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【特別講演】独立研究者/著作家/パブリックスピーカー 山口周氏(全5記事)

山口周氏「最大の武器はモチベーション」 “やらされ仕事”から抜け出すための処方箋

終身雇用制度が崩れつつあり、政府の「働き方改革実行計画」が策定されて以降、注目を集めている副業。こうした背景の中で、書籍『ニュータイプの時代』『劣化するオッサン社会の処方箋』などの著者として知られる山口周氏による、これからの時代の「個と企業の関係性」についての講演が行われました。個人はどう考え行動していくことが大切なのか、企業側が人材に自律的な選択の余地や機会を提供する重要性について語ります。本パートでは、イノベーティブなアイデアがどのように生まれ、見出され、育まれていくかを解き明かしました。

イノベーションの勝負の分かれ目は「夢中になっている度合い」

山口周氏:(9つ目として)「最大の武器はモチベーション」。これはわかりやすいですね。検索エンジン、電子商店街、動力飛行、南極点到達。最後のは僕の趣味で入れているんですけど(笑)。勝者はヤフー、Amazon、ライト兄弟、(ロアール・)アムンセン。敗者はNTT、IBM、アメリカ陸軍、ロバート・スコットですね。

見てみると、どこのケースでも敗者のほうがブランドもある、金もある、技術もある、人材もいる。リソースで優位の状態にあるのに、負けたんですね。ここ30年のイノベーションは、全部そうです。

日本でAmazonが本屋の事業を始めたときに、紀伊國屋さんとか文教堂だってインターネット販売を始めたんですけど、結局ぜんぜんうまくいかなかったわけですね。ですからブランドがある、お金もあるというところが出てきて、全部負けたということです。

これがなぜなのかっていうことなんですけども、端的に言うと、左側はやりたがっている人がやっているんですね。自分でやりたがっている人が、やっている。それで、右側は上司から「やれ」って言われた人がやっているという構図なんですね。

端的に言うとイノベーションというのは、「夢中になっている度合い」が勝負の分かれ目です。だから自分で夢中になってやっている人と、上司から「やれ」と言われてやっている人が戦ったら、これはもう(後者が)負けるに決まっているんですね。これは、お金がそんなになく、資金調達がすごく難しいとか、テクノロジーの調達が難しいっていう時代であれば、インハウスでそういったものを持っている大企業に有利な側面はあったと思うんです。

けれども今はまず、金利がほとんどゼロですよね。お金がいくらでも調達できるようになってきた。お金の値段が下がっているわけですね。テクノロジーも今はインターネットみたいなものが出てきて、世界中どこからでも技術を調達できるようになった。情報格差もなくなっちゃっているわけです。こうなってくると「モチベーション」というものが、競争優位性を非常に大きく左右する要素になっているということだと思うんですね。

成功のカギは、夢中になれることを見つけられるかどうか

ですから「やりたがっている人に、やりたがっていることをやらせられるかどうか」という、モチベーション・ポートフォリオというのが、人事の側面からするとすごく大事です。個人の働き手からすると、「自分が夢中になってやれることをやれているかどうか」が、その人の成功にとってものすごく大きな要因になる時代が来ているってことだと思うんですね。だから「優秀さの定義」というものが、ここでも切り替わるっていうことだと思うんです。

「じゃあ、それって何ですか?」ってなると、結局「いろんなことをやって、夢中になれることを見つけられるかどうか」ってことなんですね。ですからここもやっぱり「いろんな打席に立てるかどうか」が非常に大事になってくるので、「自分がモチベーションを感じられるものを見つけられるかどうか」っていうことのためにも、やっぱりパラレルキャリアって重要です。

逆に言うとある意味で、パラレルキャリアの副業のほうでそういうことができている人は、逆に本業のほうでも活躍してくれる可能性があるので、非常にポジティブな影響があるんじゃないかな、ということですね。

イノベーションの目利きができる経営管理者は100人中4人

あとは(10番目として)「提案は潰される」って話を、とくに若い人に(したいですね)。イノベーションって、目利きできないんです。「イノベーションのアイデアがない」と言っている経営者がいるんですけども、そもそもの問題は、「あなたは、イノベーションのアイデアを見せられて、本当にそれを見抜けるんですか?」ということです。たぶん目の前を「どストライク」が行き交っているんですね。気が付かないうちに、見逃し三振になっています。

これは過去の事例を調べてみればわかるんですけど、イノベーションのアイデアを見せられても、ほとんどの人がそれを評価できないんですね。例えば(トーマス・)エジソン。家の中で音楽を聞くという機械を発明しました。「価値がありません」と特許を捨てちゃっていますね。今のiPhoneにつながるような、莫大な利益を生み出す事業になったわけですけどもね。

電話。発明者のベルは電話の特許を取ったんですけども、大学の先生ですから売ろうとしたんですね。でもどこからも「いりません」と言われて、結局、彼自身が電話の会社を作った。その会社はあれよあれよという間にものすごく大きな会社になっちゃって、20年後には全米で最大の会社(注:AT&T)になっちゃったわけです。

たった20年ですよ? たった20年で全米最大の会社になるような特許のアイデアを、当時の電報の会社の優秀な経営管理者たちが見せられて、「これはおもちゃだ」「価値がありません」って断っちゃった。

トーキーもそうですね。映画から音声が出てくるという仕組みを作って、特許を取った人がいるんです。映画会社のワーナーブラザーズの社長さんですけれども、「世界中に映画ファンってたくさんいるけれども、映画から音声が出ることを望んでいる人って、たぶん一人もいないと思うよ」って断っているわけですね。

(会場笑)

だから「見抜けない」ってことなんです。「価値が微妙だな」ってもんじゃないでしょ!? 今の世界で、映画から音が出ないんですよ? あるいは、電話がない。あるいは、プライベートな空間で音楽が聞けない。考えられないような世界ですけれども、彼らからすると、それが富につながるとは思えなかったっていうことです。優秀な経営者だったんですけどもね。

ですから、目利きは非常に難しい。一橋大学の研究の一説によると、画期的なアイデアを見せられて、それを見抜ける可能性は、経営管理者の中でだいたい100分の4ぐらいだって言われていますね。96パーセントは「頭、大丈夫?」とか「1回死んだほうがいい」とか「うまくいくわけがない」とか「ぜひ他社でやってください」とか言っている状態だってことです。

(会場笑)

見向きもされないアイデアを救う、「拾う神」はどこにいる?

その確率で「じゃあ、うまくいっているときは何が起こっているのか?」っていうことなんですけど、「拾う神を見つけている」っていうことなんですね。アイドルとかバンドのオーディションにけっこう近いイメージなんです。

ビートルズもオーディションに落ちまくりましたけれども、粘り強く自分のアイデアとかコンセプトを買ってくれそうな人を見つけることを、ずっとネットワークの中を動いて成功しました。これは、イノベーションとの共通項です。(セイコーの)「キネティック」も(3Mの)「ポストイット」も、花王の「アタック」もそうですね。そういう意味で言うと、ネットワークがすごく重要なんですね。

(スライドを指しながら)例えばこういう組織だと、(イノベーションの価値がわかるのは)100分の4しかないわけですからね。上司から潰されちゃったら、そのアイデアって死蔵せざるを得ないわけです。殺されちゃうわけです。

けれども、例えばこういう状態になって、ましてや社内にもネットワークが広がっている状態になると、味方をどんどん見つけることができるようになるわけですね。

そうすると「味方は味方を呼ぶ」で、ある種の「考え方が似た人」が集まってくるということです。このように「ネットワークの密度が高い」ことは、その人が持っているアイデアを活かせる可能性が高くなるということです。やっぱり、動く。動くためにはネットワークが必要なので、そこが非常に重要だということです。

以上、(話題を)10個並べました。すいません、ちょっと時間をオーバーしましたけど、以上が私からのお話でした。どうも、ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:山口さん、ありがとうございました。せっかくですので、もしお時間がよろしければ質疑応答を(お願いします)。

山口:はい。

司会者:受け付けていただけるということなので、ご質問のある方、ぜひ挙手いただければ(と思います)。

(会場挙手)

はい、じゃあ。

日本で酷評された腕時計が世界的なヒット商品に

質問者1:今日は貴重なお話をありがとうございました。山口さんの書籍をいろいろ読ませていただくと、よく「意味のある」とか「意味のない」というのが出てくると思うんです。先ほどの文脈とも近いんですけど、「意味がある」とか「ない」とかって、けっこう個人の好き嫌いになってくると思うんですね。

その好き嫌いをわかった上でほかを認めることが、多様性につながるのかなと思っています。副業すると、評価軸がいろいろ広がると思うんですね。それで評価軸が広がると、先ほどの弱いネットワークじゃないですけど、「拾う神」やいろんなものが見えてくるというんです。評価軸と副業について、ちょっとそのへんにも何かコメントあればいただきたいなと思ったんですけど、よろしいでしょうか?

山口:なるほどね、そのとおりだと思います。これはちょっと、今日は時間がなくて端折っちゃったんですけども、(スライドを指しながら)この「キネティック」という時計って自動巻きの時計で、発電してクオーツを動かすっていう不思議な時計なんですね。技術者がそういうのを作りたくなっちゃったらしいんです。

日本で作ろうとしたら、役員からは「こんなクソ商品やめろ」って言われたんですね。当たり前です。だって機械式の時計は、機械式の時計が好きな人が買うわけです。クオーツが好きな人は、クオーツを買うわけです。これは機械式の時計でクオーツを最後に動かすんです。「誰がこんな時計を買うの?」って言われて、「確かに誰も買いませんね」って技術者自身も認めていたんですね。

ですから「この商品はやめろ!」と言われてあきらめてたところで、まさに先ほどの「横のネットワーク」を使って、ヨーロッパに行ったときにこのアイデアをドイツのセイコーの社長さんに話したんですね。そうしたら、「それはドイツで売れると思う」って言い出したんですね。

なぜかと言うと、ドイツ人は環境意識がすごく高いので、「電池を使わないクオーツの時計」っていうコンセプトで、「環境意識の高い方向けの時計」って売り出し方をすれば売れると思うということでした。結果的に、世界的なヒット商品になったんです。

いろいろな教養を持つことが、可能性を見極める力を育む

この場合は(日本の)セイコーの本社とドイツのセイコーとで、必ずしも副業ではありませんが、環境の違う国で働くという経験で、その商品の持っているポテンシャルを違う側面から評価できたっていうことだと思うんですね。

ですからまさに「何が好きか」っていうのは、副業することでわかるようになる。日本人にとっては意味がないんですよ。「機械式のゼンマイで発電して、クオーツ動かす」って、何の意味もない。でも、「本当は時間が正確なのでクオーツがいいんだけれども、電池を使うのがイヤだ」って言うドイツ人にとって、「環境意識の高い私にとって、すごくフィットする時計だ」っていう意味を作れたわけですね。

この商品の持っている意味合いを見抜けたのは、「東京の本社しか経験がない」という日本の役員とは違うバックグラウンドを持っているドイツ支社長だったから、というのがあると思います。

ですから多様な意味を可能性として見極めていくためには、自分の中でいろいろな分野の「知的な背景」があったほうがいい。端的に言うとやっぱりいろいろな「教養」があると、意味のポテンシャルを見抜きやすいと思います。おっしゃるとおりだと思います。

質問者1:ありがとうございます。

シニアとジュニアには、それぞれの得意分野と異なる役割がある

司会者:ではあともう1、2問。ご質問があれば、挙手いただければ。

(会場挙手)

はい、お願いします。

質問者2:ご講演ありがとうございました。若い人がイノベーションを起こすということについては、私も同じ思いです。ただ組織としては若い人だけだとその経験のなさから、それこそ「いじめ」だとか「見栄を張る」とかで、逆に「心理的安全性」が少ない組織になっちゃうのかなと思うんです。そこらへんに、ご意見をいただければと思います。

山口:そうですね、難しいですよね……。

(会場笑)

僕も若い人だけでうまくいくとは思っていなくて、例えば、シリコンバレーにも非常に老練な経営のアドバイザーはたくさんいます。お金とかアドバイスとかネットワークを提供している人たちが、ベンチャーキャピタリストに代表されるかたちでいるわけですね。

ですから実際のところは、シニアの人たちはシニアの人たちの貢献役割があって、ジュニアの人たちはジュニアの人たちの役割がある、ということだと思います。能力が一次元的に、単線的に上がっていくという設定になっていること自体に、すごく無理があると思うんですね。

例えば役割等級は基本的にいくつかの項目があって、(等級が)1から2、3、4、5、6……となると順々に全部のレベルが上がることになっていますよね? ただ組織って実際には、役割は質的に変わると考えたほうがよくて、上の人たちは資源配分をしているし、真ん中の人たちは調整をしているし、下の人たちは本来、アイデアを出すのが得意なんです。だから本当は、コピーなんてシニアの人たちにとらせるほうがいいんですよ。

(会場笑)

事業のアイデアを作るのは若い人たちがやって、ごく一部のシニアの人たちが資源配分とか経営をやって、残りのシニアの人たちはコピーをとる。

(会場笑)

僕はそういうモデルがいいかな、と思っていますけどね。役割が違うと思ったほうがいいと思います。

質問者2:ありがとうございます。

司会者:はい、それでは山口さん、ありがとうございました。

山口:はい、どうも。

(会場拍手)

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