かというと、個人の方々です。あえてきつい言い方をすると、個人の投機家です。今日買って明日売るという人たちですよね。

そういった人たちと日々接して、「次の四半期は黒字になるのかね? どうなのかね?」とか「株価は上がるんですか? 下がるんですか?」みたいな話ばっかり受けていたら、ガバナンスも何もあったもんじゃないですし、本当に大きなインパクトのある会社を作れるのかというと、そんなわけないだろうと思います。

今、スタートアップって日本で非常に盛り上がっていますけれども、スタートアップって別にIPOする会社を増やして創業者だとか周りの投資家の方々が小金を稼ぐためにあるのではないはずで、社会の要請として、どうやってインパクトのある産業になるような会社を作っていくかということが本質的なテーマだと思っています。

こうした環境面がシリコンバレーとの大きな違いだと思っていて、僕たちはそのピースを埋めようと思って日本で挑戦しています。その点で、非常にシリコンバレーを参考にしているところはありますね。

宮田:すばらしいですね。

中国の“次”はインドとインドネシア

小林:これは非常におもしろい話だなと思っています。アメリカって最近「ユニコーン」という言葉が生まれてきていて、非上場だけども上場企業よりも遥かに株価が大きい、何兆円という企業が生まれてきているんですよね。

ただ、やっぱり日本のマザーズの企業とか上場企業が世界中にプロダクトを打って出ようとすると、彼らと競争しないといけないわけです。なので、いま祐介が話した内容ってすごく重要な話で、僕も勉強になりました(笑)。

朝倉:ありがとうございます。だけど、あえてさっきの話に引き戻すと、シリコンバレーをどう活用するかというところでは、自分が直接シリコンバレーに行って事業をするというのも1つの方法ではあるけれども、そこから得る学びを踏まえ、その差分がいったい何なのかを考える。

別にシリコンバレーを再現する必要ってまったくないと思うんですけれども、「シリコンバレーには存在するここのピースが欠けているんだから、これを日本でやればいいじゃん?」というのは1つのアプローチかなと思って、自分はそれをやっているつもりでいます。

ということで、だいぶ時間なくなってきましたけれども、じゃあちょっと今の話の流れでうかがいたいのが、例えば今、シリコンバレーだけでなく世界中、テルアビブ等、いろんなところでそういったテクノロジーやイノベーションのコアとなる拠点が生まれているというお話がありました。

古くて新しい議論として「シリコンバレーモデルを再現できるのか?」という問いや、そもそも「シリコンバレーモデルって何だよ?」という話がありますよね。そういったものは「ほかの地域での再現性があるのか?」「そもそもそんなことを狙う必要があるのか?」といった議論もあります。

日本の個々人のプレイヤーの観点でもそうですし、日本でマーケットを作っていく、環境を作っていくという観点からも検討すべき問いだと思いますが、我々は「何かシリコンバレーから学ぶことがあるのかどうなのか?」をお話しいただければと思いますが、いかがでしょうか?

宮田:そういう意味ではシンプルなアンサーは、「たぶんある」でしょう。やっぱり先月行ったジャカルタとか、今は僕自身、中国はいろんな意味で難しいからやらないとしても、次にインドとインドネシアってすごく可能性があると思っています。

どっちも完全にローカルのマーケット。どちらも最初はアメリカのお金なんですよね。なので、アメリカのVCが入ってきてマーケットを作って、ローカルが立ち上がるというパターンではあるものの、インドネシアもインドも完全に「ローカルのアントレプレナー」「サポートをする人たち」「大学」というエコシステムができているので、そういう意味ではできるんだろうと思う。かつ、マーケットがやっぱり大きい。いくつか名前を上げたところはある。

一方で、さっきアレンさんが言ったみたいな、小さな単位ですね。実はシリコンバレーみたいな一極集中はもうこれからは起きなくて、山形でも起きるし福岡でも起きるし浜松でも起きるかもしれない。実は起業家と投資家のセットが世界中で起きるのがたぶんこれからのトレンドになるんじゃないかなという、そんな気がしています。

東京には「老舗スタートアップエコシステム」ができる

朝倉:アレンさんはどうでしょう?

アレン:今の朝倉さんの話も10年ぐらい前から言っていますね。「公開後にユニコーンになればいいじゃん?」って思っていて、逆に公開前のユニコーンがシリコンバレーのインフレーションの基盤となっていて、生活しにくくしている原因もそこにあると思うんですね。

「シリコンバレーを再現できるか」というのも、これも20年前から僕と堀(義人)さんがパネルディスカッションに参加するとだいたい必ず出てくる質問です。その時は「東京もすごく活発なイノベーションエコシステムが絶対にできる」と答えています。

たまにはアメリカが日本から学び始めるというのがあるんだけど、日本ではアメリカで起きている現象がだいたい20年遅れぐらいで起きます。今の東京を考えると、ちょうどネットバブルの直前の1994〜1995年頃のシリコンバレーが持っていた強い要素が、東京は揃っていると思っているんです。

それは何かというと、けっこうな数の、十分な起業経験者であるシリアルアントレプレナーがいること。あるいは、楽天、サイバーエージェント、グリー、ディー・エヌ・エーなどに立ち上げ当初から関わっていた人たちが投資家に自ら回ったり、アントレプレナーになったりしていること。

事業を始める時に、まだまだ日本は終身雇用制で、大手企業は有望な人たち・経験者をなかなか引っ張ってこられないですね。でも、ベンチャーのシーンはけっこう卒業して事業を起こしますね。サンブリッジからも、6〜7人ぐらい、立派なキャピタリストになったり起業家になったりしている卒業生がいたりします。だから、その「人の循環」が大事です。

あとは経験者が投資家に回るという、市場を知っている人、Smart Moneyですね。Dumb MoneyばっかりだったのがSmart Moneyがすごく増えました。実はシリコンバレーの歴史を見ると、VCのリターンが一番良くて、一番世の中を変えた、Yahoo!、Google、Salesforceなどなど、今の世界のITリーディングカンパニーが生まれたのが1990年代のシリコンバレーです。

今、東京は、その時に僕が見て、経験していた要素が揃っていると思っています。だから、すでに東京はシリコンバレーのピークでベストな時のようになっているし、東京が強いのは、やっぱり行政がちゃんと働いていることですね。

政府がちゃんと社会を維持してくれていて、民間企業がマーク・ベニオフみたいに「Salesforceがなんとか学校を救ってあげよう」とか、Google・Facebookみたいに「とにかくバスが足らないから、サンフランシスコに住みたい社員をマウンテンビューに運ぶのは俺たちでやる」と言わないで済むわけです。

日本の政府はちゃんと機能しているから、実はおそらくバブルが起きても影響は小さいですね。シリコンバレーですと、全体の人口密度に対するVC・起業家の比率が高いのでインパクトや影響が大きすぎる。シリコンバレーでは経済の10パーセントぐらいをVCが毎年注ぎ込んでいますが、日本の場合、投資額が3,000億円になって割合は0.数パーセントぐらいでしかないですよね。だから、変な現象が起きにくいけれども、エコシステムとしては充実してきている。

だから、たぶん東京だったら老舗スタートアップエコシステムができると思っている。100〜200年と続く経済界全体の中の重要なone partとして、継続性があるスタートアップエコシステムが東京に生まれてくるんじゃないかなと思います。

国民の画一性が高い日本ゆえの特徴

朝倉:これは日本でやっていく我々にとって、すごく心強い話ですね。キヨはどうでしょう? あんまり関係なくてもいいから、何か熱いやつをお願いします。

(会場笑)

小林:そうですね、関係ある話をしたいと思っているんですけど(笑)。

さっきタクさんが言ったように、僕は起業家なので起業家からの視点で言うと、「タイムマシン」は今でも成立します。だいたい感覚で言うと、アメリカでシリーズAにいったりとか、ユーザー数で100万ユーザーいったりとか、そういう会社のものが1〜2年ぐらい遅れてでこっちに来ています。やっぱりコンシューマープロダクトとか広告とかeコマースとかマーケティング関連とか、そういうプロダクトはタイムマシンと相性がよかったりします。

ただ、違うところもあって、僕は東京には東京にあったエコシステムを作ったほうがいいと思っていますし、資金調達の方法もやっぱりアメリカと日本だと違います。なので、アメリカのブログを読んで参考にしようとしても、参考にならない部分も多いです。

あとは、日本と米国の違いは、日本はマーケティングがすごく重要で、アメリカのほうはプロダクトが重要です。なぜかというと、日本は国民の画一性が高くて、テレビ広告とかのマーケティングの手段が効きやすいですよね。

ネットのプロダクトを使う人数ってある程度限られているので、市場のトレンドの黎明期にある程度そこのシェアを取っちゃうと、そのトレンドと一緒に伸びていくんですよね。だから、マーケティングでシェアを取りやすい。

なので、マーケティングがすごく強いと、プロダクト・マーケット・フィットを追求しなくても、一定のユーザー規模になったときに、ネットワークエフェクトが効きはじめるので、市場の成長と一緒に伸びやすくなります。

アメリカの場合は、すごく人種もバラバラだし、所得もバラバラだし、マーケティングも一気に効くチャンネルがなかなかない。プロダクトをちゃんと合わせていかないと難しいです。

朝倉:熱い話、ありがとうございました。さっき楽屋裏といいますか控室で話していておもしろかったのが、「プロダクト・マーケット・フィットって言うけど、別に日本ってプロダクト・マーケット・フィットが成立してなくてもいけるんだぜ?」みたいな話をしていて、「いや、おもしろいこというなぁ。さすがキヨ!」と思っていました。

小林:(笑)。