CXOが参画して、delyの社内に変化はあったか?

坪田朋氏(以下、坪田):次は僕が聞きたかったことですね。delyに入ってまだ1ヶ月くらいなんですが、CXOが参画したことで社内で変化はありましたか? delyが坪田さんに最も期待しているものはなんですか?

堀江裕介氏(以下、堀江):僕からも言えますが、しゃべりすぎたから大竹から。

坪田:(笑)。

大竹雅登氏(以下、大竹):CXOが参画して、delyの社内に変化はあったか? ということですね。さっきも話に出ましたが、僕らは「すべてのタッチポイントで、クオリティの高いサービスをしっかり提供しよう」と考えていて。でも、そういう思いがあっても、「ここでちょっと抜け漏れがあったよね」というもどかしさがけっこうあったんです。

今は坪田さんというCXOを立てて、そこで最終クオリティのコントロールがしっかりなされるように、社内の体制が敷かれています。そうすると、会社としてのアウトプットのクオリティがどんどん上がる。まだ1ヶ月しか経っていませんが、それでも感じるので、今後はどんどんあるんじゃないかなと思います。

堀江:すごく簡単にメリットを言うと、社員が10人のときより100人のときのほうが分業化するんですよね。今までだったら「全部の事業をみんなで意見し合えていて、横の部署のこともわかる」という状態だったんですけど、100人になるとさすがに部署が分断して、業務が細分化していきます。

delyは組織を縦で割っているので、自分の直属の上長がクオリティをコントロールすることになります。そうすると、上長同士でそれぞれの認識がずれていたりするケースがある。

そこで、CXOは何をやるかというと、(ジェスチャーをしながら)ここを横串でグサッと刺して、責任を持って全部を見る。クオリティコントロールがきちんとできる責任者を立てているということです。

分業化が進んで、中にプロフェッショナルがいっぱいいる。ただし、日々の業務の中でそれぞれの認識がずれてしまうので、そこでだれかが横串を刺してクオリティコントロールをすることが、CXOを立てるタイミングとしては正しいかなと思いますね。

共同創業者・大竹氏の決断「CTOを譲ります」

坪田:ちょうど、タケさんが「CTOを譲ります」というタイミングで声をかけてもらったんですよね?

堀江:そうですね。

坪田:タケさんが「CTOを卒業します」という記事を出したのはいつでしたっけ?

大竹:1月です。

坪田:1月ですね。新規事業を始めたときに、権限を含めてどんどん委譲したりする体制を作っていこうとしていた時期ですよね。

大竹:はい、そうですね。

坪田:僕が「delyに入りたいな」と思ったのは、タケさんはここまでプロダクトを作ってCTOをやっていたのに、いきなり「CTO、渡します」という記事が出たときですね。それはわりとビビりましたね(笑)。「この人すげえな」みたいな。

堀江:でも、うちのメンバーはみんなそう思っていると思いますね。「会社にとって一番の選択なら何でもいいかな」と、あまりこだわっていないです。

それで、役員で約束してるのは、「自分よりいい人を採用し続けよう。じゃないとこの会社は縮小するよね」と。僕もみんなに、「『自分から降りる』という男気のある人を絶対に裏切らないから、信頼・信用して、自分よりすごい人を採ってくる努力をしよう」と約束しています。「じゃないと今の器以上にならないよね」という話をよくしている気がしますね。

大竹:なので、その記事を出すときも、僕の中では堀江さんと「こういうふうに出していこう」みたいな話をしていたんですけど、抵抗はまったくなくて。あとから坪田さんに言われて、冷静に考えるとそう思うかもしれないけど、そんなに考えていないです。

堀江:5分くらい話しただけだよね。

大竹:そうですね。

堀江:「『大竹がCTOを降りる』という記事を出そうと思うんですけど、いいですか?」「けっこうバズりそうですよね?」「じゃあやろう」みたいな。本当に数分でパーッと決まってしまって。それぐらいこだわりがないので、ここにいる誰もが、今delyのCEOの座を奪えるチャンスがあると思ってもらっても過言ではないぐらいです。

大竹:そうですね。

堀江:僕もいつでも、降りていいかなと思っていますね。何かを全力でやらせていただければ、とくに変わりはないかなと思っているので。

坪田:そういう文化はいいですよね。僕もたぶんあと数年したら、きっとそういうふうになっていくと思うし。ちょうど最近、開発部の中でメインポジションにいた人が「新規事業にリソースをさくので開発部をまかせます」とサクッとアサインが変わって(新規事業を)作ることになりました。そういうサイクルの回り方は気持ちよくていいですよね。

堀江:会社が大きくなればなるほど、みんなが得するような設計になっている。だから、決して役割で権力を持って、満足するような会社ではダメで、最高の報酬は一番レベルの高い仲間と働いて自己成長して、給料とかストックオプションで返してくる、ということが僕らの考え方かなと思っていますね。だから安心して譲れる。

クラシルで“食の体験”の選択肢を増やす

坪田:そうですね。そんな「dely、『クラシル』の目指す場所を教えてほしいです」という質問が来ていますね。

堀江:これも僕からでいい?

大竹:はい。

堀江:夢はすごく大きいんです。クラシルってコメント欄で質問ができるんですよ。そこを見てもらうと、どんな質問への返信にも、文章の最後に「おいしくできますように」と書いているんですね。

これは僕らが「始めよう」と言ったわけではなくて、カスタマーサポートの中で気がついたらできていた文化です。こういうものが日々ユーザーのテンションをちょっと上げたりしてくれていると思うんです。

僕らは外で食べるということはまったく否定はしていない。僕も外食をすごくするし、外食したい気分の日もたくさんあるんですが、デリバリーもピックアップなど、家で食事をするという体験をクラシルが何かしらの形で全部実現したい、というのが今目指していることですね。

delyという会社は、もともとフードデリバリーを渋谷でやっていて。僕も5年前は短パンでこのへんを駆け巡って、自分でデリバリーをしていたんですね。そのときの悔しい体験を、まだ忘れられていないんですよ。

ただ、「負けた」と思ってはいないんです。料理は今、月間で何千万人という多くの人に届けられるようになったと。でも「これでお客さんの人生が変わっているか?」というと変わっていないし、「ものすごいユーザー体験か?」というと、他とも変わらない。

そうだとした場合、僕らはさっき話した氷山の一角になっている、実際の90パーセントは料理を作るということではなくて家に届けるとか、もしくは「今から帰ってヘルシーなものを食べよう」と考えたとき、「チェーンの定食屋ぐらいしか選択肢がないよな」と。「それは世の中の負だよね」と思っている。

だから「筋肉食堂」なんていう名前の食堂が流行ったりするんですよね。当たり前のように美味しいだけではなくて、健康的な食事や料理の多様性など、すべての課題をクラシルというブランドのサービスが解消できるし、改善できると思っています。

なので、外食以外のすべての市場において「食のタイミングでみなさんの幸福度を1度でも2度でも上げられたら、どれだけ世の中がハッピーになるか?」と思っています。「毎回の食事が幸せでしょうがない」というような、ちっぽけなことだけど、「ちょっと世の中を変えられるかな?」ということをクラシルでやりたいと思っていますね。

世界的な“食の情報格差”を動画で解決したい

坪田:それを今タケさんが(やっている)。

大竹:そうですね。今、堀江が言ったことを、コマース事業部という社内の新規事業の立ち位置で実現しようとがんばっているんですけど。料理における負が大きいのは間違いなくて、食の領域で家食だけではなくて、外食も含めて、まだまだ最適な体験案になっていないと思うんです。

ただ、それが今そうなっていないというのは、それなりの理由があるんですね。実際、僕もこのコマース事業部という新事業をやって1年くらいは経ちますけど、食の流通や物流はなんていうか、すごく難しいポイントがいっぱいある。「メディアだけやっていれば、もうちょっと楽だったかな」と思うこともありますが(笑)、やりたいことがそこ(食の流通)なわけです。

課題をもっと深く掘っていくと、けっこう見えてくるところがあるんですね。「こうしたらもっといいんじゃないか?」「今の技術だったら、こうやって解決できるんじゃないか?」「旧態依然になっているから、実現できていないんじゃないのか?」ということに、日々タックルしているみたいな感じですね。

堀江:僕、メキシコへ行ったとき、毎日タコスを食べて飽きてしまって…。

(会場笑)

当たり前ですけど、食における情報格差はすごくあると思っています。僕らも「韓国料理を知らなかったら」と思うと嫌じゃないですか? そういう国がまだまだいっぱいあります。動画だったら世界共通で、どこの言語でも情報のプラットフォームを伝えられるんですね。なので、ずっと企んでいるんですけど、もうちょっと先になったら、どこかのタイミングでそれは絶対にやりたいなと思っています。

気がつくと、いつも“食のサービス”をやっている

坪田:もともと2人は、食の領域が強かったんですか?

堀江:食の領域が強かったわけではなくて、なぜか気がついたら、いつも食のサービスをやっているんですね。なんでだろうね?

大竹:そうですね。「食の領域でいこう」と言って、食の領域でビジネスを考えたことは1回もないんですよ。ただデリバリーのときや、クラシルもそうなんですけど、食の領域は何かあるんですよね。

堀江:なんでですかね? まあ僕が服に興味があったら、キャラ的にも気持ち悪いと思っています。でも、食だったら……(笑)。

でも、人間が1日で一番触れる回数が多いのは食だと思っています。デリバリーを始めようと思ったときも、「一番注文されるものを作ろうぜ」「服は注文が月1回くらいだよね」と。当たり前ですけど食事は1日3回あるから、幸せの接点のタイミングが3回ある。「だったらそれでよくない?」という感じなんですけどね。

坪田:堀江さんは、実はけっこう料理をするんですよね?

堀江:いや、これね。「料理する」と言うとハードルが高くなって、いろいろな人の家に行ったときに「料理しろ」と言われて、プロの前で料理させられるのが嫌なので、「できない」と言っているんですけど。今は(週に)3回くらいしています。

坪田:やっぱりしますよね。

堀江:でも絶対言わないです。勝負させられて本当に嫌なんです。

創業時期と比べて、さまざまな才能を持つ人に出会えることが幸せ

坪田:実は堀江さん、メディアのイメージとけっこう違うんですよ。すごく実直にちゃんとやっているから、delyに入ってから「ギャップがすごいな」と思いましたけどね。

堀江:意外と真面目なんですよね。

坪田:逆にタケさんは「すごく真面目な人だな」と思っていたんですけど、天然な部分がけっこうあって(笑)。

大竹:自分ではそんなこと思ってないですけどね(笑)。

堀江:delyのメンバーのアルバイトの人が、クラシルのインスタのクリエイティブを作っていて、実は競合に対してすごく優位になっているということが、本当にすごいと思うんですよね。あとでクラシルのインスタをフォローしてもらえるとうれしいんですけど、すごく可愛いんですよね。

「バイトの人でそのレベルのアウトプットができるの? 僕はできない」と思ってびっくりでした。最近なによりも嬉しいのは、僕と大竹の2人だけでやっていた時期と比べていろいろな才能の人に出会えて、「アルバイトでもこんな人いるの?」みたいなことがある。

そういうタイミングというか、「実はすごくいいデザイナーがいたじゃん」ということに最近いっぱい気がつくことができて、それが働いている中でなによりも幸せかなとも思っています。僕はこれといった専門性がないので、すごくありがたいんです。

一緒にいてハッピーと思える人と仕事をするとパフォーマンスが上がる

坪田:それで言うと、僕はいろいろな会社を手伝わせてもらうことが多いんですけど、「delyはめちゃくちゃ強い組織だな」と思ったのが、1人あたりのパフォーマンスがすごくみんな高いんですよね。今までどう意識して組織づくりをされていたんですか?

堀江:僕は他社を見たことがないのでわからないな。

大竹:僕もdely以外で働いたことがないので、わからないです(笑)。

堀江:でも、自分たちが「当たり前だ」と思っている、最高のパフォーマンスを出すための仕組みしか考えたことがないので、わからないですね。

坪田:そこはとにかく、向き合い続けているんですかね?

堀江:そうかもしれない。

坪田:だから僕はdelyに入ったとき、「この人数でこのパフォーマンスを上げているのか」というところは、正直ビビりましたね。

堀江:うーん、本当にわからないですね。でもみんながすごいんじゃないですかね(笑)。

坪田:だからある意味、組織づくりで意識していたのは採用ですか?

堀江:採用のハードルはすごく高くしていて。

坪田:カルチャーフィットをすごく見ていますよね?

堀江:見ていますね。採用基準が「明日飲みに行きたいかどうか?」なんですけど。「価値観の合う人と一緒に働いているかどうか?」が意外と大切で、「今日このあと飲みに行く」となったときに、「行きたくないわ」と思う人と仕事をすると、パフォーマンスが下がると思っているんです。

一緒にいて「ハッピーだわ」と思える人と仕事をやると、なんとなくパフォーマンスが上がっちゃうみたいな。これはデータをとっているわけではないのでわからないんですけど、そういう価値観ですね。

「人が50年でやることを、5年でインプットできる」環境

大竹:あと、一人ひとりに期待するパフォーマンスが、たぶんすごく高いと思いますね。「君、このくらいやっていこう」という感じのことが、たぶん他から見ると「そこまで期待するの?」というところは、あるかもしれないですけど。自然とそんな感じなんです。

堀江:事業の成長スピードや事業ができるスピードが速いと、社内で職を奪い合わないんですよ。「自分があんなことやりたかったのに」ということがほぼ皆無だと思っています。あらゆる成果物が必要になってきて、いろいろなポジションが出てきて、いろいろなチャンスが生まれてくると、「自分がやりたかった」「あいつがやるべきじゃない」という話ではなくて、みんなが必死でやらざるを得ない状況なので。

他の会社と比べて10倍の速度で成長していれば、エンジニアは10倍の速度でUI・UXや、あらゆる課題にぶつかっていて、確かにそれは苦しいことだと思うんですよね。人の10倍ストレスが溜まっているのと同等だと思うんですけど、そのぶん「人が50年でやることを、5年でインプットできている」という経験もあると思っています。

だから、うちのデザイナーが最初から素晴らしいわけではなくて、いろいろな苦しみの中から生まれてくるアウトプットが、成長している要素かなと思いますよね。

坪田:そうですね。僕が現場に入って、如実に感じたのが、delyは純粋な企画職という人がいないんですよね。なので、PMも基本的にはエンジニアかデザイナー出身の人が今はやっていて。エンジニアやそれこそ堀江さんや、データ分析の人が企画案を出して作っていく文化ですよね。昔からそうなんですか?

堀江:「新しいアイデアをどうやって作るか?」「どうやって成果物にしていこうか?」みたいなことは、局所局所で最適化して考えている感じがしていて、ルートが決まっていないんですよね。だからだれが作ってもいいし、だれが持ってきてもいいんですけど。

なので、あえて決まっていないのかなと思っていますね。でも、今いろいろなプロダクトを作っているんですけど、delyはモノづくりの会社だと思っています。最終的に僕がモノを作る立場ではないので、モノを作る人たちへのリスペクトが非常に高いと思っています。

クリエイティブへのリスペクトが常にある

堀江:最初はなかなかそういう文化じゃなかったんですけど。デザイナーが最近徐々に増えてきて、クリエイティブの重要性が僕らでも理解できるようになってから、インスタのクリエイティブ1つにしても、デザインのモックやLPを作ってもらうことに対して、僕は作れない分、ものすごくリスペクトが心の中にあります。エンジニアもそうですね。

「僕らよりみんなに作ってもらった方が、精度が高い」とさっきも言ったんですけど。だから企画やアイデアは、もちろんがんばっていっぱい出すけど、最終的には「みんなのほうが優秀だから、そこにやってもらおう」というのが、最近の流れかなと思っています。昔は全部自分たちでやろうとしていたけど、もうできないです。

坪田:そうですね。「デザイナーが上流工程から入れない」「もう決まったものが降りてくる」というようなことがあるじゃないですか。そういうのですらなくて、みんながやらなければいけない。

なので今、デザイナーとして葛藤を抱えている人がいたら、一緒に働くと環境が違うし、たぶん楽しいと思うので、ぜひdelyに興味を持ってもらえるとうれしいです。