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When Two Species Mix(全1記事)

ラバやライガーは新種ではない 生物の交配による“進化”のメカニズムを解説

地球上にはさまざまな生物がいます。私たちは、例えば哺乳類・爬虫類・両生類などと系統立てて呼び分けていますが、こうした分類方法は「人間が作ったルール」でしかありません。自然界では、こうした枠に収まらず交雑が行われており、新種が生まれる場合だってあるのです。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、生物の種が進化に至るまでの遺伝子の仕組みについて紐解きます。

自然界の“生物の種”は、人間本位の分類ルールに収まらない

Michael Aranda(マイケル・アランダ)氏:生物を分類し、界、科、種などと秩序立ててみると、地球上の生命種がいかに膨大であるかに思い至ります。分類とは、生き物を系統化する手法です。ところで私たちは、こういったカテゴリーは固定されたものであり、生き物の種とは、その種以外のものには絶対になりえないものだと考えてしまいますよね。

ところが、生き物は人間のルールには従いません。私たちの予想を遥かに超えて頻繁に交雑が行われます。そして、生き物がこのような「ルール」に従わない理由を知れば、より深い理解を得ることができます。

生物学でもっとも広く使われる、生物を識別する手段が「生物学的種の概念」です。種とは、定期的に交配し、“繁殖力のある子孫を残す生き物の個体群”を指します。この定義で言えば、異なる種同士で交配すれば、繁殖力の無い子孫が生まれることになります。

つまり、人間が人工的に作り出したラバやライガーのような交雑種は除かれます。これらの交雑種は子を生まず、子孫を残すことができません。

ピザ生地やクッキー、パンは「異種交配」による賜物だった

ところで、人間が遺伝子プールに関与しない交雑種についてはどうなるのでしょうか。異種交配は、実は自然界で頻繁に起きています。

これまで、異種交配は遺伝の「行き止まり」だと考えられてきました。ところが今では、新たな種を形成する「種分化」を促す大きな要素であることがわかってきました。とくに植物において、数多くの証拠を目にすることができます。

事実、2005年に刊行された研究論文によると、自然界での異種交配は植物では25パーセント近く起こるのに対し、今日生息している動物では10パーセント程度だとされています。

これは、植物は動物よりも「倍数体」である場合が多いためです。倍数体とは、染色体の対が他よりも多いことを指し、親種が、DNAの染色体の組を偶然多く持った場合に起こります。

手短かに言うと、これは繁殖するには最悪の手です。染色体の対の数が合わない場合、細胞が混乱をきたす場合が多く、遺伝がうまく働かず、“倍数体の個体”は同じ“倍数体の個体”でなければ交配することができません。

ところで、この個体には親種との交配ができない「生殖隔離」が起きますが、類似の個体との交配は可能です。つまり、これは“新種”になります。そして実は、このプロセスのおかげで、ピザ生地やクッキー、パンがあるのです。こうして誕生したのが、ムギです。

ほとんどのムギは、倍数体の交雑種です。一般にコムギとして知られる種は、染色体が複数組あり、交雑しやすくなっています。人類が野生のムギを栽培化し、収穫に適した改良を加えるようになっても、栽培種と自生種の交雑は可能でした。

ムギの栽培種と自生種の双方の系譜からは、長い時間を経て、パスタなどに使われるデュラムコムギなどの交雑種の新種が誕生しました。

「戻し交配」が何世代も繰り返されることで、新種が誕生する

さて、植物よりに比べ、動物が倍数体であることはまれです。動物の細胞は余分なDNAにうまく適合できず、生命を維持できません。

そこで、動物には、染色体数が変わらない同倍数性の交雑による種分化、homoploid hybrid speciation「同倍数体種分化」がよく見られます。「同倍数体種分化」については、完全に解明されているとは言いがたいのですが、遺伝子の混合との関連性を唱える学者もいます。

遺伝子の混合は、「戻し交配」によって起こります。「戻し交配」とは、2つの種が交配して生まれた交雑種に、親種を再び掛け合わせ、生殖能力のある子を得ることです。

これが何世代も繰り返されることを「遺伝子浸透」と呼びます。遺伝子は、ポーカーで2つのデッキ間でシャッフルされ、ディールされるトランプのように、行きつ戻りつを繰り返します。片方のデッキからカードを多く引くことがある子は、その片親に似ます。

カードゲーム同様、悪い手を引くこともあります。そのような子は絶滅し、元の2つの異なる種はそのまま残ります。逆に良い手を引く場合は、幸運な遺伝子の組み合わせにより、子は両親のどちらよりも高い能力を得ることもあります。

数世代を経てその遺伝子の組み合わせが勝ち残ると、新たな種が誕生します。その一例として、イタリアスズメの混合種が挙げられます。

2018年の研究でイタリアスズメの遺伝子を調べたところ、親種であるイエスズメと共通の遺伝子を多く持つ個体が見つかりました。

その他の個体には、親種であるスペインスズメと共通の遺伝子が多く見られました。

交雑種は種の進化のプロセスである

異なる遺伝子の組み合わせは、異なる環境にうまく適応します。ダーウィンが「異なる環境への適応の証明」に例示した、あの有名なダーウィンフィンチ類も、交雑は可能です。

このような遺伝子の混合は、ダーウィンフィンチ類の生息地であるガラパゴス諸島での環境の変化に、速やかに順応する能力を高めていると考えられています。

この宇宙に、人間がいくら頑張って秩序を作り、分類し定義を定めたとしても、自然はそんな決まり事など意には介しません。生物の分類法はとても便利ではありますが、進化は反乱を起こします。そして、交雑種はまさに、進化を促すものなのです。

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