2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
提供:龍谷大学
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伏木亨氏(以下、伏木):それでは、ちょうどいい時間ですので、次に宗川さんのほうに。
山崎英恵氏(以下、山崎):はい。じゃあ、宗川先生。
宗川裕志氏(以下、宗川):ありがとうございます。大和学園の宗川です。よろしくお願いいたします。私は、お好み焼きをテーマに挙げさせていただきました。
料理の品位を構成する要素ということで、ここに5つ挙げたんですけれども。
まず第一に、味。素材の味を日本料理では非常に大事にしますので、素材の味であったりとか、あとは先ほど才木さんからもありました、余韻であったりとか。
あとは、次に香りです。香りについては食材同士の相性や国籍も挙げさせていただきました。日本料理から外れない香りであるか。
それと食感に関しては、調理するときに、それをさっと火を通すのか、しっかり炊いたほうがいいのか。あとは切り出す方向ですね。繊維を断ち切るように切ったり、繊維に沿ったりとか。
次に色彩ということで。これは見た目の鮮やかさや、盛り付けをしたときの調和であったり、器との相性なども考えます。
形に関しましては、もちろん切ったときの美しさであったり、日本料理は箸で料理を食べますので、食べやすさなども考えていきます。
こういった5つの要素で「品位のある料理」を表現しているのが、日本料理だと考えています。
その品位を考える手法としまして、品位の対極にある「一番気軽に食べられる料理」というB級グルメ。私は、生まれが大阪で育ちが広島で、今も大阪に住んでますので、お好み焼き愛がありまして。B級グルメというとお好み焼きということで、お好み焼きを挙げさせていただきました。
お好み焼きの味、形、香りを再構築することで、料理の品位とは何かが見えてこないかな、ということを考えました。
宗川:「春キャベツの煮こごり」ということで、3層の煮こごりを作りました。
細切りにしたキャベツを湯がき、それをクリアなだし汁に漬けて、見た目がきれいな緑色の層。真ん中の層は、刻んだキャベツを一番だしで煮込んで、それをミキサーにかけ、ゼラチンで固める。調味は塩だけです。3層目が、これはキャベツをローストしてオーブンで焼くんですけれども、焼くことで香ばしさをつけてから一番だしで炊いて、ミキサーにかけてゼラチンで固める。
具は、エビを粗刻みのそぼろにして、醤油などで調味します。あとは、お好み焼きというとマヨネーズとソースになります。そのマヨネーズとソースを寒天で凝固して、角切りにして、3層の煮こごりにしました。
これが第1回目ということで、ラボに持って行って試食いただいたんですけれども、そのときのみなさんのイメージが、「お好み焼きすぎる」ということでした。
(会場笑)
ちょっと再現しすぎて、煮こごりなんですけど、食べたらすぐに「お好み焼きや」と感じるということで。
大きな理由の1つが、キャベツの香りがものすごくリアルすぎるということで、原因として硫黄化合物があるとご指摘を受けました。「それ(硫黄化合物)が強すぎるんやないか」と。
それともう1つが「ソースの味がリアルすぎる」ということ。広島の某メーカーの有名なお好み焼きソースを使わせていただいたんですけれども、それをもちろん薄めて使っていましたが、「お好み焼きソースが強すぎるのではないかな」ということで、第1回目の試作はご指摘をいただきました。
山崎:ちょっとここでいいですか。
宗川:はい。
山崎:私、まず再構築のときに、なぜ煮こごりにされるのかがいつも疑問なんですけれども。
だいたい再構築されるときに、わりとみなさん煮こごりを選択されることが多いなと思うんです。層にしたりする。あれは、どういう理由があるんでしょうか。煮こごりそのものが品があると?
宗川:お好み焼きということもあったんですけど、見た目のまったく違うというところもありますし、温かい料理を冷たく再現することもありますし。
パッと見たときに、切り出したときに、煮こごりだと層にしやすくて、すごくきれいに作れるというのもあります。層の厚みによって味のバランスが取りやすいので、煮こごりにさせていただきました。
山崎:あとは、冷たいものにすることは香りが立たないじゃないですか。やはり、持ってきたときに、そのものの香りをワッと想像させるのは、よくないことなんですかね?
宗川:そうですね。見たときにお好み焼きを想像するんではなくて、見たときは「これは、何やろう?」という感じで食べていただいて、口の中でそれが溶けていったり、あるいはその中の寒天を咀嚼することで、ソースとかマヨネーズの味が出てくることで、徐々にお好み焼きを感じていただければと考えました。
山崎:最初から見た目もお好み焼きで、食べる前からもうわかるのは品がちょっとない?
宗川:そうですね。はい。
山崎:でも、そうしてもやっぱりお好み焼きすぎた。1回目は品がなかったということですね。
宗川:そうですね。食べ終わったら、「もうこれはお好み焼きやな」ということで。はい。それで、「次を作り直してくれ」と。
山崎:このお好み焼きソースはあれですよね。動物性の……。
宗川:そうなんですよ。非常においしいソース。僕もずっと食べてきたので、愛着があるソースだったんですけれども、そういう牡蠣であったりとか、動物性のうまみ成分が入っていまして。
そういうものもソース感がリアルすぎるのではないかなとなりました。
山崎:はい。
宗川:次に、第2回目を作りました。調理法を変えたんですけれども、どうしても硫黄化合物の香りが強いので、まず最初にカットする前に加熱をして、そのあとに煮込みました。硫黄化合物が出にくいように酵素を失活させてから切り出し、そして煮込んでいきました。
それと、エビのそぼろはもう完全にやめて、マヨネーズもやめました。ソースもとんかつソースをやめて。実はあのソース、みなさんに言っていなかったんですが、串カツソースに変えさえてもらったんですけれども。
その串カツソースが、動物性のうまみ成分が入っていなくて、野菜だけ、野菜と果物で作られているソースということで、そちらを選びました。そのソースを寒天で固めるのではなくて、角切りにした高野豆腐にだし割りをしたソースを含ませて、それをゼラチンで固めるというかたちにしました。
山崎:動物性のものと、S(硫黄)化合物をできるだけ抑えるという。先ほどの才木さんのポテトサラダは、じゃがいもの素材を活かそうというものだったのに対して、今回メインのキャベツをできるだけその特徴を抑えるという。
素材によって、品の出し方というか、尊重のしかたが違うように思うんですけれども。S化合物と動物性のものがだめというのは、どういう理由が。
宗川:この煮こごりを作っているときもそうだったんですけど、仕込みをしていて、このキャベツを炊いたりローストしているときに、その匂いを嗅ぐとどうしてもお好み焼きや焼きそばの匂いがする。
やっぱり、お好み焼きをすごく連想させてしまっていました。それをなるべく、キャベツのおいしさは残しながら、そういった独特の香りを抑えることができないかなと考えました。
山崎:ありがとうございます。
宗川:この細かい作り方なんですけれども、緑色の葉っぱをまず最初に湯がき、それを細切りにして、一番だしと塩だけでエッジ付けをします。
それによって、鮮やかな緑色とシャキシャキとしたキャベツの食感。それが第1層目。
第2層目が真ん中の白い部分になるんですけれども、キャベツをまるごと電子レンジで加熱して、それを一番だしで煮込んでミキサーにかけて、塩で調味。
こうすることによって、キャベツの甘みと、ねっとりとした食感を表現しました。
一番下の層は、キャベツをオーブンで焼きまして、一番だしで煮込み、それを濾して塩を加えることによって、クリアな琥珀色と香ばしさを表現しました。
中に入れる高野豆腐は、高野豆腐をもどしたものを角切りにして、だし汁とソースとゼラチンを入れます。このソースも、あまりソース感が出ないようになるべく薄くして、それにゼラチンを混ぜて固めることによって、食べたときに香りが出てくる。フレーバーリリースできるように表現していきました。
それで、こういったかたちの煮こごり。見た目はお好み焼きではないんですけれども、食べていくとお好み焼きを感じていただける煮こごりに仕上げました。以上になります。
山崎:ありがとうございます。結局、宗川先生が研究されたのって、「お好み焼き」という品位とは一番対極にあるものを再構築することで、品ってどこにあるんだろうかと。感覚的にはわかっているけれども、かなり捉えどころのない、なかなか言葉では表せないものだと思うんです。
それを確かめていくような作業だったなと思うんですけど、結局リアルすぎるというのは、満足感(につながる)。よく、ちょっと物足りないほうがいいとみなさんよく言うじゃないですか。その足りないほうが、けっこう日本料理の品にも少しつながっているのかな、といつも……。
川崎寛也氏(以下、川崎):不思議な話で、食べ物って栄養的に満足させるために食べるものなのに、なぜそこが……。
山崎:そうなんですよ。我慢するということが、なんというか品性につながっているのかなというふうに感じた。お二人のお話を聞いていてもそう思ったんですけど。
川崎:例えばおいしすぎるとか。
山崎:そう、おいしすぎるとか。
川崎:量が多すぎるとか。そういうのがだめなんですか?
山崎:なんで、だめなんですか?
才木充氏(以下、才木):いや、それは、もし必要やったらおかわりしてくれはったらいいと思います(笑)。
(会場笑)
山崎:いや、おかわりじゃなくて(笑)。でもこの足らないこと、(足らない)ほうをよしとする、そのほうが品があるというのは日本料理だけなのかな。
才木:ただ、西洋とか中華はどうなんでしょうね。例えば、とくに中華料理というのは、残すほど出すほうがもてなすほうのルールみたいな考え方がありますから。それで満腹感というのは、どれだけ食べるかというのは、たぶん個人差がありますでしょうし。
日本料理の場合は、食べたとき、食べ終わったときのすっきりさと言ったら変ですけどね。そういった前提の元で成り立っているような気がしますけど。
山崎:腹八分というのも一緒で、全部八分ぐらいに抑えているように見せかけていますよね。実は中身100パーセント以上の場合もあるなと、いつも思うんですけれども。
川崎:おかわりしづらくなりますね。なんかおかわりしたら、「こいつ、下品なやつやな」と思われるんでしょう。
山崎:そうそう。3杯目いきたいときに「3杯目どうですか?」っていつも言われるんですけど、「いや、もうさすがにやめておきます」と、ほんまは食べたいけど、やめるんですね。
才木:例えば、私も今日のプレゼンテーションで紹介しましたが、料理の食材の中に満腹感を刺激するようなものは、和食の場合はだしなどが使われていますよね。
だから、実際には、本当に満腹になっていないですけれども、人が満足するというポイントが、やっぱり今日我々が作ったものだけじゃなくて、違う要素で人に満腹感を与えるというのが、どこかにあるんじゃないですかね。
川崎:その2つの概念が非常に重要で、満腹と満足は違うんですよね。生理学的にも違うんですけど、おなかがいっぱいになるような満腹感とは、まったく違った概念で、心や脳が満足するというか。脳科学的にもそれが違うことがわかっているらしいので。
もしかすると、そこを刺激するようなお料理で、心が満足することが、もしかすると日本料理でいう品を感じさせるようなお料理なのかもしれませんね。
山崎:だから宗川先生のS化合物とか、動物性のものがだめだって言っていた明確な理由って、やっぱり満足感もそうですけど、満腹感にもけっこう繋がってくるようなものですか。
川崎:そうそう。S化合物はちょっと、聴衆のみなさんに補足したほうがいいかもしれないですけれども。S化合物って硫黄が入って、硫黄って化学記号がSだからS化合物というんですね。
そのフレーバーがお料理に入ると、さらにそれが加熱されると、すごく肉っぽい香りになると言われています。
そのS化合物が入っている食品というのは、こういうキャベツもそうですけれども、一番有名なのはニンニクとかニラの、いわゆる五葷(ごくん)。日本料理でいうと、「五葷山門に入るを許さず」みたいなのがありますけれども。
山崎:つこたらあかん。
川崎:とくに禅宗では禁止されているようなものです。それは栄養学的には非常に重要なものなんだけれども、体が元気になるから。元気になったらだめなのかというような。
元気になりすぎたらだめ。おいしすぎてもだめ。量が過ぎてもだめ。こういったなものが、もしかすると品を出す要因なんでしょうかね。
山崎:ずっとそれを食べ続けられないですよね。
宗川:そうですね。それで、食べてしまってすぐに想像されるというのも、品がないと感じますし。お客さんに想像してもらって、イマジネーションでちょっと感じてもらうところもすごく大事かなと思います。やはり出過ぎないというのは、すごく大事かなと思います。
山崎:だからその想像の部分を、お客さんが埋められるかどうかは、客の品性に関わるということですかね。
川崎:お料理の中に、余白を残す。
山崎:余白を残すということが、やはり品がある。盛り付けもそうで、かなり余白を残しますもんね。
川崎:余白を残すということは意識されているんですか?
宗川:そうですね。日本料理は皿いっぱいに盛り付けることはないですから。もちろん、いろいろと決まりはあるんですけれども、余白も含めて、器を含めて盛り付けですので、そこはすごく気にするところです。
伏木:どうもありがとうございました。ちょうどお時間でございます。
ラボをいつも夜中にやっているのは、こういう感じです。こんな真面目じゃなくて、もっと笑わせながら、柄悪くやっているんですが、その一端が見えて、どういう活動をしているかもわかっていただけたかと思います。品の話のスタートとして、切り口をいくつか提示していただきました。ありがとうございました。
川崎:ありがとうございました。
伏木:どうもありがとうございました。
(会場拍手)
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