株式会社レアジョブ執行役員の坪内俊一氏が登壇

司会者:第3部を始めさせていただきます。第3部では顧客アンケートから見える企業のニーズと今の課題、そしてどのような解決方法があるのかをテーマに、株式会社レアジョブ執行役員経営企画室長、坪内俊一が登壇させていただきます。それではよろしくお願いいたします。

坪内俊一氏:ご紹介に預かりました、株式会社レアジョブの坪内と申します。よろしくお願いします。改めまして本日はこのような状況の中、お越しいただきまして本当にありがとうございます。HENNGE(ヘンゲ)さん、それから弁護士ドットコムさん、それぞれ非常に具体的で示唆に富んだお話をいただいたかなと感じております。

おそらく今日いらっしゃっているみなさんは人事担当の方が多いのかなと想像しますけれども、少し俯瞰したかたちで、そういった方にとって、これからどういうことが必要なのかというところからお話しできたらなと考えております。

自己紹介ですが、私は新卒でボストンコンサルティンググループという戦略コンサルのファームに入社しまして、国内海外のトップ企業への経営戦略の立案や実行をやらせていただいておりました。とくに組織開発や人事制度の立案・刷新、またいわゆるチェンジマネジメントといったような、人事・組織に関わる案件を多くやらせていただきました。

その後、ヘルスケアテック企業であるエムスリーに営業部門のシニアディレクターとして勤務した後、ちょうど1年前ぐらいにレアジョブにジョインしまして、今は経営企画と広報を管掌しております。後で少しお話しするんですけれども、足元ではグローバルリーダー育成事業の立ち上げ責任者も務めております。

34という数字と国旗を3つほど書いているんですが、私は先ほどの田上さん(弁護士ドットコム株式会社 取締役の田上嘉一氏)と同じく、ロンドンに2年間MBAの留学に行っています。いろんな国に行っていたんですが、何ヶ国行ったのかなと思って調べたら、日本以外で34ヶ国に行きました。遊んでいたわけではないんですけど、海外の見聞を広めなくてはという課題意識を持っておりました。

左の国旗がイギリス、一番右がスイスで、真ん中がシンガポールなんですけども、この3つの国にはただ滞在しただけではなくて、家を借りて数ヶ月住んでいました。ロンドンには1年以上住んでいましたね。

そのようなかたちで、グローバルというテーマに対して私なりの経験として持っているものも含めて今日、お話しさせていただけたらなと感じております。

「グローバルに活躍できる人材」の確保は最重要課題

コンサル時代、結論を最初に持って来ることはすごく大事だなと思っていたので、今日も結論からお話しします。今日お持ち帰りいただきたいのは3つです。1つはこれまでのお二方のお話の中にもありましたけれども、量・質、両面で人材不足がずっと叫ばれています。

とくに「グローバルに活躍できる人材」というところが経営にとっても本当に生命線になってくるかなと。2020年代に入りましたけども、最も重要と言っても過言ではないイシューかなと感じています。

先ほどのHENNGEさんのプレゼンテーションの中にもありましたけれども、みなさんのような人事ご担当の方が備えるべきことは、グローバルに活躍できる人材が本当に働きたくなるところを整えていくという点。これが企業の死活問題になってくるかなと。

もう1つはローカル人材。要は日本で、日本語で、日本人相手に、日本のビジネスをしている人がグローバルに働けるようになる。グローバルなタレントになっていく。

別にみんながみんな、海外に行く必要はないと思っています。ただ、日本にいてもグローバルに働かなくてはいけない場面が非常に増えてきており、みなさんも、その必要性を痛感されていると思います。そういうところで本当に働ける人を、いかに作れるかが勝負かなと。

最後にレアジョブとして、(レアジョブ代表取締役社長の)中村も申し上げましたが、「オンライン英会話の会社なんでしょ」と、私もいろんなところでお話しさせていただく中で、そう言っていただけるんですが、これを変えていきたいなと。

もちろんオンライン英会話は非常にみなさんにご好評いただいていますし、今日もこれからお話しするところではあるんですが、あくまでステップであり手段であると。何回も出てきていますけれども、グローバルに活躍できる人材を育てる、という領域に踏み出す。そういうことができる会社になっていきたいというのが、我々が考えているところです。

2030年には640万人の労働人口が不足する

私はこのセミナーのタイトルにも、あえてかぎかっこで「グローバル人材」とつけていますが、「グローバル人材」って、なんだかわかるようでよくわからないなと。英語にするとGlobal Human Resourcesと言ったりするんですが、Global HRというと、グローバル企業のHR部門やグローバル企業の人材全体のことをいうので、なんかちょっといまいちよくわからない、ピンとこない。

我々はレアジョブの中では、グローバル人材という言葉を使わずに、グローバルに活躍できる人材、もしくはグローバルリーダーと呼んでいます。

これは日本能率協会の経営者アンケートですけれども、「今の経営課題、それから3年後の経営課題はなんですか?」という質問に対して、現在の2番目(ナンバー2)、それから3年後のトップ、これが人材の強化です。

深掘ってみると、人材の採用・育成、それからリテイン(確保)というところ、すべてが重要アジェンダです。まさに今日来ていただいているみなさんは、人事の方が多いかなと思うんですけれども、今後3年……たぶん3年と言わず、長い時間で、「会社の中で人事は一番重要な機能になるだろう」と経営者自身が考えているということかと思っています。

では、人材の強化が本当に経営イシューだとした時に、もうちょっと深掘っていきたいなと思っています。2つの枠組みで考えると、1つはまず人材の量ですね。人数という点。それから質の部分です。どういう質の人が必要なのか。もしくは高い質の人の不足という点を考えていきたいなと思います。

まず量という点ですけれども、パーソル総合研究所さんが発表している、2030年時点を想定したデータがあります。ここはもちろん、いろんな前提もあるんですけれども、仮に日本の政府が掲げているような経済成長をベースにし、かつ今の少子化がこのペースで進んだ場合にどうなっていくのか。

労働需要、要は人がどれくらい必要かというと、7,073万人。一方、実際に2030年にどれくらいの人口かと考えると、6,429万人ほどしかいません。およそ640万人が足りないと言われています。

これはパーソルさんのサイトでも公開されているのでご覧いただければと思いますが、もちろんこの課題を解決していく手立てはいろいろあると思います。例えば生産性をテクノロジーで向上させていく。また、シニア、女性、それから外国人の活躍。私も640万人を(すべて)外国人で補わなきゃいけないとは思ってはいないんですけれども、一方で女性、もしくはシニアの活躍を踏まえてもなお足りないと考えます。

おそらく100万人、200万人という単位で、外国人労働者が今よりもさらに増えないことには、この国の経済成長はおぼつかないだろうということが、マクロ的にも言われているところです。

10年後には、フィリピンの人材をタイやロシアと取り合う状況に

じゃあどこから来てもらうのかと。もしかしたら、みなさんもそういうご認識があるかもしれないのですが、私はもう来て”もらわないと”いけない。“来させてあげる”じゃぜんぜんないと思っています。日本を”選んでいただけないと”いけない。

じゃあどこ(の国)でしょうというところです。これは縦軸に一人当たりのGDP、2030年時点のものですね。横軸に推計値の生産年齢の人口を載せています。

日本が真ん中ら辺にあります。生産年齢人口は15歳から64歳の方です。普通に考えると、ある程度の人口があって、かつ日本よりも一人当たりGDPが少ない国じゃないとなかなか日本に来てくれないと思います。そう考えるとこの辺りの国ですね。タイ・ロシア・ベトナム・フィリピン・ブラジル・インドネシア。

中国・インドは横軸をだいぶはみ出していますね。うまくいくとこういうところだろうと。「じゃあこういう国から来てもらえばいいんですね」という話なんですが、そんなに物事は簡単ではないです。この赤い丸にした国が人口オーナス期に該当します。全人口に対する生産年齢人口の割合が減っていく国の状態を、人口オーナス期と呼びます。

赤く丸をつけたところは、人口オーナス期に2030年に入ることが予想されています。タイやベトナムもそこに入っているんですね。この中でいくとフィリピン・インドネシアそれからインド。この辺の国々しか、生産年齢が割合として増えていく国はなくなっているわけです。すなわち2030年はきっと、フィリピンの人材をタイやロシアとも取り合わないといけない状態になっているということです。

左上の国々はもうすでに人口オーナス期に入っています。左上は先進国ですが、2000年には日本はすでにオーナス期に入っていましたけれども、多くの国がもう右肩下がりの状況。日本が一番ひどい状況です。右側のASEAN10ヶ国プラス中国で見たとしても、この中国プラス6ヶ国、ブルネイでさえ人口オーナス期に入ってしまっています。

タイやマレーシアはもうとっくに、(人口オーナス期に)入ってしまっています。こういう状況を踏まえると、先ほどの人口オーナス期にある国と、まだ人口ボーナス期にある国の人材を取り合わなければいけない。量という観点でいくと、もう10年後にはそういう状況が来るような課題感が見えているかなと思います。

日本の「ビジネスの効率性」は過去最低を更新

次に質という点。これはIMD(International Institute for Management Development:国際経営開発研究所)というビジネススクールが出している、世界競争力ランキングです。総合ランキングがこの太い青い折れ線で、2019年の日本は過去最低の30位です。この世界競争力ランキングは、経済状況、政府の効率性、ビジネス効率性、インフラという4つの項目で評価されています。

(日本が)過去最低を更新したのは、この中でビジネスの効率性、46位です。それ以外の経済状況、政府の効率性、インフラは過去最低ではないわけですね。ところがビジネスの効率性は過去最低になりました。これはいろいろな細かい項目で評価されています。それを少し紐解いて、なぜこんなにビジネスの効率性が落ちたんだろうかというところを見てみたいと思います。

まず直接的にはこの生産性・効率性・実質労働生産性の成長率であったり、企業全体の効率性。これは直観的にわかるところですし、世の中でもよく言われている話です。これが非常に低いです。さらにその下に経営プラクティスとか価値観というような項目があります。いわゆる意思決定の迅速さや、機会と脅威へのスピード感。

それから価値観というところでいけば、変化への柔軟性、適応性。それから海外のアイデアを広く受け入れるような文化。こういったところが非常に低い評価になっています。

国際経験の乏しさと競争力の低い賃金水準が大きな課題

さらになぜそうなのか理由を突き詰めると、1つはやっぱりデジタルですね。もうみなさんも耳タコだと思いますけれども、デジタルトランスフォーメーションであったり、ビッグデータというものを、経営の意思決定に活用していく。

こういうところは極めて評価が低い。なぜかというと、最終的にはやはり人材に行きつくのかなと。管理職の国際経験も63位。有能な管理職の厚み60位。「有能な管理職」の「有能な」というのは、当然国際経験も含めた、グローバルなビジネスの場での有能さを示しています。

やはり国際経験のあるマネージャーの不足が質的な課題であることが、この世界競争力ランキングを紐解いても見えてくるところかなと思います。Global Talent Warという言い方をしていますけれども、先ほど申し上げたとおり、量という側面でも人口オーナス期に入っている国と戦わなければいけない。

質の高い人材をいかに確保するかというところも、世界中の国を含めた戦いになっています。これは日本経済新聞の記事から引用していますけれども、成長分野であるIT領域で、日本の賃金は割安だというようなことが言われています。

先ほどのHENNGEさんの話ではないですけれども、もちろん高い賃金を出せばいいという話ではない一方で、賃金は非常に重要なファクターでもあると考えると、大変由々しき課題かなと思います。

日本のシステム開発マネージャーの年収を10年前と比較した感覚を含めても、日本は極めて特殊な位置にいるぐらいに思っていただいた方がいいかなと。日本の人材の獲得は極めて厳しい状況にある。まさに年収1,400万円で低所得だよね、というようなことが起きつつある。もちろん、非常にセンセーショナルに書いているので、これがすべてではないとは思いますが。

昨今言われているところは、10年後に向けて加速はすれども、戻っていくことはないのではないかと思っています。

英語研修はグローバル化のステップの1つ

今日、我々レアジョブが実施した法人顧客アンケートのデータがありますので、それで見えてきたことも含めて、お話しさせていただければと思います。今日の参加者さんの中にも、お答えいただいたお客様がいらっしゃると思います。

弊社の300社強のお客様にアンケートをお答えいただいたのですが、「当然グローバル化が重要戦略を占める、英語研修はそのステップの1つである」とお答えいただいているお客様が過半数いらっしゃいました。

このグローバル化に対応していくために、英語も含めて国際的に活躍できるような人材が必要だということは、多くのみなさんがご認識されているところかなと思います。

じゃあどうするのよ、という点がみなさんのご関心かなと思います。完全な回答は持ち合わせていないですが、我々がどう考えているのかをお話しさせていただければと思います。最初に申し上げたとおり、人材の量と質と考えたときにまず量の点でいくと、やはり外国人が働ける環境をいかに作り出すかが重要。

日本に来ていただくためにどうすればいいのかという点が、キーになってくるかなと。質でいくと、やはりマネジメントや、まさにここにいらっしゃる人事のみなさんが本気になるかどうかと思っています。

加えて優秀なローカル人材ですね。日本語で、日本で働く分には優秀な人材を、いかにグローバルタレントにするのかというところが、解決の道筋だと感じています。

半数の企業が、今後必要な外国人人材の規模感を把握していない

まず量という点でいうと、外国人が働ける環境と申し上げたんですが、外国人人材を獲得するためと考えると、どれぐらい足りなくて、どうやって獲得して、どうやって継続的に働いてもらうのか。このような点を考えていかなくてはいけないだろうなと。先ほどのアンケートの中でどれぐらい必要なんだろうかという設問を入れました。

少し細かいんですけれども、ここで横軸に海外売上高比率、左が10パーセント未満、一番右が50パーセント以上、右にいくほど海外売上高の大きな会社さんです。一番下の緑のところは海外売上比率の目標であったり、その目標を達成するための戦略、さらにいうと組織、要員計画などまで完全に揃っています、もうご心配ありませんという会社は半分です。

逆に言うと残り半分の会社さんは事業の10パーセント以上という一定の海外売上がありながら、戦略や目標や組織、それから要員計画、これらのどれかが欠けてしまっている、ということです。要は、どれぐらいの人が必要なのかがクリアになっていない会社さんが恐らく半分ぐらいだろうと。これがもう現実なのかなと思っています。

2019年度でもすでに138万人の人手が不足

ただ、どれぐらい必要かがわからないというお話がありましたが、先ほどまさにHENNGEさんもそうであったように、今もう人が足りていないはずなんですね。これも数字に表れています。

これは厚生労働省が出している数字なんですけれども、要は求人を出していて仕事はあるんだけれども埋まってない。いわゆる欠員数と言われていますが、138万人です。

2019年6月時点で、今働いている方のおよそ2.7パーセントが欠員。今働いている方に対して、2.7パーセントは埋まっていないという状況です。要は人手不足なわけです。

これを時系列に見てみた時に、10年間並べてみると、右肩上がりで、今2.7パーセントのポジションが埋めたいのに埋まらない状態。みなさんも、もうたぶん肌身に感じられているとは思います。

要は人手が足りていないんだから、ここを埋めにいかないことには、少なくとも事業のスピードを落とさざるを得ない。やりたい事業を立ち上げられない、大きくできない。この数字を見ても、そういうことが現実にもう起こっていると言えるのかなと思っています。

2030年と言わず、足元、2019年度でも138万人が足りていないわけです。じゃあどう採っていけばいいのかと言った時に、みなさんも「わかりません」ということはないと思います。

例えばこれは「マイナビ」さんが、2019年の11月に始められたサービスです。香港の事業者さんと提携されて、香港の新卒と第二新卒の人材を日本企業に紹介するという人材紹介サービスを実施されています。

対象となる顧客は香港に事業所のある日本企業ではなくて、日本に事業所のある企業です。マイナビさん以外も含めて、外国人人材の採用は多くの事業者さんがやられていますので、みなさんもやろうと思えばできるはずです。

じゃあなぜ、この138万人に足りないままなんですかというところで、やっぱり一番難しいのが、受け入れる環境をどうやって作るのか。ここなんだろうなと。これはディスコさんがアンケートを取られたもので、実際に外国人留学生を採用されている会社さんに「どんな難しさがあったのか」と聞いてみると、もう過半数の方が言葉の部分。

それから受け入れ部署の負担。これも結局、言葉に起因する部分があります。それと3番目に書かれているような、価値観や文化の違い。こういったところがあるから、なかなか採用が進まない。もしくは採用したいと思っても、こういうことが先に出てくるから難しいと感じるというところだと思います。

仕事で英語は必要でなくても、英語を学びたい人材はいる

(海外で)日本語がしゃべれる方は138万人もいないので、(すべての欠員は)埋められないと思います。やっぱりキーになってくるのは、どうやって受け入れる側がストレスなく働けるようになるのか、そういう環境を作るのかというところなのかなと。これがやっぱり、量を取っていくことを考えた時に必要になってくるところではないかと感じています。

どうやって環境を作るのか? というのはまさに、HENNGEさんがやられていたようなことが1つの事例だと思うんですけれども、ここを解決しないことには、欠員率のグラフはずっと右肩に上がり、日本のGDP成長率もきっと上がっていかないでしょうし、みなさんの会社が成長していくことも難しくなっていくのではないかなと感じます。

1つ朗報があるとすると、これは人事の方へのアンケートなのですが、「仕事で英語が必要な社員は、御社の中にどれぐらいますか?」というのが左側。右側は、「業務での英語の必要性には関わらず、英語を学びたいと思っている人がどれぐらいいますか?」というのをご質問した中で、英会話が不可欠という方は平均すると、全体の2割弱ぐらい。

逆に、「とはいえ英語学習は必要だ」という方が、平均すると3割ぐらいいると。要は「英語は必要じゃないけれど、英語を学びたい人は社内にけっこういます」とお答えいただいている方が多いのかなと感じてます。

これは人事の方向けですけれども、実は我々は、従業員の方にもアンケートを取らせていただいています。この中にもたぶん、お願いさせていただいている会社様がいらっしゃると思うんですけれども、私の仮説では英語を学びたい人はもっと多いんじゃないかなと思っています。

英語を学びたいという層をどうやって掘り出していくのか。先ほど申し上げた外国人が働ける環境ぐらいには英語が話せる状態、英語で実務を回していけるような状態を作ることが、ここからの1つの解決策なのかなと感じています。