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Quality Of Network(全3記事)

2020.04.07

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インターネットから生まれた「新たな場」 学術・ビジネスの先駆者らが語る、ネットワークの行く末

提供:クオン株式会社

2020年2月5日、さまざまな企業や自治体に向けてファンコミュニティクラウドを提供するクオン株式会社のアドバイザーが一堂に会し、座談会が開催されました。バーチャル、リアルを問わず、多くのつながりが存在する現代社会において、同社の社名の由来でもある“Quality Of Network”をテーマに、学術やビジネスの分野で広く活躍する有識者らが自論を語ります。本パートでは、慶應義塾大学 環境情報学部教授の村井純氏、東京大学大学院総合文化研究科教授の池上高志氏、元株式会社電通常務執行役員の佐野弘明氏、株式会社サンブリッジコーポレーション代表取締役会長のアレン・マイナー氏がインターネット以前・以後の世の中の変化について議論しました。

「Quality Of Network」を100秒で語る

國領二郎氏(以下、國領):みなさん、こんにちは。この面子のファシリテーターをやるのは僭越ですが、クオン株式会社の社外取締役をやっている関係で……。國領でございます。それでは、始めていきたいと思います。

一同:よろしくお願いします。

國領:今日はもう本当にすごいメンバーで、ドキドキしております。それぞれに大変深い知見をお持ちのみなさんなので、自己紹介だけでもとても長くかかるかと思います。

そこで自己紹介の代わりに、「最近はここが一番大事だ」と思っていることをお聞きしたいと思います。また、本日のお題である「Quality Of Network」についても……。何かコメントや議論すべきこと、「そもそもネットワークにQualityはあるのか?」といったことを、そうですね……それぞれ200秒でお願いします。

(一同笑)

松田修一氏(以下、松田):(200秒を)数えられない。

村井純氏(以下、村井):数えられないね……。

松岡正剛氏(以下、松岡):まるでオリンピックみたい。

國領:こういうときは、秒で区切ったほうがいいかなと思っていまして(笑)。

アレン・マイナー氏(以下、マイナー):両方のテーマについて100秒ずつぐらい?

國領:そうですね。

村井:難しいことを言う……。

(一同笑)

國領:「とはいっても、何をしゃべろうかな」と考える時間も欲しいと思うので……。まず、クオン社のCEO、武田隆さんに、そもそもどうして社名を「Quality Of Network」にしたのか。それはどういう意味なのか。今日は、このお題でみなさんにどんなことを話して欲しいのか。まあ、武田さんには300秒差し上げるので、このあたりについてお願いします。

「Quality Of Network」は戻らぬ船……?

武田隆氏(以下、武田):ありがとうございます。光栄です。当社は1996年に学生ベンチャーとして創業しました。パソコン通信を通して、コンピュータ・ネットワークに最初に触れました。

世の中が、TCP/IPになっていって、それぞれが繋がっていく世界が訪れて行ったときに、当時パソコン通信にあった、みんなが寄り集まって、お互いに何か「場所の感覚」のようなものを共有し合うことは、決してなくならないだろうと思いまして……。「インターネットに場を作ろう!」と考えたことが最初でした。

そこで、オンライン・コミュニティということになったわけですけれど、オンライン・コミュニティを活性させて、それをビジネスに活用していく研究開発を続けて参りました。その過程で、ネットワークにはいろんな種類があると学び、Qualityの多様という側面(があること)は間違いないだろうと思いました。

日本のマーケティングにも、時代が徐々に量だけの世界から、より質的なものへという動きがあったように思いまして……。20世紀のマス・マーケティングから、21世紀のネットワーク型のマーケティングに変わってきたことも、Qualityという言葉で表せるのではないかと考えました。

振り返れば、起業から20年に渡る冒険の中で、多くの仲間たちや株主の方、クライアントの方々のネットワークに生かされてきたことにも気付きまして……。「Quality Of Network」は、まさに当初、私たちがインターネットに求めていた本質であり、オンライン・コミュニティを言い表す適切な言葉だろうと思った経緯がございます。

ちなみに、船のマークが当社のロゴなんですけれども、これはブリヂストンや伊藤忠商事、NTTやドコモのCI(コーポレート・アイデンティティ)を作られた、日本最強のCIストラテジストである小田嶋孝司先生が、どういう気の迷いか初めて手がけられたベンチャー企業(笑)。それが、なんと私どもの会社でございまして……。

このロゴを作るにあたって、私が聞かれたことが1つございます。それは、「武田さんは、ベンチャーをスタートしたときに、戻ることを前提としていたんですか?」という質問でした。

船をメタファーにするというのは、貧しいオフィスに仲間と寄り集まっていたこともあり、「僕らは船だよね」と掛け声をかけ合って来たんですが……。

「船はどんな船か?」と問われて、考えたこともなかったんですが、小田嶋氏が言うには、ヴァスコ・ダ・ガマも、東インド会社も、様々な船は帰港することを前提に出港している……と。「ただ、あなたたちは未だ見ぬインターネット大陸に向かって、戻ることを前提とせず出港したのではないのか?」とおっしゃって、それであれば「メイフラワー号だろう」というわけで、このロゴはそれなんです……(笑)。

300秒経ったでしょうか……(笑)。今日はよろしくお願いします!

國領:はい。ちょっと突っ込みたいところもいろいろあるんですけど、それは後にしておきまして(笑)。

武田:あっ、すみません(笑)。

國領:では、村井さん、いいですか? こう、時計回りに行かせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。

Internetの「I」が大文字の理由

村井:自己紹介というか、私は何をやってきたかということについてお話します。

インターネットのルーツは2つあって、1つはUNIXというオペレーティング・システムです。それからもう1つがARPANET(注:世界で初めて運用されたパケット通信型のコンピュータ・ネットワーク)という技術です。これがどちらも1969年の研究開発がスタートだったので、ちょうど去年(2019年)は、両方とも50周年なので「インターネット生誕50周年」とよく言われました。

それから20年後の1989年にWorld Wide Web(WWW)をティム・バーナーズ=リーが作りました。ティムも「One web」と表現しているように、インターネット上に1つの空間を作ったわけです。

そもそもインターネットも「The Internet」と書く。「I」がキャピタライズしている(大文字になっている)から、つまり「地球に1つしかない」ということですよね。地球に1つしかないネットワークができて50年。その上で、人間がいろいろなことで使えるプラットフォームであるWWWができて30年。2019年は、30年終わったよね、50年終わったよねという節目の年でした。

そこで「自分たちは何をアチーブ(成し遂げることが)できたんだっけ?」と自問する機会が増えました。もともとインターネットを開発する上で目指していた目標は、いずれ人類全部を繋ぐだろうとか、地球全部を包むよねとかね、そういうことだったわけだけど、それは、もう無理なくできるようになってきました。「ほとんどの人が技術を使いこなして生きている」という社会ができたのです。

そのときに思ったことは、インターネットを構築してきたひとりのパイオニアである私から言うと、結局、「地球に1つの空間を作った」というのが、やっぱり一番大きなインパクトだったんじゃないかな、と。

先ほども言いましたが、インターネットの「I」、「Net」と言うときも、「N」はキャピタライズされているというのは、1つしかないということで、技術的な背景もあるのですが、これがとても重要なことなのです。

つまり人類と地球という観点で見たときに、なんでもそこから出発できるというただ一つの空間を作ったということ。それがインターネットの「やっちゃったこと」だし、「やり遂げたこと」だと思うんです。まだ、残っていることはあるので、そこはそこでちゃんとやりたいと思います。

すでに「ネットワーク」はできてしまった……

村井:一方、その対極にあるのは何かというと、それぞれのnation-state(民族国家)の関係、対立とか、国際社会による「グローバル社会」と言われるようなものがある。このグルーバル社会がインターネットによって生まれた「グローバル空間」をコントロールしようという動きがある。でも、そうじゃないんだ、と。

こうした国際社会とは無関係に、人間と地球の上にインターネットという1つの空間がもうできていて、そこでは、かなり自由にコミュニケーションができて、活動ができて、創造ができる。それこそ、今日のテーマである「ネットワーク」。こういうものがすでにできてしまったんだよね……ということ。

なので、現在の人々は、あきらかにnation-stateの国際社会による「グローバル社会」を生きているのだけど、同時に、インターネットによる「グローバル空間」にも生きている。というわけで、ふたつが共存している世界が、この「Quality Of Network」を議論する上では一番大事なことなんだろうなと思っています。

國領:その空間というのは、さっき武田さんが言った「場」と同じこと? まあ、後から聞きましょう。

村井:そうですね。空間というのは、もう少しscientificな定義になるんだろうね。

國領:うん。

村井:それを「場」と定義することもできるのだろうけれど、そこは、おもしろい議論のポイントかもしれないですね。

國領:じゃあ、後のお楽しみにさせてください。では、すみません……「さん」付けでずっと行かせていただきます。池上さん、よろしくお願いします。

人間の手に負えない「もの」

池上高志氏(以下、池上):あの……みなさんと違って、ここのメンバーだと……僕は「駆け出し」かもしれないです。物理出身なんですけれども、その後、人工生命というテーマで研究をしています。

村井さんが言われた1989年に、アメリカのロスアラモス(注:マンハッタン計画で知られるロスアラモス国立研究所がある)にいて、そのときARPANETに、今で言うコンピュータ・ウイルスがたかって、「動かなくなった」ってみんなが集まったときのことを覚えています。それがたぶん最初のコンピュータ・ウイルスだったんじゃないかなと思います。

そのときから、コンピュータの中にも、人間に制御できない変なものが住み得るんだという研究が始まって、それで、そのコンピュータの世界の中で、自律的で、人間の手に負えないものがどんどん生まれて、生態系を作り出すというような発想を持つようになったわけです。

だから、化学反応も試験管の中で起こるんじゃなくて、コンピュータの中で起こす化学反応というのはどういうものができるかだとか、進化というのも外で起こるんじゃなくて、コンピュータの中で起こすにはどうすればいいのかとか、そういうことをやっていました。

その当時、カオス理論というのがベースとなっていて、ご存じの通りカオス理論というのは、コンピュータの中で、乱数がなくても予測不能性というのは扱えるんだということを言っている。それはサイコロを振る替わりに、予測が完全に当たらないようなシステムをコンピュータの中で飼えるんだということ。そういった人工生命的なもの、生命的なものをコンピュータの中で作るすべての出発点(は、カオス理論)だと言われている。

僕の感覚だと2008年に革命が起こった。2008年というのは、すごい年で……。例えば、ルービックキューブが初めて解かれて……。それまで22手であったら揃うと言われていたのを、Googleの社員が調べた。その手法は、理論を使うんじゃなくて、すべてのパターンを総調べした。総調べすると、だいたいアボガドロ数の1万分の1ぐらいの組み合わせの数があって、そいつを計算すると20手だった。

どんなへんてこりんな手からでも、20手あれば必ず揃うんだと言うことを、Googleが証明した。その証明も論文じゃなくてBlogにアップするという方法でやってて、僕はそれがけっこうショックで……。

生命は「所有されない」

池上:そのときから、いわゆるデータ・サイエンスっぽいことが始まったんですが、例えば魚がどういうふうにして個体になるかというのも、レーザービデオで全部撮って、へんてこりんな理論を使わなくとも、目の前で1個1個の細胞がどっちに動いていて、どのように分化するのかという実際を全部撮ることができる。

ブロックチェーンやビットコインの基礎理論も、iPhoneも、全部2008年前後ですよね。

その年から、今まで非常に少ない変数で語られるカオス的な非線系システムの世界から、線形に近いんだけれども、ほとんど線形なんだけれど、ものすごくでかい空間だったならば、非線形システムと同じぐらいの記述力と破壊力を持っているということが示された。

だから、物を作るには非線形システムじゃないといけないんだという時代から、ちょっと違う世界があるんじゃないかという方向に動き出している。

物の理解というのは、1989年と現代ではものすごく違うことになった。それはひとえに、ものすごくでかい世界というのは、我々の見方や我々の知覚、触ってわかるみたいな世界を遥かに凌ぐ世界が現れるということ。それで物の理解を根底から変えざるを得ないという時代になったんだなということを考えています。

僕は、このような哲学をベースに人工生命(ALife=Artificial Life)というのをいろいろ再構築しようとしているところです。

2018年にもやったんですが、今年(2020年)も3月27日〜28日に、そういったことを知っている研究者を世界中から50人ぐらい呼んで、渋谷で国際会議、TOKYO ALIFE 2020を開催する予定です(注:新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年9月18~19日に順延)。そこでは、どうやって進化は起こるのかということや、人の心についての共通点とは何かということについての研究会が開かれます。

「ネットワーク」ということを考えたときに僕が一番に思うのが、今、村井先生が言われたような、例えば、インターネットがアメリカに所有されるとか、どこかの大きな企業に所有されちゃうとか、それは困る。

ALifeのやっている最も大きなメッセージというのは、自律性を持たせるってことなんですね。それを「autonomy(オートノミー)」と言うんだけど、いかにしてインターネットを自律式にして、つまりALifeにして、誰からも所有されないようにすることができるか? そういうことを考えます。

生命の基本的なロジックは、僕の考えるところでは「所有されていないこと」なんですね。とにかく逃げる。所有から逃げるということが、まず生命の定義で、そういうものがどうやって構築できるかということをいろいろとやっているところです。

國領:生命の定義は所有から逃げること……。

池上:そうですね。僕はそう思います。

國領:なるほど。それだけでずっと議論できますね。

(一同笑)

國領:でかいことも大事。さっき武田さんは、Quantity(量)だけじゃなくて、Quality(質)と言いましたけれども、それは……?

池上:量が質に転移するときというのがあるんですよ。ある量、ものすごくでかい量までにくると、あるときに突然、質が変わり始めるんですね。「相転移(固体、液体、気体など、ある相から別の相へと状態が変化すること)」って言うんだけど、そのクリティカルな量を見なくちゃいけなくって、そういう研究をいっぱいやっています。

例えば、(コンピュータのプログラム上に)鳥の群れを飛ばして、その数を、1万10万100万1,000万と増やしていくと、あるところで質的に違った動きが見え始める。

それは我々の予測や解析を超えるようなところがあって、だから下手な理論を考えるよりは、まずでかいスケールを考えてみるというのも、けっこう重要なことかなと考えています。武田さんとも、コミュニティを繋げて自律的に活性させる人工生命のアルゴリズムを一緒に考えて、クオンで実際に試したりしています。

國領:ありがとうございます。では、佐野さん、お願いします。

マス・メディアからインターネットへ

佐野弘明氏(以下、佐野):私はみなさんとかなり畑が違いまして……。民間の企業で……

國領:今日のメンツはかなり異質で、「今日、司会しろ」と言われて、もうクラクラしたぐらいなので。ぜんぜんご心配いただかなくて……(笑)。

佐野:気が楽になりました(笑)。私は電通という広告会社に40年ぐらいいまして、(今は)辞めたんですけれども。その間にいろいろと海外経験が20年以上ありまして。駐在ばっかりしていましたんで……ある意味日本社会の縮図みたいな、企業内の働き方みたいな、変な話ですけれども、そういう企業内ネットワークみたいなものとあまり触れずにこれた会社員人生だったわけですね。

國領:それは幸せだ……(笑)。

佐野:縁あって武田さんと知り合いになって、ショックだったのは、クオンのビジネスモデルでした。最初はてっきり、クオンもソーシャルメディアの一種なんだから広告モデルなのだろうとばかり思っていたんですね。深めて知っていくと実はぜんぜん違う。

自分のキャリアから言って、私の入った昭和の時代というのは、マス・メディア全盛期で、制約がすごく多いクローズな世界だった。

ちょうどアトランタ・オリンピックの頃ですから、1996年ぐらいですかね。インターネットがだいぶ普及しまして、E-mailとかもだんだん増えてきて……。前にいた会社をどうこう批判するつもりはまったくありませんけれども(笑)。やはりインターネットというものを軽んじていましたよね。

それからかなり遅れを取りまして、後付けでいろいろやってきたんですけれども、今やインターネット広告費はテレビを抜いちゃったという状況なわけでして。

私が感じたのは、インターネットの存在というのは、テクノロジー一辺倒なイメージがあったんですけれども、実はそうではなくて、とても自由な存在で、創造性とか人間味とか、「human」と言いますか……。それらが顕在化するようなものだと思うようになったんですね。

私はヨーロッパに長いこと駐在していたわけですが、例えば、イギリスと日本の状況なんかを比べると、いろいろ天と地ほど違いましてね。グローバルで標準化するというのはとっても難しいな、と実際にメディア中心のビジネスをやってきて思うんです。

だから、この「Quality Of Network」をビジョンとしている武田さんの会社は、これから大きく飛躍していく可能性があるな、と。なんというんですかね。その将来性みたいなものに興味津々で、アドバイザーとして参加したという次第であります。

國領:今は、この1週間のこのコロナウイルスをめぐるいろんな情報の流され方とか、見ていてどんな感想を持たれますか。

佐野:ちょっと、メディア自体のあり方もいろいろ問われている時代だと思うんですね。そういう意味では。昔はただ一方通行でしたが、今は選択の時代なので。

FacebookとかGoogleとかいろいろありますけれども、情報は探しに行けば取れるんですね。でも、クオンのコミュニティは、そうじゃなくて、生活者同士が築き上げるネットワークなんだと思うんですね。そうしたネットワークに参加することで、いろいろ違った観点の気付きとか、その情報の取り方とか、精査の仕方とか、自分がどう受け止めるかといったことが、ずいぶん変わるような気がします。

國領:なるほど。ありがとうございます。じゃあ、アレン(・マイナー)さん、お願いします。

『禅とオートバイ修理技術』のメッセージ

マイナー:大学のときはコンピュータ・サイエンティストを目指していたのですが、哲学者の道もあると思って、哲学やAsian Studies(アジア研究)も勉強していた。それからいろいろあって、今、まさか自分が日本に居て、ベンチャー・キャピタリストをやっているなんて……当時からは想像もできない。

今日、私がこの場に呼んでもらえているのは、たぶん私が武田さんにとっての最初の投資家だからだと思います。武田さんは起業したときから、「E-mailのようなものではない、新たなコミュニケーション・ツールを実現します」と言っていました。

私はそれに半信半疑どころか「そんなのあり得ない」と思いながら、彼の魅力と……私の当時のパートナー(注:サンブリッジの共同創業者でクオン社の社外取締役も務めた永山隆昭氏)に説得されて……。「投資してみようじゃないか」ということになり、かれこれ20年付き合ってきた。だから私には、彼のそういう大変なチャレンジをずっと見てきた応援者という立場がある。

今日、「Quality Of Network」というテーマを聞いたとき、まず、最初に思いついたのは、1960年代、1970年代のアメリカの若者の間で流行したロバート・パーシグの哲学小説『禅とオートバイ修理技術』。その中に出てくるメッセージで、現在で言うマインド・フルネスのような、過去も将来もなく、今この瞬間を夢中になって、何かに取り組むというのが人間にとって最も幸せな瞬間だし、本当のrealityはそこにしか存在しない、というもの。

パーシグは、西洋哲学・東洋哲学をメタフィジカル(形而上的)に1つにまとめようとしていて、今この瞬間、此処にしか存在しないというのをキャピタライズされた(大文字の)Qで「Quality(クオリティ)」と書いている。

そこから、「Quality Of Network」を考えてみると、たぶん人間のネットワークで最もQualityがあるのは、今日の集まりのようにphysicalなrealityがあって、体と心を一体にして意見を出し合って、仕草や同じ空気を共有するアロハ的(注:ハワイ語の「ALOHA」という言葉には、前向きな気持ちの姿勢を示し、それが他人へと広がっていくという意味が込められている)な「ひととき」なのだと思う。

こういうものが実はネットワークとして最もQualityがあるのだけど、最もinefficient(非効率的)で限られた特別な瞬間にだけにしか起こらない。パーシグが言っているように、この瞬間、此処にいるときにだけ、Qualityをもったネットワークのexperience(体験)がある。

薄い関係・深い関係

マイナー:一方で、世の中の人が自分のiPhoneとだけ向き合って、人間と向き合わなくなる危険性もある。情報にアクセスすることで、海の向こうの1度も会ったことがない人と、なんらかのコミュニケーションや人間関係ができるようになっているんだけど、今はマス・マーケティング的なものとか、efficient(効率的)なものしかない気がしていて……。世界中の人が入っているFacebookのようなものだと、薄い繋がりはたくさんできるけど、深い人間関係が作りにくいんじゃないかなと思っている。

そういう意味で、クオンがやっているコミュニティは、ITのネットワークの世界の中で、少ない人数でより本音をぶつけ合う場所になっている。極めて……「Quality with a capital」の「Q(Qが大文字の”Quality”)」を意識したパーシグ的な……。この瞬間を共有するネットワークを実現できているんだなと思っています。

投資した当時はE-mailのほうがよっぽどリーチが広いし、efficient(効率的)で……(笑)。E-mailの中にこれを再現すれば「投資を検討してもいいんだよ」と言っていた記憶があるんだけれども……(クオンは受け入れなかった)。

やっぱりそのときから、たぶん武田さんたちには、マスじゃなくて、少ない人数でより濃いコミュニケーションをバーチャルな場でできるんじゃないかっていう予感があって、それをやりたくて、諦めずにやり続けてきて……。

1996年の当時から、この先、インターネットがどんどん発展していったとき、人間関係もどんどん薄くなっていく危険性があるというところを意識して、よりリアルな「語り場」をどうやって技術で実現するかというのをずっと追いかけてきた。

だから、他のさまざまなサービスが出てきても、クオンのファンやクオンのユーザーが継続して増え続けているのは、おそらくこの瞬間を語り合う場所、そこでしか埋められない“絆”みたいなものをバーチャルな世界で……たぶん最も近いことを実現できているんじゃないかなと思っています。

國領:なるほど。一種のパラドックスが浮かび上がってきていますね。

今のマイナーさんのお話を聞いていると、どうも「本音」というのがバリューのようなものと、少人数というか、そもそも場の設定をある程度限定したり、少人数の人が的確なメッセージを投げ込んだりすることで、この場のメンバーの人たちの本音の語り合いみたいなことが活性化できるはずだ……と。これは操作とはまた違う概念ですね。

マイナー:そう。今日一緒にこの時間を過ごすことによって生まれるのは、この人にはこういうバックグラウンドがあって、こういう発言をしたなといったリアルなものなので、操作しようもないですね。

國領:お互いがお互いの発言を通して……。

マイナー:何か新たな発展が生まれる。

國領:発展。英語で言うと、manipulate(操作)なのか、stimulate(活性)なのか。まあ、私は今日、facilitate(司会進行)しろと言われてここに座っているんですけれども……(笑)。

マイナー: ちゃんとstimulateし始めていますね! facilitateしながら(笑)。

(一同笑)

國領:また後で、ちょっとお聞きしたいと思いますが、いよいよ、このメンバーを迎えてのこの議論、到底まとまるとは思えないのですが……(笑)。

(一同笑)

マイナー:まとまりませんね……。まとまる必要はないでしょう。

國領:そうですか(笑)。

マイナー:そう。語り場だから!

(一同笑)

國領:語り場だから……(笑)。

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