何にでも興味を持ち、どんな情報にも目を向けることが大事

坪田朋氏(以下、坪田):時間がほぼ50分経ってしまったので、最後にあと1つだけ。今日は学生など若い方もたくさんいらっしゃっていると思うので、「今CXOを目指すとしたら、逆算して何からやっていけばいいなどの助言はありますか? それぞれ1人ずつお答えください」。じゃあ、広野くんから。

広野萌氏(以下、広野):そうですね、CXOを目指すとしたら今の話にあった通り、ビジネスに関わる。もしくはその体験に関わるすべてのことをやっていくか関わっていく。そして指針を示さなければいけない。

みんなのことがわかった上で、「君の気持ちはわかるよ、だけどこういう理由でこうしたほうがいいから、今はこうしようね」と、そういう母になれるかが本当に重要だと思います。何にでも興味を持って、どんな情報にも目を向けることがけっこう大事かなと思っていて。

例えばCEOなら、料理のアプリだったらもう料理のことしか知らなくていいと思うんですよ。「食に関することなら俺に任せろ」「俺はずっと考えているんだ」と。

でもCXOはちょっと引いて、例えば「今、世の中ではGDPRというEUの個人情報に関するなにかがあって、それの影響でポップアップを出さなきゃいけないらしいぞ」「それによって、ユーザーがこのサイトにアクセスした時に、1回サイトを見るためにはOKを押さないといけない」みたいな。

そういう法律だの、世界の情勢だの、いろんなことが混じり合わさって最終的にユーザーに届くわけなので、本当にすべての情報に対して積極的に取り入れていくことがけっこう有用になるんじゃないかなと思います。これはデザインとかに限らず。そう思いました。

CXOを志す上で必要なのは、自分が大好きなことを突き詰めてやってみること

坪田:じゃあ、安藤さん。

安藤剛氏(以下、安藤):私は先ほど言った通り、小さなビジネスを100パーセント自分でコントロールすることをやってみるのをおすすめしたいです。ちなみにこの中でCXOをやりたいという方はどれぐらいいらっしゃいますか? ちょっと挙手をしていただければ……。

(会場挙手)

坪田:けっこう多いですよね。2年前に比べるとこんなに……。

田川欣哉氏(以下、田川):すごい。増えた。

安藤:そうですね。先ほど田川さんもおっしゃっていたんですが、例えばnoteのCXOをやっている深津やYAMAPのCXOをやっている私というのは……もともと深津はiPhoneアプリで有名になったんですが、その前からけっこうアルファブロガーで、物書きとして非常に長く活動していたんですよ。

私も山が好きでYAMAPにお声がけいただいたんですが、やっぱりCXOという立場である以上、ユーザーを誰よりも理解していなければならなくて、ユーザーの代弁者でなければいけないと。

そうでなければユーザー体験の価値を、隣の他のCクラスオフィサーに対して語り続けることはけっこう難しいと思うんです。やっぱりCXOを志す上で必要なのは、自分が大好きなことを突き詰めてやってみることなのかなと思います。

CXOになる近道は、先人の積み上げたエッセンスを学ぶこと

坪田:ありがとうございます。じゃあ最後に田川さん。

田川:僕はもうハッキリしていて、坪田さんの弟子になることですね。

広野:ははは(笑)。

田川:それも、delyに就職して。

広野:それ、めっちゃいいですね(笑)。

田川:面接で、「僕・私は坪田さんの付き人になりたいです」と。これが1つ目。

広野:delyからいくらもらっているんですか(笑)。

(会場笑)

田川:2つ目は、安藤さんのところに行って弟子になる。

(会場笑)

広野:YAMAPからいくらもらっているんですか(笑)。

田川:で、3つ目がメルカリに就職する。

(会場笑)

広野:ポジショントークがすごい(笑)。

(会場笑)

田川:メルカリに就職をして、「CXOの仕事を見たいです」と。そこで3年間修行をしたあとに起業。

坪田:いいですねぇ。

(会場笑)

すいません、今、適当に言いました(笑)。

田川:なんでかというと、CXOはむちゃくちゃ難しいんですよ。だから、とにかく先人たちが15年ぐらいかけて積み上げたエキスを抜き取る。抜き取ってエッセンスだけ学んで、それを実践すると(笑)。

広野:正直、それが一番早いですよね。自分で考えてがむしゃらにやるよりはね。先人たちの……。

田川:そう、先人たちの肩の上に乗って「ごめんね」と。

広野:ちゃんと乗っかると。

田川:「あなたの15年を、私は3年で行きます」と。

(一同笑)

広野:「ありがとうございます!」と。

田川:ありがとうございますと。

坪田:早くドキュメント作りましょうよ。

田川:そうそう。

坪田:虎の巻みたいな。

田川:「これをやれば、君も明日からCXO」みたいなやつ(笑)。

(一同笑)

自分一人でわかりやすい成果を出すことで、チャンスがもらえる

坪田:でも、僕が最近思うのが、なんか自分一人でわかりやすい成果を出してみたら、それでチャンスがもらえるみたいなのは、けっこう若者にいますかね。

僕はけっこうわかりやすいトラックレコードをあえて踏むようにしていて。例えば、昔だったらライブドアブログを作りましたみたいな話、作りましたというか、一部リニューアルしてデコードしましたみたいな。あとはSHOWROOMを作りましたとか。

あと最近だと、サービスを自分で作って自分でリリースして自分で譲渡したんですけど、そういうツールとしてのデザインじゃなくて、「自分がこういうサービスや事業から設計した」みたいなことを言えるようになると、めちゃくちゃコミュニケーションする相手が変わるんですよ。

経営者からすると「早くそういう人がほしい」みたいなことが可視化されるので、そういうチャンスを掴むことが1つ大事なのかなと思いました。そこのスキルとチャンスとのバランスは、けっこう大事な気がしますね。

田川:坪田さんの弟子になると、ランチを食べながらこういう会話を24時間聞けるわけですよ。

坪田:ははは(笑)。

広野:でも、坪田さんはランチを食べないんです。

田川:本当!? そういう話じゃない(笑)。

(会場笑)

坪田:お昼に行かないので、人と会うのは朝にしています。夜も酒は飲まないので、夜もあんまり人と会わないという仙人みたいな生活で。

田川:今日は、堀江さんまだいるんだっけ? 

坪田:帰っちゃったかな?

田川:だから「坪田弟子枠」というのを5人ぐらい。坪田コピーを5人ぐらい持っておくと、デザイン組織がボカンと大きくなってもOKと。早い者勝ちだから、このあとごはんに出ていくでしょ、そこで「弟子にしてください!」と言ったほうがいい(笑)。

マルチスキルのキャリアを歩む上でつきまとう不安

坪田:最後にちょっとすいません、宴もたけなわなんですけど、Q&Aに答えたいと思いますので、もし会場のほうでなにか質問したい人がいれば、2~3問ぐらい受けたいと思います。

(会場挙手)

じゃあ一番早いそちらの方、マイクを持っていきます。

質問者1:お話ありがとうございます。僕のキャリアは美大のグラフィックデザインを出て、そのあと3年間ぐらいスタートアップのデザインをやって、そのあと大手企業の人事に行って、それを3年やって、4月から起業して今ビジネスをやっているような感じなんです。

デザインと人事と起業は全部スペシャリティが違うというか、その時々でスペシャリティは極められるんだけど、その次に行ってしまうとそれをそんなにできないので、なんだか自分の専門性が上がっていかないような不安にかられる時がすごくあって。

でもそれでもいいかなと思っていられるからやっているんですけど、CXOになるにあたって、みなさんは結果的にCXOになっていて、でもその途中は「別のことをやっているな」という感じでやっていたのかなと察しているんです。

心に同じような不安とかを抱いていたのかなと思って、その不安に対してどういうふうに向き合ったのかがあれば、ちょっと今不安なので(笑)、聞きたいなと思っています。

広野:これは安藤さん、どうですか?

安藤:私、実はキャリアの最初はエンジニアスタートで、もともとコンシューマービジネスでもなくてSIerにいました。その中で大企業向けの基幹システムとかを提案設計していて、そのあとUIをやるようになって、そのあとでBizDevに行くんです。事業開発をし始めて、海外とかに行くようになったんですよ。

そのあとで、所属していた会社で事業化できなかったものに腹を立てて、自ら出ていってベンチャーを作りまして。そしてその会社がちょっと買収されて、そこからiOSのディベロッパーになったんです。

というふうに、私は専門性がすごく低くて。今でこそテックとデザインと、あとはけっこうデータ分析をやるので、その3軸で活動をしているんですが、けっこうそのジョイントで「これが価値だなぁ」と思うのは、いろんな部門の橋渡しができるわけですよ。

解決しなきゃいけない経営課題に対して出す答えというのはテックだけの回答ではないし、デザインからのアプローチも提案できる、そうして掛け合わさる領域が増えるほど自分の強みになっていくのかなと思うので、けっこう自信を持っていいんじゃないのかなと思います。

メインのスキルを持ちながら、他に必要なスキルを逆算していく

質問者1:それは、あとからわかった感じでしょうか? それともその時、自信を持って突き進んでいた感じでしょうか? 専門性を磨くよりも、掛け合わさっていくと「俺、どんどん強くなっているなぁ」みたいな。

安藤:まぁ2つ目ぐらいでしょうねぇ、理解したのは。

広野:スペシャリティみたいなのは本当にスペシャリティな人に任せて、自分は横串に専念するのがいいという、それは1つの道でもあるというか。「今は個の時代じゃなくて、チームの時代だ」と『左ききのエレン』でも言っていたので(笑)。

(会場笑)

そういう時代なんだなと思います。

田川:僕もいいですか? Takramでも似たような話がいっぱいあって。僕らは超越境タイプなので、ものすごくマルチスキルなんですよ。だけど、マルチスキルの人が陥る自分に対する疑念というのは、つまりアイデンティティクライシスが起こるんですよね。

質問者1:はい。わかります。

田川:「結局、自分って誰?」みたいな。誰からも「〇〇屋さん」と呼ばれないし、自分でも呼べなくて。

質問者1:あっ、それです。

田川:隣の人が一事を極めていると、隣の芝効果でその人に分があるように見えてしまうようなことなんですよ。おすすめは、たぶん「ドスペシャリティ」に行くのと、「ドマルチスキル」に行くというふうに2分法で考えないほうがよくて。

先ほど安藤さんがおっしゃったことが、けっこうそうかなぁと思って。「確かにな」と思ったんだけど、1つメインのスキルはあったほうがいいんですよ。でもそれの選び方がすごく重要で、フッと気を抜いた時に考えてしまっていることをメインのスキルにする。

だけど、それ1個だとCXOにはなれないので、その地球みたいなもの(メインスキル)を1つ作っておいて、その周辺に月みたいなやつを、絶対に押さえなきゃいけないところをはっきりと逆算型で1個1個やっていく。そういうふうにすると、すごく安心ができるんです。

CXOの第一世代はまるで両生類?

質問者1:なるほど。Takramの方たちも逆算型でやっていますか?

田川:僕らの世代は、進化の歴史の中でいくと両生類みたいなやつで、むちゃくちゃ……。なんというか水の中でも陸の上でも息をするけど、なんか気管が2つあってエネルギー的にすごくロスみたいな。「なんで肩がこんなに凝っているのかな?」みたいなタイプなんですよ。

みなさんの世代は、僕らみたいになる必要はぜんぜんなくて。やることはたぶんわかっているから、ある程度は逆算が効くと思いますよ。ここ(登壇者)は、もう手探り。この周辺に死屍が累々といるんですよ(笑)。たまたま残っているから。

だからたぶん、僕らがやってきたようなことを聞いても、ほぼ生存者バイアスがかかっているので、あんまり意味がないと思うから(笑)。

質問者1:屍を越えていきます(笑)。

坪田:ありがとうございます。じゃあ最後に1人、もしいたら。

(会場挙手)

じゃあ、今マイクを持っていきます。

120点への執着を持てる人かどうか

質問者2:今日はありがとうございました。お話を聞いて、やっぱり僕もみなさんの見習いにならなきゃダメだと思って(笑)。さっそくいろいろ考えてみたんですけど、仕事をしていく中で、どのぐらいのスキルまで身に付けていけばみなさんの弟子になれるかを、ちょっと教えていただきたいなと思っていて。

田川:安藤さんは、まず一緒に山に登らないとダメだよね。足腰を鍛えるみたいな(笑)。

広野:坪田さん、これ、なんか……。

坪田:ちゃんと聞いていなかった。

広野:すいません、もう1回お願いします。

田川:「坪田さんの弟子になれる最低のレベルを教えてください」という質問。

坪田:僕は、そんなスキルレベルは求めないんですよ。100回壊してというサイクルについてこられる人だったら、別に誰でもいいような感じですね。みんなだいたい100回やり直したら120点のものができるというのはわかっているのに、5回ぐらいでやめちゃうんですよ。

それは自分の中で満足するのか、それともそれで人にいいと言ってもらえたのかはわからないんですけど、そういう人が……。

広野:まぁ、ちょっと無理ですね。

坪田:無理って(笑)。結局、その120点への執着を持てる人かどうかが基本的に必要な素養かなと思うので、そういう人だったら誰でもウェルカムみたいな感じですね。

質問者2:わかりました。

田川:もう行くしかないですね。意外とハードルが低かったから(笑)。

坪田:ぜひお願いします(笑)。

質問者2:僕も実は今ディレクターをやっているんですけど、さっそく手を動かさなきゃと思って、今日からデザイナーになるためにがんばります。

坪田:そうですよ、今日からやったらいいですよ。作りたいなと思ったら手を動かしていないとダメなんですよ、みたいな。そういう話じゃないですね(笑)。すいません。

(会場笑)

田川:坪田さんは教えるのがすごく大好きな人なので、本当にいいですよ。

広野:ちょっと最後、微妙な雰囲気になったんですけど(笑)。

(会場笑)

坪田:じゃあ、今日はすいません、このあとちょっと軽食を用意していただいて、少し時間があるので、もし聞きたいことがあったら聞いていただければと思います。今日はありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

(会場拍手)